子育ての第一関門は妊娠出産。その次は周りの手伝いがなくなり、いよいよ夫婦で赤ちゃんを育て始める頃でしょうか。経験したことも学習したこともないことを全て1人でするという重圧でかわいさをかみしめる余裕がなくなり、なぜ泣いているのかわからない、おっぱいが足りているのか不安、家事ができない等、一気に混乱していくのです。
その上、最近は身近に相談する人がいないのでネットで子育て情報を検索するのが常識になりました。怖いのは赤ちゃんがどういう存在なのかも知らないまま溢れる情報に踊らされていることです。
乳幼児用アプリや、背中や腰がしっかりする前から座らせておく椅子など、赤ちゃんがじっとしている便利グッズが人気のようです。生後2~3か月といえば本来は家にいて、赤ちゃん中心の時間をまったり過ごす時期ですが、ほおっておけなくなりました。
早速「第1子を生んで2~4ヶ月の新米ママと赤ちゃんのための親育ちセミナー」を始めることにしました。市の赤ちゃん家庭訪問事業と連携して、孤立感や不安の強いママも紹介されて参加します。
週に1回2時間、同じメンバーで6週間の連続講座です。もちろん無料。毎回ベビーマッサージやわらべ歌、食育を兼ねたティータイムと何でも話せるおしゃべりタイムがあります。
支援者として心がけていることは子育という偉大な仕事に向き合っているママを正当に評価して大切に扱う事。今の赤ちゃんの状態を感じとったプログラムにする事。部屋は自然光で落ち着いた雰囲気にする事です。必要があれば個々で対応することもあるため6人のスタッフで関わります。
初めは抱き方がわからない、赤ちゃんが泣いているのに手を消毒しないと触らない、赤ちゃんが寝ていても決められた時間に授乳して、飲む量も厳守する・・など産科で覚えた通りにまじめに取り組む新米ママ達です。
でも赤ちゃんはいつも正直でマイペースですから12人いたら12通りの違う反応があります。成長の速さも個性があります。まず、ママはよその赤ちゃんと比べて「小さい、遅い、泣いてばっかり・・・」と心配します。そして自分が赤ちゃんの個性に寄り添うのではなく、赤ちゃんをスタンダードに合わせようと焦り始めます。でも私達は「自分の赤ちゃんをよく見て赤ちゃんに聞くのよー」と赤ちゃんの要求を感じとって応える大切さを伝え、一緒に観察しながら励まします。
ちょっと先輩ママもスタッフとして参加します。共感しながら自分の経験を話してくれるのでお姉さんのような存在です。先輩ママも自分の経験が役に立って自信が付きます。
やがて、心配ばかりしていたママが赤ちゃんを自分の声であやし、ベビーマッサージをしながら肌で感じ合うことを始めます。赤ちゃんの反応に喜んだり、ママ友とお互いの子どものささやかな成長に驚いたり助け合ったり・・・。「私やれるかも」と、親としての自覚が芽生えてきます。そうなったら早いもので、ママスイッチが入って愛おしそうに赤ちゃんを触ったり、あやしたり・・・まるで別人の様です!その上、この講座で気づいたことを家でも話題にして夫婦の会話まで変わっていくようです。
ほとんどのママが初めてのお出かけです。最初は不安で「行けないかも」と言っていたのに6回連続、全員100%の驚異の参加率を誇っています。
そして、講座を卒業した後も皆で離乳食教室や子育て広場に出かけているようです。
でも、「講演会、配給型、預かり型のサービス支援」に慣れている行政に理解してもらうのは大変でした。子育てはできて当たり前。このように少人数に時間をかける講座なんて甘やかしだし、費用対効果がないと判断されるのです。
子育ての現状を知らない委員会や議会が数字で評価して事業を査定します。この講座をしたので虐待が何人減りました等、効果も数字に表わせません。予測して予防する事業が認められにくいのです。でも児童虐待相談件数は20年で70倍、産後鬱も増える一方です。
行政に任せていたのではいつまでたっても予算が付かないので支援者グループのボランティアで始めることにしました。でも、受講したママ達があちらこちらで「講座を受けてどんなに子育てが楽しくなったか」を発信してくれて、今では年間3クールの予算が付き、市内の第1子を持つ全てのママが受講できる機会が与えられるようになりました。
「あの会がなかったら虐待していました」と涙を流していたママ達が第2子、第3子を連れて子育て広場やベビーマッサージ教室に来てくれるのが私の無上の喜びです。
(挿絵:あい∞ん)