懐かしい森の記憶
牧場で1ヶ月間のアルバイトを終えると、私は友人に紹介された方のいるNPOを訪ねて、北海道を北上し、山間のとある町へと向いました。その町は、林業が盛んで、近年、間伐材などを利用したバイオマスエネルギーの活用と実践において、全国的に注目を集めていました。炭鉱の閉山後、かつては他の地域同様、すっかり寂れてしまったであろう過疎の町に、現在では若い移住者がどんどん入ってきて、新たな動きと活性を見せており、町民の静かな情熱と活気が端々に感じ取れる不思議な町でした。
そこで、その町の財産である森を活用したフィールドワークや、環境教育、商品開発などを行う活動をしている団体の方とお会いすることが出来ました。
同NPOが管理するコテージで、夏の1週間、福島からの子供達の保養受け入れを実施されたと伺いました。その時の様子を伺い、子供達がスタッフの方たちに宛てた手紙を読ませていただいたり、保養プログラム当日の様子を写した写真を見せていただいたりしました。そこには、福島の子供達が自然の中で、体いっぱい嬉しそうにしている姿が写っていました。
他にも、2日間の滞在中、町で活躍しておられる方たちを紹介して頂いたり、森林資源の活用方法や、その仕組みについても、様々な施設を案内していただきながら、詳しく説明して頂きました。
中でも印象深かったのは、その町の財産である、トドマツの森で、夕暮れ時、スノーシューを履いて案内して頂いた時のその森の美しさは、格別なものに感じられました。
福島に暮らしていた子供の頃、雪が降ると、私はよく近くの山や林へ出かけていきました。いつもなら、湿地や背丈よりも大きな芦や、雑木に覆われ、入ってゆくことが出来なかった場所も、冬になり、厚く降り積もった雪が締まると、どこまでも、どこまでも、自由に歩いて渡って行くことができました。相棒は、白いモコモコの中型犬で、雪の上を歩くと、景色と同化して、まるで雪だるまが動いているみたいでした。犬を抱えて丘のてっぺんからソリで一気に下り降りたり、うさぎの穴を見つけて一緒になって掘り返したりして、暗くなるまで遊びまわりました。辺りの空気が群青色に染まる頃、丘の上に座って、静かに森の向こうを眺めてると1匹2匹、きつねやうさぎが出てきて、足取り軽く駆けて行くのを目にすることができました。興奮して追いかけようとする相棒をなだめ、暗くなりかけた雪野原を、来た時の自分たちの足跡を辿って家に帰るのでした。
初めて訪れた、北海道の森の神秘的な静けさと美しさは、そういった過去の記憶せいか、どこか懐かしく、温かくも感じられました。
こうして美しい自然の中で、豊かな静けさに包まれ、深く呼吸をしていると、「あぁ、これが、人にとって当たり前の、自然な生き方なんだ。」と、素直に実感することができました。