フランスの歴史人口学者エマニュエル・トッド氏:「米国一極支配の世界」からロシアのビジョン「多極化した世界」へ。経済制裁や金融支配によって世界に君臨してきた米国覇権の崩壊とエスカレートする戦争の危機。

竹下雅敏氏からの情報です。
 フランスの歴史人口学者、エマニュエル・トッド氏のインタビュー記事です。私はエマニュエル・トッド氏をものすごく頭の良い人だと思っているのですが、今回の記事でそれを再確認しました。あまりにも見事で的確なので、引用元で全文をご覧になることをお勧めします。
 インタビューの内容を簡単に要約すると、“西側の人々は「ロシアによるウクライナ侵攻」の意味をきちんと理解していない。欧州やNATOがロシアに向かって東方に拡大していたことが、この戦争の背景にあり、ロシアは「自衛のための戦い」をしているに過ぎない。ロシアは安定化に向かっている国で、「主権」という考えに基づいて、自らの政治的空間の保全を目指しているだけである。ウクライナ戦争でのロシアの勝利は確実であり、西側の思い込みとは裏腹に「その他の世界」は西洋に無関心で、むしろロシア側につき始めている。EUの敵は、ロシアではなく、ますます危険な方向へと我々を引きずり込もうとしている米国である。”と言っています。
 このエマニュエル・トッド氏の見解は、時事ブログがこれまでにお伝えしてきた事柄と一致していると思います。アメリカ・イギリス・イスラエルが「悪の枢軸」であることは、ここ30年ほどの世界情勢を観察していれば明らかなはずです。それが分からないとすれば、大手メディアの歪んだ情報を真に受け、自分で真相を知る努力を怠ってきたということです。
 エマニュエル・トッド氏は、「米国一極支配の世界」から我々が抜け出しつつあり、「多極化した世界」というロシアのビジョンに近づいているという認識です。こうした「ロシアの声」を世界が受け入れた時に、平和が訪れ、人類の意識が飛躍的に向上すると私は思っています。
 しかし、この事は「経済制裁や金融支配によって世界に君臨してきた米国の覇権力が敗北すること」を意味します。敗北を受け入れられない米国が戦争をさらにエスカレートさせ、より危険な事態に至るというリスクがあるとエマニュエル・トッド氏は指摘しています。
 アメリカの属国である日本は「非常に困難な状況に置かれている」。「米国による世界覇権」において鍵を握る欧州、中東、東アジアという3つの地域で、米国は「属国」と呼ぶにふさわしい国々を巻き込もうとしている。そこで、日本は可能なかぎり紛争を避け、事態をじっと見守り、「できるだけ何もしないこと」に徹するのが賢明である。「慎重さ」を保ちつつ、「多極化した世界」に自らを位置づけるべきだと言っています。
 さらに、文春オンラインのこちらの記事でエマニュエル・トッド氏は、“日本はドイツと同じく、NATOが崩壊することでアメリカの支配下から解放されるだろう。しかし日本はそれによって、韓国とともに、中国と独力で向き合わなければならなくなる。…ロシアは(NATOの馬鹿げた言説とは逆に)ヨーロッパにとって脅威ではない。それは日本にとって中国が東アジアの脅威であるのとは異なる。”と指摘しています。
 しかし、この事に関しても、実は北朝鮮は親日国であり、北朝鮮の核ミサイルは日本と韓国を中国から守るために存在していることを私たちが知れば、問題にはならないのかも知れません。
(竹下雅敏)

注)以下、文中の赤字・太字はシャンティ・フーラによるものです。

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〈トランプの保護主義は正しい。しかし…〉トッドが語る米国産業が復活できない理由「優秀で勤勉な労働者の不足はすでに手遅れ」
引用元)
エマニュエル・トッド
画像はシャンティ・フーラがツイートに差し替え

――今回、出版された『西洋の敗北』はどんな本なのですか。なぜこの本を書いたのですか。

トッド 西洋の人々が「ロシアによるウクライナ侵攻」の意味をきちんと理解していない、と私は感じていました。
(中略)
ロシアの実力を過小評価し、ウクライナ人の真の動機を見誤り、東欧諸国の反露感情を理解せず、自らが直面する「西洋の危機」、すなわちEUに訪れている危機、さらには最も根本的な危機である、米国社会が直面する長期にわたる危機を認識できていませんでした。

本書では、章ごとに世界中を見渡し、「西洋の虚偽意識」がいまやその頂点に達したことを描いています。つまり、「西洋は世界から尊敬されていて、西洋が世界を主導している」と西洋の人々は思い込んでいるわけですが、実は「その他の世界」は西洋に無関心で、むしろロシア側につき始めている、ということです。「大西洋」は自らが「世界全体」を支配していると誤って思い込んでいるのです。
(中略)
事態の鎮静化に貢献するために、「真の脅威はロシアではなく米国であること」を米国の同盟国や従属国の人々に明らかにしようとしました。ロシアは安定化に向かっている国で、「主権」という考えに基づいて、自らの政治的空間の保全を目指しているだけなのです。世界の中心にあって崩壊しつつある米国は、我々すべてを吸い込もうとしています。つまり、EUの敵は、ロシアではなく、ますます危険な方向へと我々を引きずり込もうとしている米国なのです。
(中略)
トランプの過大評価
人々がトランプを歴史的要因として過大評価しているように感じます。
(中略)
彼の大統領としての役割は、ロシア、さらにはイランや中国に対する軍事上の敗北、産業上の敗北を、要するに「世界における米国覇権の崩壊」をいかにマネジメントするかにあります。
(以下略)

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「ウクライナ和平交渉は“可能”でない上に、“必要”でもない」と歴史人口学者・トッドが断言するワケ
引用元)
(前略)
――敗北しつつある西洋、特に米国と日本はどう付き合っていくべきだと思われますか。

トッド 非常に難しい質問です。日本は非常に困難な状況に置かれているからです。中国は非常に重要な隣国ですが、大きな問題を抱え、朝鮮半島との関係でも問題を抱えています。日本にとって米国は「パートナー」や「同盟国」というより「主人」や「支配国」です。しかも、約束を守らないという意味で、もはや信頼できない相手です。

これらの点を踏まえて、直観的に日本への提言を述べてみます。「米国による世界覇権」において鍵を握っていたのは、欧州、中東、東アジアという3つの地域です。ここで米国は何をしているのか。緊張を高め、紛争や戦争を引き起こし、そこに「同盟国」というより「属国」と呼ぶにふさわしい国々を巻き込もうとしている。ここで私が日本に勧めたいのは、「何もしないこと」「できるだけ何もしないこと」です。今日、「日本は国際政治にもっと関与すべきだ」という声が聞かれますが、私はむしろ、ある種の「慎重さ」を勧めたい。可能なかぎり紛争を避け、事態をじっと見守るのです。

戦争や中国の経済的台頭の意味は、この「米国一極支配の世界」から我々が抜け出しつつあることを示しています。つまり、「多極化した世界」というロシアのビジョンに近づいている。日本への提言に付け加えるとすれば、先ほどの「慎重さ」を保ちつつ、こうした「多極化した世界」に自らを位置づけることです。もう一つは、「経済問題」以上に日本の真の問題である「人口問題」に集中して本気で取り組むことです。すなわち、適度な移民の受け入れを進めると同時に、出生率を上昇させることです。
(中略)
ただし現時点で、一つのリスクが残されています。最後のリスクとは、自らの「敗北」に直面した米国や一部の欧州諸国のリアクションです。今回の「敗北」は、米国がこれまで経験したことがないような「敗北」です。
(中略)
すなわち「経済制裁や金融支配によって世界に君臨してきた米国の覇権力が敗北すること」を意味するのです。
(中略)
米国が敗北を受け入れられないことで、米国が戦争をさらにエスカレートさせ、より危険な事態に至るというリスクが生じています。いまロシア領内にミサイルが発射され、ロシアを挑発しています。欧州、中東、東アジアで緊張を高めて戦線を拡大する動きは、米国が敗北を受け入れないことによって生じているわけです。だからこそ、「何もしないこと」こそが喫緊の課題なのです。
(以下略)

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