注)以下、文中の赤字・太字はシャンティ・フーラによるものです。
ロシアの軍事訓練とアラブのラクダレース
本日クレムリンに出回っている【ロシア連邦】安全保障会議(SC)の新たな報告書は物騒な言葉遣いではありますが大変興味深い内容で、さながら『千夜一夜』から飛び出てきた物語のような有り様なのです。
――集団安全保障条約(CSTO)の加盟諸国【※旧ソ連構成諸国】による軍事訓練「Cooperation 2018」の最終局面がキルギスタンのエーデルワイス訓練場で開始されたのですが、【そこに参加している】特殊部隊はその後ムハンマド・ビン・サルマーン皇太子(別名MBS)の政権を守るべく、サウジアラビア王国へと配置可能な状態となるのだと書かれてありました。
――彼は現在アラブ首長国連邦(UAE)のムハンマド・ビン・ザーイド皇太子(別名MBZ)による直接の脅威に曝されています。
【何故かというとザーイド皇太子は】世界最大のラクダレースで、自国のチームが優勝しなかったことに毒々しい怒りをあらわにしているらしく、この紛争を巻き起こしたラクダレースの最も顕著な被害者の一人こそ、ワシントンポスト紙のジャーナリストのジャマル・カショギだったのです。
――【そして】ザーイド皇太子によって欧米のメディアは現在、カショギがサルマーン皇太子の命令で無残にも殺害され切断されたとの非難で溢れかえっています。
Charlie Deplorable @RadCharlie on GAB
— 🇺🇸Kari🇺🇸💨🌪🙏💙 (@jodaka97) 2018年10月16日
>>UAE Crown Prince Mohamed bin Zayed (second from left) and Saudi Crown Prince Mohammad bin Salman (third from left) open Crown Prince Camel Race Festival on 22 September 2018 <>>>> pic.twitter.com/iZWgRySjH7
ディープ・ステートの傭兵が続々と逃げ込むアカデミー
当該報告書によりますと、この6月にサウジのムハンマド・ビン・サルマーン皇太子はプーチン大統領と会うためにロシアに赴きました。
――この会談の主要な目的はというと、サルマーン皇太子がプーチンにムハンマド・ビン・ザーイド皇太子によってアラブ首長国連邦内に創設された巨大な国際スパイ諜報組織に対して高まる不安を訴えることだったのです。
――【この組織は】「アカデミー」と呼ばれ、“ディープ・ステート”に繋がる元CIAの潜入捜査官ローレンス・サンチェスが率いており、膨れ上がるその勢力はトランプ大統領を恐れてアメリカを逃げ出した何百もの元CIAやFBIの人間で今や一杯なのだそうです。
2014年の8月、ムハンマド・ビン・サルマーン皇太子の警備車列の一台が【アカデミーの】工作員たちによってパリで襲撃され、政府の機密書類が盗まれてしまい、彼の「アカデミー」に対する最大の懸念が現実のものとなったのだと当該報告書は続けます。
――しかしこれはサウジ王家内の誰かが【アカデミーに】内部情報を渡さなければ達成することは不可能だった筈です。
――こうして開始された調査により2017年の11月にはサルマーン皇太子が彼の政府内で最も高位の者を30名以上も逮捕し拘置するという事態へと至ったのでした。
Saudi arrests show crown prince is a risk-taker with a zeal for reform https://t.co/c4KYy1Qofs
— Guardian news (@guardiannews) 2017年11月5日
ベゾスで繋がるワシントンポストとのCIAコネクション
ムハンマド・ビン・サルマーン皇太子が「アカデミー」のために働いていたサウジ王家の裏切り者連中の逮捕を開始したのと時期を同じくして、ムハンマド・ビン・ザーイド皇太子は突如世界一の富豪ジェフ・ベゾスが所有する世界的テクノロジー大手アマゾンへ、スーク・ドット・コムを売却することを許可したと当該報告書は指摘します。
――【スーク・ドット・コムは】アラブ世界で最大の電子商取引プラットフォームであり、今やアマゾンによるCIAのための「シークレット・クラウドサービス」活動と提携しています。
――しかもジャーナリストのジャマル・カショギが寄稿し、彼の殺害はサルマーン皇太子の命令によるものだと記者たちが決めつけているワシントンポスト紙はベゾス所有だという点も言うまでもありません。
ズルをされた(?)上にお説教されたとの被害妄想でプッツン
サウジアラビアとアラブ首長国連邦の間では国境を巡って未だ解決を見ることなく、おまけに今度はサウジ勢がカタールの周囲に運河を掘って島に変える準備を進めたりと、湾岸諸国の王家同士で【以前から】緊迫する政治情勢の中、“ディープ・ステート”の工作員や反トランプ政治をこの一触即発の地域に導入するなぞ、爆発しようものなら世界規模での大惨事をもたらす訣で、まともな精神の持ち主であれば誰一人として点火しようなどとは思わないでしょう。
しかしムハンマド・ビン・サルマーン皇太子が欧米の商業基準や近代的な社会生活を取り入れてサウジアラビアを改革しようと邁進するようになり、トランプ大統領とイスラエルの両方が彼の近代化の諸目標達成を支援したともなれば、国際舞台で自分たちの時代が急速に終わりに近づいていることを感じている其の他の湾岸諸国の王家全てにとって深刻な脅威だ、と当該報告書は説明します。
事実、先日終了したばかりの「皇太子ラクダレース祭り」――787種目に1万1千頭以上のラクダが参加するという世界最大のラクダ競技イベント――においては、当該報告書曰く、ムハンマド・ビン・サルマーン皇太子が湾岸諸国の王族の指導者全員に向けて、各々の政権や社会を近代化しない限りはどこもこれから先の20年を生き残ることは出来ないだろうと直接語りかけたというのです。
――ですがこれがサルマーン皇太子は誰もが欲しがる金の剣賞を勝ち取るためにズルをして【ザーイド皇太子お抱えの】栄えあるラクダ競争チームを出し抜いたと既に主張していたムハンマド・ビン・ザーイド皇太子を激怒させてしまいました。
――【金の剣賞は】アラブ世界において最も貴重でどの国もが欲しがる賞であり、これまで一冊の本には書ききれないほど数多くの紛争を引き起こしてきました。
HH the Emir Awards Winners of Emir’s Sword Camel Race Festival---
— Qatar Tribune (@Qatar_Tribune) 2018年4月25日
HH the Emir awarded the winners of the four main final rounds of Al Hail and Al Zamoul competitions (open rounds) for the camels of Their Excellencies Sheikhs with ...
👉🏿👉🏾👉🏽 https://t.co/VMYp2wnOeb pic.twitter.com/qddwmKr19H
サウジの危機に駆け付ける義務があるロシア
ムハンマド・ビン・サルマーン皇太子が既にアラブ首長国連邦に対する懸念をプーチン大統領に伝えておいた訣ですが、今やあからさまに敵対的なアラブ首長国連邦のムハンマド・ビン・ザーイド皇太子は「皇太子ラクダレース祭り」を立ち去ると「アカデミー」のトップで“ディープ・ステート”のCIA工作員ローレンス・サンチェスと会うために自国に戻ったと当該報告書は続けます。
――その48時間以内には、「アカデミー」が所有する二機のプライベート・ジェットがトルコへと向かい、【カショギ殺害後】その内の一機はドバイへと戻り、もう一機はカイロへと飛び、その後でワシントンポスト紙が何らの証拠を示すことなく自社のジャーナリストのジャマル・カショギは「サウジの暗殺部隊」によって暗殺され、その切断された遺体が【このジェット機によって】運ばれたと主張し始めたのでした。
S-400ミサイル・システムをサウジアラビアに設置するにあたって同国とロシアの間で昨年結ばれた防衛・安全保障条約により、ムハンマド・ビン・サルマーン皇太子と王国の両方、またはいずれか一方が危機に瀕した場合、ロシア軍はサウジアラビア内のこの戦略的ミサイル資産を保護する義務が条約上発生すると当該報告書はまとめています。
――そして “ディープ・ステート”の連中がサルマーン皇太子を狙ってジャマル・カショギの死を使ったとの連絡を受け、プーチン大統領は「Cooperation 2018」の招集を命じ、
アルメニア・ベラルーシ・カザフスタン・キルギスタン・ロシア・タジキスタンからのアラビア語を話す1,600以上の特殊部隊と300もの軍用機器や40機の軍用機とヘリコプターが命令され次第、サウジアラビアへ展開できる準備が整えられたのでした。
King Salman’s visit will herald new era of Saudi-Russian economic cooperation https://t.co/liNisYmLGK pic.twitter.com/cirqEKxq0G
— Yousif Bin Khamis (@JoeJoeeeee) 2017年10月3日
翻訳:Yutika
註:【 】内は訳者の追記部分です。また訳文は日本語での読み易さを優先して、見出しを加えており、原文とは異なる形で文や段落を分割しています。また元記事で使用された画像は、同じもの(ないしは類似のもの)を掲載したツイッター・YouTubeに変換しております。
またMBSやMBZという略称は日本では馴染みがないため、それぞれ「サルマーン皇太子」と「ザーイド皇太子」と表記しております。
でありながら、アカデミー(The Academy)という、悪名高き傭兵部隊のアカデミ(Academi、旧ブラックウォーター社)を想起させる集団が跋扈する物騒さ。中東はイスラエルの思惑も絡んで、現代の火薬庫状態です。
余談ですが「訣」という字について。熟語で登場すると「ケツ」と読みますが、単独では「ワケ」とも読みます。手書きした際の形が似ているせいで「訳」(音はヤク、正字は譯)との混乱が戦前からあるようです。
「夬」という部分に語源となった「わける」の意味があるので、私は「訣」の方をあてています。「訣 訳」などと打ち込んで検索して頂きますと、森鷗外や山田忠雄の話がすぐ出てきて面白いですよ。
また「同音の漢字による書きかえ」もなるべく避けたいと思っております。例えば記事の末尾で「注」ではなく「註」と表記しているのはそのためです。
敗戦後は当用漢字(※既に廃止)や常用漢字(※実はただの目安)の制定によって、使える漢字が随分と制限されてしまいました。ですが現代は覚えておらずともパソコンで変換し、読めなければコピペでネット検索すれば済む便利な社会。
折角の豊かな日本語、学びを深め、廃れさせずに活用していきたいと願う次第です。