注)以下、文中の赤字・太字はシャンティ・フーラによるものです。
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お笑い『共謀罪』 やっちゃったね朝日新聞w 藤井聡太27連勝の棋譜中継に即時中止要求
転載元)
街の弁護士日記 17/6/18
共謀罪法成立早々、この法律がいかに馬鹿げたものかを示す事件が起きた。
(中略)
今や社会現象となった地元藤井聡太4段のプロ入り以来、負け知らずの連勝(細かいことながら、我が事務所がある守山区は神の子の住む瀬戸市に直接隣接する有り難い区である)。
次の対戦は6月21日の澤田真吾6段戦(王将戦予選第4回戦。スポニチ,毎日新聞主催)。
藤井4段は、澤田真吾6段とは棋王戦予選で6月2日にも対戦し、20連勝を決めているが、終盤、必敗の形勢からの大逆転勝ちで、まさに「僥倖」の勝利だった。
澤田6段は、師匠の杉本昌隆7段をして、「実力は澤田6段の方が上」と言わしめる実力者である(直近のレーティングでは17位にランクされ、佐藤康光元名人・将棋連盟会長と同格の成績を残している)。
28連勝がかかった次の対局は、世紀の大一番となることが予め約束されていると言ってもよい。
そんな大一番をめぐって、この棋譜中継をネットで見られなくなるという悲劇を、昨日、朝日新聞が仕出かしてくれた。
27連勝がかかった朝日杯の対戦を棋譜中継していたユーチューブサイトの「将棋実況【クロノ】」に対して、朝日新聞将棋取材班から警告のツイートがなされた。
これに驚いたクロノ氏は直ちに棋譜中継を中断。
視聴者が理由を問い合わせたところ、対戦を中継する権利は朝日新聞社と将棋連盟にあるということであった。
そこで、中継の権利を妨げないと思われる、後刻の棋譜並べならよいのかという趣旨の質問がなされたが、これには、回答がない。
このためクロノ氏は、次回の澤田6段戦の棋譜中継、そして今後の事後の棋譜並べを断念する模様であり、朝日新聞はすっかり将棋ファンのひんしゅくを買っている。
クロノ氏は、朝日新聞デジタルの放送をそのまま流していたわけではなく、棋譜を再現して解説をしていたものに過ぎない。
同時に再現するのではなく、後刻の棋譜並べであれば、放映の妨害にもならないはずで、後刻の棋譜並べの是非について無回答であるのは理解に苦しむ。
後刻の棋譜並べが権利侵害に当たるとすれば、これは「将棋の棋譜に著作権がある」ことを前提とするものと考えられる。
棋譜の著作権については、裁判例はなく、法律の専門家による突っ込んだ議論も行われていない。
結論だけで見れば、「棋譜には著作権はない」とする説が多数のようである。
但し、これが正解だという保障はなく、棋譜の著作権を認める見解も十分に成り立ち得る。
(囲碁について、日本棋院は、棋譜には著作権があるとの見解で、棋士との間で著作権の譲渡契約を結んでいるという。NHKはNHK杯の棋譜について、動画・画像はともかく棋譜並べは問題ないとする立場で棋譜には著作権はないとする立場のようである。ちなみにチェスについては欧米で著作権を認めない扱いが定着している模様である)
最高裁でこの問題が決着しない限り、グレーはいつまで経ってもグレーで、クロノ氏の著作権法違反の可能性は残る。
問題は、著作権侵害罪が共謀罪に含まれていることにある。
仮に棋譜並べが著作権侵害に該当するとすれば、クロノ氏とその視聴者は、「その結合関係の基礎としての共同の目的」が著作権侵害にある団体として、なんともまあ、おそろしいことに組織的犯罪集団として認定されちゃうのである(改正組織犯罪処罰法6条の2。別表第3・55)。
「将棋実況【クロノ】」はチャンネル登録者だけでも2万9000人に及ぶので、共謀罪のおかげで、山口組も真っ青の一大組織的犯罪集団が誕生することとなる(山口組の組員はウィキペディアによれば約1万4100人)。
今回の件は、既遂であり、著作権法は、今のところ著作権者の告訴がなければ、刑事事件として立件されることはないが、問題は、共謀罪が犯罪結果のはるかに前の段階で、これを取り締まることを本質とするところにある。
クロノ氏の中継中断を受けて、視聴者から、「何があったの?やめないで」と切実なコメントが出たことは言うまでもない。「澤田戦も中継して」との声が出たことも当然の成り行きである。
クロノ氏は、著作権問題の決着がつかなければ、棋譜並べはしない、とかわし続けていたが、押されて同意してしまったりすれば、どうなるか。
後は構成員のうち誰かによって準備行為(とこじつけることができる行為)がなされれば、共謀罪成立である。
ここで奇妙なことが起きる。
これまでクロノ氏が配信してきた動画は、すでに著作権侵害の既遂であるから、著作権者の告訴がなければ、犯罪として立件されることはない。
そして、棋士も将棋連盟もスポンサー各社も告訴は100%しないと言ってよいだろうから、クロノ氏や「今日もお願いします」等とコメントして集っていた視聴者が罪に問われることはあり得ない。
ところが、共謀罪は、組織的犯罪であり、重大犯罪であるから、告訴がなくとも立件される仕組みである。
そして、共謀が成立すれば、準備行為を待つまでもなく、当然ながら任意の捜査は開始される。
かくして、クロノ氏のサイトの視聴者やチャンネル登録者は捜査権力の監視下に置かれる。
まあ、何とも馬鹿げた話ではないか。
ただ藤井4段の活躍を知りたい(動画は有料会員専用なので、せめて棋譜を通じて一緒に楽しみたい)、将棋を楽しみたいという思いだけで集まっていた人たちが警察の監視を受けるという訳である。
そんな馬鹿げた状態になるのは、共謀罪による表現活動に対する制約が広すぎるからである。
共謀罪の対象が広すぎるということは、何をどうしようが監視下に置こうと思えば置けるということである。
クロノ氏のチャンネルは、登録者だけでも3万人近いわけで、著作権侵害に関わる他の組織を考えれば、共謀罪の監視対象となる『組織的犯罪集団』は、数百万あるいは一千万人以上に及んでいてもおかしくはない。
日本中、『組織的犯罪集団』だらけである(嗤)。
表現の自由に対する規制対象が広範すぎる場合、「過度に広範ゆえに無効」という審査基準によって合憲性が審査され、過度に広範と認められれば、当該法律そのものが全体として無効になる。
ユーチューブサイトをめぐる混乱を見ただけでも、共謀罪法が、馬鹿げているほど、過度に広範であることは明らかであろう。
よって、共謀罪法は、全体として違憲無効である。
あれもこれも警察が手をつけようとすれば、じきに人手不足で手が回らなくなるだろう。
日本警察が米国NSAほどの技術水準を有するとも考えられない。
「みんなで渡れば怖くない」は、我が国の国是、国民の国民性である。
この際、こんな馬鹿げた法律は無視するに限るのである。
なお、将棋の棋譜に著作権はあるかという問題。
最善手を追求した結果であり、創造性がないから著作権は発生しないとする考え方もあるようであるが、どうもぴんとこない。
コンピューターが暴力的なまでに人間の指す将棋を圧倒してしまった現在、今なお将棋が魅力を失わないのは、まさに将棋が思想・感情の表現物だからであるように思う。
むしろ、棋譜の創造性を承認した上、今さら著作権などと言い出すと際限のない混乱が起きそうなのを回避し、藤井4段の登場で一気に盛り上がった、将棋の人気を維持するためにも、棋譜を公共財として著作権法の適用外とするのが正解ではないかと感じている。
(中略)
今や社会現象となった地元藤井聡太4段のプロ入り以来、負け知らずの連勝(細かいことながら、我が事務所がある守山区は神の子の住む瀬戸市に直接隣接する有り難い区である)。
次の対戦は6月21日の澤田真吾6段戦(王将戦予選第4回戦。スポニチ,毎日新聞主催)。
藤井4段は、澤田真吾6段とは棋王戦予選で6月2日にも対戦し、20連勝を決めているが、終盤、必敗の形勢からの大逆転勝ちで、まさに「僥倖」の勝利だった。
澤田6段は、師匠の杉本昌隆7段をして、「実力は澤田6段の方が上」と言わしめる実力者である(直近のレーティングでは17位にランクされ、佐藤康光元名人・将棋連盟会長と同格の成績を残している)。
28連勝がかかった次の対局は、世紀の大一番となることが予め約束されていると言ってもよい。
そんな大一番をめぐって、この棋譜中継をネットで見られなくなるという悲劇を、昨日、朝日新聞が仕出かしてくれた。
27連勝がかかった朝日杯の対戦を棋譜中継していたユーチューブサイトの「将棋実況【クロノ】」に対して、朝日新聞将棋取材班から警告のツイートがなされた。
@syougito 朝日新聞将棋取材班です。朝日杯の棋譜中継は権利の侵害に当たります。即時、中止してください。
— 朝日新聞将棋取材班 (@asahi_shogi) 2017年6月17日
これに驚いたクロノ氏は直ちに棋譜中継を中断。
視聴者が理由を問い合わせたところ、対戦を中継する権利は朝日新聞社と将棋連盟にあるということであった。
そこで、中継の権利を妨げないと思われる、後刻の棋譜並べならよいのかという趣旨の質問がなされたが、これには、回答がない。
このためクロノ氏は、次回の澤田6段戦の棋譜中継、そして今後の事後の棋譜並べを断念する模様であり、朝日新聞はすっかり将棋ファンのひんしゅくを買っている。
今日将棋の藤井四弾と藤岡アマの対局が行われました。その際liveで棋譜並べをしている某アカが中止を求められました。将棋が好きで、将棋を色々な人に広める活動のなにがいけないのでしょうか?朝日さん。将棋連盟の方。これは将棋を多くの人に認知してもらう大きなチャンスです。考えてください。
— ym (@ymharu1997) 2017年6月17日
クロノ氏は、朝日新聞デジタルの放送をそのまま流していたわけではなく、棋譜を再現して解説をしていたものに過ぎない。
同時に再現するのではなく、後刻の棋譜並べであれば、放映の妨害にもならないはずで、後刻の棋譜並べの是非について無回答であるのは理解に苦しむ。
後刻の棋譜並べが権利侵害に当たるとすれば、これは「将棋の棋譜に著作権がある」ことを前提とするものと考えられる。
棋譜の著作権については、裁判例はなく、法律の専門家による突っ込んだ議論も行われていない。
結論だけで見れば、「棋譜には著作権はない」とする説が多数のようである。
但し、これが正解だという保障はなく、棋譜の著作権を認める見解も十分に成り立ち得る。
(囲碁について、日本棋院は、棋譜には著作権があるとの見解で、棋士との間で著作権の譲渡契約を結んでいるという。NHKはNHK杯の棋譜について、動画・画像はともかく棋譜並べは問題ないとする立場で棋譜には著作権はないとする立場のようである。ちなみにチェスについては欧米で著作権を認めない扱いが定着している模様である)
最高裁でこの問題が決着しない限り、グレーはいつまで経ってもグレーで、クロノ氏の著作権法違反の可能性は残る。
問題は、著作権侵害罪が共謀罪に含まれていることにある。
仮に棋譜並べが著作権侵害に該当するとすれば、クロノ氏とその視聴者は、「その結合関係の基礎としての共同の目的」が著作権侵害にある団体として、なんともまあ、おそろしいことに組織的犯罪集団として認定されちゃうのである(改正組織犯罪処罰法6条の2。別表第3・55)。
「将棋実況【クロノ】」はチャンネル登録者だけでも2万9000人に及ぶので、共謀罪のおかげで、山口組も真っ青の一大組織的犯罪集団が誕生することとなる(山口組の組員はウィキペディアによれば約1万4100人)。
今回の件は、既遂であり、著作権法は、今のところ著作権者の告訴がなければ、刑事事件として立件されることはないが、問題は、共謀罪が犯罪結果のはるかに前の段階で、これを取り締まることを本質とするところにある。
クロノ氏の中継中断を受けて、視聴者から、「何があったの?やめないで」と切実なコメントが出たことは言うまでもない。「澤田戦も中継して」との声が出たことも当然の成り行きである。
クロノ氏は、著作権問題の決着がつかなければ、棋譜並べはしない、とかわし続けていたが、押されて同意してしまったりすれば、どうなるか。
後は構成員のうち誰かによって準備行為(とこじつけることができる行為)がなされれば、共謀罪成立である。
ここで奇妙なことが起きる。
これまでクロノ氏が配信してきた動画は、すでに著作権侵害の既遂であるから、著作権者の告訴がなければ、犯罪として立件されることはない。
そして、棋士も将棋連盟もスポンサー各社も告訴は100%しないと言ってよいだろうから、クロノ氏や「今日もお願いします」等とコメントして集っていた視聴者が罪に問われることはあり得ない。
ところが、共謀罪は、組織的犯罪であり、重大犯罪であるから、告訴がなくとも立件される仕組みである。
そして、共謀が成立すれば、準備行為を待つまでもなく、当然ながら任意の捜査は開始される。
かくして、クロノ氏のサイトの視聴者やチャンネル登録者は捜査権力の監視下に置かれる。
まあ、何とも馬鹿げた話ではないか。
ただ藤井4段の活躍を知りたい(動画は有料会員専用なので、せめて棋譜を通じて一緒に楽しみたい)、将棋を楽しみたいという思いだけで集まっていた人たちが警察の監視を受けるという訳である。
そんな馬鹿げた状態になるのは、共謀罪による表現活動に対する制約が広すぎるからである。
共謀罪の対象が広すぎるということは、何をどうしようが監視下に置こうと思えば置けるということである。
クロノ氏のチャンネルは、登録者だけでも3万人近いわけで、著作権侵害に関わる他の組織を考えれば、共謀罪の監視対象となる『組織的犯罪集団』は、数百万あるいは一千万人以上に及んでいてもおかしくはない。
日本中、『組織的犯罪集団』だらけである(嗤)。
表現の自由に対する規制対象が広範すぎる場合、「過度に広範ゆえに無効」という審査基準によって合憲性が審査され、過度に広範と認められれば、当該法律そのものが全体として無効になる。
ユーチューブサイトをめぐる混乱を見ただけでも、共謀罪法が、馬鹿げているほど、過度に広範であることは明らかであろう。
よって、共謀罪法は、全体として違憲無効である。
あれもこれも警察が手をつけようとすれば、じきに人手不足で手が回らなくなるだろう。
日本警察が米国NSAほどの技術水準を有するとも考えられない。
「みんなで渡れば怖くない」は、我が国の国是、国民の国民性である。
この際、こんな馬鹿げた法律は無視するに限るのである。
なお、将棋の棋譜に著作権はあるかという問題。
最善手を追求した結果であり、創造性がないから著作権は発生しないとする考え方もあるようであるが、どうもぴんとこない。
コンピューターが暴力的なまでに人間の指す将棋を圧倒してしまった現在、今なお将棋が魅力を失わないのは、まさに将棋が思想・感情の表現物だからであるように思う。
むしろ、棋譜の創造性を承認した上、今さら著作権などと言い出すと際限のない混乱が起きそうなのを回避し、藤井4段の登場で一気に盛り上がった、将棋の人気を維持するためにも、棋譜を公共財として著作権法の適用外とするのが正解ではないかと感じている。
“続きはここから”以降は、著作権侵害罪が含まれる共謀罪を今回のケースに適用して解説しています。ただ将棋を楽しみたいだけの人たちが、組織的犯罪集団として認定され、捜査権力の監視下に置かれ、弾圧することも可能になってしまうという笑うに笑えない状況になっています。「ただ将棋を楽しみたいだけの人たち」を「ただ真実を知りたい人たち」や「ただ平和を望む人たち」などいろいろ置き換えることが可能だと思います。
現在、テレビのCMでは放送番組の違法配信に対する警告が頻繁に流されています。政権にとって都合の悪いテレビ番組などを勝手にネットで配信した場合、共謀罪で取り締まるつもりではないかと思えてきます。
記事では、表現の自由に対する規制対象が広範すぎる共謀罪法は違憲無効であると指摘しています。是非、そうなってほしいものです。