ままぴよ日記 101 「シングルマザーの覚悟と涙」

 コロナが落ち着いてきたと思っていたら、今度はオミクロンBA.5が一気に蔓延してきました。近隣の開業医は発熱外来をしない所も多い上に、子どもの感染者が増えていることもあって小児科はコロナ感染者で溢れています。
 うちの小児科は従業員6人の小さな診療所ですが、毎日30人ほどの陽性者が出ます。幸い、重症者は1人も出ていません。

 とうとう、看護師2人と事務員1人が感染してしまいました。それぞれ10日間の出勤停止です。夫と残りのスタッフは休みなしで乗り切らなければいけません。もう1人でもスタッフが感染したら閉院です。
 他の小児科もすでに閉院しているところがあり、町医者の医療崩壊が始まりそうな気配です。

 コロナの現場に居ながら3年近く感染せずに頑張ってきました。でもBA.5は感染力が強いので従業員にも毎日イベルメクチンを飲ませたり、安定化二酸化塩素のうがいをしていたのですが、効かなかったようです。私以外はみんな3回ワクチンを打っています。大人の感染者も85%以上がワクチン接種済の人です。2回感染した人もちらほら出てきました。

 幸い、夫と私は元気です。でも、健康管理に気を抜けません。
 この緊張感がいつまで続くのでしょうか?

 さて、今回は私が出会ったシングルマザーのお話です。
(かんなまま)
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3人のシングルマザーの苦悩


子育て広場が新しくなって、来場者も増えています。
私達の広場はスタッフが親子のそばに居るので、ママ達が抱えている問題や不安が見えてきます。

「同居している人にしかわからない悩みを話したい」「離乳食の事をもっと知りたい」「兄弟げんか、皆どうしてる?」「子どもを預けて働きに行ったらどんな生活になるのか知りたい」などの不安は、私達が繋いであげたら解決できる事も多いのです。

特にコロナ禍で人と話す機会がなくなっているので、興味のある話題についておしゃべり会を開催する事にしました。参加したママ達は「共感してもらえた」「話したことで心が軽くなった」「前向きになれた」と、好評でした。

そして、「もっと続きを話したい」「私も参加したい」という声が広がっていきました。

そんな時に、スタッフが足りなくて私にSOSが来ました。それも、あと30分後に始まる「シングルの会」のファシリテーションをしてほしいとの事。最近、立て続けに深刻なシングルのママの相談を受けていたこともあり、引き受ける事にしました。

集まったママは、この広場で顔見知りのママ達でした。年齢は17歳、21歳、32歳。お互いに相手がシングルである事を知らなかったのでびっくりしていました。それほど、普段の広場ではお互いのプライベートな話はしないものなのです。

先ず、安心して話すために「話したくない事は話さなくていい」「個人名を出して他言しない」と言うルールを決めました。

自己紹介をしてびっくりしたのは、みんな未婚だったのです。

事情は色々ですが、妊娠がわかって相手の煮え切らない態度に振り回されながらお腹が大きくなり、産むと決めた時に相手が逃げ腰になったので『こちらから切り捨てた!』という点で意気投合!!

「相手をぶった切った!」と過激に発言したママですが、その言葉を初めて人前で言えたのです。3人とも「そうだ!そうだ!」とばかりにジェスチャー交じりで一刀両断のポーズまでして盛り上がりました。そして笑い飛ばしました。

それからは、話が止まりません。

1人で出産に向かう時の不安、産院で誰もそばに居ない寂しさ、目の前にある経済的不安、子育てと仕事の不安、そして、父親がいないという子どもへの負い目、子どもの為に父親の役もしなければいけないのではないか?という気負いで押しつぶされそうになっていました。



17歳のママは高校をやめました。でも自立しなければいけません。中卒でどんな仕事ができるのか?誰に相談したらいいのかさえ知りませんでした。もともと人前で話すのが苦手な性格。自分の気持ちを伝えるのが難しいのですが、初めて心のうちを明かしました。

未成年なので車の免許もありません。交通手段はバスですが、田舎のバスは一日に数本。親もシングルマザーで夜まで働いているから自分が子育てしながらクックパッドを見て食事を作っているそうです。

それを聞いていた32歳のママが「私も仕事を辞めたのでハローワークに行ったよ」「マザーズハローワークではシングルママの為に職業訓練をしてくれるし、訓練を受けながら月10万の給付金をくれる制度もあるよ」「職種も色々あるから、そこに行っておいで!」と教えてくれました。
マザーズハローワーク
職業訓練と10万円の給付金

17歳のママは、そんな制度がある事を初めて聞いたので顔がぱっと明るくなりました。こんなことを学校が教えてくれるはずもなく、自分から市役所なり、ハローワークに相談に行かなければ誰も救ってくれません。

弱者ほど情報が入らないし、申請手続きが難しくて不親切です。特にシングルマザーは赤ちゃんを育てるだけで精一杯なので、そんな余裕もありません。

32歳のママは、独身の頃はバリバリ働いていました。男性と同じように働いて工事の現場監督をしていたので収入も良かったそうです。でも、赤ちゃんを育てながら現場を渡り歩く仕事を続ける事はできません。泣く泣く退職をしました。

でも、前年度の所得によって次の年の税額が決まるので、今は無収入なのに多額の税金を払う羽目になって愕然としたそうです。同じように、前年度の所得によって児童扶養手当や児童手当も支給されるので、もらえないことも判明しました。

ダブルパンチ!そんなバカな!今は無収入で将来の保障もありません。

それでも、そのママは子どもを抱えて色々なところに相談に行き、自分で調べたそうです。日本の制度では、どのくらいの給料で子どもの給付金が貰えなくなるのかを調べたところ、何と月に25万だったそうです。


子どもの将来の事を考えてがむしゃらに働いても25万越えしたら子どもへの給付金が貰えないという事になるのです。ひとり親になったのも自己責任という事でしょうか?

それを聞いていた21歳のママが、急に心配顔になりました。まだ大学生のママです。1年間休業して子どもを産みました。今年の4月から子どもを保育園に預けて学校に行き始めたのですが、2人で暮らすアパートに引っ越したばかり。学業の隙間時間にバイトを入れてがむしゃらに働いています。

日曜日もありません。勉強は夜中。そのバイトは時給がいいのでやめたくありませんが、今のペースで働いていたら25万円超えるかも。

1歳になった子どもはかわいいけど、何故か泣いてばかり。もっと子どものそばに居てあげた方がいいと思うけど、泣かれると逃げ出したくなります。そして、このままでは生活していけないのでは?と不安に襲われて落ち着かなくなるそうです。

「学校でノー天気な友達とおしゃべりするのは嫌。時間があると、いろいろ考えて辛くなるから、それを忘れるためにもがむしゃらに働いてしまう」と言いながら、不安で自分を追い込んでいるのが見えてきました。強がっていた自分に気づいて涙がポロポロ出てきました。

まだ傷ついたままなのです。それを振り払うように頑張ってきたのでしょう。

あっという間に時間が過ぎて「もっと話したい!」「やっと話せる場所が出来た!」と残念そうです。子どもがコロナ休暇になって、急に参加できなかったママ達も3人いたので「他の人も話したいはず!」「また企画してください」と言われました。


児童手当などの給付金は子ども自身が健やかに育つ権利として給付されるもの


ママ達の話しを聞きながら、明石市の市長が「明石市は親の所得制限なしに子育ての給付金を払う」と言われた事を思い出しました。そして、子ども庁から子ども家庭庁になった経緯も、日本は子どもを社会で育てるというより、家庭や親の責任にしてしまっているのも見えてきました。

親の所得が多くても多額の借金を抱えていたり、子どもにお金を出さなかったりする場合もあります。家庭が不和で、虐待する親もいます。特定の宗教で子どもの人生が縛られることもあります。

児童手当などの給付金は子ども自身が健やかに育つ権利として給付されるものです。だからせこい所得制限なんかつけないで欲しいと思います。

そして、あらためて「今の一番の心配事はなあに?」と聞いたら、全員が「経済的不安」と言いました。母子家庭の平均所得は月に14万。父子家庭は29万です。これを見ただけで母子家庭の困窮がわかります。

ただでさえ大変な子育て。赤ちゃんを抱えながらがむしゃらに働かなければ食べていけません。でも、ひとり親が子育てしながら働ける条件のいい仕事なんてありません。結局、パートやアルバイトを掛け持ちして働いている人がほとんどです。ちなみに母子家庭の貧困率は51.4%です。

3人と話しながら、私の胸が苦しくなってきました。試練を乗り越えて、子どもを産んで、1人で育てる、と決心したママ達。そして実際に、頑張って子どもを育てているのです。それだけで尊いことです。社会貢献しています。それなのに、社会は自己責任という足かせをして助けようとしていません。


特にシングルマザーには安心して子育てをしながら働ける具体的な支援をするべきだと思います。そのためには所得制限なしの給付金や、パートやアルバイトにも社会保障をつけて、最低賃金を上げる事も必要だと感じました。

話は変わりますが、最近の出産費用の高騰には驚かされます。友人がwebで全国調査をしたら何と平均が「61万超」だとか。首都圏は100万越えがざらだったそうです。国から出産一時金が支払われますが、健康保険から42万のままです。

差額が20万以上、首都圏では40万以上です。これでは子どもを産むのをあきらめる人が出てくるかもしれません。少子化と言いながら、出産費用は病気ではないので自己負担の日本。若者が安心して産むためにも出産費用は保険適用してほしいものです。

ちなみに娘がオーストラリアで出産した時も、私が遠い昔にカナダで出産した時も無料でした。そして、病室で寝ていても、病院の廊下を歩いていても皆から「おめでとう!」と声をかけてもらって嬉しかったのを覚えています。

生まれた時から始まる子育て支援。それは周りの優しいまなざしと、家庭生活支援、そして社会の公的支援がセットで必要なのです。特に、シングルマザーのように勇気をもって子どもを産んだ人が「産んでよかった!」と思えるような社会であってほしいと願います。



Writer

かんなまま様プロフィール

かんなまま

男女女男の4人の子育てを終わり、そのうち3人が海外で暮らしている。孫は9人。
今は夫と愛犬とで静かに暮らしているが週末に孫が遊びに来る+義理母の介護の日々。
仕事は目の前の暮らし全て。でも、いつの間にか専業主婦のキャリアを活かしてベビーマッサージを教えたり、子育て支援をしたり、学校や行政の子育てや教育施策に参画するようになった。

趣味は夫曰く「備蓄とマントラ」(笑)
体癖 2-5
月のヴァータ
年を重ねて人生一巡りを過ぎてしまった。
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