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ユダヤ問題のポイント(近・現代編) ― 外伝22 ― 薔薇十字の果たした役割
キリスト教抹殺が目的の古代メーソン ~「秘密の力」の儀礼が現在のフリーメーソン儀礼
『ヘロデの呪い』によると、イエス磔刑後も勢力を伸ばすキリスト教を抹殺する目的で、ヘロデ・アグリッパ王と宰相ヒラム・アビウデを中心に、9名のメンバーで古代メーソン「秘密の力」が結成されます。紀元43年創設の「ユダヤ教とユダヤ民族を守るため」との建前による秘密組織です。
総合的に見て、彼らが一体というか気脈を通じていたのは、イエスが「蝮のすえよ」と呼び捨てたパリサイ派です。彼らには、イエスに対して「ペテン師」と呼び捨て非常に強い憎悪と敵愾心があったこと、そしてイエスの磔刑の殺害に関わっていたであろうことも『ヘロデの呪い』から窺えます。
さて、彼らはキリスト教を抹殺する目的で創設した「秘密の力」の実態を秘匿するため、様々な隠蔽工作を施します。紀元43年に創設した「秘密の力」の創設をソロモン神殿の完成時に見せかけようと、ソロモン神殿建設の偉大な建築家棟梁「ヒラム・アビフ」なる人物をでっちあげます。そしてそれに関わる(定規やコンパスなどを用いた、下らないイミテーションの)様々な儀礼を設けます。
セント・ジョンズ教会のヒラム・アビフ
Author:Wolfgang Sauber [CC BY-SA]
ところが、それらの隠蔽工作の多くが、現在のフリーメーソンにそのまま繋がる儀礼となっているのです。そしてそれらの儀礼の中心は、「死と再生」の儀式だといってもいいでしょう。つまり、この当時ではミトラ教で盛んに行われていたであろう「死と再生」の儀礼を彼らは良く解っていたということです。
ただ、これはある意味当然かも知れません。当時の「紀元1世紀ごろのアレクサンドリアは秘儀活動のまさに温床で、そこではユダヤ教やミトラ教、ゾロアスター教、ピュタゴラス派、ヘルメス思想、新プラトン学派の教えが蔓延し、そのほかの無数の思想と結びついていた。」(『レンヌ=ル=シャトーの謎』146頁 )状況だったのです。
「ユダヤ教を守る」を建前とした「秘密の力」のメンバーも、アレクサンドリアとは繋がりが深かったでしょうし、そこでミトラ教などとは接触していた筈だからです。
ともあれ、ここに近代フリーメーソンに繋がる主源流の組織「秘密の力」が、9名の創設メンバーで紀元43年に結成され活動を始めたのです。
そしてもう一つの主源流が、テンプル騎士団の流れとなる、紀元46年に7名の創設メンバーで結成された「オルムス派」です。
近代フリーメーソン結成は紀元1717年です。「秘密の力」が紀元43年、「オルムス派」が紀元46年、奇しくも異なった2つの源流がほぼ同時に起き上がり、それが約1700年後に合流し近代フリーメーソンとなったわけです。
「秘密の力」と「オルムス派」の流れの共通項 ~クムラン宗団の内紛
「秘密の力」はキリスト教抹殺を目的とした秘密組織です。一方「オルムス派」は、原始キリスト教会の聖マルコから、アレクサンドリアの宗教者オルムスが洗礼を受けて出来上がった秘密・伝授者宗団です。
従って近代フリーメーソン発足への源流となったこの2つの組織は、元来敵対関係にあるはずなのです。
事実、これは後述しますが、「秘密の力」は組織された「表のイルミナティ」の支配者となります。一方オルムス派からの流れであるシオン修道会と悪魔主義でないテンプル騎士団は、ハイアラーキー組織に所属していたでしょう。
そして悪魔主義となったテンプル騎士団は、ハイアラーキー組織内の闇組織「裏のイルミナティ」に取り込まれています。
それぞれが命令指揮系統の異なる別組織であり、もとの「秘密の力」と「オルムス派」を源流とした流れは、基本的に敵対関係にあるのです。
ところが、この水と油の関係の組織が現実に合流したのです。なぜか? 水と油の関係ながらも合流する下地もあったのです。
洗礼者ヨハネ、マグダラのマリア、イエスたちが所属したクムラン宗団、別名はエッセネ派、エルサレム教会、原始キリスト教会です。
実はこの集団の中に内紛があったのです。イエスは洗礼者ヨハネとは弟子の関係なのですが、マグダラのマリアとの関係を巡り、洗礼者ヨハネはイエスを嫌悪し、両者は反目し合う関係になっていました。その状況下でクムラン宗団を率いていた洗礼者ヨハネは捕縛され斬首されたのです。
洗礼者ヨハネ斬首後に、イエスはクムラン宗団を乗っ取る形で掌握します。当然ながら洗礼者ヨハネを信奉していたグループは反発し、ヨハネ派はイエスの一派と袂を分かつのです。
聖マルコのクムラン宗団内での立ち位置は不明です。しかし、聖マルコが洗礼を施したオルムスの秘教組織が、イエスではなく洗礼者ヨハネとマグダラのマリアを崇拝していたのは明瞭です。
洗礼者ヨハネとマグダラのマリア
Wikimedia Commons [Public Domain]
オルムス派がシオン修道会、そしてテンプル騎士団に移行しているのですが、シオン修道会の初代総長は洗礼者ヨハネです。そしてシオン修道会の象徴が五弁の薔薇であり、これは同時にマグダラのマリアを表現しているのです。
テンプル騎士団は、その入会時にイエスを愚弄する作法の実施が義務づけられていたことが種々報告されています。
オルムス派の流れは明らかに「反イエス」なのです。この点で別組織ながら「秘密の力」と相通ずるのです。そして後年「秘密の力」から移行の組織メンバーがどうも「オルムス派」に接触、少なくとも接触を求めていたと見受けられるのです。
「秘密の力」と「オルムス派」合流の鍵 ~薔薇十字のグノーシス
2014年5月の竹下さんの解説によれば、「表のイルミナティ」を支配するのがゾロアスター13血流で、その上位の9家系こそが「秘密の力」創設メンバー9名の子孫とのことです。
となると、地上の「表のイルミナティ」を支配するのが「秘密の力」の子孫となります。
さて、その「表のイルミナティ」の地上組織の中心にあるのが「黒い貴族」の「カナン族」です。「カナン族」の本拠地がヴェネチアでした。
既に外伝9で記した内容ですが、このヴェネチアの象徴が「ヴェネチアン・ライオン」で「ヴェネチアン・ライオン」はヴェネチアの守護聖人の聖マルコを表現。「823年にベネチィアの商人が、アレクサンドリアから聖マルコの遺体を持ち帰った」のをきっかけに、その銅像が設置されるようになったのが12世紀です。
サン・マルコ広場の聖マルコのライオン
Author:jeffwarder [CC BY-SA]
オルムスに洗礼を施した聖マルコを、「秘密の力」からの流れである「カナン族」が自分たちの本拠地の象徴とし守護聖人としているのです。
この点から「カナン族」が「オルムス派」に接触していた、もしくはそこから何かを得ようと求めていたことが察せられます。求めていたのは何か?
「黄金薔薇十字に象徴されるオルムス(光の原理)」、つまりグノーシス(英知)でしょう。
薔薇十字のグノーシスとは、実は「聖婚儀礼」であり、性錬金術の技法です。聖マルコを通じてオルムス派との関連がありか? 少なくとも彼ら「カナン族」が「聖婚儀礼」を奉じている傍証があります。
ヴェネチアン・ライオン銅像設置期の12世紀が発祥、現在も2月末から3月初めにかけてサン・マルコ広場を中心に盛大に行われている仮面舞踏会のヴェネチアン・カーニバルです。
pixabay [CC0]
「聖婚儀礼」を知っていれば、この祭典は古代メソポタミアで国家事業として行われていた「死と再生儀礼」の一環、「復活祭・聖婚儀礼」の現代版であろうことに気づくでしょう。
そしてもう一点気になることがあるのです。「オルムス」の語です。
オルムスは人物名であり「光の原理」でもありました。そしてもう一つ、オルムスは「熊」を表します。このオルムスは別の言葉では「オルシーニ」です。ゾロアスター13血流のトップが「オルシーニ家」です。
オルシーニ家はその自らの紋章の多くに「オルムス(熊)」を採用、更にはその全ての紋章には五弁等の薔薇をあしらっています。
オルシーニ家はその紋章を通して「オルムス派」からオルムス(光の原理)を、つまり洗礼者ヨハネとマグダラのマリアによる性錬金術グノーシスを獲得していることを示しているように思えてしまうのです。
Author:Matejpavel1 [CC BY-SA]
編集者註:オルシーニ家の家紋がデザインされたターラー銀貨(左)とオルシーニ家のシンボル、薔薇を抱えている熊(右)
薔薇十字団は伝説の(そのモデルになる人物はいたでしょうが、実在していたとは到底思えない)クリスチャン・ローゼン・クロイツを創始者だとする謎の団体です。挿絵の薔薇の説明文字は「薔薇は蜜を蜂に与える」となっています。これは非常に象徴的です。
薔薇の蜜、薔薇十字の蜜を求めて吸い寄せられたのは一匹の蜂だけではなく、様々な蜂もそれを求めて集まったと見受けられるのです。薔薇十字が近代フリーメーソンを構成する雑多なメンバーを集合させた、という意味です。近代フリーメーソンは薔薇十字団を経由し、雑多なメンバーを集合させて発足しているのです。
その雑多なメンバー、前回見たオルムス派を源流とするテンプル騎士団の流れ、それと今回取り上げる古代メーソン「秘密の力」の流れ、そしてプロテスタントなどその他、これらを合流して結合させる役割を薔薇十字が果たしたと思えるのです。
薔薇十字の名の下に「オカルティスト、錬金術師、学者、文人、貴族、新思想に傾倒する宗教者が加入した」わけです。そのことによって、結社近代フリーメーソン発足になっているのです。改めてですが言い方は不適切かも知れませんが、薔薇十字によって有象無象が集結したのです。