【第4回】 かんなままの子育て万華鏡 　～小児科医のひとり言 ～

※今回の記事は、かんなまま様のご主人様（小児科医）からの寄稿です。

子どもとは何かを考えるとき、一般には小さくてか弱い存在のような印象を持たれていると思います。確かにだれかの養育が無いと生きられないことは間違いないでしょう。しかし、本質は非常に生命力に溢れ、素晴らしい回復力を持った強い存在です。例えて言えば、しなやかでぐんぐん成長し簡単には折れない若木の様なものです。

お母さんのお腹の中では殆ど無菌状態で成長し、出産で外に出た途端様々な細菌やウイルスに曝されながらも自力で強く逞しく成長していきます。そういう子ども達の成長を見守り、必要に応じて支援するのが私たち大人の役割だと思います。

子どもたちは一人一人違う個性を持っています。だから画一化された子育てマニュアルなどある筈がありません。個々に応じてということになりとても難しそうに思われますが、大丈夫です、ちゃんと自分の力で逞しく成長していきます。

でも、時には病気します。「免疫」とは「自分と自分でないものを識別し、自分でないものを排除する体の仕組み」ですが、これが未発達のため、よく熱をだしたり咳をしたりします。しかも、ある日突然起こるため親としてはとても心配でしょうが、子どもの場合約９０％は「かぜ」などのウイルスが原因であり、時期が来たら自然に治ります。焦らずその時が来るのを一緒に待つ事です。

今の親は結果を急ぎたがる傾向があります。“早く治して欲しい、楽にして欲しい”と言われることがあります。気持ちは分かりますが、残念ながら医師は病気を治せません。治っているのは自分の力（免疫力）です。医師はそれを少し支援することしかできません。

私たちが病気を見るとき、体の中でどのような変化が起こっているか想像します。そして、手掛かりを得るために必要な時には検査をしますが、体の反応は殆どの場合「自分を病気から守ろう」とする防御反応です。熱、咳、下痢、嘔吐などそうです。一時的には辛いでしょうが、「今、体が一生懸命に頑張って治そうとしているんだ。」と思って我慢するしかない時期もあります。せっかく治そうとして体が反応しているのにすぐに症状だけを抑える薬を使うのは誤った治療です。

でも、そんな不快な症状を少しだけ和らげる“おくすり”はありますから、それを上手に使ってあげるのは助けになると思います。何れにせよ子どもが急に病気になったら、信頼できる小児科などの専門医を受診し、自然に治るものかどうかを診てもらうことは大事なことです。自分で判断するのは時に危険なことがあります。

今のこどもたちの成長を見ていて気になることがもう一つあります。
五感を育てるリアルな体験をする機会が段々と少なくなってきているように思われることです。人が人として育っていく上で五感を子どもの内にしっかりと発達させることが大切です。それが、物事の発想の原点になるでしょうし、自分らしさ（アイデンティティ）につながっていくと思います。

そのためには自然の中で思いっきり遊ばせてあげる事です。仲間と一緒に自然の中で遊ぶ時、こどもたちは五感をフルに使っていろいろ想像をめぐらし、工夫しながら体を目一杯使って楽しみます。

残念ながら今の子どもたちはいや応なしに様々な仮想現実の世界に曝されることになるでしょう。もし、リアルな体験なく仮想世界の中だけで育っていくと、それが本人にとって現実世界になってしまう危険性があります。今後、仮想世界はもっと巧妙になっていくでしょうし、ますます現実世界との区別がつきにくくなると思われます。だからこそ、“生の本物の世界”を自分の五感の記憶として潜在意識の中に育てる必要があります。

自分で気づかない内に仮想現実の世界に操作されてしまう様な大人にならないためにも 大事なことだと思います。

（挿絵：あい∞ん）