[芳ちゃんのブログ]ギリシャの降伏 - 新たな戦争の手段としての国際金融

 先月下旬、ギリシャはIMFやユーロ圏から103億ユーロの融資を受けることになり、それに伴い、一般庶民の生活は年金の支払いが一部カットや新たな課税が導入され、"非常に過酷な緊縮財政"に見舞われることになるようです。こうした動きについてマイケル・ハドソン教授がとても分かりやすい見解を述べています。
 IMF・ユーロ圏は融資との引き換えに、緊縮財政をしき、"ギリシャが達成する所得の伸びをすべて吸い取ってしまう"程の金利を25年も課し、ギリシャの"経済は年率で1%、2%あるいは3%も委縮"させ、二進も三進もいかなくなったころに、その出口としてギリシャの"港湾や土地、公共の上下水道施設、空港、等、所有している物は何でも"売却させることを目論んでいるようです。
 マイケル・ハドソン教授は"国際金融を新たな戦争の手段として用いている"と指摘しています。経済崩壊後の新しい金融システムでは、こうしたことがなくなることを望みます。
(編集長)

注)以下、文中の赤字・太字はシャンティ・フーラによるものです。

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ギリシャの降伏 - 新たな戦争の手段としての国際金融
転載元)
(前略) 

ギリシャ危機に関してはギリシャ、IMF、ユーログループとの間での交渉によって突破口が開かれたと報じられている。5月25日にロイターが報道 [注1] した内容の一部を参照すると、下記のような具合だ(斜体で示す):

債務の減免に関してユーロ圏はギリシャに対して今までには見られなかったようなもっとも確固とした提案を行った。

(中略) 

ユーロ圏の蔵相らは、(中略)… アレクシス・ツィプラス首相が率いる左翼系連立内閣によって推進される苦痛を伴う財政改革を評価して、ギリシャに対して103憶ユーロ(80憶ポンド)の新たな救済策を講じることに承認を与えた。

しかし、話を先へ進めるさまざまなステップの中でもより大きなステップとなるのは次の策だ。つまり、合意された支払い基準を満たすために救済が必要となった場合には、ユーロ圏はギリシャ政府に対する債務の減免に関する提案を2018年に示すことに同意したのである。これがギリシャを救済する資金提供を行うにあたってはIMFが再び参画することに関する合意を取り付ける鍵となった。

(中略) 

IMFは、ギリシャの公共財政を持続可能とするためにはヨーロッパ各国が自ら打撃を受け止めて、アテネ政府の債務の一部を削減するべきだと長い間主張していた。ドイツや他の国々はこれに反対し、何ヶ月にもわたってIMFとの口論が続き、この交渉の間、ギリシャはあたかも観覧席に居るかのような有様であった。

(中略) 

こうして、ギリシャ危機については当面の決着がついた模様である。この話し合いの結果、ギリシャは当面103億ユーロの融資を受けることになった。

(中略) 

今後、2018年にどのような判断が必要となるのかが関心の的となりそうだ。

しかし、この決着によって非常に過酷な緊縮財政に見舞われる一般庶民の生活はさらに大きな痛みに直面することになる。年金の支払いが一部カットされることや新たな課税が導入されることがこの5月にギリシャ議会を僅差で通過したのだ。この新法案の詳細を見てみよう(注2)(斜体で示す):

この新法によると、2,000ユーロおよび3,000ユーロを超す年金はカットされ、企業年金基金は暫時排除するとしている。

免税となる所得限度額は9,100ユーロから8,600ユーロに引き下げる。加えて、7月1日から消費税率を13パーセントから14パーセントに引き上げる。これらの措置は諸々の製品やサービスのコストを増加させるものと見られる。6月1日から、タバコ、ガソリンやディーゼル燃料、ならびに、天然ガス、等の物品税や消費税も増税となる。

2017年1月1日には、コーヒー、電子タバコ、2個以上のスターにランクされるホテルでの旅行者の宿泊も初めて課税の対象となる。

インターネットでのブロードバンド接続には5パーセントの課税、有料テレビには10パーセントの課税が今年7月1日に開始される。

投資物件にも課税され、これには不動産会社や資産運用管理会社も含まれる。財産税(ENFIA)の徴収が新法によって拡張される。 

政府支出、特に国防費や公営企業に対する費用は今年の6月には減額される。

中小企業に対する課税は年間所得が50,000ユーロまでの場合は26パーセントから29パーセントに引き上げられる。50,000ユーロ以上の所得に対しては33パーセントが課税される。

ギリシャ政府による増税策は以上のような具合だ。
2011年に強化された財産税(ENFIA)は今までのところ立派な成績をあげていると報じられている。この実績に基づいて、政府としては徴収の対象をさらに拡大したいようだ。

しかしながら、緊縮財政政策の影響を受けて経済が疲弊し、失業率が高まると、今後もこの成績が続くとは限らないとも指摘されている。ギリシャの返済能力は減少の一途を辿るのではないだろうか。

ここで、ギリシャ危機を巡るIMFやユーログループの最近の動きについてマイケル・ハドソン教授の見解 [注3] を確認してみたいと思う。


(前略) 

ペリーズ:こちらはリアル・ニュース・ネットワークです。私はバルチモアからシャ―ミニ・ペリーズです。

私はマイケル・ハドソン教授をお招きしています。同教授はニューヨークからの参加です。マイケルはキャンサス・シティーのミズーリ大学で経済学を研究している著名な教授です。彼の最近の著書に「Killing the Host」があって、この本は金融における寄生者や国際金融が如何に世界経済を蝕んでいるのかを記述したものです。マイケル、本日はお越しいただいきどうも有難うございます。

(中略) 

マイケル、IMFはギリシャの債務問題と取り組むための総合的施策をゴリ押ししています。彼らは融資団が債務の帳消しに関して工夫するように求めており、彼らが提案した策は融資団が喋っている内容に比べるとかなり前進しているようです。IMFの提案に関して、ならびに、融資団はどのようにしてその提案内容に漕ぎつけたのかに関してもっと話をしてくれませんか?

ハドソン: IMFはギリシャへの融資額は一銭も減額しないと言っています。融資額はそのままにしておこうということ。問題はユーロッパの中央銀行がバランスシートを何とか保とうとしている点です。もしもIMFへの支払い義務があるギリシャの債務に関して交渉が決裂したとすれば、その場合には救済すべき銀行を抱えているドイツやフランスならびに他の国々は損失を計上しなければなりません。彼らはたとえ一銭でも失いたくはないという立場です。

IMFの提案には工夫の跡は特にありません。IMFは1年前に言っていたことを一言も変えずに繰り返しています。こう言っているのです。「OK、融資額はそのままにしておきますが、我々はいまいましい数値をあなた方に贈呈することにします。金利だけを変更して、1.5%としましょう。さらに、25年間の据え置きとします。つまり、債務の一部減免は行いませんが、金利の支払いは25年間の猶予とします。こうして、我々は僅かな金利の支払いだけを要求することにします。」 

意外な結末がひとつあります。ギリシャは年金をキャンセル、あるいは、引き下げて、緊縮財政を適用し、政府の資産を私有化しなければなりません。こうして、経済は委縮することになります。経済は年率で1%、2%あるいは3%も委縮することでしょう。我々が課す1.5%の金利はギリシャが達成する所得の伸びをすべて吸い取ってしまうかも知れません。今後25年間の所得の伸びはたとえ1銭であってもドイツの銀行へ支払う返済に充当しなければならないでしょう。

ギリシャは今そんなことは実行できないことを承知しています。年金をキャンセルしたら、経済が委縮してしまうことは分かりきっています。労組はストライキをするでしょうし、多くの市民が他所へ移民することでしょう。

しかし、出口がひとつだけあります。ギリシャは港湾や土地、公共の上下水道施設、空港、等、所有している物は何でもドイツへ売却し、結局、最後には売却できる物はひとつもなくなってしまいます。最後に我々がギリシャに頼むことは、もうこの国のすべてを我々が所有しているのだから、皆この国から出て行ってくれということです。以上がIMFが言っていることのすべてです。何の工夫もありませんし、非常に残酷です。これこそがギリシャの市民が通りへ出て抗議行動を起こしている背景なんです。

ペリーズ: それでは、融資団はどうして今回のような行動をとったのでしょうか?

ハドソン: どうしてかと言うと、彼らは国際金融を新たな戦争の手段として用いているからです。ヨーロッパでは戦争が進行していますが、この戦争はもはや軍事的な戦争ではありません。軍事的な戦争に代わって、連中は金融を使っているのです。金融を使って、あんた方の国を乗っ取ることができるぞと脅かしているのです。我々はあんた方を失業に追い込み、あんた方をコントロール下に置くことだってできる。あんた方を殺す必要はない。年金を打ち切り、あんた方の金をすべて奪って、あんた方を何処かへ移民させるだけだ。土地の収奪もある。ギリシャの港湾や鉄道を収奪し、他にもあらゆる物を収奪しようとする侵略のようなものです。これはまさに戦争です。

ペリーズ: さて、国際メディアは月曜日 [訳注:5月23日] に行われた各国の財務大臣の間で行われた会合は成功裏に終わったかの如く報じています。アレクシス・ツィプラス首相と財務大臣は笑顔を見せながらこの会合から出て来ました。あれは何故でしょうか?

ハドソン: 何故かと言いますと、彼らは売ってしまったからです。カメラの前では笑顔を見せることになっています。単純なことです。自分の選挙民を何とか防護したかの如く笑顔を見せるのです。オバマ大統領もウオールストリートに対してさらにもうひとつの贈呈品をあげた時には何時も笑顔を見せます。しかし、これはそのような笑顔が必ずしも国民のためにはいいことだということを示すものではありません。明らかに、国民にはそのことが分かっています。これは国民の政治的反応を見ると分かるのです。

(中略) 

ペリーズ: マイケル、最終的には、ギリシャ政府にはどんな選択肢があるのでしょうか?いったい何が可能なのでしょうか? 

ハドソン: ツィプラス首相は選択肢はもう何もないと言っています。選択肢は降伏することだけだと言っています。事実、ギリシャとIMFとの間では議論はもう行われてはいません。ギリシャとドイツとの、あるいは、ギリシャとヨーロッパとの間での議論でもなく、今も続けられている議論はIMFとドイツとの間で行われています。その内容はIMFがその伝統的な規則を破るのかどうか、IMFのあらゆる基本原則に反してさらに融資を行うのかどうかという点です。IMFの合意書の条項によると、融資を返済出来ない政府に対してはIMFが融資に応じることは禁じられています。IMFの融資条件や基本条件がギリシャ経済を委縮させ、返済を不可能にしてしまうことから、ギリシャは返済することができないだろうという予測はIMF職員らの間では何の異論もなく、誰もがそのように理解しています。

そこで、IMFはこう言っているのです。我々はIMFの規定を破って、特に米国からの要請があることからも、融資を行うことにします。ギリシャは返済をしなければなりません。これは、スペインが立ち上がって、市民に対して年金を支払おうとした場合、フランスが自国の労働者に支払いをする場合、あるいは、イタリアが自国の労働者に支払いをする場合には、我々はそれらの国の経済を破壊し、彼らの労組を潰してしまうでしょう。これはちょうどギリシャに対して行っていることとまったく同じです。ギリシャは示威行動を示すためのいい見本の場となっています。ナチがスペインを爆撃した時と同様です。あの状況はかの有名なピカソの絵に描かれています。言わば、これはナチが行ったスペイン爆撃のIMF版に相当するものです。降伏をしない国ではこういった状況がヨーロッパ中で起こることでしょう。

ペリーズ: 何時ものことですが、マイケル、良く分かりました。あなたをこの番組にお招きできて本当に良かったと思います。これからもギリシャに関する番組でお会いしたいと思います。

(中略) 


(以下略、続きは引用元でご覧下さい)

注1: Eurozone hails ‘breakthrough’ with Greece, IMF debt deal: By Jan Strupczewski, Francesco Guarascio & Alastair MacDonald, Reuters, May/25/2016, www.reuters.com/article/eurozone-greece-idUSL5N18M01I

注2:Greek Parliament Approves Pension, Tax Reforms Against Mass Protests: By Sputnik, May/09/2016, sputniknews.com/.../greek-parliament-approves-unpopular-ref...

注3: The Greek Surrender - Finance As A New Means Of War: By Sharmini Peries - Michael Hudson, By Real News Network / Information Clearing House, May/24/2016 http://www.informationclearinghouse.info/article44734.htm

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