【第18回 原発事故後の小さな光】 hiropanのAfter 3.11 ~震災後に見えてきたこと~

「一つの救い」

私の実家は磐梯朝日国立公園のエリア内にあります。春は新緑、夏は高原の涼しい風が吹き渡り、秋は連なる山々が錦に彩られ、冬はさらさらの真っ白な雪が厚く大地を覆って、ウィンタースポーツや氷の湖上でのワカサギ釣りなど、大勢の観光客が年間を通して訪れる、日本有数の観光地でした。
ペンションや民宿、ホテルがいくつも立ち並んでいます。しかし、原発事故により、客足は随分と遠のいてしまいました。観光で成り立っている地域の暮らしというのは、とても脆いものだと思います。ひとたび社会が不安定になれば、真っ先に立ち行かなくなるのが観光業ではないでしょうか。近年では、不景気のせいか、ただでさえ、観光客の減少に多くの経営者が頭を悩ませていたところ、この原発事故は決定的な打撃となりました。しかし、事故直後の年、皮肉にも、多くの宿泊施設は、その原発事故の影響により経済的な支えを得ることとなりました。
それは、大熊町や、楢葉町 、双葉町など、強制避難となった町の人々の一時的な受け入れのためでした。一人あたり1日およそ6000円の宿泊費が国から支払われていたと聞いています。
小さな旅館やペンションオーナー達の中には、本当にその人達の助けになりたいという温かい気持ちがあって、避難者の受け入れをしていたところも、多かったように感じます。
その当時、福島の人々は、原発事故に、ありとあらゆる影響を受け、翻弄され、悲しみや、不安、悔しさ、失望など様々なものを抱え込みながらも、他の人を思いやり、手を差し伸べ、助けあおうとする気風がありました。

心に受けた傷は、同じように傷ついている誰かに優しくしたり、愛することによって、癒やされていくものだというのを、人間は無意識的に知っているのかもしれません。

浪江町からの避難者を多く受け入れていた当時の夏祭りの様子。

浪江町からの避難者を多く受け入れていた当時の夏祭りの様子
(頑張ろう浪江町)

そんな状況の中で、いくつもの温かいエピソードと、心の交流が生まれました。
ペンションというのは面白いもので、オーナーの特技や個性が全面に発揮されてそれが売りとなります。写真やスポーツを得意とするオーナーがいたかと思えば、山菜採りが得意だったり、音楽の造詣が深かったり、料理センスが抜群に良かったり、それぞれが、それぞれに個性的で、大抵の場合そのペンションと波長の合った根強いリピーターがついているものです。オーナーとゲストとの距離感がとても近いアットホームさがペンションの魅力かもしれません。
人づてに聞いた話ですが、マッサージが得意なオーナーの元に一時避難で入られたご高齢のおばあちゃんがいました。田畑で、毎日休みなく働いてこられたおばあちゃんの腰は、来た頃、90度に曲がり、腕も満足に上げることができなかったのだそうです。そこで、そのペンションのオーナーが、毎晩マッサージをしてあげると、曲がった腰が少しずつまっすぐに治り始め、上がらなかった肩もあがるようになり、おばあちゃんは大変喜ばれたそうです。

「こんな風に毎日身体を揉んでもらって、こんなにゆっくりさせてもらえたのは生まれて初めてだ。」

自分の住み慣れた家、町、暮らしを、ある日突然奪われ、避難場所を点々とし、慣れない環境の中、本当に沢山の人々が大変な想いをされていました。
しかし、そんな中で時折耳に入るこういったエピソードは、心に暖かな光を灯してくれた、ひとつの救いであり、希望のように思われました。

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Writer

hiropan

hiropan

埼玉県生まれ。自然豊かな福島県会津地方に育つ。美術大学にてデザインを学ぶ。
2011年、東日本大震災、原発事故を機に、社会の在り方と自分の生き方の方向性を見つめ直し、転換する。2012年、福島から一人旅で たまたまふらりと訪れた広島県の離島、大崎上島へ移住を決断。
現在、小さな畑で野菜や柑橘を育て、ニホンミツバチを飼いつつ、絵や文章を書きながらスロウに暮らす。

3件のコメント

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  1. 今回のお話は、最後の写真のように、心の中に綺麗な大きな大きな花火が広がり、
    心の隅々まであたたかい光が届いたような気持ちになりました。
    すてきなエピソードを届けてくれて、ほんとうにありがとう!

  2. ñorita on

    心の温まるお話をありがとうございました(*^_^*)
    大変な時こそ、イイところを見つけていかないと
    乗り越えていくことができないと実感しているところです。
    私も、そんなふうに心をもっと広く持てるようになれたらと感じました。

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