[櫻井ジャーナル]シーア派の権利尊重を求めていたニムル師を処刑したサウジは軍事的な緊張を高めて生き残りを図る 〜トルコ・サウジアラビアの背後にアメリカ・イスラエル〜

竹下雅敏氏からの情報です。
 トルコ・サウジアラビアのトップが昨年末に会談を行った数日後に、ニムル師が処刑されたということです。何か両国に思惑があるのでしょうが、櫻井ジャーナルも“逆効果になる可能性は強い”とあります。
 トルコは、ロシアがダーイシュ(IS)を爆撃して以降、窮地に陥っています。サウジアラビアは、石油価格下落によって王国崩壊の危機にあります。
 元々サウジアラビアが、アメリカのシェールオイルという競合相手を潰し、同時に経済制裁に加えて石油価格下落によってロシア経済を損ない、プーチン大統領を暗殺することまで考えて体制を崩壊させようとしたものです。ところが、プーチン暗殺は失敗。経済制裁は中国との結びつきを強め、AIIB設立に至っては完全に裏目にでてしまい、サウジアラビアの目論見は、自らの首を絞めるものになってしまいました。
 両国の過去の悪事を考えると、国が崩壊するのがふさわしいと思いますが、もちろんこの両国の背後に居るのは、アメリカ・イスラエルです。
(竹下雅敏)

注)以下、文中の赤字・太字はシャンティ・フーラによるものです。

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シーア派の権利尊重を求めていたニムル師を処刑したサウジは軍事的な緊張を高めて生き残りを図る
転載元より抜粋)
 サウジアラビアにおけるシーア派の指導的立場にあったニムル・バキル・アル・ニムル師が1月2日に同国で処刑された。この国のサルマン・ビン・アブドルアジズ・アル・サウド国王がトルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領と会談した数日後のことだ。

 処刑を受け、シーア派は各地で抗議活動を展開、イランの首都テヘランのサウジアラビア大使館やメシェドのサウジアラビア領事館へは数十本の火炎瓶が投げ込まれ、建物の一部が焼失する事態に発展、サウジアラビア外相はイランとの外交関係の断絶を宣言した。ここまではサウジアラビアのシナリオ通りという見方がある。

 サウジアラビアやトルコはネオコンやイスラエルと手を組み、アル・カイダ系武装集団やそこから派生したIS(ISIS、ISIL、ダーイッシュなどとも表記)を使って軍事侵略を繰り返し、残虐性をアピールすることで反イスラム感情を煽ってきたが、今回は「スンニ派対シーア派」という構図を作り出そうとする思惑も含まれているだろう。

 ニムル師は自由選挙を求めていたほか、サウジアラビアにおけるシーア派の権利が尊重されないならば、東部地域を分離すべきだとも主張していた人物。2012年7月に逮捕された際、サウジアラビアの警官から銃撃されて足を負傷している。そして2014年10月にニムルは死刑を宣告されていた。

 混乱の火を付けたサウジアラビアは現在、厳しい状況にある。始めた戦争が思惑通りに進まず、原油価格の引き下げが自らの首を絞めることになって財政赤字が深刻化、緊縮財政に乗り出そうとしているのだが、生活費の補助が打ち切られたならば、街に溢れる失業者がこれまでと同じように従順でいる保証はない。保有する株式や債券の売却を始めると投機市場が動揺、ペトロダラーの仕組み崩壊でドルを基軸通貨とする仕組みが揺らぐ可能性もあるだろう。

 サウジアラビアはアメリカ、イギリス、フランス、トルコのNATO加盟国やカタール、イスラエルなどと手を組んでリビアやシリアで体制転覆プロジェクトを始めたが、9月30日にロシア軍がシリアで始めてから歯車が完全に狂っている。ニムル師の処刑直前にサウジアラビアとトルコの首脳が会った事実は興味深い。傭兵の雇用や提供を含む戦費を負担してきたサウジアラビア、兵站ラインの出発点で盗掘石油の輸送先でもあるトルコが最も追い詰められている。IS/アル・カイダ系武装集団をこの2カ国も使っている。こうした武装集団へ参加している戦闘員の多くはワッハーブ派だ。

 IS/アル・カイダ系武装集団を使った政権転覆プロジェクトはロシアの空爆で崩れはじめ、シリアのことはシリア国民が決めるべきだとするロシア政府の主張に同調する流れができつつあるのだが、ネオコン、サウジアラビア、トルコはあくまでもシリアのバシャール・アル・アサド政権の打倒、イラン攻撃に執着している。

 軍事侵略が思惑外れになり、政治経済的に窮地に陥ったサウジアラビアは、ニムル師を処刑することでイランを刺激して軍事的な緊張を高めて問題の外交的な解決を破綻させ、国内では戒厳令状態にして反乱を封じ込めようとしているのかもしれないが、すでにサウジアラビアがIS/アル・カイダ系武装集団のスポンサーだということも広く知られるようになっている現在、逆効果になる可能性は強い。


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権謀術数を巡らしたトルコ、サウジアラビアの自業自得
転載元より抜粋)
Finian Cunningham
2016年1月2日
"SCF"

レジェップ・タイイップ・エルドアン・トルコ大統領が、サウジアラビア、サルマーン王とのサミットのため、適切にリヤドに飛んで一年が終えた。会談には、挫折の一年の後、二人の指導者が陣営を固めるかのような雰囲気があった。古い諺にある通り、同病相憐れむ。

アンカラもリヤドも、地域における両国の軍事計画は、決定的に駄目になってしまったのだ。

ロシアによって加えられた聖戦傭兵に対する壊滅的打撃は、アンカラ・リヤド協賛の汚い戦争の流れを変え、アメリカ合州国ですら最近、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は、モスクワ長年の同盟国シリア国家の安定化という戦略的目標実現に成功したことを認めている。

ロシアの石油密輸と兵器輸送路空爆で、トルコがテロ旅団の活動を可能にしていた聖戦代理軍が利用していた補給線が切断された。ロシア爆撃攻撃による石油密輸の大量破壊が、シリアで戦争をしかけているテロリストへの現金と兵器供給をだめにした。

エルドアン大統領が、12月29-30日、サウド王家と新たな“戦略的協力委員会”構築を話し合うためリヤドを訪問していたのも不思議ではない。トルコとサウジアラビアは今や、連中のシリアにおける政権転覆計画のための深刻な資金調達問題に直面している。


トルコ南東部と、北イラクの分離主義クルド人に対してエルドアンが再開した軍事作戦と、トルコのかつて繁栄していた経済の全般的下降のおかげで、アンカラは、新オスマン計画に資金を供給するための調達ができなくなっている。かくして、財政難のエルドアンは苦境におちいっている。

サウジアラビアの支配者連中は、今やまずい財政を是正するため、未曾有の緊縮政策に乗り出さざるを得なくなった。サウジアラビア国民は、燃料、電気や水道の価格値上げに直面しているが、これは独裁制王国において、社会不安をもたらすことを意味する。

サウジアラビアの総人口2700万人の三分の一もの数が外国からの海外在住労働者で、多くは南アジアから来ており、廉価な奴隷労働力となっている。おかげで、サウジアラビア国民の多数は失業したままという結果になっているが、サウジアラビア石油財源からの“給付”で、これまでの所、彼等を従順にしておけたのだ。

サウジアラビアの国家財政が弱まっている主要な要因は、世界市場での石油価格崩壊だ。

サウジアラビアの国庫歳入の約80パーセントが、石油売り上げに依存している。これと比較すると、ロシアの石油依存は、約15パーセントだ。

ロシアのエネルギー相アレクサンドル・ノヴァクが、ロシヤ24 TVで今週こうのべた。“サウジアラビアは、今年一日150万バレル増産し、事実上、市場の状況を不安定化させた。

サウジアラビアの一見自滅的な政策は、より弱い競合相手を駆逐し、ロシアと共に世界第二の産油国という市場での立場を守ろうとすることが動機だと主張するむきもある。より悪意ある説明は、サウジアラビアは、ロシア経済を損なおうとするワシントン計画を幇助し、扇動したというものだ。

いずれにせよ、結論は、サウジアラビアは、石油で地政学遊びをしたおかげで、自らの権益を更に損なう結果におわったということのようだ。

サウジアラビアの悩みに輪をかけているのは、彼等がイエメンで継続中の戦争だ。王国国庫が負債状態なのに、サウジアラビアは、今年、更なる軍事支出を用意しなければならない。

自らの権謀術策がもとで、トルコとサウジアラビアが自業自得の報いを受けている旋風は、この地域の平和を本気で実現しようとしている当事者にとっては、つかの間の猶予となるだろう。

記事原文のurl: http://www.strategic-culture.org/news/2016/01/02/turkey-saudi-reap-machiavellian-whirlwind.html

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