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第10話「力エルアンコウの王子様」
アホタの20歳の誕生日に、広島空港に行くことになつた。5歳の時、パータが広島駅に連れて行き、新幹線500系のぞみを見に行つたことな思い出すと、成長したものだと感慨深く思つたヘコタであつた。さらに成長して25歳の誕生日には、おそらく岩国の米軍基地の見学に
なるであろうと予測されるのであつた。
空港の展望場で、ヘコタは父であつた。どういう風に父であつたかと言えば、まず重カ
に抗して垂直に立つているではないか。息子のアホクと異なり、何が面白いのかまつたくわからない風情にも、苦痛の色な露ほども見せず、適当に飛行場の風景な題材に冗談を言いながら、持ちこたえていた。不思議なことにアホタは展望場に立つて眺めているだけで、脳にα波が発生するらしかつた。
しばらくの間ヘコタは父な頑張つていたのだが、ついに重力に耐えきれず、もこのカエルアン
コウの姿に戻つてしまつた。
ちなみに我が家では、ヘコタは第一王子であり、アホタは第二王子と呼ばれている。この命名はプータが富古之宮(プコノミヤ)と呼ばれているのとは異なり、パータが巧妙に二人を操縦する目的で命名したものであることは、吉うまでもない。これは次のような用いられ方をする。
「ねえあなた~。おねが一―い!コーヒー王子になつて~~!」これでヘコタはコーヒーを入れなければならなくなるのだ。
実に巧妙な言葉の使い方であると言えよう。流行るかも知れない。
カエルアンコウに戻つてしばらく鋭気を春い、重力に抗う気力が出て来たところで、次に二人の王子は、パータの夫と息子にならなければならない。気力なふりしばつて二人の王子は空港の売店に付き合い、ここでパータ念願の乳団子を購入したのであつた。
和泉光和堂 〔広島県庄原市七塚町1620-1) 乳団子
15個入り735円、25個入り1155円を2セツトずつ購入。ざつと口則演算すると、一個約50円ということになる。一日のテイータイムでこの乳団子が出てくることを考えてみて欲しい。約1ケ月もの長きにわたつて、我が家の平安は保証されたのである。この費用対効果のなんたる優れたことであるか。そのようにヘコタは心中で素早く計算し、「安いものだ」とほくそ笑んでいた。
しかし、現実は異なつていた。毎日一人に3個ずつ配給されたので、わずか―週間しかもたなかつたのである。