防衛最前線(93)

高度も射程も2倍! 北ミサイルを迎え撃つ地対空誘導弾(PAC3MSE) それでも「100%」は保証されない

【防衛最前線(93)】高度も射程も2倍! 北ミサイルを迎え撃つ地対空誘導弾(PAC3MSE) それでも「100%」は保証されない
【防衛最前線(93)】高度も射程も2倍! 北ミサイルを迎え撃つ地対空誘導弾(PAC3MSE) それでも「100%」は保証されない
その他の写真を見る (1/11枚)

北朝鮮による弾道ミサイル発射は今年に入り計23発に達し、もはや日常茶飯事となってしまった感がある。これに関連し、稲田朋美防衛相ら防衛省幹部がたびたび名前を挙げる装備が、航空自衛隊の改良型地対空誘導弾、PAC3MSEだ。

「北朝鮮のミサイルに対してはミサイル防衛(MD)力をしっかり整えていく。PAC3MSE弾の新規取得など、しっかり防衛力を整えていく」

稲田氏は9月13日の記者会見でもこう述べ、MD態勢の強化に向けた取り組みを強調した。

日本のMDは、海上自衛隊イージス艦に搭載した海上配備型迎撃ミサイル「SM3」とPAC3の二層態勢。北朝鮮が弾道ミサイルを発射した場合、SM3が大気圏外の高高度で迎撃し、撃ち漏らしたミサイルは着弾直前の低高度でPAC3が迎え撃つ。

しかし、現在配備されているPAC3は射程が短く、到達高度も限られている。このため、次世代型の迎撃ミサイルとして開発されたのがPAC3MSEだ。

MSEは「ミサイル部分向上型(Missile Segment Enhancement)」の略。PAC3はレーダー装置や射撃管制装置などで構成されるが、MSEは文字通りミサイルの能力を向上させたことを意味する。

防衛省幹部は「従来型と比べて防護範囲はだいたい2倍。高度もほぼ2倍になる」と説明する。弾道ミサイルだけではなく、巡航ミサイルや航空機への対処能力も併せ持つ。

従来型と比べて直径が大きくなり、発射機1基当たりの搭載ミサイルは16発から12発に減少するが、射程の延伸を実現。姿勢制御技術を見直し、より高い高度での迎撃を可能にする。迎撃の最終段階で敵の弾道ミサイルを捕捉するシーカーを改良して精度を向上させるほか、弾頭の破壊力も強化したとされている。

防衛省は平成29年度予算案の概算要求でPAC3システム全体の改修費用も合わせてMSEの取得費1056億円を計上。日米共同開発を進めるSM3ブロック2A(147億円)も要求しており、MD態勢の強化を図っている。

ただ、防護範囲が拡大するとはいっても限界があり、MSEに更新されても首都圏の政治・経済の中心地などが主な防護対象となることに変わりはない。PAC3は低高度で敵の弾道ミサイルに直接衝突することで破壊するため、破片がオフィス街や住宅密集地に飛び散る可能性も否定できない。

ある防衛省関係者は「敵の弾道ミサイルが核弾頭を積んでいる可能性があるので迎撃しなければならないのは当然だ。しかし、仮に核弾頭を積んでいなければ『迎撃に成功したことで被害がより大きくなる』という矛盾が生まれかねない」と語る。

高高度でのミサイル防衛を担うSM3と、低高度のPAC3の隙間を埋めるため、防衛省は最新鋭迎撃システム「高高度防衛ミサイル(THAAD)」導入の検討を進めている。

とはいえ、たとえTHAADなど新装備を導入しても100%の迎撃率が保証されるわけではない。日本政府と国民が相次ぐ北朝鮮の弾道ミサイル発射に「慣れっこ」になってはならない理由がここにある。

(杉本康士)

会員限定記事会員サービス詳細