————————————————————————
オーストラリアの産前産後事情
さて、オーストラリアでは妊婦健診の時から助産師さんが大活躍です。母体のこと、赤ちゃんの抱き方、授乳の仕方など何から何まで顔なじみの助産師さんがチームを組んでお世話してくれます。
面白いのは赤ちゃんの抱き方です。マタニティクラスの時に入院中の生まれたばかりの赤ちゃんを借りてきて教えてくれるそうです。新生児の赤ちゃんはクニャクニャしていて、とても抱きにくい上に、モロー反射で手が意識に関係なく動くので自分でびっくりして泣きます。
だからおなかの中にいた時のようにswaddleというラップで手をぎゅっと巻きます。この方が抱きやすいし、赤ちゃんが落ち着くので新生児のうちは助かります。背中は丸く、足はゆったりM字型です。私もカナダでお産した時に娘をぐるぐる巻きにされた時にはびっくりしました。(新生児の時期限定です)
その他に、マタニティクラスでは夫婦同伴でお産の流れ、リスクの対応、産後の母体、母親の心理状態についても説明があるそうです。その上で夫婦の協力を強調されるようです。オーストラリアでは里帰り出産はありません。初めから夫婦で理解して臨むのです。その他、産前産後のヨガクラス、エクササイズクラスもあるそうです。
そして、お産して2日間ひたすらベッドで体を休めながら赤ちゃんにおっぱいをあげます。診察、処置も助産師や医者の方が訪問してベッドでします。娘はなぜか導尿もされていたのでトイレに行く必要もありませんでした。
パパがいる時を見計らってお風呂の入れ方指導もあります。バス用の洗面台が部屋についています。赤ちゃんは生まれたままの状態でしたので胎脂はきれいに吸収されていましたが、頭に血が付いたままでした。赤ちゃんにとっても初めてのお風呂です。36~37度くらいのぬるめの温度で、週に3回くらいでいいよと言われていました。確かにオーストラリアは乾燥して汗もかかないし、保湿の意味でもそのくらいがいいと思います。
パパが恐る恐る赤ちゃんをお風呂に入れましたが、とても気持ちよさそうにうっとりした表情を浮かべていました。まるで羊水を思い出したかのようでした。ちなみに石けんは使いませんでした。私も必要ないと思います。
最後に小児科の先生の診察があり、自動車に赤ちゃんシートが取り付けてあるかのチェックがあって、退院です。無料なので受け付けを通る時も「バイバイ!」と笑顔で送ってくれました。廊下をすれ違う人が赤ちゃんを覗き込んだり笑顔で声をかけてくれます。気さくなお国柄です。
このように経腟分娩で何も問題がなければ48時間で退院です!帝王切開は5日間。
動いた方が傷の回復も早いし、もともとお産は病気ではないと思われているのです。もちろん全額無料なので公費負担軽減のためでもあります。
私はこの事が一番気がかりでした。お母さんは10ヶ月かけて体を変化させて、お産で骨盤が全開します。その開いた骨盤が均等に戻るためにはしばらくまで寝て過ごす必要があるのです。(野口晴哉著「誕生前後の生活」)。
昔からお嫁さんは重要な働き手であったにも関わらず、産後1か月間は床の中で赤ちゃんのお世話をしていました。赤ちゃんも生まれてしばらくはお母さんの胸の中だけで育つようにできているのです。今は、早く家に帰るとじっと寝ていられないから母体の回復のためには非常に問題なのです。でも逆らう事はできません。そのために私がいるのですから、私の出番だと覚悟しました。
全身全霊で赤ちゃんのお世話
さて、家に戻ってからは昼も夜もなく、ただひたすらおっぱいをあげて、うんち、おしっこ、抱っこ、ねんねの繰り返しで、赤ちゃん中心の時計のない生活が始まりました。数えるとおっぱいは1日13回以上。赤ちゃんも飲むのに舌や口、あごの力を使うのですぐに疲れます。おっぱいも思うように出ないので飢えて泣いてばかりです。オシッコもうんちも少しずつ20回。これまたおむつを頻回に替えてあげないとすぐにかぶれます。まとまった睡眠時間は長くて2時間でした。
だから娘は一日中睡眠不足です。会陰切開の傷口も痛み、座ることも出来ませんでした。赤ちゃんのお世話をしながら添い寝できるように日本から布団を持って行っていたので助かりました。ベッドでは落ちてしまう危険があるのです。
それにしても娘夫婦は感心するほど全身全霊で赤ちゃんのお世話に集中し始めました。集中のあまり、こちらにストレスの矢を向けられることもありましたが、それは子どもを守ろうというホルモンのなせる業。「力はいりすぎ!」と思いましたが、自分が体験しなければわかりません。それも微笑ましく観察してみることにしました。
例えば、赤ちゃんが寝ている時は音をたてないように息を殺しながら家事をします。ドアも静かに!洗濯機やトイレの音もタイミングよくしないと娘が睨むから大変です(笑)。一歩一歩足を忍ばせて歩き、ドアを意識して開け、水道の蛇口を意識してひねり、野菜を静かに切り、フライパンを息を吐きながら動かします。呼吸をうまく乗せないとやってられません・・・あはは!生活がまるでヨガだと思いました。以前ならこちらまでイラッとしていたかもしれませんが、おもしろいと思いました。
それでも食事はパパがいろいろ作り置きしていたので助かりました。冷凍庫の中にぎっしりおかずが並んでいるのを見て愛を感じました。もともとシェフなので買い物も、食事の用意もお手の物です。逆に家事力がなければ一気に悲惨な状態になります。日本は里帰り出産が減っている上に退院してからの支援システムがないので、家事力のない親にとってこれほどつらいスタートはありません。
社会が子どもの育ちを保障し、親になろうとしているタイミングで両親を支えるシステムを作ればいいのに!シンプルでしょ!