[芳ちゃんのブログ]南シナ海 - 米国の影響力は衰退の一途(地政学の研究者トニー・カタルッチ氏の見解)

 中国が主張する南シナ海の「九段線」内の管轄権に対して、国際仲裁裁判所は「法的根拠がない」との裁定を下しましたが、これについて、中国の劉振民外務次官が、安保法制懇のメンバーの柳井俊二氏が"仲裁裁判所(オランダ・ハーグ)の裁判官を任命し、その裁判官らが審理を進めてきた"と述べていました。今回のトニー・カタルッチ氏の記事では、"実際には米国に本拠を置く「フォーレイ・ホーグ」と称する法律事務所のポール・S・ライクラー弁護士が陣頭指揮をとったもの"で、"本係争は「アジアにおける米国の優位」を維持するための手段として引き起こされたものである"と指摘しています。また、その青写真とも言える、外交問題評議会(CFR)が発行した「中国に対する米国の大戦略を改訂」と題した論文の要点を紹介してくれています。
 現在、西側諸国がどんどん米国から離反しつつありますが、東南アジア諸国も"財政支援を受け、貿易の相手国であり、文化的にも親密な大国(中国)を孤立化させようとは思わない"とあります。また、アセアン10カ国の中で米国にもっとも近しい同盟国と言われるフィリピンの大統領が、“中国の長老から推挙”されたドゥテルテ氏になったことで、よりいっそうネオコンの陰謀は破綻する方向へ加速しているのではないでしょうか。
(編集長)

注)以下、文中の赤字・太字はシャンティ・フーラによるものです。

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南シナ海 - 米国の影響力は衰退の一途
転載元)
(前略) 

Photo-1: 南シナ海の領有権問題 出典:D. Roserberg/ミドルベリー大学/Harvard Asia Quarterly/フィリピン政府

Photo-1: 南シナ海の領有権問題 出典:D. Roserberg/ミドルベリー大学/Harvard Asia Quarterly/フィリピン政府


中国が主張する南シナ海の領有権に関して最近下された「国際仲裁裁判所」の裁定は単に期待外れだったというだけではなく、あの裁定は米国の影響力が衰えつつあることを暗示するものでもある。さらに付け加えると、あの裁定は米国が何十年にもわたって活用し、乱用して来た結果、今や米国の信用を台無しにしている数多くの国際的な制度の正当性が減退してきていることを示すものでもある。

ニューヨークタイムズは「裁判所は南シナ海に関する中国の主張を退ける」と題した記事で次のように述べている: 

    ハーグの国際調停裁判所は、火曜日に、人工島の構築を含めて、中国の南シナ海における行動に関して激しく非難し、この海域で領土権を拡大しようとする中国の主張には法的な裏付けはないと述べた。

    フィリッピンによってもたらされたこの画期的な出来事は世界の強国としての中国の台頭に関してだけではなく、米国の競争相手という位置づけにおいても重要な岐路となるものと見られ、北京政府に対してはこの海域における中国の自己主張の多い戦術に関して見直しを強いることになるかも知れない。さもなければ、中国は「国際的ならず者」としてレッテルを貼られる危険性がある。中国が国際法廷システムに呼び出されたのはこれが初めてのことである。

ニューヨークタイムズはこの訴訟が「フィリピンによってもたらされた」と記述しているが、この訴訟は実際には米国に本拠を置く「フォーレイ・ホーグ」と称する法律事務所のポール・S・ライクラー弁護士が陣頭指揮をとったものである。南シナ海における係争は表面的には中国とその周辺諸国との間に起こったものとして取り沙汰されてはいるが、現実には、訴訟そのものと同様に、本係争は「アジアにおける米国の優位」を維持するための手段として引き起こされたものである。

「アジアにおける米国の優位」に対する脅威に直面: 

企業投資家らが資金を提供し、指揮を取っているシンクタンクの外交問題評議会(CFR)が発行した「中国に対する米国の大戦略を改訂」と題した論文は、ワシントン政府がブッシュ政権時代にアジアにおける覇権の維持に注力をしていた頃それに直接的に参画し、ロビー活動を行っていたロバート・ブラックウィルが書いたものだ。
このブラックウィルの論文は米国がアジアにおいて如何なる利害関係を持っているのかを明確に述べている: 

    中国を自由主義的国際秩序へ組み込もうとする米国の試みは今やアジアにおける優位を標榜する米国に新たな脅威をもたらし、これは結果として世界における米国の覇権に挑戦状を叩きつけることにもなりかねないことから、ワシントン政府は中国に対しては新たな大戦略を必要としている。この大戦略は中国の台頭を支援し続けるものではなく、むしろ中国パワーの台頭に対して均衡を図ることに重点を置くべきものとなろう。

このCFRの論文は、米国は「アジアにおける優位」を保持し、それを維持するべきだということを米国の政策立案者が公に是認するような性格を帯びている。メリディアン・ウェブスターによると、「優位」とは「もっとも重要で、もっとも強力である」と定義される。

米国はアジアとの間には広大な太平洋を挟んでおり、アジアからは大きく離れて位置している。その米国が自国をしてアジアにおいて「もっとも重要で、もっとも強力な」国家であるとする認識は、実際には、アジアにおいては中国の優位が現出するかも知れないと米国が言い張ると、そのような認識は国際平和や安定にとってはあらゆる点で脅威をもたらすことだろう。

もっともらしい理屈としての南シナ海「紛争」: 

もっと具体的に言うと、ブラックウィルは南シナ海紛争を、同紙が認めているように、衰える一方にあるアジアに対する米国のコントロールを強化するための主要な口実として論じているのかも知れない。

この紛争で予期され、かつ、自分勝手な政治的意図が満載された施策に関して、同紙は箇条書きにしている。それらには下記の項目が含まれる: 

    ・フィリピン軍の防衛力を改善し、フィリピン政府がフィリピン領土への侵攻を抑止し、予防することが出来るように全面的な防衛力を開発する。
    ・合同軍事演習におけるジャカルタ政府の役割を強化し、その範囲を拡大する。これはジャカルタ政府がアジア太平洋地域の安全保障において中心的な地位を占めることがますます多くなっていること、空と海における軍事力の強化に向けた軍事援助や訓練を施し、インドネシアとの合同演習を行うことを象徴的に示すものである。
    F-16からF-35に移行することによって、シンガポール空軍の戦力を強化するよう支援する
    ・マレーシアが「拡散に対する安全保障構想」に全面的に参画するよう働きかける。同政府は2014年4月にこの構想に参画し、合同演習や防衛領域認識アーキテクチャ、等に積極的に関わることに同意した。
    毎年実施されている米・ベトナム海軍の合同演習においてはその活動範囲を拡大するよう求める。これには合同人道支援や災害時の救難活動、ならびに、捜索救助演習も含める。
    カムラン湾の港へはより頻繁に短期的な寄港をする。 
    軍隊を職業化することに主眼を置き、ミヤンマーに戦略的な「国際軍事交流訓練(IMET)」プログラムを構築し、ミヤンマー軍を統合して国際合同軍事演習への参画を拡大させる。  
    ・東南アジアにおけるIMETの実質的な拡大を推奨する。
    ・この地域においては各国が民主的な政治的能力を構築するように支援する。

米国が推奨しているこの地域全域における軍事力の強化は東南アジア各国の軍事力や政府、ならびに、主権そのものに対する米国の影響力を強化することに役立つばかりではなく、中国に脅威を与えるために必要となる膨大な量の米国製武器の調達さえもがあからさまに含まれている。事実、シンガポール空軍のF-16戦闘機の能力を引き上げるために、スキャンダルが多く、過剰な値札が付けられている例のF-35戦闘機を購入するようブラックウィルは大っぴらに推奨している。

この論文は全体で70ページで構成されており、中国を包囲し、封じ込めるという何十年にもわたってワシントン政府が推進して来た取り組みに関して最近の動きを非常に詳細にわたって説明をしている。こうして、中国に対する訴訟を如何にして米国がフィリピンの手を介してハーグの裁判所へ持ち込んだのかが明らかとなる。


国際的に認知されてはいない国際調停裁判所: 

米国のメディアはこの裁判所の裁定が有している重要性に向かって国際世論が殺到するように試みたものの、本裁定は全世界で冷やかな無関心に遭遇することになった。

中国は真っ向からこの法的な手続きを拒否し、裁定が読み上げられる以前からこれを拒否していた。東南アジアの他の国々は引き続き経済や政治および軍事の領域で中国との協力をさらに緊密なものにしようとしている。

(中略) 

国際調停裁判所は米国のために存在するのであって、フィリピンの利害関係のためではない: 

平和的な話し合いを求めた[ドウテルテ大統領からの]呼びかけは東南アジア中に反響し、ハーグの国際調停裁判所が今週下した裁定後にこの地域が置かれた困難な立場に光をあてている。アセアン10カ国の中で幾つかの国は北京政府との間で領土問題を抱えているのは事実であるが、何れの国も勝ち目のない戦争を引き起こすことは望まないし、財政支援を受け、貿易の相手国であり、文化的にも親密な大国を孤立化させようとは思わない。

換言すると、裁判所による裁定ならびに米国が期待していた中国に対する敵対姿勢が表面化することは東南アジア各国にとっては如何なる形においても恩典を与えることにはならない。米国はフィリピンに対して非常に大きな影響力を持っているにもかかわらず、平和や繁栄ならびに進歩を願う気持ちの方が依然として遥かに強いことは明白である。

確かに、経済の複雑性を示すハーバード大学の地図によると、フィリピンの中心的な貿易相手国は中国であって、二国間の経済の結びつきを説明するかのように全輸出の26%、全輸入の19%を占めている。その一方、米国との貿易はフィリピンの輸出の12%と輸入の9%を占めるだけだ。フィリピンの経済が依存しているのは圧倒的にアジアである。つまり、平和と安定を享受しているアジアなのである。そして、この地域を軍国化し、中国に立ち向かわせようとする米国の大っぴらに喧伝された計画によって直接脅威を受けるのはこの平和と安定だ。

この地域に属し、米国にもっとも近しい同盟国にとってさえも、中国に立ち向かうことには明らかに興味がないのである。米国が中国の「支配」に立ち向かうことの必要性を強調する一方で、米国は自国の「アジアにおける優位」を維持することに協力をしない国を罰するべくそうした国を強制することに依存して来たのである。

フィリピンに対して、ならびに、米国の「アジアにおける優位」を潔しとはしない他の東南アジア諸国に対して米国は一連の懲罰策に頼るであろうことは間違いない。しかし、ひとつだけ確かなことがある。全世界が認めることを渋るような「国際裁判所」はもはや「国際的」であるとは言えない。米国によって後押しをされている国際裁判所がまったく的外れであるという事実は米国が主導的な地位に就こうと目論んでいる「国際秩序」に何が起こり得るのかを示す格好の前兆となろう。

米国の覇権が暴力的で、血なまぐさく、破廉恥に拡大してきたこと、そして、今や不名誉な撤退をしようとしていることに関して、中国は十分に関心を寄せて来た。また、それだけではなく、中国は世界の大国という地位に向けてまったく別の道を歩むことを決断している。つまり、全世界に対する覇権は脇に置き、その代わりに、手本となることによって世界を導いて行けるような地位に就こうとしている。東南アジアにとっては各国の経済や社会を確かなものとし、強力で警戒を怠らない軍隊を維持することは中国が平和裏に、かつ、誘惑に遮られることもなくその目標に向けて前進することに役立つことだろう。

US “International Court” Ruling on China Falls Short: By Tony Cartalucci, Neo Eastern Outlook, Aug/27/2016,
http://journal-neo.org/2016/08/27/us-international-court-ruling-on-china-falls-short/

(以下略)

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