(前略)
東京・代官山にあるライブハウス「
晴れたら空に豆まいて」の驚異的音響の謎を探るため、導入オーディオ機器を製造している関口機械販売株式会社の石黒謙社長に話を聞くことにした筆者。
(中略)
「
残念ながら、音色とか質感とか人間の感覚的なものは、測定機に出ないものです。たとえばレゲエを聞いて“ホットな音”だと思いますが、それは測定できない。熱い音は測れません。同様に水晶による音の変化も測れない。しかし、確実に音は変わります」(石黒社長)
(中略)... 社長の隣りに座っていた「晴れたら空に豆まいて」の
音響ディレクターも、頷きながらその言葉に同意する。
(中略)
「
人のサインを機材の下に置くだけで音が劇的に変わるんですよ。この人のサイン。この人のサインが一番変わるよね~」(石黒社長)
(中略)... そう言って石黒氏が指したのは、同社の広報担当の美女だ。
(中略)... サインで音が変わった?
(中略)
「いやいや。
世界的に著名なエンジニアさんも、聴いてビックリしていましたよ。電気技術者は頭が固くて。CDが初めて発売された時、『レコードとは音は変わらない』なんてみんな口を揃えて言ったでしょう。でも、全然違いましたよね? デジタルにしたら音が変わったんですよ、音楽は変わらなくても」(石黒社長)
(中略)
「
じゃあサインを入れてみて」(石黒社長)
――!!
ド肝を抜かれた。急に音がクリアになり、低音も強くなった。これは気のせいか? いや、しかし、
音響スタッフが「ヘッドフォンが急に震えた」と笑っているではないか。
取材についてきた編集部のOも驚いている。
(中略)
「じゃあ、川口さんの名前でもやってみましょう」(石黒社長)
(編注:サインを入れているシーンの写真は引用元にあります。)
(中略)
「音が悪くなりましたね。笑」(石黒社長)
……おい。
(中略) オーディオの世界は実に奥が深いとしか言いようがない、稀有な体験であった。
(取材・文=川口友万/サイエンスライター/「
サイエンスニュース」編集長/著書『
大人の怪しい実験室』)