“お金で買えない価値”を発掘し
ひろしまの豊かさ、魅力を届けていこう
<プロフィール>
井上 恭介(いのうえ きょうすけ)さん
NHK報道局 報道番組センター社会番組部チーフ・プロデューサー。
(中略)
平成20(2008)年に起こったリーマンショックをもとに、マネー資本主義の歴史と背景を検証する番組のプロデューサーを担当しました。金融危機はなぜ起きたのか、巨大マネーはいかにして膨らんだのか、ウォール街など現地に足を運んで徹底的に取材を。
そこで感じたのが「マネーでマネーを増やしていくことで本当に幸せなのか?それで豊かといえるのか?」という疑問です。また、東京で東日本大震災も経験。電気が止まり、一点集中型都市構造のひずみ、アメリカ型資本主義経済のもろさを肌で実感しました。
こうした経験直後の平成23(2011)年に、私はひろしまへもう一度やってくることになったのです。家族とともに赴任し、平成26(2014)年6月に異動となるまで3年間、ひろしまで取材班のチーフ・プロデューサーとして働いていました。
当時、さまざまな疑問を胸に抱えていた私は、一度目では感じなかった、
真の豊かさへつながる“芽”が、ひろしまを中心とした中国地方のあちらこちらにあることに気づきました。ならばと、面白い取り組みをされている方々へ直接会いに現地へ。地域エコノミストの藻谷浩介氏にナビゲーター役をひきうけてもらい、里山の生活を取り上げた番組を、1年半放送させていただきました。そこで生まれたコンセプトが「里山資本主義」です。つまり、
ひろしまが里山資本主義の発祥の地、原点なんですよ。
(中略)
過疎化が進む中山間地域へ足を向けると、
地域の人々は「ここには何にもない」と口をそろえて言います。それは、東京と比べて、ビルがない、地下鉄がないという「何もない」であって、
東京にはない“豊かに木が茂った山”があり、“美しい清流”が「ある」のです。
(中略)
あるものを「豊かだ」と言っていくことがはじめの一歩になると私は考えています。
(中略)
お金持ちが経済を動かして貧しい者にその恩恵がゆっくり降りてくるのを待っている“トリクルダウン”のような状態を打破したいと思いませんか。地方創生は、待ちから攻めへ!
(中略)
新しく価値あるものを見出そうとするならば、ぜひ昔からある
“常識”をチェックし直してみてください。例えば、カキ。東京でも広島産のカキのむき身はさまざまなスーパーで購入できます。でも殻つきは見かけることは、ほとんどかきありません。殻つきのまま網に乗せて焼くことは、とても珍しいことなんです。多くの都会の人は、そこに価値を感じます。

このようにひろしまには、埋もれたままの宝の山がいっぱいあります。
「里山資本主義」は、マネー資本主義を否定するわけでも、田舎での暮らしを推奨するわけでもありません。里山にはお金に換算できない価値があることを知り、そのうえで、自分の人生に適する割合で取り組んでいくことを指しています。都会で暮らす人に、取り入れたい、体験したい、と思われるような宝を発掘し、活かし、届けることで、双方にとってより豊かな生活を実現できるようになることを私は願っています。
上位0.01%の富裕層の一人のニック・ハノーアー氏は、「超富豪の仲間たち、ご注意を ― 民衆に襲われる日がやってくる」というタイトルの講演を行っています。タイトルの通り、このまま格差社会が続けば、一般国民が蜂起するであろうという予測です。また、"多くの超富豪と同様私も資本家であることを、誇りに思い悪びれてもいません"とも言っています。善悪の区別がつかなくなった超富豪家達に、何が悪なのか、国民によって思い知らされる日が近いのかもしれません。アメリカのバーニー・サンダース現象を見ているとそんな気がします。
世界の長者番付に出てこないような欧米の王族貴族が隠し持っている莫大な資産もパナマ文書のように公開されるといいと思います。例えば、信託銀行のステート・ストリートには世界の長者番付の資産総額の約55倍にあたる3000兆円の資産があると言われていますが、タックスヘイブンのように誰の資産なのかは秘匿にされています。聖域を設けることなく、誰がどれだけの資産を持っているのか明らかにし、竹下氏が提案しているように最高賃金・最高資産を設け、富が分配されることを望みます。