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8ヵ月ぶりの学校
「めっちゃ楽しい!」「サイコー!」
学校が再開した日にお兄ちゃんが発した感想です。
1人でミドルスクールに通い始めたお姉ちゃんも「楽しかった!」
初めてキンダーガーテンが併設されている小学校に行った下の弟も頑張って2キロの道を歩いて行きました。そして「楽しかった」と答えてくれました。「何が楽しかったの?」と聞いたら「学校でお兄ちゃんに会った!」だって(笑)。
ボストンに住む3人の孫にとっては8ヵ月ぶりの学校です。孫たちは担任の先生やお友達と会えたことが相当嬉しかったようです。2歳になったばかりの4番目の弟だけは、いつも一緒にいるお兄ちゃんやお姉ちゃんがいないので家中を探し回っていたとの事。娘はとにかくほっとしたようです。
アメリカは州や自治体、学校によって教育施策が違います。娘が住むマサチューセッツ州は知事が9月から学校を再開するように要請をだしました。日本の場合はすぐに各学校に通達して有無を言わさず再開になるのですが、アメリカではそうなりません。その後から地区の教育委員会と各学校で何度も話し合い、保護者へのアンケートをしました。教職員の学校再開に反対する運動も行われて難航したようです。
結局、ほとんどの学校が完全再開を断念したそうです。
仕事を持つ親は長い自粛期間中、両親のどちらかが離職したり、ナニー(ベビーシッター)を雇ったりして急場をしのいできましたが、いよいよ追い詰められていました。そんな親は9月から仕事に復帰する予定で学校再開を待ち望んでいたわけですが、通常の学校再開が見送られたことで学校に行かない日の子ども達の安全をどうするか、新たな問題が出てきました。
今、仕事を持つ親の高まる需要を受けて民間の託児所が乱立しているそうです。その場所を確保するのが大変なので閉鎖された学校の体育館を使うところも出てきました。でも本来無償の学校がコロナの安全のために閉鎖され、その代わりに週に346ドルを払って同じ学校で子どもを預かってもらうという矛盾した現象が起きています。
もしも日本だったらトップダウンですぐに新しいシステムに移行できたかもしれません。多様性を認めるアメリカではそうは行かないので今まで経験したことのない事態になっているのです。結局は声の大きい人たちが権利主張をして流れを作り、声なき人たちは取り残されます。そして社会からはじき出された人たちが余裕のある人の慈善活動によってギリギリ支えられている状態のようです。
一方で、日本の保護者は発言する機会が与えられていません。PTAもあまり機能していません。アメリカは発言できる場はあるけれどまとまらない。どちらともまだまだ大人の社会とはいいがたいのですが、世界の教育は確実に学びの個別化、多様化、協同化に向かっています。そういう意味でも選択の自由があり、発言の機会がある方がまだいいと思えます。
まだまだ続くホームスクール
さて、孫たちはまだまだ英語のサポートが必要です。娘が校長先生に直談判して特例で週に4日は学校、週に1日だけリモートラーニングにしてもらいました。校長先生に話しやすく、担任の先生や校長先生に裁量権があるのですぐに対応してくれるところはいいなと思います。下の弟のキンダーガーテンは週に2回が学校で3回がリモートになりました。
まだまだホームスクールは続きそうです。これは娘が自分の仕事を一旦横に置き、子育てに専念しているからできる事だと思います。その決断も人それぞれでしょうが、娘は子育ても自分のキャリアだと思っているようで「今しかできない、自分だからできる仕事」として向き合っているようです。
さて、先生方もこの新しいシステムに移行するために大変な努力をしたようです。授業の中でメディア機器を使う事は多かったのですが、リモートラーニングとなれば授業の仕方や内容が全く変わってきます。それを一気に作り直しました。
更にコロナ対策として国が学校を再開するための条件として、友達とは6フィート離れる事。タッチしないで遊ぶ事(鬼ごっこはダメ。かくれんぼはいい)。学校の遊具を使うのは1クラスずつというルールを出しました。
そして、感染のリスクを減らすために年間の授業時数を減らしました。今まで2時半の下校を1時半にして先生の会議やコロナ対策の時間を確保したそうです。今は年間カリキュラムを死守することより目の前の課題をみんなで考えながら取り組んでいくこと自体が大切。学力の遅れは後からでも取り戻せると考えているようです。
日本の学校は子ども達の学びを保障するために夏休みの返上や土曜日登校で授業時数を確保することを第一に考えています。そのためウィズコロナでの学校の在り方を考えるのではなく、社会科見学、運動会、修学旅行、地域の行事参加、親子活動などの様々な体験活動を減らしていきました。
新型コロナの出現によってさまざまな人間の営みが変わってしまった今、無理して授業時数を守ることが学びの保障か?そもそも学びとは何か?
発達心理学者の浜田寿美男さんは「子どもは「大人」になるために生きているのではなく「いま」を生きている。大事なのは、子どもがいま幸せかどうかです。」と言われています。日本はあまりに子どもの「いま」を犠牲にしているのではないでしょうか?
さて、娘の学校では様々な話し合いの後、親へのアンケートを取って、クラスの25%は完全リモートラーニングを選択しました。学校に通う残りの生徒もA(火曜、水曜)とB(木曜・金曜)のグループに分けて週に2日ずつ交代で登校することになりました。少人数登校制での学校再開ですが孫たちは特別にAとBの両方を選択することになりました。
孫たちは全て担任の先生に教えてもらえますが、リモートのクラスは担任の先生ではなく、リモート学習に詳しい専用の先生が7校ある市全体の同じ学年に教える事になったそうです。ただし水曜日は全員がZOOMクラスで、朝と終業前の30分ずつはクラスミーティングがあり、担任の先生がみんなと交流する時間だそうです。
紆余曲折の後、やっとたどり着いた9月21日でした。その日の夜の感想が「めっちゃ楽しい!」だったわけです。
「長期休みの後、学校に行きたくない子はいないの?」と聞いたら、「そんな子は学校に行かないでリモートラーニングを選択してるよ」とシンプルな答え。もはや学校に行きたくないというのは問題ではないようです。
そして、子どものいる家庭への援助として州から月曜から金曜までの朝食と昼食、スナックがデリバリーされることになりました。週に一回冷凍やパックで各家庭に配達されます。すべての子どもが対象なので娘の家には4人分が配達されるようになりました。これは貧困家庭への援助と、失業者の仕事を作るための政策でもあるようです。
もちろん学校に行っている子は学校のランチも全て無料になりました。食事内容は比較的健康に配慮したもののようですがハンバーガー、ピザ、フライドポテトの域を越えません。孫曰く日本の学校の給食が断然いいそうです。オーガニックで健康に配慮した韓国の給食にはかないませんが、孫たちもお弁当を持っていくと言い出しているようです。
ついでに「嫌いな食べ物が出たらどうしているの?」と聞いたら「みんなゴミ箱に捨てるよ」と答えました。テーブルにそのまま放置する子も多いようです。お掃除する人がいるので掃除や片付けは自分の仕事ではないと思っているようです。あまりにも自由に過ごしている子ども達。娘は給食の内容と食べ物を簡単に捨てる事、子どもが掃除しないのは抵抗があると言っていました。
コロナのおかげで増えた、豊かな自然と触れ合う楽しみ
さて、このように世界中が少しずつコロナ禍の新しいライフスタイルを模索し始めていますが、アメリカやオーストラリアに暮らす孫たちはコロナのおかげで豊かな自然と触れ合う楽しみが増えました。そしてそこで出会ったたくさんの動物や虫たちを通して世界はたくさんの生き物であふれていることに気づかされたようです。
我が家は出会った野生の動物をそっと見守るのが鉄則。孫の触りたい衝動が出る前に「ジェントル、ジェントル・・ね」といつも言われている孫は決して自分から触りに行きません。向こうからやってくるまで待ちます。虫が手にとまったら優しく見守っています。私達の住む世界には同居人がいて、勝手に介入しないという感覚を小さいうちから伝えたいと思っています。
そして出会った生き物とのエピソードをメールで送りあって盛り上がるのですが、ある日、オーストラリアに住む2歳の孫が池のカモを眺めている写真が送られてきました。孫が声を出したり手を出したい衝動を抑えてじっと見ていたらコガモが安心して近寄って来たそうです。
孫の表情には驚きと嬉しさが溢れていました。カモの母さんも近くで見守っています。きっと「この人間は大丈夫みたいね。そっと近寄るのよ」と、同じ躾をしているのでしょう(笑)。お互いさまで、いいなあ~と思いました。
出典表記のない写真は、かんなまま提供
子育て世代がどのような価値観で生活をしているかを問うたところ「安定・バランス・身近な自然」というキーワードが出てきたそうです。教育に関しても「子どもは子どもであるべき」で、早すぎる教育はよくないという考えが浸透しているようです。いいなあ~。
又コロナ禍における満足度もヨーロッパ2位だったとの事で、その理由として「自由に外に出て自然と触れ合えた」ことが大きかったからだそうです。
日本も四季折々の自然が豊かでいいところがたくさんあると思いますが、そちらに目が向いていません。残念ながら子どもの幸福度62位。社会がフィンランドのような価値観に行きつくまでには遠い道のりですが、子どもの幸せとは何か?子育て、学校の現場で真剣に問うていきたい大切なテーマだと思います。
今回の記事は、いよいよ再開したアメリカの学校の話です。