既に記してきたように、私が電話機リース詐欺の深みにはまっていったのは、詐欺に遭っている認識が明瞭でなかったためで、なぜ認識できなかったかは私の姿勢、経理を放棄していたことが直接的要因であるのは明白でした。ただし、私が全く電話機の問題に対しての疑念がなかったかと言えば「あった」のです。むしろ1件目の(株)SラムのO庭によって押捺させられている「契約書控え」なる文書を一瞥し「やられたな。」と、分かってもいたのです。ですからそこで立ち止まり問題を直視さえすれば問題を明瞭に認識し早期に解決の道が開けたのかもしれません。しかし横目でやり過ごしてしまったのです。問題を認識「できなかった」というよりも「したくなかった」との表現がより正確かもしれないのです。不思議なことに。
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ー通過儀礼ー リース詐欺の体験 〜第4幕 公開〜
認識を阻む心理
問題を認識「したくなかった」のがより顕著だったのは直接書類に押印させてしまった妹でした。私の叱責を恐れた部分もあるのか気づいていながら直視を避けてきた妹は、しかし長く気に病んでもいたのです。これが次の深みを呼びます。2004年9月6日来訪してきた(株)トラストのY口新介、彼に妹は尋ねます。「前の業者(Sラム)に私は騙されたのではないでしょうか?」。
それに対しY口「いいえ、内容から見てリース料金等こんなものです、妥当な契約です。」と。長い間気に病んでいた妹はこの一言に「良かった~騙されていたわけじゃなかったんだ」との救いを得ます。それでY口をすっかり信用することに。
厳しい現実より甘言の方に乗りたくなる、これが認識を阻む心理でしょう。しかしこうなってしまった理由もありました。その当日は寺の定例法座で20名ほどの方が集まられていたのです。3種体癖の妹は、来訪者へのお茶出しの心配、その上見ず知らずにも関わらず滞在するY口から目を離すわけにもいかず、気疲れもあり全くの疲労困憊。「さっさと契約でも済ましY口に寺から出て行ってもらいたい」と切望する状態にあったのです。
Y口は当方に3時間近くも滞在していたのです。それで私がY口と応対したその時には、Y口のバックに妹がその強力な守護協力者となっていたのでした。「早く早く印鑑押して帰らしてあげて。」と。それもあって私は書類確認せず口答で簡単な確認をして(Y口は全くの虚偽を語ったのですが)押捺してしまった訳です。
無論この時、Y口が帰った後でも私が書類を確認していたら“こと”は発覚していました。そしてすぐに取り消しを求めるのは可能でした。(ただし「業者間契約だから既に契約は成立していて取り消せない」との虚偽をトラストは主張し、当時の私ではその弁を覆せず、やはり弁護士に依頼となったでしょうが)しかし私は書類確認のその気力も湧かないままチャンスを逸しました。どうにも嵌まりこんでいたのでした。
クーリングオフ不能
2005年1月19日、「NTTの者」と工事作業服を着た2人の青年が来訪。両者とも小柄、片方は気弱そうな細面青年、一方は角張った顔で癖のありそうな青年。気弱そうな青年がS秀作と名乗り語り始めます。「お宅の電話機主装置はNTT規格外で違反しています。」と。「はあ?一体何を言っているの!?どういう意味?」私が彼を睨んだのでしょう、Sは話を変えてきました。「今の契約は月々3万円程度、次は4万3千円、更に5万7千円となります。」と。「!?やはりY口に騙されていた!どんな契約内容だったのだ?」。
動揺する私に「リースを終わらせましょう!前のリース代金は当社がかぶります。ご住職は次にかかってくる4万3千円を負担下さい。これで電話機は所有物になりリースは終わります。」とS。
トラストとの契約を把握していなかった私はパニック状態で、「リース地獄を終わらせるにはおかしな話だがNTTに従うしかないのか?」との思いにとらわれ「よし、それで行こう」との返答。その日は【機器導入申し込み書(リース申し込み書とは別)】にシャチハタ印を押し、それで(株)日本システムラインの二人は帰っていきました。
茫然自失の状態の1月末、リース契約のためSが再来訪してきます。疑問を感じていた私は彼に尋ねます。「何もない真っ白な状態で電話機を購入したらその金額は?リース金額は?」なかなか答えようとしないSがついに告げました。「電話機は5~60万円、リース金額は8~9千円程度です。」。「それでは元々が60万円のものが総額400万円を超える支払いになることになる。ヤミ金よりひどい、そもそもこの電話機はこちらが困って貸してもらったのでもない、不要なのに騙して取り付け、金を取るのだから全くヤミ金以下だ!社会の害悪でしかない!!」と私。泣きそうな顔になったS。しかしそれでも言いました。「その通りです。だからこそこれで終わりとしましょう!」。
釈然としない私でしたが「今回はこの青年のことを信じてみよう」と法人印を書類に押捺したのでした。実は心中では「後で調べておかしければ今回の件は判を押しても時間が経っておらず十分にクーリングオフが効くのだから。」と高をくくってもいたのでした。
Sが帰った後NTTのホームページの「ご注意下さい」の欄を調べました。Sラム、トラストコミュニケーションズ、日本システムラインいずれも悪徳業者に合致することが判明。すべて詐欺であったことがやっと認識できた瞬間でした。そのままSに電話で抗議し契約取り消しを求めます。それに対して「業者間契約だから取り消せない」との返答。そして確かに(当時の)NTTの?ホームページにはそれらしき記載があったのでした。
公開へ
実のところ、電話取り替え工事、銀行引き落とし前に、ややこしい販売業者でなく契約先のリース会社に契約無効を告げれば相手はどうしようもなかったのです。しかし当時の無知な私には思いも至らないことでした。日本システムラインへの契約取り消しは無知ゆえに一蹴されましたが、ことが明らかになった以上「何とか」しなければいけません。ぐずぐずしている暇はないのです。
瞬間的に「ことを内密にしては決してならない、愚かで滑稽な自分だったけど多くの人々に“こと”をさらけ出し情報を収集しなくてはいけない。黙していてはいけない。騒ぐのだ。」と判断したのです。
このことは無論妹の同意を取りました。知人、警察等々に連絡し同時並行で書類の確認、妹への聞き取りを行い、自分の記憶も確認しながら事の顛末をできる限り詳細にまとめました。
そしてそれを持って頼りとする大阪の知人弁護士に解決依頼にいったのです。また宗派の役員にも連絡し宗派の機関誌にも注意喚起のためにも掲載するように依頼もしていました(この依頼は断られましたが。)。
そして他になすべきことは?と考え、それまでそんなことはしたことがなかったのですが、悪徳商法系の某掲示板に記事を投稿することにしたのでした。まとめた詳細文書を要点だけ伝わるようできるだけ短くしてその概要を投稿したのでした。それがこのシリーズの最初に揚げた記事で2005年2月28日でした。
この公開姿勢は大正解でした。特に掲示板に投稿したことは後々に絶大と言っても良いほどの効果がありました。そしてそうすると思いもかけずに事態は動いたのでした。掲示板への記事投稿の翌日か翌々日か銀行からのリース料金引き落としなどについての三井住友銀リースから確認の電話がかかってきたのです。「詐欺による契約だから無効」と伝えたところ、書類に不備もあるとのことで三井住友銀リースはあっさりと引き下がったのでした。「ほっと」胸をなで下ろした瞬間です。これで最悪の状態は脱しました。
当日の夜、日本システムラインのS担当から電話がありました。
S:「三井住友銀リースから連絡がありまして・・・。」
私:「悪かったな。私がしっかりしていなくて、君に騙されてしまって。」
(この言葉は私の本心でした。私がしっかりしていなかったためこの青年に不要な罪を作らせてしまったという意味なのでした。)
S:「??・・・また、契約書作り直してくれるんでしょうね?伺いますから。」
私:「ばかな、そんなことはするわけがないだろう。断る。」
S:「そ、そんな~!先輩にどつかれる~~!!(悲鳴)」
憐れでした。これがブラック企業で働かざるを得ず働かされている青年の実態でした。多大なノルマを課せられそれが達成できないとリンチにあわされるのでしょう。S秀作がそうであるようにこのような青年の姿は今や日本では決して少数派ではなくなり当たり前になっているでしょう。