日本最大手の鉄鋼メーカー日本製鉄と、アメリカの誇る鉄鋼企業USスチール

日本製鉄のUSスチール買収の話、ニュースで知ってるよね。

ああ、アメリカ様の属国日本が、アメリカでナンバーワンの鉄鋼企業を買い取るなんざ、不謹慎な話だ。

そういう問題じゃないよ。だって、日本企業が買収したアメリカ企業なんて、過去にいくらでもあるんだから。

そうか? アメリカ様を怒らせたら、飛行機は墜落させられるし、元首相だって暗殺されるんだ。アメリカの企業なんて、買わないがよろし。

だから、そういう話じゃないんだよ。

なら、どういう話なんだよ。

その話をする前に・・、
日本製鉄とUSスチールのこと、どのくらい知ってる?

日本製鉄なんて聞いたことねえな? 新日鉄なら知ってるが?
新日鉄は日本製鉄の前身だよ。2012年に「住友金属工業」と合併して、「新日鉄住金」になり、2019年に「日本製鉄」と改名して現在に至る。日本製鉄は今、日本最大手の鉄鋼メーカーだよ。
日本製鉄本社が入居する「丸の内パークビルディング」

へえ、そうだったんかい。

一方、
1901年にアメリカで設立されたUSスチールは、一時は、アメリカの鉄鋼生産の約3分の2を占めた時期もあった。第二次大戦のノルマンディー上陸作戦で活躍した揚陸艦の増産にも貢献した、アメリカの誇る鉄鋼企業なんだ。(
YAHOO!ニュース)

ずいぶん、戦争に貢献したんだな。
でもね、鉄鋼生産のピークは1953年で、そこからどんどん下降して。雇用者数も、第二次大戦中(1943年)は34万人を超えていたのに、2000年は52,500人。(
Wikipedia)

栄枯盛衰とは言え、USスチールはアメリカのプライドだろ? 日本企業に買われるなんて、許されねえよ。
USスチールの苦しい現状

いやいやいや、「買ってくれ」と言ったのはUSスチールの方なんだよ。

なに?
2000年代以降、USスチールは売上げが減って、2023年8月には、戦略的投資家を探していると発表したんだ。(
Sputnik)

なんと、USスチールは、そんなに困っていたのか?

USスチールの現状を見たら、よくわかるよ。
〈2022年の粗鋼生産量〉
1位 宝武鋼鉄集団(中国) 131.8(100万トン)
2位 アルセロール・ミタル(ルクセンブルク) 68.9
3位 鞍山鋼鉄集団(中国) 55.7
4位 日本製鉄(日本) 44.4
5位 江蘇沙鋼集団(中国) 41.5
6位 河銅集団(中国) 41.6
7位 POSCO(韓国) 43.0
〜〜〜〜〜〜〜
27位 USスチール(アメリカ) 14.5

わお、日本製鉄は第4位か。で、USスチールは、はるかその下にいる。

じゃあ、
日本製鉄がUSスチールを買収したら? 44.4+14.5=58.9で第3位になるでしょ。

わかった。だがその前に
ビックリしたのは、トップ30の半分以上が中国の企業になってること。いつのまに、こんなことになってたんだ?
中国の生産過剰で、みんな困ってるんだよ。中国はこれまで、不動産バブルで鉄鋼の需要が伸びていたけど、今はバブルも落ち着いて、そんなに鉄鋼は必要ない。なのに、これまでと同じ量を作り続けるから、世界中で鉄がダブついて、どうなったかと言うと・・。

鉄の価格が下がる。

そう。しかも、安い中国の鉄に負けて、日本の鉄が売れない。

輸出依存の日本には、困ったもんだな。
2022年の日本製鉄の売上げは、前年(2021年)比マイナス10.3%。USスチールなんてマイナス11.1%だよ。

どっちもピンチで、ピンチ同士が仲良く手を取り合う構図か。
買収計画と、反対する米国政府

でもね、これからはトランプさんが関税をかけまくるから、アメリカには中国の安い鉄が入りにくくなる。となると、アメリカ産の鉄の需要が高まる。そこに日本製鉄の買収で、ボロボロのUSスチールが復活したら、どんどん利益が上がるはず。

そうか、トランプの関税が追い風になるんだな。なのになんで、トランプは買収に反対してるんだ?

そこだよね。これまでの買収計画に関する、時系列を見てみよう。
2023年
・12月18日: 日本製鉄がUSスチールを14.9億ドル(約2兆円)で買収する計画を発表。
2024年
・3月14日: バイデン政権が国家安全保障上の懸念を理由に買収計画に反対表明。
・12月26日: 日本製鉄は買収完了期限を2025年3月まで延期すると発表。
2025年
・1月3日: バイデン大統領が大統領令を発令し、買収計画を正式に阻止。
・1月6日: 日本製鉄とUSスチールがバイデン政権の決定に対して法的措置を開始。
・2月7日: トランプ大統領が日本製鉄による過半数株式取得を認めない方針を表明し、「投資」という形での提案を支持すると発言。

で、
どんな買収条件なんだ?

かなりいい条件だよ。
「27億ドル(約4200億円)を新規投資して設備を近代化し、雇用と年金を維持し、USスチールの名称とピッツバーグにある本社所在地を維持することを約束した」。(
Sputnik)

悪くない。

ところがこれに反対したのが、全米鉄鋼労働組合(USW)の指導部。そして、2025年1月3日、
バイデン前大統領は、国家安全保障上の理由で、この取引きに中止命令を出した。(
Sputnik)

「国家安全保障の理由」って何だ?

でもアメリカの法律では、バイデンさんがどんなに反対しても、大統領が単独で取引きを拒否することはできない。外国企業による米国企業の買収を審査する「対外国投資委員会(CFIUS)=シフィウス」が審査して決めるんだよ。そのシフィウスも、「安全保障上の懸念がある」と言ってるからね。(
Sputnik)(
YAHOO!ニュース)

で、その「国家安全保障の懸念」って何だ?

それ、後でわかるから、ちょっと待ってね。まずは、トランプ大統領になってから今に至るまでの状況を説明するよ。2月7日、日米首脳会談のあとにトランプさんは、「彼らはUSスチールを所有するのではなく、多額の投資をすることで合意した。これは非常にエキサイティングなことだ」と述べた。(
NHK)
2月9日、「USスチールの株式の、過半数を保有することはできない」と言った。
2月14日、アメリカに輸入される鉄鋼製品に25%の関税を課すこと、日本製鉄が取得する株式は50%未満とすることで、「私たちはUSスチールを救った。非常に収益力の高い会社になると思う」「USスチールを外国企業に手放したくなかった。心理的にも売却を許すことは考えられない」」と述べた。(
NHK)

つまり、買収はムリだが投資はしろって話だな。じゃあ、
日本製鉄は買収を諦めたのか?

いや、
2月25日の時点で、当初の計画通り、USスチールの株を100%取得して、完全子会社化する方針を変えないと言っている。日本製鉄の今井正社長「出資と設備投資は切り離して考えることはできない。出資するからこそ大きな投資判断ができるので、その意味でUSスチールと合併の契約に至っている。アメリカ政府と協議を進めていくが、基本的な出発点は今の合併契約になると思う。そのうえでトランプ大統領に了承してもらうためにどういったことができるのか、話をする段階にある」。(
NHK)
米国政府が反対する理由

こんだけ食い違って、どうなるんだろ。で、バイデンの言ってた「国家安全保障の懸念」って何だ?

わかったわかった。じゃあ、この動画の14:07〜を見てみて。
好条件なのになぜ売らない?アメリカからみたUSスチール買収問題【ゆっくり解説】
「アメリカにとって見逃せない点がある。それが日本製鉄が中国企業と合弁しているからだ。もしかしたら、アメリカは日本製鉄を親中企業とみているのかもしれない」? なんだと? 日本製鉄は親中企業なのか?

日中の国交が樹立する14年前の
1958年、毛沢東は鉄鋼、農産物の「大増産運動」を提起した。そんな中国に、ある日本人が近づいた。当時、八幡製鉄常務取締役だった稲山嘉寛氏だ。(
YouTube 14:21〜)
山崎豊子が書いた「大地の子」の「稲村嘉造」は彼がモデルだと言われている。
稲山嘉寛

ドラマで見たことあるぞ。

そんな彼を「日本初の媚中経済人の草分け」と呼ぶ人もいるけど、
中国では、稲山氏は「中国鉄鋼生みの親」と礼賛されている。(
YouTube 15:06〜)

媚中経済人の草分け?

稲山氏は周恩来首相など中国のトップとも接触した。
1978年10月鄧小平氏は、日本製鉄君津製鉄所を視察した時に「これと同じ製鉄所が欲しい」と発言し、このツルの一声によって、日本製鉄は中国初の近代製鉄所、宝山製鉄所の建設に協力した。また、鄧小平氏の指示により、
多くの中国人技術者が日本で研修を受け、日本から中国に1万人以上の技術者が送られた。こうして、中国の鉄鋼発展に貢献した宝山鋼鉄は、後に武漢鋼鉄と合併して、
今や押しも押されぬ鉄鋼業界のナンバーワン、「中国宝武鋼鉄集団」となって世界に君臨している。(
nikkeimatome)(
YouTube 15:55〜)
中国宝武鋼鉄集団

なんと! 中国の鉄鋼業界のモンスターを生み出したのは、日本製鉄の前身だったのか。それが今や、中国に置いてきぼりにされて、USスチールを買収せにゃならんほど困窮しているとは、哀れな話だ。

「こうした日本製鉄と中国の『長く、深い』付き合いから、
日本製鉄の元経営トップは、日中友好会館の理事や日中経済協会の名誉顧問を務めています。また、最近まで同社の最高幹部を務めた取締役の一人は、日中経済協会の会長職にあって、日中間の経済外交の第一線で活躍しています。 」(
YAHOO!ニュース)
日中間の産業協力と通商拡大を図る「日中経済協会」。過去46回の訪中団のうち、29回の代表を務めたのが日本製鉄。直近では、日本製鉄の進藤孝生会長が代表を務めている。(
YouTube 17:02〜)

なんと! つい最近、2月18日にも行っとるやんか。

こんな大事なときに、「Youは何しに中国へ?!」
↓
↓

ハニトラ〜♡

「中国と近しい関係にあるとされる政治家が揃う注目されやすい会合に、日本製鉄を代表する人物が参加していることについて、対中強硬姿勢を強める米国政府・軍関係者がどう感じるかは推して知るべしと思います。」(
YAHOO!ニュース)

まったくだ。

「つまり、
アメリカの最たる懸念点は、穿った見方をすれば、今回の日本製鉄による買収劇は、中国政府が日本製鉄を介した、間接買収にあたるのではないのかと見ることもできる。こういう見方だと、バイデン前大統領が言ってた、国家安全保障の懸念というのもようやくわかってきただろ?」(
YouTube 22:23〜)

ああ〜、よーくわかった。
Writer
ぴょんぴょん
1955年、大阪生まれ。うお座。
幼少期から学生時代を東京で過ごす。1979年東京女子医大卒業。
1985年、大分県別府市に移住。
1988年、別府市で、はくちょう会クリニックを開業。
以後26年半、主に漢方診療に携わった。
(クリニックは2014年11月末に閉院)
体癖7-3。エニアグラム4番(芸術家)
鉄鋼業まで売りに出るとは、アメリカの斜陽もかなり進んでるなあと思ったり、バブルでもないのに、USスチールにポンと2兆円出すような会社が、日本にもまだ残ってたのかと驚いたり。しかも、会社同士の交渉はうまく行っているのに、バイデンもハリスもトランプも「NO」と言う異様さ。
なんでかなあと思って見ていたら、日本製鉄にとって今が大事なときに、トランプ大統領が関税で脅している中国へ、 日本製鉄の会長が日中経済協会の団長として訪問している。バイデンの言った「安全保障の懸念」とはこれだったのか。