警視総監の異例の謝罪
警視総監が頭を下げていたが、何があったんだ?
警視総監が異例の謝罪 冤罪事件で大川原化工機が会見【スーパーJチャンネル】(2025年8月7日)
大川原化工機事件の冤罪で謝罪したんだよ。

大川原化工機って?

主に「噴霧乾燥機」を作っている会社だよ。

噴霧乾燥機って?

ほら、粉ミルクとか、インスタントラーメンの粉末スープとか、おからパウダーとか。液体に熱風を当てて、乾燥させて粉にする機械で、国内の噴霧乾燥機の70%が大川原製だって。

しかし、警視総監と言えば警察のトップ。そんなヤツが頭を下げるなんて、よっぽどのことがあったんだな。

ちがうよ、警察のトップは警察庁長官で、警視総監は警視庁のトップだからNo.2。それでも、警視総監が謝るのは異例だね。
公安部の暴走

警視庁は何をやらかしたんだ?
公安部の暴走で、冤罪を作っちゃったんだよ。

公安? 公安と言えば、共産主義者や反政府の連中を監視する、戦時中の特別高等警察、いわゆる「特高」を引き継いだ所だろ? と言うことは、大川原という会社は、思想的な犯罪を犯したんか?

いやいや、
大川原化工機は技術で日本を支えてきた優秀な中小企業だよ。主力商品の噴霧乾燥機を中国や韓国に輸出したことで、容疑をかけられたんだ。

中国や韓国が、噴霧乾燥機を買って、インスタントラーメンの粉スープを作って、なぜ悪い?
実は2013年、経産省は、殺菌機能つき噴霧乾燥機を輸出禁止にした。そのワケは、生物兵器の生産に使われる危険性があるからなんだ。

生物兵器だと?

生物兵器を作ったことないからわからないけど、エボラの培養液だって、液体より、粉にした方がバラ巻きやすいよね。でも、粉にしたところで、問題は製造後。タンク内に残ったエボラに、製造者が感染するかもしれない。そこで、殺菌機能が必要になる。

じゃあ、大川原化工機は、殺菌機能がついた噴霧乾燥機を中国に輸出したのか。そら、大変だ。公安が動くのも当然だ。

でもね、実際はそうじゃないんだ。
大川原社長は最初から、「うちの機械じゃ殺菌はできない」と言い続けた。社員も「タンクの内部は90度にも達しない」と答えた。なのに、公安が、「ヒーターを空焚きすれば、機械内部の温度が上昇するから、殺菌可能だ。兵器転用できる」と言い張ったんだ。

なんで、機械を作る当人が言うことより、ドシロートの公安の言うことが重視されるんだ?

とにかく公安は「殺菌できる」としたかっただけ。この事件を担当したのは、公安部の「主にロシア・東ヨーロッパの工作活動や戦略物資の不正輸出を捜査対象とする」外事一課第五係だけどね。(
Wikipedia)

「戦略物資の不正輸出」を捜査する所か。それなら、粉末スープを作る機械を売る中小企業より、もっとヤバい、ギリギリの製品を輸出している大企業があるだろうが。そっちを捜査しろよ。
捜査リーダーの宮園警部は、日頃から部下にこう言っていた。「大企業だと警察OBがいる。会社が小さすぎると輸出自体をあまりやっていない。100人ぐらいの中小企業を狙うんだ」。つまり、社員約90人の中小企業で、警察OBも雇っていない、大川原化工機みたいな会社を狙えって言ってるんだよ。

なんだとお? それじゃまるで、兵器スレスレで法律ギリギリのヤバいブツを輸出していても、警察OBの天下り先企業ならスルーする、って言ってるようなもんだ。

それ、あるかもね。
捜査を開始した頃、宮園のいた第五係は、部内から「目立った成果を上げていない」と見なされていて、宮園らは「このままでは人員を減らされ縮小させられる」と怯えていた。

それで、警察OBがいない大川原化工機をカモにして、一旗上げようとしたんだな。

でも、
ジャマなのは、「噴霧器は違法じゃない」と言う経産省だった。宮園は部下に言った。「経産省には『違法な機械ではない』と言わせるな」「経産省に『殺菌概念が無い』と言わせるな。経産省がそれを言ったら事件は終わり」

是が非でも、殺菌能力のある違法な機械にしなければならなかった?

そう、
宮園は「大川原の噴霧器は殺菌できるから違法」という自論を固めるために、防衛医大の微生物学教授に部下(安積刑事)を何度も送って、「滅菌」と「殺菌」の話を聞いた、事件の捜査ということは秘密でね。そして、
その内容を切り貼りして、公安独自の解釈「ヒーターで空焚きし、細菌を1種類でも消す温度が維持できれば、滅菌に該当する」という結論を叩き出した。
防衛医科大学校

相談された教授も共犯じゃねえか。

その教授は後でこう言っている。「私は機械の専門家ではないので、機械の性能について事細かに話すことはない。安積刑事が話したことを敢えて否定しなかったか、完全に作文しているかのどちらかだと思う」。

「90度にも達しない」大川原の噴霧乾燥機が、生物兵器製造に使える殺菌可能な製品にされちまった? こんなの何の根拠もないねつ造じゃんか。

だけどね、公安の自論を信じたのか、
ついに経産省が折れたことで、2018年10月、大川原化工機に家宅捜索が入って、役員や社員の取り調べが始まった。社長は39回、常務は35回、相談役は18回も取り調べを受けた。ある女子社員は、取り調べのせいでうつ病になった。

誰か、宮園にブレーキをかけるヤツはいなかったんか?

「客観的な事実にもとづいて捜査すべきです」と言った部下がいたけど、宮園は「事件を潰す気なのか?責任を取れるのか」と怒鳴りつけ、捜査を続けたと。(
YouTube 6:48〜)

はあ〜、だめだ、こりゃ。
社長ら3人の逮捕と起訴

そして
2020年3月11日、ついに社長、常務、相談役の3人が逮捕された。そこからもねつ造は続く。警察が被疑者を逮捕したとき、最初に作られる調書が弁解録取書(べんかいろくしゅしょ)。被疑者はそこで、逮捕理由について弁解する機会が与えられる。
宮園の部下Aは、常務に「社長の指示により許可を取らずに輸出した」と書かれた弁解録取書に署名・捺印するよう求めた。常務が修正を求めたので、Aは修正して、常務は署名した。するとそこには、「社長の指示に従って」が「社長らと共謀して」に書き換えられていた。(
Wikipedia)

だましたな。

これを見た常務が、「日本の警察は、こんなだまし討ちみたいなことするのか」と激高したので、弁解録取書を作り直した結果、署名入りの弁解録取書が2通存在することになった。
弁解録取書は2通とも検察へ送られなければならなかったのに、Aは最初に作成された弁解録取書を公文書であるにもかかわらず、シュレッダーにかけてしまった。

証拠隠滅だ。公文書なんとかで、罪になるぞ。

そんなことがありながらも、
逮捕から20日後の3月31日、社長らは起訴された。

起訴? 逮捕とどう違うんだ?

逮捕するのは警察。起訴するのは検察官。起訴は、検察官が容疑者に対して刑事裁判を起こすこと。しかも、聞いてビックリ!!
日本の刑事裁判は、起訴されると99.9パーセントに有罪判決が出て、前科がつくんだって。(
デイライト法律事務所)

わーお!

でも、最終的に起訴を決定した塚部検事も、公安部の自論に疑問を持っていた。塚部「解釈自体が、おかしいという前提であれば起訴できない」「不安になってきた。大丈夫か。私が知らないことがあるのであれば問題だ」 。なのに、そこから3年経った2023年7月、証人として出廷した塚部検事は、「当時、起訴すべきと判断したことは間違っていないと思うので、謝罪の気持ちはない」と答えた。(
Wikipedia)

検事は謝らない、謝ったら出世できない、というのは本当だったんだな。
認められなかった保釈請求

さて、保釈って知ってるよね。一定のお金を預ければ身柄が自由になる制度で、よほどのことがなければ認められる。なのに、
社長と常務の2人は、逮捕から11ヶ月経った2021年2月5日になって初めて釈放された。それまでの5回の保釈請求は一度も認められなかったんだ。

11ヶ月も出られなかった? なんでだ?

検察が保釈したら逃亡する、社員と証拠隠滅に走るとゴネたから、裁判所が認めなかったんだよ。
もう1人の相談役はどうなった?

2人が保釈された2日後の2月7日、
保釈されないまま、病院で亡くなった。72歳だった。亡くなるまで8回も保釈請求をしたのに、1回も認められなかった。(
Wikipedia)

相談役は入院してたのか?
彼は2020年9月に大出血して、10月に胃ガンと診断された。東京地裁は8時間の勾留執行停止を決め、7ヶ月ぶりに外に出て病院に行ったが、そこでは執行停止中の手術や入院はできなかったので、何もしないまま拘置所に返された。2020年11月、勾留執行停止でも受け付ける病院を受診したが、そこで医師に言われたのが「なんで、こんなになるまで放っておいたのか?」

まったく、どんな思いでここまでたどり着いたと思ってるんだ?

そして、社長と常務が保釈された3日後、一度の保釈請求も認められないまま、相談役は病院で亡くなった。さらに、保釈された社長と常務も、「共犯者と会わない」という制限のため、相談役の最期に立ち会うことができなかった。

・・・。

そんなことがあった
ちょうどその頃、公安部は警察内部で高く評価されていた。2020年7月、公安部外事一課は警視総監賞を受賞し、同年12月に警察庁長官賞を受賞した。さらに警察庁は、安倍元首相の肝いりだった経済安全保障の実績として、2021年7月発刊の『警察白書』で本事件を取り上げた。それだけじゃない、
捜査に携わった宮園と部下Aは昇進している。(
Wkipedia)

アホか! そんなことしてる間に、人が死んで、何人も泣いているんだぞ!
突然の公判の中止で無実が確定

ところが一転、
2021年7月に、東京地検は公訴の取り下げを申し立て、公判は中止となり、裁判は終結。社長たちの無実が確定した。

ちょ、ちょ、ちょっと待て! 突然の展開でついて行けない。いったい、何があった?

弁護団は、公安部が、経産省とやり取りしたメモをコンピューターに保存していたことを知った。2021年5月、
弁護団は検察官にメモの開示を求めた。検察は開示しなかったので、6月に弁護団は裁判所に開示を請求をした。ここから、動き出すよ。

いい方に行ってくれ。

2021年7月15日に第1回公判期日が開かれることになった。ところが、検察官は、メモの開示が間に合わないことを理由に、公判を2か月延期するよう求め、さらに「噴霧乾燥機が、輸出規制の要件を満たすかどうか再検討する必要が生じた」と述べた。

おお! 再検討してくれるのか?

弁護団は再度、メモの開示を求め、検察官は7月30日までに開示するとして、第1回公判は8月3日に延期された。 ところが!
開示期限の7月30日、東京地検は公訴の取り下げを申し立てて、裁判は開かれなかった。

奇跡みたいな話だな。起訴されたら99%有罪になるはずが、一転して裁判まで無くなったのか。よっぽど、公安と経産省のメモを出したくなかったんだな。

それもあるけど、
地検は「噴霧乾燥機が、輸出規制の要件を満たすかどうか」を再検討したんだ。大川原化工機の噴霧乾燥機で、実際に乳酸菌が死滅するかどうかを
実験したら、殺菌能力は認められないことがわかって、公安部の作り話がバレてしまった。

アホー! そんなん、もっと早くやれよ! そしたら、誰も逮捕もされなくてすんだし、相談役も病院で寂しく死ぬこともなかった・・。
違法捜査だったと認定した驚愕の判決
2021年9月、大川原化工機は、東京都と国に対して損害賠償を請求した。2023年2月、東京地裁は違法捜査だったと認定。「警察は会社の幹部から噴霧乾燥機は規制の対象ではないと言われていた。にもかかわらず、ちゃんとたしかめずに逮捕している。警視庁公安部の逮捕は違法だ」「また、公安部の取り調べでも違法行為があった。常務を誤解させて、弁解録取書にサインさせたのは偽計である。起訴にも合理的根拠がなく、判断を間違えた」として、
国と東京都に約1億6000万円の損害賠償を命じた。

良かったなー!

これは、2023年6月、口頭弁論の証人尋問だよ。
証人(警部補):ねつ造ですよね。逮捕も勾留もやる必要がなかった。起訴する理由も特になかったと思います。
弁護士:どうしてでっち上げたんですか?
証人:捜査員の個人的な欲です。
裁判長:なぜ、欲を持ったのか?
証人:定年が視野に入ると、自分はどこまで上がれるか考えるようになります。幹部には、マイナス証拠をすべて取り上げない姿勢があった。ちゃんと証拠を突き詰めていれば、こんなことにはなりませんでした。
(
YouTube 20:10〜)

この証人、警察官にしては正直でいい。
事件を追ってきた青木理氏は、これは驚愕の判決だと話す。「司法の砦である裁判所が、警視庁公安部の逮捕、捜査、あるいは東京地検公安部の捜査というものを違法と認めて、国と都に賠償を命じたのは画期的、驚愕の判決と言っていい」。(
YouTube 16:40〜)

一見落着、めでたしめでたし♪

そう浮かれてもいられないんだ。紙一重だったからね。社長らは最初から一貫して無罪を主張したけど、
病院で亡くなった相談役の奥さんは、入院加療を受けてもらいたくて、相談役に「やった」と認めるよう説得したと言う。相談役は認めなかったが、もし、彼1人でも「やった」と認めていたら、こうはならなかった。

そうか、そういう弱い結び目を切るのがヤツらの狙いだったんだ。

大川原の弁護士も、こう話している。
今回、無罪相当になりましたけども、刑事事件でも起訴取り消しになりましたけども、そこまできっと、がんばれない人が多いと思います。
こういう環境で、多くの方は妥協して、不本意な自白、司法取引じゃないですけど、そのような道を選ばざるを得ない。そういう構造になっている。これは大きな問題で、制度としてすみやかに改善する必要がある。(
YouTube 24:00〜)

警察に逮捕されて、勾留されて、
容疑を否認すると、なかなか保釈が受けられない。これを「人質司法」と言う。これが、日本の刑事司法の一番の問題だって。(
YouTube 9:32〜)
事件を欲しがっていた警視庁公安部

しかし今回、
なんで公安はこんな無茶をしたんだろうか?

弁護士さんが答えている。
結果として暴走が止まらなかったわけですが、それは、
もともと、事件を欲しがっている警視庁公安部という人たちがいて、彼らは、事件がないと自らの組織の存続すら危ぶまれると。(中略)...そういう中で、起死回生の事件を望んでいたという、渇望していたというのが背景にあると。そういう中で、噴霧乾燥機というネタを見つけてきて、係長がこれは行けると飛びついて、風呂敷を広げたと。
(中略)...その結果、公安部内部、はたまた警視庁の組織内部で、行けるんだというようなことを言い過ぎたために、引っ込みがつかなくなり、捜査員の数も拡張して、予算もかなり使ったもんですから、後戻りできなかったというのが基本的なところだと思う。(
YouTube 38:22〜)

う〜ん、公安部が事件を欲しがったために、優良な会社が存続の危機にさらされ、一人の人間の最期がめちゃくちゃにされたんだぞ。

最後に、青木氏はこう話している。
大川原化工機みたいな、ほんとに、この国の産業基盤を支えてきた優秀な中小企業が、今回、これで有罪だったら潰れていたんですよ。
(中略)...1億6000万円の国家賠償請求訴訟で賠償が認められたんだけど、これ、実を言うと我々の税金なんですよ。(
YouTube 47:25〜)

アホか! 公安部の「欲」が引き起こした失態を、おれたちの税金で尻拭いすんなー!!
Writer
ぴょんぴょん
1955年、大阪生まれ。うお座。
幼少期から学生時代を東京で過ごす。1979年東京女子医大卒業。
1985年、大分県別府市に移住。
1988年、別府市で、はくちょう会クリニックを開業。
以後26年半、主に漢方診療に携わった。
(クリニックは2014年11月末に閉院)
体癖7-3。エニアグラム4番(芸術家)
最近、警視総監が頭を下げたことで話題になった、冤罪事件です。
事件の真相がわかるにつれて、司法と呼ばれる警察、検察、裁判所で働く人々の権力欲、支配欲、名誉欲といった「欲」があからさまになります。
これなら、AI君の方がまともな仕事をしてくれそう。