マネー資本主義から里山資本主義へ 地方再生に必要なのは金融システムの根本的転換 

竹下雅敏氏からの情報です。
 里山資本主義の仕掛け人は、現在、NHKエンタープライズ プロデューサーの井上恭介氏のようです。リーマンショックを契機として、マネー資本主義を検証する番組制作の中から、アメリカ型資本主義経済に疑問を感じ始めたということです。東日本大震災直後に広島に赴任し、広島を中心とした中国地方のあちこちで、里山の豊かさに気付いたということです。
 文中、“ここには何もない”という言葉があります。過疎で悩む地方の人々は、自分が暮らす所をこのように感じているのかも知れません。しかし、私は何回か講演で東京に行ったのですが、いつも東京で感じたのが“ここには何もない”でした。要するに、価値観の相違があまりにも大きく、東京という巨大な都市は私の肌に合わなかったのです。うちの息子が中学の修学旅行で東京に行き、ディズニーランドも見て帰って来ました。息子に感想を聞くと、“ディズニーランドはとても良かった。一度行ってみる価値はあるところだ”と言っていました。ただその後、“もう2度と行く必要の無い所だ”とも言っていました。“東京の修学旅行はとても面白かったけれども、帰って来て、福富町がどれだけいい所かよくわかった”ということをクラスの皆が口々に言っていたそうです。この言葉を聞いて、子供たちの感受性が非常にまともであることに安心しました。
 ミュージシャンとして成功している人たちの中には、結構沖縄出身の人も居るだろうと思います。そういう人たちは、将来生まれ故郷に戻りたいと思っているのではないでしょうか。それは、自分の暮らしていたところがとても美しい所だからなのです。
 何故東京に出て来るのか、簡単に言えば、社会的成功のため、お金のためだと思います。田舎で十分に豊かな暮らしが出来るならば、都会に人口が集中することはないでしょう。
 しかし美しい町づくりのためにも、地方にお金が回るようにしなければなりません。現在の金融システムの問題点は、地方の預金が中央に集まってしまうことです。人々がもっと信用金庫に預金をすれば、お金は地元に再投資されるのですが、大手銀行に預ける人が多いので、大都市ばかりが、する必要の無い再開発にお金を投じています。
 この意味でも、金融システムを根本的に転換しなければ、地方の再生はあり得ません。地方自治体が自由に使えるお金を増やすのはもちろんのこと、地方でお金を循環させる仕組みが必要なのです。
 過去の歴史を見ても、不況の切り札と言えるのは、地域通貨でした。例えば、中国地方のいくつかの県が、その地域で使える地域通貨を流通させることで雇用は拡大し、景気が回復します。どうも、こうした地域通貨を中央銀行はことさら嫌うようで、大成功となった地域通貨を中央政府が強制的に廃止させるということを繰り返して来たようです。
 こうした事がらは、本来金融システムはどうあるべきなのかを考えさせます。銀行が民間のものであるとすれば、巨大な銀行へと集約されるのは、多くの国民にとって不幸なことです。このことは、銀行の統廃合が進んだ現状を見れば明らかだと思います。加えて、中央銀行は国有化すべきだと考えます。中央銀行が特定の一族によって支配されているなどという現状は、あってはならないと思います。彼らは無からお金を生み出すことで、意のままに政府を自分たちの望む方向に動かすからです。
 こうした根本的な議論無しに、地方の再生をその地方に住んでいる人たちの努力と責任にしてしまうのは、酷なことだと思うのです。
(竹下雅敏)

注)以下、文中の赤字・太字はシャンティ・フーラによるものです。

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井上 恭介さん(NHK報道局 報道番組センター社会番組部チーフ・プロデューサー)
引用元)
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“お金で買えない価値”を発掘し
ひろしまの豊かさ、魅力を届けていこう


<プロフィール>
井上 恭介(いのうえ きょうすけ)さん

NHK報道局 報道番組センター社会番組部チーフ・プロデューサー。

(中略) 

平成20(2008)年に起こったリーマンショックをもとに、マネー資本主義の歴史と背景を検証する番組のプロデューサーを担当しました。金融危機はなぜ起きたのか、巨大マネーはいかにして膨らんだのか、ウォール街など現地に足を運んで徹底的に取材を。そこで感じたのが「マネーでマネーを増やしていくことで本当に幸せなのか?それで豊かといえるのか?」という疑問です。また、東京で東日本大震災も経験。電気が止まり、一点集中型都市構造のひずみ、アメリカ型資本主義経済のもろさを肌で実感しました。
こうした経験直後の平成23(2011)年に、私はひろしまへもう一度やってくることになったのです。家族とともに赴任し、平成26(2014)年6月に異動となるまで3年間、ひろしまで取材班のチーフ・プロデューサーとして働いていました。

当時、さまざまな疑問を胸に抱えていた私は、一度目では感じなかった、真の豊かさへつながる“芽”が、ひろしまを中心とした中国地方のあちらこちらにあることに気づきました。ならばと、面白い取り組みをされている方々へ直接会いに現地へ。地域エコノミストの藻谷浩介氏にナビゲーター役をひきうけてもらい、里山の生活を取り上げた番組を、1年半放送させていただきました。そこで生まれたコンセプトが「里山資本主義」です。つまり、ひろしまが里山資本主義の発祥の地、原点なんですよ。

(中略) 

 過疎化が進む中山間地域へ足を向けると、地域の人々は「ここには何にもない」と口をそろえて言います。それは、東京と比べて、ビルがない、地下鉄がないという「何もない」であって、東京にはない“豊かに木が茂った山”があり、“美しい清流”が「ある」のです。

(中略) 

あるものを「豊かだ」と言っていくことがはじめの一歩になると私は考えています。

(中略) 

お金持ちが経済を動かして貧しい者にその恩恵がゆっくり降りてくるのを待っている“トリクルダウン”のような状態を打破したいと思いませんか。地方創生は、待ちから攻めへ!

(中略) 

 新しく価値あるものを見出そうとするならば、ぜひ昔からある“常識”をチェックし直してみてください。例えば、カキ。東京でも広島産のカキのむき身はさまざまなスーパーで購入できます。でも殻つきは見かけることは、ほとんどかきありません。殻つきのまま網に乗せて焼くことは、とても珍しいことなんです。多くの都会の人は、そこに価値を感じます。

128840このようにひろしまには、埋もれたままの宝の山がいっぱいあります。「里山資本主義」は、マネー資本主義を否定するわけでも、田舎での暮らしを推奨するわけでもありません。里山にはお金に換算できない価値があることを知り、そのうえで、自分の人生に適する割合で取り組んでいくことを指しています。都会で暮らす人に、取り入れたい、体験したい、と思われるような宝を発掘し、活かし、届けることで、双方にとってより豊かな生活を実現できるようになることを私は願っています。

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