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ぴょんぴょんの「キツネ目の男(2)」 ~犯人グループは親族の6人、キツネ目は今なお健在

 グリコ・森永事件のつづきです。
 滋賀県警の本部長が焼身自殺したのが1985年8月7日。その5日後に、犯人はマスコミに宛てて、「くいもんの会社いびるの もお やめや」という犯行終結宣言を出しました。
 なんとその日は1985年8月12日。日航機123便の墜落事故の日だったのです。しかも、その123便には、脅迫されたハウスの社長も乗っていました。
 この偶然は巷でも騒がれましたが、どこを調べても、因果関係はないようです。
 しかしそれから、グリコ・森永事件の報道はピタリと止まり、犯人にとってはラッキーでした。
(ぴょんぴょん)
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ぴょんぴょんの「キツネ目の男(2)」 ~犯人グループは親族の6人、キツネ目は今なお健在

いくつかの「タブー」が折り重なった末に生まれた難事件


いったい、犯人はどんな人たちだったんだろう?

そこに行くまえに前回のおさらいをしよう、と思ったが、「みじんこでもわかる」わかりやすい動画を見つけてしまった。

グリコ森永事件についてわかりやすく解説します

これはたしかに「みじんこでもわかる」。


さて、事件のあらすじがわかったところで、本題に入ろう。まずは、「少年Aの物語」で参考にした「神戸事件を読む」で、グリコ・森永事件に触れてるところを読んでくれ。

〈世界に誇る優秀な捜査能力を持っているはずの日本の警察当局〉が、そのグリコ・森永事件を解決できなかった裏には、(中略)...グリコ・森永事件が〈いくつかの「タブー」が折り重なった末に生まれた難事件〉であったことだという。その〈いくつかの「タブー」〉とは、(中略)...〈警察内部犯行説〉である。(中略)...その根拠となったのは、〈警察情報が筒抜けなのではないかという疑惑(中略)...〉B元組長を取り巻く事件師グループの中に、(中略)...元警察官のZ氏がいたというのである。しかし、〈このZ氏についての捜査記録だけが、(中略)...ファイルから剥ぎ取られていた〉というのだ。しかも〈(中略)...Z氏が警察情報を収集したり、犯行計画を作成するなど、グループの中心的存在だった可能性が高いにもかかわらず、完全に捜査記録から抹消されている〉(中略)...〈Z氏ら真の「最重要参考人」のほとんどは、捜査当局から事情聴取された形跡さえない〉のだという。(神戸事件を読む189p〜191p)

へえ? グリコ・森永事件に、警察関係者が関わっていた?

しかも、警察はそれを隠すだけじゃなく、保護までしていたと言う。

それがホントなら、警察ってサイアク。

警察の情報が犯人に筒抜けだった酒鬼薔薇事件で、〈警察内部犯行説〉を疑っていた著者は、グリコ・森永事件も同じかも、と考えた。ただ、これを読んだ時は、グリコ・森永事件のこと、なんも知らんかったから、元警察官、元組長とか言われても、なんのこっちゃ?だったが、今なら少しは・・・。

あ! ぼく、わかるよ!

なんだと!? なんで、おめえにわかるんだ?

だって、わかるもん。そういうストーリーだったもん、映画。

映画?

そう、前回も話したよね。この映画は2020年に公開された、グリコ・森永事件を題材にした映画だよ。原作の小説「罪の声」は、2016年に発表され、発売2カ月で5万部を超えるベストセラーになったんだ。(現代ビジネス



グリコ・森永事件に関心あるヤツ、けっこういるんだな。

で、犯人グループ。ネタバレになるけど、話しても良い?

今んとこ見る予定はないから、話せ。

映画では、食品会社の脅迫事件を計画したのは一人の元刑事で、学生運動で過激派だった友人を誘うんだ。友人は、資本主義の象徴である大企業と戦うことに同意し、2人はメンバーを集めるんだけど、中には暴力団関係者もいて、おカネの問題で内輪もめが絶えない。そんな中、元刑事は暴力団の組長に殺されてしまう。

う〜ん、元刑事、過激派、暴力団組長・・まるで、グリコ・森永事件でささやかれる犯人説をごった煮にしたような設定だな。

へえ、そうなの?


8つの犯人像


一般的に言われている犯人像は、次の8つ。

1 元グリコ関係者説
2 株価操作説
3 被差別部落説
4 宮崎学(まなぶ)説
5 北朝鮮工作員説
6 産廃業者説
7 元警察関係者説
8 元暴力団組長グループ説

いっぱいあるんだねえ。


1 元グリコ関係者説

江崎社長誘拐の実行犯が、社長の長女を名前で呼んだこと、身代金要求の脅迫状で社長付き運転手も名指ししたこと、一般に知られないグリコの関連会社を知っていたことなど、江崎家やグリコの内部事情に通じていたことから生まれた説。(Wikipedia

でも、犯人は、江崎家の庭で張り込んでたんでしょ? それに、会社の中のことは四季報を見れば、誰だってわかるよ。

江崎グリコ本社
Author:Piyogoya0004[CC BY-SA]

2 株価操作説

グリコ、丸大食品、森永、その他の会社も全部、脅迫によって株価が下落した。それによって犯人は大儲けしたと言う。

わかった! 下落するのが見えてるから、その前に売っちゃった。

ブッブー! それじゃ、儲けになんねえよ。

じゃあ、どうしたの?

空売りだよ。

空売り?

たとえば、事件前の1984年1月、グリコの株価は745円だった。その時点で証券会社から、グリコの株を1000株を借りる。その借りた株をすぐに売ったら、いくらになる?

745✕1000=745,000円になる。

ご明算! つまり、手元に745,000円が入る。

それを、すぐ返すの?

まあ待て、ここからが大事だ。2月にグリコの社長が誘拐され、4月にグリコ工場の敷地内で放火事件が起きた。その結果、5月の株価は598円に下落した。さあ今、グリコの株を1000株買ったら、いくらだ?

598✕1000=598,000円。

よしよし、買ったばかりのグリコ株1000株を、今すぐ証券会社に返してこい。

はーい! 返した! スッキリしたー!

で、手元にいくら残った?

745,000-598,0000=147,000円! わあ、こんなに儲かった! しかも、コワいくらいカンタンに!

株価が下がることがわかっていたからな。

と言うことは、事件前に、誰がグリコの株を借りていたか、調べればわかるよ。

捜査本部もそこに目をつけた。そして、いくつかの不審な売買が行われていることを確認したが・・。

犯人はつかまらなかったんだね。


3 被差別部落説

犯人からの脅迫電話のテープ録音に、革製品ミシンの音が入っていたことがあった。

ミシンの音だけで、被差別部落ってわかるの?

ふつうのミシンじゃない。被差別部落の人々が多く従事している、革製品加工のミシンの音がしたからな。

なるほど、それで、被差別部落が疑われたんだね。

実はグリコは、今回の事件の6年前、1978(昭和53)年にも「菓子に青酸を入れる」という脅迫テープを送られていた。これは「53年テープ」と呼ばれている。

53年テープ?

1978(昭和53)年、グリコに金を要求するテープが送られた。テープでは、部落解放同盟を名乗る男性が、過激派学生による江崎氏の誘拐、グリコへの放火、青酸入り菓子のばらまきなどの代わりに、3億円を要求した。しかし、グリコは応じなかった。Wikipedia

おどろいた! まったく事件と同じシナリオだね。だから、映画でも元過激派学生が犯人の一人として登場してたのか。

部落解放同盟の旗
Wikimedia_Commons[Public Domain]

4 宮崎学(まなぶ)説

こいつは、キツネ目の似顔絵に似てるってだけの話で、飛ばそうかと思うが。

聞きたい、聞きたい。

評論家でノンフィクション作家の宮崎学氏は、キツネ目に酷似していること、過去にマスメディアを操作して警察と敵対したこと、借金を抱えていたことから、犯人として疑われたが、アリバイもあり、物証もなかったことから捜査対象から外れた。

でも、疑われたワケわかる。両親がすごい。「京都・伏見の暴力団寺村組の初代組長を父に、大阪・釜ヶ崎の博徒の娘を母に持った、4人きょうだいの末子である(Wikipedia)。」 


5 北朝鮮工作員説

ひょっとして、キツネ目さんは北朝鮮の人?

・・と聞かれて、ジャーナリスト岩瀬氏は「日本人」と答え、こう話している。

日本最大の未解決事件 グリコ森永事件の真相/誘拐 毒入り菓子で脅迫/障害児使い金銭要求/ジャーナリスト岩瀬達哉
YouTubeより

北朝鮮スパイ説があるが、全然関係ない。栗東で犯人が乗り捨てた車の中に、バッグがあり、その中にアルミの削り片とか、ELというパネルの削りカスが残っていた。栗東の近くでこういう物を扱える人は? NECからELなどの廃品を回収する業者。その人は在日の北朝鮮出身者だった。その人の親族を調べていくと、犯行現場になった大同門という焼肉屋の役員がいた。そこから出た話。(YouTube 40:53〜) 

ELってなに?

エレクトロ・ルミネッセンス。この後の「産廃業者説」で詳しく話す。


6 産廃業者説

前にも話したように、犯人は滋賀県で、滋賀県警のパトカーとカーチェイスをした末、ライトバンを乗り捨てた。その車は盗難車だったが、車内から微量の金属粉が採取された。
この動画でインタビューを受けている岩橋達哉氏の著書、「キツネ目」にはこう書いてある。

微物は、車に残されていた布製のバッグの中に付着していたELとアルミの削りカスである。ELはパソコンのバックライトなどに使われる特殊なパネルで...(後略)(259p)。
当時、EL(有機EL)は、大津のNEC大津工場でしか作られていないとされていた。
(中略)...NEC大津工場を管轄下に置く滋賀県警は、まず、同工場に出入りしていた廃品回収業者を洗い出し...(後略)(261p)。

犯人は、NEC大津工場に勤めていた?

いやいや、犯人じゃなくて、盗難車の持ち主だ。そいつが、大津工場に出入りする廃品業者だったかもしれないってこと。

なんだ、てっきり犯人が産廃業者かと思ったよ。

さらに言うと、在日の北朝鮮出身者だったのも、盗難車の持ち主であって、犯人じゃない。だから「日本人」だと、岩瀬氏は言っている。


7 元警察関係者説

これが、映画の設定になってたんだよ。

警察内部の事情が、あまりにも漏れすぎることから生まれた説だが、もともと大阪府警は、内部情報が外に漏れるので有名だったそうだし、犯人は警察無線を上手に傍受していたらしいから、どうかな?

大阪府警察本部本庁舎

8 元暴力団組長グループ説

ここまでの説はどれもいまいちだったから、これが本命?

1990年頃から、警察が目をつけたのが、暴力団元組長の実業家を中心とするグループ。元組長は1979年、グリコから5億円を脅し取ろうとして拒否された過去があること。元組長の銀行口座に、被害企業関係者から3億円の入金があったこと。犯行に使われたのと同種の和文タイプライターを持っていたこと。タクシー払い下げ車輌を親族が所有していたこと。グリコに恨みを持つ人物が周辺にいたこと。そしてさっき話した、53年テープに登場する被差別部落と接点があること、などが疑惑の根拠となった。だが、捜査は空振りに終わった。Wikipedia

はあ〜、こんなに、当てはまっているのに?

それがだな、元組長の血縁者を名乗る人物から、この動画宛てにメールが届いたそうだ。

【グリコ森永事件】黒幕と疑われた人物の血縁者より情報提供がありました
YouTubeより

わお! つい3年前だって?

「K元組長の血縁者からのメール」は28:27から。事件の約10年後、メールの主は元組長に「グリコ・森永事件の本に名前が出てたよ」と言った。すると「今、毎月20億からのお金を儲けている。わざわざそんなことする必要はない」という返事が返ってきた。他の親族も疑いの目を向けていたし、被差別部落(同和団体)とのつながりもあったし、産廃業もやっていた。この人物は言う。「K元組長が関わっていて何ら不思議ではないと考えています。」(YouTube

やっぱ、元組長が一番怪しいよ。映画でも、元組長がボスで、メンバーはバラバラで、おカネの分配でもめて、しまいに殺人まで起きてたし。


キツネ目を主犯とする犯人像


だが、実際の犯人グループは仲良しなんだぞ。なんたってリーダーがしっかりしてるからな。

キツネ目さん?

そう。彼が全ての計画を練り、全ての脅迫状を書き、全ての現金受け渡し現場に足を運んでいた。

頭が良くて、有能で、体力のある人なんだ。

岩瀬氏は言う。

犯人は6人、それ全部家族、そこまでわかってるんだよ。キツネ目(主犯格)、奥さん、ビデオの男、ニキビ顔の男、女の子ども(録音テープ)、もう1人言語障害の子。江崎社長を拉致したのは、キツネ目とニキビ顔の男。YouTube 12:20~ )

YouTube 15:30〜より

へ? ここまでわかってるの? そうか、みんな身内だからバレないんだ。

一度、言語障害の子のテープが使われたことがあった。このテープを公表すれば、どこの誰かバレていただろう。だが、障害者差別につながるので反対された。

それはそうだけど、子どもを使うなんて・・。映画も、声を使われた子どもたちの末路がテーマなんだよ。

だから、映画のタイトルが「罪の声」なのか。キツネ目は頭は良いかもしれないが、そういう神経は鈍いのな。

その子たちが大きくなって、自分がこんな大事件に使われたと知ったら?

キツネ目夫婦、ふつうの感覚の持ち主じゃないかもな。ちなみに、警察が突き止めたところによると、キツネ目夫婦は美術関係の仕事をしていたそうだ。

へえ? どうしてわかったの?

菓子のセロハンを開けるテクニックだよ。岩瀬氏は言う。

セロハンというのは、カッターで開けようとしても必ず破れるし、蒸気で開けようとすると、伸びたり縮んだりして閉まらなくなる。シンナーで溶かして開けようとすると、箱の印刷まで消える。「リムーバー」という剥離剤で開ける。これは美術関係者が必ず使う常備品なんだよね。(中略)...ボールペンじゃない。ロットリングという製図用の特殊なペンを使って書いている。この2つから、警察は美術関係者と特定。YouTube 37:47〜) 

ロットリング
Author:J. C. Barros[CC BY]

警察もやるじゃん。

だが、この線は逮捕に結びつかなかった。それより警察は、もっと大事な点を見落としていた。濃塩酸だ。

なんでも溶かしちゃう、濃塩酸?

ああ、この事件は青酸ソーダばかり目立っているが、最初のころ犯人は、脅迫文に「塩さんで かお あろうたれ」「塩さんの ふろ よういした」と書き、グリコに濃塩酸を入れた目薬容器まで送りつけた。そこで、濃塩酸と青酸ソーダと来れば、何だ?



どっちも、メッキ工場で使われる薬品なのよ。しかも、青酸ソーダは固体だが、濃塩酸は液体で扱いにくいため、経営者じゃないと持ち出せない。

と言うことは、犯人グループにメッキ工場の経営者がいるってこと?

そういうこと。岩瀬氏は「事件当時、濃塩酸を使っていたメッキ工場が怪しいYouTube 51:27〜)」と言う。

Wikipedia[Public Domain]

そこを洗っていけば、犯人にたどり着けたかもしれない。

警察が気付いていたら、な。

こうして見ると、岩瀬氏の推理が一番スジが通ってるみたい。

暴力団の元組長は、どっかに消えちゃったな。

でもさ、犯人グループって、おカネの受け取りに成功したことないよね。結局、彼らはおカネを受け取れなかったの?

いやいや、カーチェイスで冷や汗かいたキツネ目は、架空口座に振り込ませる作戦に変更したらしい。岩瀬氏はこう言う。

(企業は)お金はけっこう払ってるみたい。複数の企業が身代金を払ってる。取れなかったんじゃないの、ちゃんと取ってるの。(中略)...確実に払わなかった企業は2社ある。森永とハウス食品、ここは払ってない。(YouTube 9:53〜)。

なんだ、あとはみんな払ってたのか。

なんたって、食品会社だからな。「青酸ソーダを入れてばらまくぞ」って言われたら売れなくなる。岩瀬氏は言う。

だったら1億で済むんだったら、払おうって話になってくるわけ。(中略)...ただの粗暴犯じゃなくて非常に計画的に、ミステリー作家並みのトリックを考えたり、警察を出し抜く、そういう準備をしてるわけよ。(YouTube 11:09〜)

そうなると、彼らは一生困らないだけのおカネは持ってるってこと?

ああ、そうなるな。

今、キツネ目が生きていたら、70代? まだ生きてるのかな?

岩瀬氏は、確実に生きていると言う。(YouTube 48:48〜) 

まるで岩瀬氏は、犯人が誰かまで知ってるみたいだ。

だが、どんなにカネがあっても、ビクビク暮らす人生なんてつまんねえよ。

(おしまい)

Writer

ぴょんぴょんDr.

ぴょんぴょん

1955年、大阪生まれ。うお座。
幼少期から学生時代を東京で過ごす。1979年東京女子医大卒業。
1985年、大分県別府市に移住。
1988年、別府市で、はくちょう会クリニックを開業。
以後26年半、主に漢方診療に携わった。
(クリニックは2014年11月末に閉院)
体癖7-3。エニアグラム4番(芸術家)


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