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アメリカの非常事態宣言後の教育への対応
さて、アメリカでは非常事態宣言を出した当初から、STAY AT HOMEとSTAY CONNECTEDをセットにして対策をとっていたようです。特に子どもの学校の対応に関しては日本との差に驚きました。
ボストンにいる孫たちは9月まで学校がお休みになったとの事。その代わり非常事態宣言が出て2週間という驚異的なスピードで教育のオンライン化を整えたようです。
そして本格的にオンラインクラスルームが始まりました。毎日担任の先生から子ども達にコメントが入り、週に2回は15分という短い時間ですがクラス全員とのバーチャルミーティングがあるそうです。皆とリアルタイムでつながるのはこれだけですが、お互いの顔が見える大切な時間になっているようです。
他に毎週先生から1週間分の時間割が発表されます。時間割の教科の所に参考資料として民間のオンライン教育ツールやアプリが紹介されています。子ども達はその教科を自分で学ぶ時に自由に使うことができます。
その参考アプリは全て州の教育委員会が民間の企業と契約して無料で使えるようにしているとの事。タブレットを持っていない子どもには無料で貸しだされ、Wi-Fi環境がない家の子にはWi-Fiができるバスが家の近くまで行くそうです。
この授業はリアルタイムではないので自分の好きな時間にしていいのですが、例えばサイエンスのエンジニアリングという授業で、2年生の孫は「8インチ以上の背中を掻く機械を作ろう」というのにチャレンジして物差しとフォークで作っていました。お姉ちゃんは「1枚の紙の上にペニーを何枚乗せられるか?」にチャレンジして紙で頑丈なブリッジを作り、折り紙工学まで発展させていました。できた作品は作る工程も写真にとってコメントを書いて提出します。集中したら一つの課題に何時間もかかります。好きなことを自由にできるところがいいようです。
ライティングや算数もドリル形式のワークブックではなく、ゲームしながら危険に遭遇したら問題を解いてクリアしていく等、子どもが1人でも楽しんで学べるように工夫されているとか。リーディングは週に2回先生とマンツーマンのクラスがあるそうです。
外国語を母国語とするELLのクラスでもバーチャル フィールド トリップで好きな国に行こう!というテーマの課題が出て、孫はオーストラリアの中から野生動物を選び、生態を調べて写真付きのレポートを作っていました。
アートのクラスではすべての美術館、博物館のリモートビューイングが楽しめて家に居ながらアート作品の鑑賞やプロの授業が受けられるとのこと。これはそれぞれの美術館などが有料サイトで配信しているものを無料で提供しているそうです。その膨大な資料を見せてもらって日本の子ども達との教育機会の格差に驚きました。
その他の楽しみは週に1回、当番になった子が皆の前で発表するshow and tellだそうです。このshow and tellは日本以外の国では盛んにおこなわれているエディケーションツールです。子どもが自分の好きなものをみんなに紹介するのですが、孫はレゴで作った作品をstop motion studioのアプリを使って制作した映像を見せたそうです。クラスメイトがコメントを書き込んで交流もできます。
先生たちはこれをしなさいと強制するのではなく、全てサジェスチョンをするだけ。子どもの自主性に合わせているようです。生徒も家で一斉に一方通行のオンライン授業を受けるのではなく、興味があるものを自分で調べて展開していき、時々みんなとつながりながら発表したり情報交換できるので楽しいようです。主役は自分。これは便利なツールを自分で使いこなす練習にもなります。
一方、親の任意団体であるPTOも協力しています。親同士でつながり、子どものアート作品を募り、定期的にアートショーをネット上で掲載したり、困っている子はいないか、何かできる事はないか等、気を配っているとのことです。学校に任せたり、与えられたものを待つのではなく、自分たちでアイデアを出してすぐに行動に移せるところが凄いと思います。
でも、本来、子どもは友達と交流しながら遊んだり学んだりして育つものです。それができない今は、この環境下でできるオンラインの世界の扉が開いて一気に広がっていっています。これは今後コロナが終息しても終わることなく、むしろ今までの学校の在り方さえも変える世界が始まるのではないかと思います。
ただし、バーチャルの世界でも主体は生身の自分です。子どもの成長過程を保障して肌で感じる体験や感覚を大切にしないと無くすものも多くなるのではないかと注意深く見ていたいと思います。
さて、オーストラリアの娘も大学の授業が一気にオンラインになったので、毎回その準備、課題づくり、レポートの添削のために前よりも忙しくなったそうです。
オーストラリアは東南アジアからの留学生が多いのでその生徒が本国で足止めになっているケースも多いそうです。そういう意味でも全ての授業がオンラインになったとか。でも授業が受けられずに退学する生徒も増えて大学の経営も火の車。大学職員も削減の対象になっているとのこと。むしろオンライン授業が定着すれば外国の優秀な先生を集めることも可能です。グローバル化が進み選別、解雇される人も増えるかもしれません。その上、どの分野でも経済的な問題がくすぶっています。いつ自然発火するか、それも世界規模で・・・。事態は深刻で油断できません。
では、日本はどうでしょう・・・。
お嫁ちゃんは働いているので子どもの事がとても気がかりです。放射線科はリモートワークができるので在宅勤務を申し出たら「他の科が現場で頑張っているのに放射線科だけ在宅は認められません」と意味不明の回答。
孫は年中さんと新一年生と4年生。入学式も延期なのでまだ担任の先生にも会っていません。1年生の親に教科書と塗り絵と書き方の宿題が配られたそうです。4年生のお兄ちゃんはひたすら漢字の書き取り、算数の計算ドリルの宿題と戦っています。毎日外に遊びにも行けず、友達とも会えない中でこの苦行のような宿題をさせるのでしょうか?親が家にいないところは自主的に子どもがするのでしょうか?学校が担っていた役割を何の対策をも取らずに子どもや家庭に丸投げしていいのでしょうか?
今や保育園や学童も自宅待機要請を出しているのでほとんどの子どもが家にいます。両親が働いている低学年の子ども達だけはお弁当を持って学校に行っています。2割の先生が交代で見守りをしていますが、学校に来ていない子に配慮して勉強を教えてはいけないそうです。1時からは学童保育所が預かります。孫は4年生なので学校も学童も預かってもらえないので1人で家にいる事に。一年生の妹はまだ友達がいないのに一人で学校と学童に行く・・・。二人とも不憫で両方の祖父母と親が交代で「孫3人預かり大作戦」を展開しています。
ちなみに残りの8割の先生は自宅勤務をしなければいけないとか。時間がある今こそ、子ども達が学びを続けていけるようにオンライン化する準備をしてほしいと思って教育委員会にお話ししましたが予算もないし今は無理だと言われました。
そして、あるママからの相談で分かったことですが、学童保育所の格差が問題になってきているようです。この時期、学童の支援員のなり手がなく一部では子どもの事を何も知らないで支援員に駆り出されている人も多いとか。子どもにとって3密は大切な遊びの要素です。行政からの指導の通り3密を頭ごなしに禁止する事に重点を置き、子ども同士の間隔を開ける事、お互いに会話してはいけない、外で遊んではいけない、おもちゃもダメ…と注意されてばかりで子ども達がストレスを溜めているそうです。子どものメンタルケアを考える専門家の出番です!
今は全てが緊急事態。例えば学校では子ども達のために学びを保障するという本来の目的が遂行できない状態です。ではこの環境下でそれをどういう形で保障できるか?それは子ども達に自宅待機させて宿題だけ与える事ではありません。今までの指導体制を崩さない一斉授業形式のオンライン化を目指すのでもなく、様々な学び方を提供する全く新しい形の教育なのかもしれません。
でも、その前にやることがあります。子ども達を長期にわたって孤立させてはいけません。せめて自分のクラスの子ども達に「元気?何してる?大丈夫?」と声をかけてつながってほしいと思います。それはすぐにできる事です。お嫁ちゃんやママ達が担任の先生から一度も連絡がないと言います。連絡があっても子どもにではなく親に「変わりありませんか?宿題は進んでいますか?」というもの。
ママ達と「ままぴよオンライン」をして話しましたが、親も学校から連絡があるのを待つだけや子どもを叱りながら宿題をさせるだけでなく、こちらから先生に連絡を取って「宿題が大変です。やる気をなくしています。電話をかけてやってください」と頼むこともできる事に気が付いたようです。さっそく試したママもいて、先生と初めてお話しした新一年生が宿題をやる気になったと報告してくれました。
ママ達が動き始めたのに連動して私からも教育長に提案しました。さっそく校長会が開かれて、翌日から担任の先生から子ども達に電話が入り始めたようです。「先生から連絡が来てホッとした、子どもの様子を気にかけてもらえて安心した」という喜びの声が上がり始めました。ほんの少しの気づきと行動ですが繋がる事の大切さを感じました。
子ども達は本当に我慢しています。ボストンの孫も普段は元気そうでも、雨で外に出られない日にハチャメチャな踊りを始めて止まらなくなり、勢いで自分の前髪をバッサリ切ってしまったとか。自分でも気が付いていない溜めたストレスを理解して出してあげる配慮が必要です。
さあ、今こそ親や保育者、先生という仕事の意味を問い直してほしい。どんな事態になっても原点である「子どもの幸せのため」に何をすべきかを考えて速やかに行動してほしいと思います。
この緊急事態で家族団らんの良さを発見した人、仕事の意味を問い直した人、夫婦関係、親子関係、自分の生き方・・・世界中でたくさんの混乱と同時に大切なものは何か?とい気づいた人も増えています。世界中が経済危機で転げ落ちる危険をはらんでいる今、心配や不安の恐怖に押しつぶされるのではなく、「大丈夫だよ」のつながりの力を再起動させたいものです。
STAY CONNECTED!
初めは母もそのことを理解して我慢していたのですが、だんだんご機嫌が悪くなってきました。とうとう「私は時間がないのよ!死ぬのは怖くない。コロナも怖くない。それよりも大事な残された時間を誰とも過ごせないのが嫌だ!」と言い出しました。
テレビ電話も使えない、耳も遠い母にどうしたものか・・・兄弟で大声電話作戦を始めました。話の内容は聞き取れなくてもつながっている事はわかる母。とても喜んで落ち着きました。
老い先短い母にとっては皆と会えないことは生きている意味がないほど辛い事だったようです。あらためてSTAY AT HOMEとSTAY CONNECTED(繋がりを保とう)がセットである事を痛感しました。