【第7回】 かんなままの子育て万華鏡  ~ママはお仕事2 ~

ある女医さんのお話しです。大きな病院で小児科医として働いていました。医師の勤務に男女差はありません。タイムカードもありません。主治医になればその患者さんの容態次第で家に帰れないこともしばしばです。当直明けてすぐ日勤、休みはあってないようなもの。慢性的な医師不足でどうにもならないのです。

そんな過酷な労働の中、妊娠がわかりました。体が辛くて当直だけは免除してもらいましたが同僚には申し訳なくて肩身が狭かったそうです。 どうにか若さで乗り切って無事に出産。1年間の産休を取りました。でも、これは画期的な事だったのです。まわりの状況を見て2~3か月で復帰するか子どものために辞めて復帰する自信を無くしてしまうかの二者択一で、今まで育休をとった先生がいなかったのです。

タイミングよく女医の働き方支援をしなければ医者不足が解消されない」と厚生労働省からの通達で待遇改善の会議が始まったばかりでした。その第1号という事で当事者として会議に参加する機会をもらい「1年間の産休、復帰後も当直免除、時短勤務、女医のためのブラッシュアップ制度(専門技術、医療の進歩が速いため再訓練を受ける制度)を作る」などが認められました。この病院は日本でもいち早く取り入れてくれたのです。

07_1

それでも1年間はあっという間に過ぎました。それまで病気もしたことが無く、にこにこ笑顔の赤ちゃんでしたが無情にも1歳の誕生日に保育園です。

とてもいい院内保育園でしたが赤ちゃんにとってはママがいないということがどんなに寂しく辛いことか。相当ショックだったと思います。朝バタバタ急かして連れて行き、泣かせたまま預けます。お迎えに行ってもまだ泣いています。家についたらおっぱいにしがみついて離れません。食事の用意もままならぬ。お風呂に入ったらすぐに寝る時間がやってきます。

その上、専門試験をうけなければ小児科専門医になれないので仕事して経験を積んで、論文を書いて学会で発表して、夜中に試験勉強もしなければいけません。そんな過酷な生活で、とうとう赤ちゃんが病気ばかりするようになりました。

そのたびに休みます。周りに迷惑をかけます。あまりに休むので病気でも預かってくれる病児保育制度を利用しました。赤ちゃんにとっては病気した上に又、知らないところに預けられてダブルパンチです。治るものも治りません。「他の赤ちゃんの病気を治すために自分の赤ちゃんは病気でも預けて働く?何て母親だ」・・・と、何度も涙を流したそうです。

07_2

仕事を断れない事情・・・この制度が始まったばかりで自分が挫折すると他の女医さんにも影響するとの思いがあったようです。「女医はいらん。子どもを産んだらすぐ休んで役に立たん」が通説でした。その通りです。休まざるを得ないのです。妊娠、子育ては人類の特別な任務です。社会の子でもあります。それを邪魔にする、弱者にする社会は何だろうと思います。でも、現実はまだまだ過酷です。

それから引っ越して実家の近くの病院に勤務しました。親の近くで少しは楽になると思ったのですが、その病院は子育て中の勤務に関しては全く理解が無く「子どもが小さいので当直はできません。5時に帰ります。休日下さい」と言ったら「あなたは自分の都合で患者さんの様態が悪くても帰る。医者として恥ずかしくないのか?」と言われたらしいのです。また涙。でも条件を通して仕事の質で認められていきました。母は強しです。

でも1年後に妊娠。出産を機に辞めました。その後第3子を出産。

今は子育ての大切さを実感して専業主婦を満喫しています。この経験が小児科医として役に立つし、逆に医者の立場から地域の子育て支援を始めました。でも、仕事をして単位をとらないと小児科専門医をはく奪されるので実家の小児科を土曜日だけ手伝うことになりました。子どもたちは3人揃って「ばあば保育園」に預けられます。ばあば?・・・そう、私の娘のお話しでした。

last

パパが登場しないのは、脳外科医でもっと過酷な仕事環境だからです。緊急オペ、長時間オペ、術後管理、外来、当直・・・。予定が立ちません。食事も病院の売店で売れ残りのおにぎりだったりします。

(挿絵:あい∞ん)

Writer

かんなまま様プロフィール

かんなまま

男女女男の4人の子育てをして孫が6人。今は夫+愛犬で静かに暮らしているが・・・
週に2日、孫達がドッとやってくる+義理母の介護の日々。
仕事は目の前の暮らし全て。
いつの間にか専業主婦のキャリアを活かして、ベビーマッサージを教えたり、子育て支援をしたり、学校や行政の子育てや教育施策に参画するようになった。

趣味は夫曰く「備蓄とマントラ」(笑)
体癖 2-5
月のヴァータ
人生一巡り+1歳

2件のコメント

【シャンティ・フーラからの注意】
コメント欄への投稿は、シャンティ・フーラのスタッフが承認したものだけが掲載されておりますが、掲載・非掲載の判断は、投稿された情報の信頼性・妥当性をもとに行っているものではありません。

  1. メープルEY on

    かんなママ様

    今回の記事は、最初から一気に引き込まれ、最後の文章で、「エッツ!」という思いと同時に「良かった!」と嬉しさを感じました。

    子どもが心から安心して暮らせる家庭であって欲しいと思うと同時に、周囲の人の理解が深まる社会であって欲しいと心から思いました。

    あい∞ん様

    2つのイラストのコントラスト素敵でした。
    2つ目のイラストは、子供さんがいらっしゃる家庭に飾ったらいいだろうなとふと思いました。
    子どもは本当に宝なのですから。

  2. ぴょんぴょん on

    最後が良かったあ~~。
    「実家の小児科?」そうでしたかあ~~
    お嬢さま、本物の小児科医になれましたねえ!

    ママを見上げて泣いている赤ちゃんの絵、印象的です。

コメントをどうぞ

コメントの投稿により、本サイト利用条件の"投稿行為"に同意いただいたものとみなします。