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前例のない学校給食に挑戦
オーストラリアの娘家族が夏休みを利用して1ヵ月間帰ってきました。
娘のパートナーはシェフでしたが小学校の先生になるために大学に入り直しました。でも、コロナ禍で実習の授業ができなくなり、おまけに半数近くいた海外からの留学生も帰国したまま戻れなくなって大学自体が大変な状態になりました。
その間、授業がないので生活のために私立高校の寮の料理長になりました。その仕事ぶりが認められて去年できた公立小学校の給食の料理長に抜擢されたのです。シェフを辞めて小学校の先生を目指していたのになぜか小学校のシェフになるという思いもしない展開になりました。
さて、オーストラリアは学校給食がありません。孫も毎日お弁当を持っていきます。もちろんパパの手づくり弁当です。休みの日に息子と一緒におかずを作り置きしているようです。パートナーは家の食事も楽しそうに作るので、本当に料理が好きなのでしょう。
その公立小学校は新しくできたユニークな学校です。校長先生は40歳。フィンランドの学校給食制度に感銘を受けて立ち上げた小学校だそうです。
フィンランドでは第二次世界大戦が終わった後の1948年から小学校前のプレスクールから高校までの学校給食が始まりました。「よい給食は未来への投資」というコンセプトのもと学校給食無料化が法律で決められました。ベジタリアンやビーガンへの対応もしているそうです。
その校長先生と意気投合した娘のパートナーは初めての学校給食に挑戦しています。小さな学校で生徒は150人。先生が30人。フィンランド方式で校長先生も含めて全員が食堂に集まってテーブルを囲んで食べます。全員が一緒に食べるというのも初めての試みだそうです。
何と給食だけではありません。10時にモーニングスナック(フルーツ)を教室で食べて、11時半にランチ、14時にアフタヌーンスナック(手作りケーキ)を提供するそうです。全て手作り。
給食費は一日5ドル。足りない分は寄付で賄っています。まだフィンランドのように国の政策で無料にする段階ではないので一週間25ドルを保護者が払っています。でもオーストラリアの物価を考えると家で作るより格安で安全でおいしい給食が食べられるので保護者には人気です。この学校を選んで引っ越して来る家族も増えたそうです。
給食を作るスタッフは7時に出勤します。パートナーのほかに助手が2人です。年に1回、生徒たちにメニューの希望を聞きます。そして3週間分のメニューを決めながら作っているそうです。
土日は休み、夏休みなどの長期休暇もありますが朝6時に家を出て8時に帰宅というハードな毎日です。前例がないので食材集めも苦労しているようです。食育のために学校の庭でハーブや野菜も作り始めました。
全て試行錯誤ですが、オーストラリアの学校で給食を始めるというチャレンジをしているのでやりがいを感じているようです。
日本の学校給食現場と実情
という事で、せっかく日本に来たので日本の学校給食現場を視察したいと、教育委員会に申し込みました。日本の学校給食は民営化が進んで給食センターで作るところが増えましたが、娘の母校はかろうじて自校で作っています。
事情を話したら栄養教諭の先生方が時間を作って丁寧に説明してくれました。
まず、質問状を出しました。
1.生徒からのフィードバックや特別な料理のリクエストに対応する仕組みはありますか?
2.献立作成の際、生徒の満足度を考慮していますか?
3.生徒の満足度をモニタリングするための仕組みはありますか?
4.食品ロスを監視するためのしくみはありますか?又食品廃棄物や余った食品はどのように処理していますか?
5.全ての料理は提供当日に調理していますか?それとも、厨房スタッフの負担軽減や時間節約のための下ごしらえや事前準備の方法がありますか?
6.アレルギー、または文化的・宗教的な食事を含めて生徒の食事制限にはどのように対応していますか?
7.食物アレルギーまたは文化的・宗教的な食事制限を持つ生徒の数に変化は見られますか?
8.食事プログラムが生徒のウェルビーイング(個人の権利や自己実現が保障され、身体的、精神的、社会的に良好な状態にあること)や学業成績に与える影響について、把握していることはありますか?
というものでした。娘の母校は生徒172人、職員27名です。調理員は4名、栄養教諭が1名です。
パートナーは給食を作っているところも視察したかったのですが、それは認められませんでした。日本の学校給食の規制が厳しくて、2週間以内に検便をして陰性でなければ調理場に入れません。調理員は月に2回検便(サルモネラ・赤痢・O157)をします。海外旅行に行ったら申し出て帰国後に検便しなければいけないそうです。
その上、給食を作って2時間以内に食べなければいけないので残念ながら試食も叶いませんでした。
まず、学校給食の目標と基準を教えていただきました。
目標
①栄養のバランスを第一に
②給食が食事のお手本となるように
③準備・配膳・片付けで協力する
④命への感謝(残食)
⑤給食に関わる人への感謝(生産者・栄養士・調理員・ドライバー)
⑥日本・世界の食文化を伝える
基準
学校給食実施基準により年齢別に生徒一人一回当たりの栄養摂取基準が細かく決められています。
献立年間計画も栄養価・食材・金額・アレルギー対応・調理の作業量などを考えて作成しているそうです。一方で、お楽しみ企画として卒業を控えた生徒にアンコール給食を出したり、クリスマスなどの時期にデザートを選ばせたり、世界の料理も積極的に作っているとの事。
又、学校給食は法律で衛生管理基準が決められていて、食中毒を起こさないために明確な根拠のもとに作成されています。
業者が食材を搬入する時も調理場の外で受け取ります。種類、重さ、鮮度を確かめて、食材ごとに使い捨てのエプロン、マスク、手袋を変えます。特に肉や魚の場合は窓口も別で温度も測ります。ちなみに手袋の色は青。青い食品がないからだそうです。
野菜の洗い方も3槽シンクで流水・オーバーフローしながら3回洗います。原則、食材は加熱調理です。中心温度が75度で1分以上加熱。全ての工程で温度と時間を細かく記録しています。生野菜は出せないのでキュウリも茹でて真空の急速冷却器で冷ましてサラダを作るそうです。前日調理は行わず、全てその日に調理場で作っています。
但し、調理作業の軽減のために冷凍野菜はボイルパックを使い、肉や魚はカットされた状態で当日納品します。特に肉・魚は調理場で切らないそうです(サルモネラ菌対策)。
そして、すべての材料や調理したものを50グラムずつ取り分けて-20度で2週間保存するそうです。これは食中毒の際に検証するためです。
調理員は午前中だけで20回以上は手を洗うそうです。機器や包丁・まな板・食器類の洗浄消毒も徹底しています。
食品ロスをなくすために野菜の廃棄が最小限になるように注文します。残菜は学年ごとに細かく測られていました。残菜や余った食材も食中毒予防のために持ち帰り不可。給食センターでは肥料にリサイクルしています。
我が町の食物アレルギーの対応は
1)本人が食べない
2)家からおかずを持参(除去が難しく、食べられないと給食の量が著しく少ない場合)
3)給食室でアレルゲンを除去して提供4)アレルゲンを除去すると、味が付かないため調味料を持参する
だそうです。その際、医師の診断による学校生活管理指導表を付して保護者からの申請に基づき対応方法を決定します。市町村によって対応が違いますが、我が町の対応品目は卵・乳製品・魚介類、種実類の4品目で、調理の段階で除去するそうです。
アレルギー対策に関して、除去食対応だけでは栄養が足りないかもしれません。孫も重度の乳製品アレルギーですのでメイン料理を除去されておなかがすくと言っていました。他の市町村では代替食を用意しているところもあるそうです。
対応食の出し方も生徒が間違えないようにお盆の色を変えたり、受け渡しチェック表を渡すなどの工夫がされていました。この3年間で12人増えたそうです。
宗教食対応はしていないので、該当者は事前に配布した献立表を見て自分で食べないように管理する必要があります。家からおかずを持参するのは可能です。ちなみ献立表は細かく材料や調味料が書かれていました。ただ、外国人が増えたので今後は対応する方向で考えているそうです。
お話を聞いて、安全・衛生管理の徹底ぶりに驚きました。これを毎日守っている調理員さんのご苦労と、栄養教諭の大変さがわかりました。とにかく学校給食で食中毒や事故を起こさない為の努力が半端ない。保護者や生徒はこの状況を知っていますか?と聞いたら伝える機会がありませんと言われました。
以前、教育委員をしていた頃、学校給食を地産地消で安全なものにしてほしいと意見を出しましたが、この条件に合う食材の安定供給が難しくて実現しませんでした。泥付きの野菜は厳禁。価格の問題もあったようです。
地産地消やオーガニックの給食が進まないのはこれらの縛りがあるからでしょう。でも、子どものために良い給食とは何なのでしょうか?
最近、ウズラの卵を食べて死亡するという痛ましい事故がありました。それ以来ウズラの卵やミニトマトは姿を消しました。食材の大きさや弾力も問題視されるようになりました。魚の骨も最初から除去です。
事故が起こらないように対処するのは大事ですが、その前に慌てて食べない事、食べ物を見てよく噛む事を子ども達に教えなければいけません。
食べることは命を繋ぐこと
さて、オーストラリアは人種のるつぼなので、パートナーの小学校は43か国の子どもが通っているそうです。ベジタリアンやビーガンはもちろん、アレルギーや文化・宗教的に食べられないものもがたくさんあります。特にイスラム教のハラルフード(豚は厳禁。鶏と牛もイスラム教に則った処理法をしたものに限られる)は気を使うそうです。仕入れる業者を探すのも一苦労。
食中毒に関しては日本ほど厳密にしていないようで、1ヵ月に2回の検便には驚いていました。学校給食も一般のレストランの安全基準で作り、生野菜も出しているそうです。調理の温度に関しては厳密にしているそうです。
安全でおいしいのはもちろん、栄養のバランスを考えながら様々な国の料理にも挑戦しています。そして、みんなで楽しく食べる事を大事にしているそうです。ちなみに、食べ物の味をおしゃべりしながら食べると味覚が育つと言われています。
実は、オーストラリアの校長先生から日本の学校給食が『生徒のウェルビーイングや学業成績に与える影響』についての研究があったら是非教えてほしいと頼まれたそうです。
それに関して、日本女子大学の「小学校高学年児童における学力と体力。食習慣との関連」という論文で学校給食にも関連づけて調査されていることを教えていただきました。
その論文によると、給食をいつも残さずに食べている者や給食の時間が楽しいと回答した者は学力低値群に比べて優位に高値を示すという結果が得られたそうです。又、QOLが高いことも示されたそうです。
校長先生は州や企業に働きかけて学校給食の意義を認めてもらい、寄付を増やして他の学校にも広めていきたいと思っているそうです。先日はテレビや新聞に載って話題になったばかりです。
日本では貧困家庭が増えて、学校給食が命の綱になっている子がいます。無償化も進んでいます。フィンランドでは子どもは親の収入や家庭状況に振り回されることなく安心してご飯を食べる権利が保障されています。だから何らかの理由で学校に行けない子も自由に給食だけ食べに行ける制度があるそうです。
日本でもコロナ禍で休校になった時、逆に家に居ることの方がコロナより危険であると判断した子どもに学校に弁当を取りに来るようにした自治体がありました。スクールソーシャルワーカーの先生が「学校の校庭で生徒と一緒に弁当を食べました」と話してくれました。
今、戦争でどれくらいの人が一日1食も食べられない状況にいるのでしょうか?胸が痛みます。逆に何でも食べられる環境にいる私達は毎日誰とどんなものを食べているのでしょうか?
食べることは命を繋ぐことです。食材も命です。衛生管理はどこまで何のためにするのでしょうか?作り手の喜びは?食べる幸せは?波動は?邪気は?・・・もう一度「いただきます」の原点に戻って考えたいと思いました。
毎年恒例の家族で味噌づくり
畑で食べる団子汁は最高!






昨日、畑の草取りに行きましたが、あぜ道にオオイヌノフグリやほとけの座、タンポポが咲きほこり、ひばりが鳴いていました。帰り道につくしを摘んで春を頂きました。
同じ時間に爆撃を受けている人々がいるのを知っています。辛いです。だからこそ、この平和な時間がいつまでも続きますようにと祈らずにはいられません。