在来種600種類ものシードバンクの破棄を検討している山澤清さん、その心は「皆が真剣に考えなければいけない」/ 鈴木宣弘教授「今回の農業基本法改定は多様な担い手を否定し、効率的経営のみを重視」

 山形県に、日本各地の在来野菜600種以上を栽培される山澤清さんという方がおられるそうです。株式会社ハーブ研究所の代表でもあり、この研究所にはそれらの伝統野菜、在来野菜を独自に種継ぎしたシードバンクも保有されているそうです。保管されている在来種は全て無農薬、有機栽培のもので、在庫リストを見ると、自分の住んでいる地域の在来野菜すら初めて見る名前がいくつもありました。
 ところが「伝統野菜ニュース」の記事によると、「代表の山澤氏が76才と高齢になったため、今後、適切な形で残す糸口が見つからなければ破棄することにした」と報じられ、ギョッとしました。あの鈴木宣弘先生もX(旧ツイッター)でその記事を取り上げておられました。何十年もかけて守ってこられた在来種を破棄するとはこれいかに!?と記事を読み進めると「まぁ、俺はもうすぐ、あの世だから、知ったこっちゃないけど」との山澤さんのコメントが紹介されていました。その言葉の裏に、このままだと大切な宝物が失われてしまうという山澤さんの強い危機感があり「皆が真剣に考えなければいけない」というメッセージなのだと分かりました。
 2021年に取材された「きびと月の畑」さんのブログでは、山澤さんが自家採取の難しさを語られています。大根や蕪などは交雑しやすく「昔の農家は蕪を100本植えたら、その中で20本ほど形の良い野菜だけ選別してきた」と、気の遠くなりそうな作業で在来種を守り、また野菜の特徴についても「地域や各家ごとに言い伝えで、決まったルールがいっぱいある」とも教えられました。このように、かけがえのない在来種を継いでいく作業はビジネスに馴染みません。山澤さんも志ある多くの若者が諦めるのを見てきたそうです。
 ちょうど同じ頃、鈴木宣弘先生が、今回の農業基本法の「改悪」部分を説明されていました。それまでの基本法の計画では"「半農半X」(半自給的な農業とやりたい仕事を両立させる生き方)を含む多様な担い手がいて、水路や畔道の管理の分担も含め「地域コミュニティが機能し、資源・環境を守り、生産量も維持される」農業の形"を目指していました。ところが今回の改定では、「多様な農業経営体を軽視し、『効率的経営』のみを施策の対象とする色合いが濃くなっている。」「潰れる農家は潰れたほうがよい」という政府の冷たい農政が全面に表れています。あと10年もすると農業の担い手はいなくなってしまう。
「それ(農業)を維持していくだけの”魂”があるかどうかが問題。そして、そこに”愛”が伴うかだよ。欲望が入ったらそれは儚くなる。人の欲が入り混じったらそれはおしまい。」という山澤さんの農業への思いは、若者へのアドバイスというよりも政府への痛烈な抗議のように思えます。
 「伝統野菜ニュース」の記事に戻ると、山澤さんは「この1年の間に10万人の人が電話をくれたら『破棄は、とりあえず延期する』」と述べ、全国の種子の守り手からの連絡を待っておられるそうです。
(まのじ)

注)以下、文中の赤字・太字はシャンティ・フーラによるものです。

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配信元)


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伝統野菜・在来野菜約600種類のタネの廃棄を検討中 ~山形庄内・山澤氏が高齢になったため今後の方向性を模索~
引用元)
山形県庄内にある(株)ハーブ研究所から連絡を頂いたのは、今年3月中旬のこと。

その内容は、同研究所で種継ぎしてきた伝統野菜・伝承野菜など在来種のタネがあるが、代表の山澤氏が76才と高齢になったため、今後、適切な形で残す糸口が見つからなければ破棄することにしたというものでした。
(中略)
山澤清氏は、40年種継ぎをされてきたため、それぞれの品種に対する栽培技術やノウハウも持ってみえますが、このまま行けば、あと数年で、在来種の栽培が途絶えてしまうのではないかと懸念されています

「まぁ、俺はもうすぐ、あの世だから、知ったこっちゃないけど」とうそぶかれますが、在来種が消えてしまうことを、とても残念に思っているのがヒシヒシと伝わってきます。

このリストの品種に少しでも興味がある方は、ぜひ、山澤氏にご連絡ください。ご本人いわく「愛が欲しいので電話くれ」とのことで、「じじぃ、タネ残せ」の一言でも良いそうです(笑)

山澤清氏の電話番号は、08018478616 月・水・金・日の10:00~24:00と火・木・土の20:00~24:00が対応可能です。
(たぶん、メールが苦手)

もし、この1年の間に10万人の人が電話をくれたら「破棄は、とりあえず延期する」と話されています。
(以下略)
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Native Seed Travel 土遊農編
引用元)
(前略)
今まで育てた品種は600種類を越え、個人でシードバンクも保有する山澤さんだが、その自家採種は、並大抵のものではないと話していた。特に大根や蕪などのアブラナ科は、交雑しやすいため、様々な条件をクリアさせながら、種を繋いでいるという。

山澤さん
種採り農家で商売してる人は、まぁ居ないな
3〜5年くらいで交雑や忌地(いやじ=連作障害)でダメになっちゃうからな。毎年、種屋からわざと在来野菜の種子を購入してんだけど、3割くらいは交雑してる。
昔の農家は、蕪を100本植えたら、その中で20本ほど形の良い野菜だけ選別してきたんだ。混ざったものは売りものにして、形の良いものだけ種採りしてきたの
今のF1品種だって、8年くらい種採りして、大部分が同じ特徴が出たら、固定種になるんだよ。
それを繋いでいくのが伝承であり、地域の山奥などで受け継がれてきたのが在来野菜なの。」
(中略)
アブラナ科などの花は、「自家不和合性」という性質が働き、自分以外の花粉とだけ交配し、自分同士で交配しない仕組みになっている。 山澤さんのハウスでは、成長が早いものは茎を折って、生育を遅らせてるという。
(中略)
山澤さん「最初はアンポンタンでいいの。知識なんて、後からいくらでもついてくる。ただ、それを維持していくだけの”魂”があるかどうかが問題。そして、そこに”愛”が伴うかだよ。欲望が入ったらそれは儚くなる。人の欲が入り混じったらそれはおしまい。皆ね、そんな事は出来ないって言うんだけど、簡単に出来るんだよ。楽勝よ。(中略)
(中略)
これ、全部死ぬ時に燃やすの。今の世の中や現代人へ対してのペナルティ。だって残す理由がないんだもの。」

そう言って、はにかむ山澤さん。
山澤さんは、今、種がどんな状況に置かれているか、そして、これからどんな道を辿っていくのかさえも、おそらく理解しているのだろう。なにより、30年以上、種と真摯に向き合い努力してきた山澤さんに、そう言わせてしまう事を今を生きる現代人として申し訳なく思った。
大切に繋いできた種を、おそらく山澤さんは本当は絶やしたくない、いや、絶やしてたまるかとさえ思っているのだろうと思った

(以下略)
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【鈴木宣弘:食料・農業問題 本質と裏側】なぜ多様な農業経営体が大切なのか
引用元)
農業従事者の平均年齢が68.4歳という衝撃的数字は、あと10年足したら、日本の農業の担い手が極端に減少し、農業・農村が崩壊しかねない、ということを示しており、さらに、今、コスト高を販売価格に転嫁できず、赤字に苦しみ、酪農・畜産を中心に廃業が後を絶たず、崩壊のスピードは加速している。そういう中で、25年ぶりの農業の「憲法」たる基本法が改定されることになった。
(中略)
今、農村現場は一部の担い手への集中だけでは地域が支えられないことがわかってきている。定年帰農、兼業農家、半農半X、有機・自然栽培をめざす若者、耕作放棄地を借りて農業に関わろうとする消費者グループなど、多様な担い手がいて、水路や畔道の管理の分担も含め、地域コミュニティが機能し、資源・環境を守り、生産量も維持されることが求められている。短絡的な目先の効率性には落とし穴があることを忘れてはならない。
(以下略)

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