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野球の大好きな「素振りのK君」
お嫁ちゃんの実家が野球場の近くにあり、よく連れて行ってもらってる孫のK君。会うたびに野球の話ばかりするようになりました。テレビでプロ野球の試合を見る時も立ち上がってバッター席にいるような気分です。そして自分がその選手になりきって素振りをします。それが上手なのです。選手の特徴をよく捉えています。漢字も選手の名前を通して覚えました。地名も選手の出身地で覚えました。宿題も野球を見たいから早く終わらせます。
今年、小学4年生ですが、息子夫婦が共働きなので放課後は学童に行っています。同じ年のいとこの子が野球チームに入っているのがうらやましくてたまりません。でも、小学生のスポーツクラブは親が本気になって関わらないと入れない仕組みになっています。週に3回練習があるので市民グラウンドまで車で送り迎えをします。土日はほとんど試合です。時々遠征もあります。その時の車の運転やお世話も親の役割なのです。
実は息子も私も少年野球でのいい思い出がありません。息子が子どもの頃、地区の行事として少年野球チームに入らなければいけませんでした。私は赤ちゃんが生まれたばかりで付いて行くことができませんでした。引っ込み思案の息子は行きたくないのに我慢して行っていたのです。
私も辛くて、あまり上手にならない息子に「勝ち負けは気にしないでいいからね。頑張っていっているだけで凄いよ」など励ましていました。ところが肝心の試合の日になると息子はいつもベンチです。別の野球クラブに入っている強打者軍団が試合の時だけ参加するので息子はいつも補欠で出番がなかったのです。それでも応援するために行かされていました。
「地区で交流して楽しむための行事ではないのですか?毎日練習に通っている子より練習に来ない子を出すのはなぜですか?」と、コーチに聞きました。でも現実は勝たなければリーグ戦で生き残れません。結局は勝つための野球です。それなら初めから好きな子だけが関わればいいのに、付き合わされた上に自信を無くしている我が子が不憫でした。一人でつまらなそうに土に落書きをしていた姿が忘れられません。絵はうまい子でした。
でも、そんな父親(息子)の気持ちとは関係なく、K君はチームに入りたいというより野球そのものが好きなので自分の世界の中で野球を楽しんでいました。だからいつでもどこでも選手の真似をしては皆を笑わせていました。やがて「素振りのK君」と言われるようになりました。
そんなある日、野球チームのコーチが「素振りのK君」の存在を知り、声をかけてくれたのです、「よかったら遊びに来ないか?」と。ママは行けば入りたいというに違いないので悩みましたが、本人が「行きたい!」というので連れて行きました。いとこの子が通っている憧れのチームです。
行ってみると練習試合中で、その場で「やってみろ!」とバットを渡されました。ドキドキです。初めの球は緊張で思うように振れません。でも、次の球は捕らえました!思いっきり振って…なんとホームランです!!
皆もびっくり。本人もびっくり!みんなから言われて慌てて走り出しました。ママも皆も大歓声です。そして…なんとホームベースを踏むのを忘れて走り抜けました(笑)。大歓声の後の「あ~!!」という残念コールと笑い。本人は悔しくて悔しくて涙がぽろぽろ・・・。
それで火がついてしまいました。「くやしい!僕、このチームに入りたい」ママも素振りの成果を認めざるを得ませんでした。コーチも「いいものを持っていますよ。是非チームに入ってください」と言ってくれました。でも、現実、送って行く事ができません。
それを聞いていたいとこの奥さんが「私が送り迎えするよ」と申し出てくれました。家族中で仲良くしているいとこです。そして幸いなことに子どもが同じ小学校、同じ学年なのです。話し合って野球児2人の送迎はいとこに頼み、残りの子ども達は息子の家で宿題をして過ごす、という取り決めが成立しました。
留守場組も大喜びです。なんせ校門の前がマンションなので自分たちで帰れます。小学校1年生になった孫は憧れのお姉ちゃんが来てくれて一緒に宿題をしたり、料理をしたり女子トークができるので嬉しくてたまりません。
野球チームのユニフォーム一式もチームのお母さんたちが調達してくれました。バットとグローブだけはおじいちゃんが買ってくれました。それから益々素振りの時間が増えたK君。きっと頭の中は野球でいっぱい!
3年生の時は担任の先生が厳しくて怒られてばかりだったK君。おしゃべりに夢中になるので片付けが後回しになって居残りばかりさせられていました。「どうせ怒られるから」と発表もしなくなっていました。
でも、4年生になって大好きな先生に巡り合えました。間違って違うページのドリルをしても〇を付けてくれるし、子どもらしくていい子だと評価をしてくれる先生が担任になったのです。
100点を取ったら次の日の宿題は免除にしてくれる先生です。だから野球の前は頑張って100点を取るようになりました。ノートの端に野球の絵を描いていても〇を付けて「頑張っているね」とコメントをくれます。「学校に行くのが楽しみ!」と嬉しそうです。苦手な部分追求ではなく、子どもを丸ごと認めてくれる先生。小学校の先生はこうでなくちゃ!先生によってこんなにも変わるものだと改めて思わされました。
さて、チームに入って1か月半。メンバーが足りなかったこともあってさっそくレギュラーになりました。秋は試合シーズンです。地区の試合があり、まずは4打数4安打の活躍で勝ちました。更に勝ち進んで地区代表で公式戦に出ました。電光掲示板に孫の名前が書いてありアナウンスもあります。孫の晴れの舞台です。ベースを踏み忘れた経験があるので守備でもベースを気にしています。駆け引きもプロ野球で研究していたので色々な場面を想定して自分で動いているようです。
試合が始まる前も一人黙々と素振りをしています。終わっても反省点が見えてくるようで、そのままバッティングセンターに行きたがります。チーム1番の努力家だそうです。「好きこそ物の上手なれ」ということわざがありますが、まさにコレ。
その勢いで強豪チームにも勝って大きな大会に出る事になりました。何と4番バッターです。ホームランを打ってもしっかりベースを踏むようになりました。みんなから「ベース!ベース!」というコールが沸き上がります。チームの一体感が生まれます。励まし合っています。
結局、土日は毎回試合に行く事になりました。ママも赤ちゃんが生まれたらしばらくは行けなくなるので大きなおなかを抱えて(12月出産!)応援に行っています。こんな展開になるとは夢にも思っていませんでした。でも、学校嫌いになっていた去年のK君のことを思うと別人です。
土日のお留守番チームは息子がお世話をしたり、我が家に遊びになだれ込んで来るようになりました。気候もいいので公園に行って遊ぶ事が増えました。
指導者や親が見守らなければいけない心得
息子家族はこの体制で乗り切っていますが、一家に1人スポーツチームに入っている子がいたら、兄弟児も巻き込まれて付き合わされます。他の兄弟がスポーツ好きでなかったら悲劇です。
そして、まだ体が成長中の子どもにとって特化したスポーツをやりすぎるのは問題です。関節や筋を痛めたり、疲労骨折などスポーツ障害を起こすのです。現にピッチャーのいとこの子は肘を痛めて3か月休みました。
その上、日本ではこの手のスポーツで親が炎上したり、指導者の体罰、行き過ぎた指導が問題になっています。プレーするのは親やコーチではないのです。子どもが主体的に安全にプレーできるように指導者や親が見守らなければいけません。そのための心得10か条をデンマークのサッカー協会が作っているそうです。日本でもぜひ取り入れてほしいと思います。
デンマークサッカー協会 少年指導10ヵ条
- 子どもたちはあなたのモノではない。
- 子どもたちはサッカーに夢中だ。
- 子どもたちはあなたとともにサッカー人生を歩んでいる。
- 子どもたちから求められることはあってもあなたから求めてはいけない。
- あなたの欲望を子どもたちを介して満たしてはならない。
- アドバイスはしてもあなたの考えを押し付けてはいけない。
- 子どもの体を守ること。しかし子どもたちの魂まで踏み込んではいけない。
- コーチは子どもの心になること。しかし子どもたちに大人のサッカーをさせてはいけない。
- コーチが子どもたちのサッカー人生をサポートすることは大切だ。しかし、自分で考えさせることが必要だ。
- コーチは子どもを教え導くことはできる。しかし、勝つことが大切か否かを決めるのは子どもたち自身だ。
デンマークサッカー協会 親のための10か条
- 子どもたちが自ら望んだときに試合やトレーニングに参加させてあげましょう。
- 試合中はすべてのプレーヤーに励ましの言葉を送りましょう。あなたの息子さんや娘さんにだけではなく。
- 成功にも失敗も同じように声援を送りましょう。批判ではなく、ポジティブな声をかけてあげてください。
- コーチの選手起用を尊重しましょう。試合中に選手起用について影響を与えようとするのはやめましょう。
- レフェリーの判定を批判するのはやめましょう。
- プレッシャーを与えることなくプレーに参加させてあげましょう。
- 試合の後は結果の話だけでなく、覚えているプレー、楽しかったシーンなどについても話し合いましょう。
- 節度を守り、分別のある行動をとりましょう。何事も度を越してはいけません。
- 所属クラブの運営には尊敬の念を持って接しましょう。保護者と指導者間のミーティングでは、明確な指針を持ち、どのような態度で子どもに接するのかを話し合いましょう。
- サッカーをプレーしているのは子どもたちです。決してあなた自身ではありません!
サカイクより
耳の痛いコーチと親がいるのではないでしょうか。特に「あなたの欲望を子ども達を介して満たしてはいけない」「子どもの体を守りましょう。しかし子ども達の魂まで踏み込んではいけない」という箇所は肝に銘じておくべきだと思います。
先日時事ブログで掲載されていたフィンランドの校長先生が日本の小学校を視察した時の記事もしかりです。
孫が暮らしているボストンの学校の体育の授業はスポーツを生涯楽しめるようにするのが目的だそうです。学校では遊びながら体を動かしているだけ。もっとやりたくなったら放課後や夏休みに色々なスポーツが楽しめるようにプログラムが用意されているそうです。孫は自分でカヌーとサッカーを選びました。運動会もその場で楽しめるレクレーションのようなものだそうです。自分との闘い、鍛えるという発想はどこからも出てきません。
そもそも、日本の校長先生の「マラソンで順位を付ける意味は人と競わせるのではなく、去年の自分より少しでも早くなるための努力目標。自分との闘い」という言葉は、自己陶酔型の理論で子どもには伝わりません。自分がやりたくないマラソンを頑張れ!と言われても力が出ないし、益々嫌いになるだけ。それで評価されるなら不幸です。自信を無くしてしまいます。
”Everybody is a genius. But if you judge a fish by its ability to climb a tree it will live its whole life believing that it is stupid" - Einstein pic.twitter.com/u8g0KVMFe0
— Mario Herraez M.Ed (@mmarioherraez) May 28, 2020
「誰もが天才だ。しかし魚の能力を木登りで測ったら、魚は一生自分はダメだと信じて生きて行く事になるだろう」
(アルベルト・アインシュタイン)
好き、嫌い、苦手、得意、どっちでもない・・・これは自分にしかわからない感覚です。いい悪いで評価するものではありません。お互いの違いを認め合って尊重できる日が来ますように。
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家事ができないで落ち込んでいるママに「そんなに素敵なのに!」と正直に言うと「いえ、私は何もできないです。周りに負担をかけてばかりで・・・あれもこれもしなければと思うと体が動かなくなるのです」と。
子どもができたばかりで同時進行で家事や育児を切り盛りできないのは当たり前。でも、そんな自分を責めているから「妻として、お母さんとしてしなければいけないと思っている重荷を1つずつ降ろしていこうね」と言いました。「意味が分かりません」ともっと不安そうな顔。
「じゃあ、はっきり言うよ。家事が嫌いで苦手なママだっています。あなたはどちらかというと?」と聞いたら「嫌いです」と即答。
「なあんだ、それが自分だよ。それを認めてあげて。それが悪いことだと思っているから辛くなるのよ。むしろ、そんなママは得意な人の何倍も頑張っているのよ。嫌いな事でも子どものために頑張ろうと思うこと自体が凄いよ」と言いました。
そう、時として苦手な事でも克服しなければいけない時が来ます。それを自分でやりたいと思った時に頑張る力が湧いてくるものです。
今はその力を出す前に自信を無くしている人が多いのです。それは苦手な事や嫌なことを散々やらされた結果かもしれません。
逆に、好きな事ばかりしている子どもに「遊んでばかり!」と、やめさせてしまう事もしかり。今回はそんな好きな事ばかりしている孫のお話です。