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日本のオンライン授業の実情
8月の末から新学期が始まりましたが、緊急事態宣言が延長されたので小学2年生の孫は午前中の授業だけで、給食を食べた後に帰宅します。でも、通常の宿題の他に5,6時限の自学自習が追加されてがっかりです。宿題が一気に増えた気分です。
5年生のお兄ちゃんは帰宅後、5,6時限がオンライン授業になったようです。リアルタイムの一斉授業なので、先生が教室で授業している様子と、家に居るクラスメイトの映像が同時に配信されます。
お兄ちゃんに感想を聞くと「ペットが出てきて面白かった」「赤ちゃんがいたよ」と、授業内容ではないところが印象に残ったようです。やはり動画は情報が多すぎて授業に集中できないのを証明してくれました。まだお試し段階なので良しとしましょう。
オンライン授業の先進校ではこのようなハイフレックス型の授業が始まっているようです。通常の授業をしながら、先生がカメラを手に持ってオンラインで同時配信する授業です。操作に慣れた先生でも双方への気配りが半端ありません。家で受けている生徒にとっても、どこか借りてきた映像を見ているようで集中できません。
日本は、このように、GIGAスクール構想でデジタル環境は整えたけれど、カリキュラムと授業スタイルは変えようと思っていないようです。結局、担任の先生が一手に引き受けています。デジタル操作が苦手な先生もいます。一クラス40人です。先生、大丈夫?
これから始まるGIGAスクールの方向性が間違っていないのか?場当たり的な対応に追われるのではなく、現場の声を聞きながらシステムを作って行かないと先生や親、生徒が疲弊するだけです。
オンライン授業に移行したアメリカの学校が、通常授業に戻した理由
一足先に、同じ理由で一気にリモート学習に移行したアメリカの学校。1年4か月のオンライン授業を経て9月の新学期からは通常授業に戻ります。どのようにしてオンライン授業に移行したか?感染者は収まっていないのに、なぜ通常授業に戻るのか?そのいきさつも含めて、日本との比較をしてみたいと思います。
アメリカは州や町によって教育施策が違います。だから、これは孫が通っているボストン地区の学校の事例です。孫はキンダー(5歳で小学校に通う)と、小学3年生、6年生(ミドルスクールに通う)です。
まず去年の3月12日。コロナ感染が拡大したために突然学校が閉鎖になりました。メールで担任の先生から保護者に連絡が来て、事の詳細と今後の予定について説明がありました。
生徒へも先生からメールで説明があり、2週間の課題が与えられました。つまり自習です。家に端末機を持ち帰っていましたし、先生とはメールで繋がっているので質問はいつでもできました。
子どもが学校に行かないで家で学ぶ?親にも激震が走りました。アメリカは12歳以下の子どもを一人で留守番させてはいけません。ロックダウンで仕事も休みになったけれど収入は?医療従事者やエッセンシャルワーカーの子どもを誰が見るか?制度が整っていなかったので余裕がある人はベビーシッターを雇えましたが、弱者は混乱の中でした。
結局、今年の6月末まで1年4か月間オンライン授業でした。娘の家でも、家に4人の子どもがいる中でのオンライン授業は、親が授業を管理して先生役になり、それは、それは大変でした。
家にWi-Fi環境がないところは、Wi-Fiが付いたバスで急場をしのいだり、学校の教室でオンライン授業を受けました。その後、所得証明を学校に提出した家庭には無料でWi-Fi環境を整えてくれたそうです。エッセンシャルワーカーの家庭の子どもには教室が提供されました。
一方、子ども達が家で自習している間の2週間で、教育委員会と先生方は驚異的な仕事を成し遂げました。
まず、教育委員会が先生、保護者も含めたオンライン授業検討委員会を立ち上げて、今後長期化するオンライン授業をどうするかの話し合いを始めました。そしてオンラインに特化した授業づくりをするために年間のカリキュラムの縛りを無くしました。
同時に、先生方はオンライン授業についてハーバード大学の専門家から研修を受けました。結果、通常の授業をリアルタイムで配信するのは①先生の負担が大きい、②保護者もずっと子どもに関わっていられない、③生徒にとっても質のいい学びにならない、という結論を出しました。
つまり、今の日本のような授業はナンセンスだと最初から決めたのです。
そして、地区の7校の同じ学年の先生が集まってチームを作り、学年別にオンラインのための授業づくりをすることにしました。特徴があったそれぞれの学校の時間割も統一しました。
もともと、アメリカの先生は学年専任制です。教科書も、教科制もない project based learning なので先生の裁量で多角的な授業をするのが得意です。毎授業ごとに5分間の動画を作り、子ども達が1人で学習できるように説明することにしました。参考資料もアプリを添付して選べるようにしました。このシステムを市内の先生がチームを作り、分担して2週間で作り上げたのです!
担任の先生は毎朝「今日のお知らせ」や「今日の勉強」をクラスの掲示板に載せます。朝のクラスルームだけは15分間のリアルタイムで全員集合です。この時間はクラスで交流する楽しい時間にしました。自分の好きなことを発表したり、「どちらがいい?なぜ?」という簡単な問いかけをしながら、皆の様子を確認します。
今日の勉強は、先生の動画を見ながら子どもの都合のいい時間に取り組めばいいようになっています。例えば社会では「地図を作ろう」というテーマで、キンダーの弟は自分の家の周りの地図を書きました。写真を撮って貼った子もいますし、絵で描いて色を塗った子もいます。
3年生のお兄ちゃんは、同じテーマで、紹介された資料の中から世界の暮らしの動画を10分間見て、好きな国の地図を書きました。同じ日に同じ科目なので兄弟で取り組むこともできます。
先生は1人ずつコメントをくれます。クラスルームの掲示板に展示したり、発表することもあります。でも文房具を揃えたり、子どものやる気を持続させて提出するまでには親の助けも必要です。提出しない子も増えていきました。
リーディングの時間は、先生が読み聞かせをして、本を30冊紹介します。好きな本を読んで感想を書きます。感想文でも絵でも構いません。どんなことを書いても先生は褒めてくれます。
ちなみに先生は決して子どもを叱りません。何をしても「Good job!」と褒められるそうです。変わった意見や、明らかにおかしい意見を言っても「Interesting!」「That's so Unique!」と言ってくれるそうです。大事なのは考える事。正解はないという教育方針です。
誰も否定しないので、皆と違う意見でも恥ずかしくないし、生徒間で「ちがいま~す!」など言いません。ある時、孫が「僕の歯はガタガタだ」と心配そうに友達に見せたら、友達がのぞき込んで「僕はその歯が好きだよ」と言ってくれたので嬉しかったそうです。
さて、このようにアメリカは、オンライン授業に移行するにあたって教育カリキュラムまで変えて大きな方向転換をしました。その上で、もう一つ、デジタルの便利な面を活かしました。それは保護者への対応です。
学校はHPを充実させて、校長先生がコロナ禍における学校の教育哲学を示しました。それには「この非常事態の中、オンライン授業に移行するにあたって通常通りのカリキュラムを遂行するより、今しかできない学びや今できる学びを優先します。勉強はいつでも取り戻せます」というコメントでした。そして、子どもの学びを保障するために模索していることも隠さず、むしろ保護者も巻き込んで行きました。
新しい形のオンライン授業に移行していく過程や会議を全て公表しました。保護者もその会議に参加できますし、会議の録画を見る事ができます。英語を話せない保護者には通訳も付けました。
英語を話せない家庭はオンラインになればお手上げです。子どもにとっても英語に触れる機会がなくなるのでますます勉強が遅れるという声が上がりました。その声を聞き、希望者にはリアルな授業を週に2回受けられるようにしました。曜日によって生徒を振り分けて少人数にして先生も担任ではなく別の先生がつきました。
孫達も初めは英語が苦手で、娘がつきっきりで課題まで付き合っていました。でも4人の子どもがいるので限界です。だから学校側にその窮状を訴えました。学校はその意見を取り入れて、特例で週に4日学校に通うハイブリッド授業が認められました。
担任の先生とはメールでつながっていますので、いつでも連絡が取れます。そして、朝の会や、後に追加された午後の交流タイムがあるので救われたようです。
他にも、保護者の訴えで、親の失業などで満足に食べられない子が増えている事がわかり、給食が各家庭に毎週まとめて宅配されることになりました。これで家庭と業者も救われました。
でも、オンライン授業を続けていく中で、家庭の負担が増し、教育の格差が広がっていきました。又、子どもの成長には友達との直接のコミュニケーションが大切だという事も確信しました。
その反省を受けて、9月からはオンライン希望者以外は全て対面での授業に戻ることになりました(コロナ感染者は日本より多い)。
子ども達は大喜びです。オンライン授業に関しては地区を取っ払ってクラス編成をして、オンライン専門の先生が授業をします。
でも、すべてがうまくいったとは思いません。12歳以上のワクチンも、学校での検査も早くから導入されました。学校に行く条件として6歳からのワクチンパスポートが敷かれようとしています。国の方針と多くの保護者が望めばそのように舵が切られて行きます。
とは言え、学校は保護者とともに生徒の様子を見ながらいつも変革しています。校長先生曰く、それ自体が子どもに伝えたい教育方針だそうです。想定外の事態になった時に、何ができるか?みんなと協力して乗り切ることができるか?それを態度で示したわけです。
保護者にとっても学校の全ての会議が公開で、それに対して個々の意見を言える制度があり、すぐに対処してくれるので学校と共に考えている感が生まれます。先生の頑張りにも称賛の声が上がりました。一層協力したいという気持ちになります。
この困難な事態に学校は保護者と繋がれたことが一番の収穫だったそうです。そして、学校も先生も親子ともに成長したようです。
日本の教育は、休校中や緊急事態宣言下でもカリキュラムを守り、全国共通一辺倒のやり方を押し付けています。これでは現場が疲弊していくだけです。
GIGAスクール構想で学校をデジタル化するなら、HPを充実させて、GIGAスクール構想の教育哲学を示し、先ずはデジタル機器を活用して保護者と繋がって欲しいと思います。そして子どもの家庭生活の実態を共有した上で、共に考え、よりよい学校を作っていく必要があると思います。
又、日本の保護者は、教育に関して学校に意見を言ってはいけないと思い込んでいるようです。「専門家に任せていた方がいい」「言っても聞いてもらえない」「クレーマーだと思われるのが嫌」等、消極的な気持ちです。
でも本心は気になって仕方ありません。保護者も勇気を出して、子どものために発言する時が来ていると思います。そのためには子どもに何が起こっているのか?現実を知ることです。
世界一幸せな子どもの国と言われるオランダでは、社会が「教育の中心は家庭にある」という共通認識を持っています。保護者は自分で子どもに合った学校を選びます。いい学校が無ければ自分で設立することもできます。子どもの幸せのために、親がその自覚を持つことが重要です。
Writer
出典表記のない写真は、かんなまま提供
アメリカの2歳の孫が、スクリーンに映る私達を見て画面の後ろを見に行きました。そこに私達がいると思ったのでしょう。
オーストラリアの孫は自分が食べているミカンを私が受け取らないので泣き出しました。3歳になった今は、私達とおしゃべりしたいけど、どうして自分が日本語を話せないのかがわからなくて泣き出します。
時間も空間も連続している中に自分がいるという現実を体験し始めた孫には、生活の延長に私達が出現するけれど「そこには居ない」という事が理解できなくて混乱しています。
でも、赤ちゃんの時から切り取った平面のスクリーンばかり見ている子ども達には、そちらの世界がリアルで、私達が想像できない感覚の世界に住み始めているのかもしれません。今、その分岐点にいるような気がします。
さて、今回はデジタル教育に移行したアメリカの取り組みと日本の比較です。