ぴょんぴょんの「できちゃった!」 ~人間はどこまで自然に干渉して良いのか

自然は、人間がいなくても存続していく。
人間は、自然がなければ存続できない。
それなのに人間は、自然から奪うことばかりやってきた。
人間のせいで、多くの動植物の種は絶滅してしまった。
昔の人は、どうやって自然と付き合っていたのだろう。
自然と話すテレパシーを失った私たちは、どのように自然と共存すればいいのだろう。
(ぴょんぴょん)
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ぴょんぴょんの「できちゃった!」 ~人間はどこまで自然に干渉して良いのか

とうとう、その日が来た


くろちゃん、眉間にしわ寄せて、なんかあったの??

ああ、実はな・・・できちまった。

なにが?

子ども・・。

ええっ?!
くろちゃん、彼女もいないのに、子どもって??
単為生殖?

アホっ!!
おれじゃねえ、くろまるとクロチビの子だ、たぶん。

くろまるは推定7歳のオスネコ、クロチビは3歳の甘えん坊のオスネコだっけ。
とうとう、その日が来たね。 

はあ・・・、
ある朝、庭を見ると、何かがチョロっと通り過ぎた。
またチョロ、またチョロ! なんだ、あれは?
見るとハチワレ、ブチ、縞、三毛の、生後2〜3週間とおぼしき子ネコが4匹!
「きゃわいい!!」と喜んだのもつかの間、「ヤバい!!」ってなった。


子ネコが4匹? 見た〜い!!
そう言えばくろちゃんち、2人とも去勢してなかったよね。

ああ、今までこんなことなかったから、大丈夫だと思ってたのに。

でも、2人を去勢しないって聞いた時から、こうなるのは予想できたよ。
ところで、お母さんは?

ほら、見ろ、あそこでおっぱいを飲ませてる。




うわあ! 4匹並んで、おっぱい飲んでる!
お母さんは三毛ネコさんだね。

ミケ姫と呼んでる。
これまでも何度か庭で見かけたことがある。
なわばりのはずなのに、くろまるたちはスルーしてたから「あれ?」って思ってた。

メスだからだねえ。

だがミケ姫に、メシを食わせたことはなかった。
どっかでメシをもらってたはずなのに、なんで今、子連れでメシを食いに来るのか?

そりゃ、「この子たちの父親は、お宅のネコです」って言ってるんだよ。

「責任取って」ってことか?

あ! ミケ姫さん、横顔がくろまるそっくり!
もしかして、くろまるの娘さん?

やっぱ、そう思うか?
「くろまるのヤツ、いつの間に」って感じだ。
でもミケ姫をうちに連れてきたのは、クロチビかもな。
ミケ姫と初対面の時、クロチビが現れて、なでろと言うからなでてやると、ミケ姫が安心したように近づいてきた。


「このおっさんが、ぼくにごはんをくれる人」って紹介したんだね。

はじめてミケ姫に触れた時、毛並みはガサガサ、腹はぺちゃんこだったな。

おっぱい飲ませてるからねえ。

だが、どうすりゃいいんだ? 
目の前に、4匹の子ネコを抱えて腹を空かせた母ネコがいる。
メシを食わせたいが、一度食わせれば、ここに居着くだろう。
だが、メシをやらない選択は、できなかった。

くろちゃんちは、キャットフードもあるしね。


夢中でガシガシ食ってるミケ姫を、見つめるクロチビ。

「ほら、ぼくの目に狂いはなかったろ?」ってね。

ミケ姫が一気に完食すると、子ネコらが警戒しつつ集まってきた。
ちょうど今見てるような、おっぱいタイムが繰り広げられた。

子ネコらにすべてを与えながら、陶酔しているミケ姫。
人間の母親みたいに、おっぱいやりながらスマホなんかいじってねえぞ。
彼らを満足そうに見ているクロチビ、それを遠くから眺めるくろまる。

くろちゃんは、みんなの命を養うゴッドファーザーだね。

おれも、彼らのファミリーの一員になった気がした。
だが、ファミリーの中心はなんと言っても、母と子だ。


いいなあ、こんな光景が毎日見られるなんて。

ああ、庭に目をやると、4匹の子ネコが遊んでいるか、おっぱいを飲んでいる。
癒やされる〜〜、
これほど幸せを感じさせる最高の景色が、この世にあるだろうか。

わかる、今、見てるだけで、幸せな気持ちになるよ。
「今の世界に必要なのは、愛だ!」って、古い歌の歌詞が浮かんできたよ。

だが、手放しでは喜べない。
「サイコーに幸せ!!」と思いながらも、「これから、どうしよう?」と不安でいっぱいだ。

なんで?

やっぱ、くろまるたちを去勢した方が良かったかな、とか?
ヤツらがここに居着いて、どんどん増えたら、とか?

多頭飼い崩壊かあ、でも、あれは室内飼いの話だよ。
屋外だと、そういうことはないんじゃない?

だといいんだが。
よくよく考えると、おれの不安は、近所から文句を言われることだった。

だから、去勢した方がいいって言ったんだよ。
でも、それを覚悟でしないって決めたんだよね。

ああ、2人がネコらしいネコ生を全うして欲しかったんだ。
子どもを作りたければ、作ればいい、なんとかなるだろうと。
だが、実際にこうなっちまうと、考えも揺らぐ。
2人を去勢しとけばよかった、そうすれば、こんな心配もしなくてすんだ。
そして、ヤツらを避妊手術に連れていくかと思うと、気が重くなった。

やるなら、くろまるクロチビの、オスチームからだね。
メスの手術は大変だし、命にかかわるから。


うわあ、あいつらに、オスを捨てさせるのか? 
すげえ抵抗を感じる。

4匹の子ネコもいずれ、手術しないとね。

うわあ、したくねえ。

でも、増えすぎていろいろ言われるよりはいいでしょ?

やっぱ、そこなんだ。
人に文句を言われるから、ネコの自由を取り上げて、去勢するのか?
ああなんで、こんな最高のシーンを見ながら、最高に憂鬱になるんだ?!


近所に言われてから、獣医さんに連れて行っても遅くないよ。

ああ、だが、それはあくまで最後の手段だ。

ほら、ミケ姫が眠ってる。すっかり、安心してるみたい。

安心してくれるのはうれしいが、おれは困るんだよ、そこに居座られちゃ。


2日後


くろちゃん、子ネコたち見に来たよ。

それが、今朝からずっと、ミケ姫たちがいねえんだよ。

え? どっか行ったの?

チョロっとチビが走るのを見かけるくらいで、誰もいない。
なんか、拍子抜けした。

このままどっかにいなくなってくれたら、いいね。

バカ! おれは寂しいよ。

え?! だって、居座られたら困るって言ってたじゃん。

ああ、いたらいたで不安だし、いなくなると寂しいんだよ、悪いか?

人間の心って、ほんとに矛盾だらけだね。

あれから考えたが、室内飼いなら、去勢しか選択肢はねえだろう。
しかし屋外なら、近所に迷惑かけることもねえだろう。
どこでもトイレだから、都会のようにトイレで苦情を言われることもない、
天敵もそれなりにいるから、長生きできないし。
このくらい増えたって、自然は上手にバランスを取ってくれると。

そうかもね。

もし、すべてのネコを去勢して、まったく子どもを産まなくなったらどうなる?
トンビや鷹やカラスは? ヘビは? ネズミはモグラは? バッタやトカゲは?
みんな、たがいにバランスを取り合いながら生きてるんだ。
増え過ぎたら、減らす、減ったら増やす。
人間の都合で、そのバランスを崩してもいいんか?
主人は「自然」なのに、おれたちが支配者みたいな錯覚をして、勝手なマネしてもいいんか?



たしかに、人間が暴走してきた歴史があるよね。

それも、カネ儲けとか、世間体とか、人間の都合でな。
おれは、自然を信じることにした。

そして、ネコ担当の神さまに祈った。
手術をしなくても、彼らが自然と調和して生きて行けるようにと。

ネコ担当の神さまなんているの?

おれは、いると信じてるの。
こいつらを引き合わせてくれたのも、その神さまなの。

でも、人間がある程度、手を下すことも許されていると思うけど。

大丈夫だ、たぶん、このくらいで増えすぎることはない。
いずれ、子ネコたちは独立してここから出ていく。
ここは、くろまるたちのなわばりだからな。
空からは、カラスやトンビが狙ってるし、何が起こるかだれにもわからねえ。
たとえ、ネコを去勢しないと逮捕される社会になっても、おれは信念を貫く。


3日後


くろちゃん、子ネコたち元気にしてる?

ああ、実は、大変なことになった。
朝からずっと、ミケ姫の姿が見えないんだ。
ミケ姫の身に何かあったんじゃねえかと心配している。

まさか事故とか・・?

そのうち、帰ってくるよ。 

だがもしも、ミケ姫が帰らなかったら、子ネコたちの面倒はだれが見るんだ?
おれが、おっぱいをやるのか?
ムリだ〜 ああ、ミケ姫よ、早く帰ってきてくれ〜。

くろちゃん、いつもはデンと構えて頼もしいのに、ヨワヨワだよ。

ああ、どうせおれはチキンだよ。

あ、あそこに、ミケ姫いるじゃん!


ああ〜〜〜 ミケ姫、帰ってきたか〜〜 良かった良かった(涙)
よし、今日のメシは、いつもより大サービスだ。

いたら心配、いなくても心配。
くろちゃん、大変。

ミケ姫の存在が、これほどありがたいとは思わなんだ。

1匹でも減ったほうが、気が楽になるんじゃなかったの?

子ネコは、1匹くらいいなくなってもいいが、母ネコにいなくなられたら困る。

やっぱ、サイコーだね!
全員そろっておっぱいタイム♪


4日後


くろちゃん、また見に来ちゃった。

お・・・おう。

どうしたの、また暗い顔して。
1,2,3・・あれ? 今日は子ネコが3匹しかいないよ。

ウワ〜ン!!

何があったの??

おれのせいだ〜〜!!(泣)

落ち着いて、落ち着いて。

今朝、ミケ姫は不在で、子ネコ同士で遊んでいた。
おれが庭に出ると、ハチワレがビックリして飛び出してドブに隠れた。
その直後、トンビが急降下してきて、ビックリしたんだ。
そしたら、ミケ姫が帰っても、ハチワレの姿が見えないのに気づいた。



もしかして?

わ〜ん、あの時、おれにビックリして飛び出したハチワレが、トンビに連れ去られたんじゃねえかと?

しかたないよ、くろちゃんも言ってたでしょ、
「空からは、カラスやトンビが狙っているし、何が起こるかだれにもわからねえ」って。

言ったな。外で生きるのは、それほどシビアってことだ。
トンビだって子育て中かもしれないし、ハチワレも誰かの役に立ったならそれでいいかもしれねえが、頭ではそう思っても、寂しいよ〜 あのハチワレが一番かわいかったからなあ(泣)。

1匹減って、ホッとしたのかと思ったら、違うんだね。

減ったら減ったで、悲しいよ〜〜。

なんか、今のくろちゃん見てると、毎日ジェットコースターみたい。



5日後


くろちゃん、気持ちは落ち着いた?

ああ、夕べは眠れなかったぜ。


ハチワレくん・・・。

ハッハッハ、あれを見ろ。

1,2,3,4・・4匹いるよ!!

ハチワレは無事だったんだ。

良かったね〜!!

ああ、心配かけやがって。

これでまた、全員集合だね。

これを機に、これからどうするという、おれの葛藤に終止符を打つことにした。
そして、決めた。


何を決めたの?

ここ数日のジェットコースターを体験して、思った。
おれは、自分に正直に生きる。

おおう!!

人間が、これまでさんざん苦しめてきた鉱物、植物、動物たち、自然。
だから、ネコには、人間よりも幸せに暮らしてほしい。
こんな自然の中に生きるネコたちを、すべて去勢する必要はあるのか?

もちろん、都会や室内飼いとか、しかたねえ時もある。
だが、今のおれの状況はしかたねえのか?
それより、近所からの文句を恐れてビビってる自分の方が問題じゃねえのか?

なるほど。

まだまだ、これからどうなるのかわからねえ。
だがおれは、ヤツらにネコらしいネコ生を全うさせてやりたい。
それが、2人を去勢しなかった原点だったことを思い出した。

相変わらずミケ姫は、ごはんをガツガツ食べてるね。


今日も、食いに来てくれて、ありがとう。
チビたちにおっぱいを出してくれて、ありがとう。
そして、チビたちがおっぱいを飲んでる幸せな光景を見せてくれて、ありがとう。
その後のことは知らん、ネコの神さまにでも聞いてくれ、
今はただ、ヤツらを助けたい。
そして祈るのみ。



Writer

ぴょんぴょんDr.

白木 るい子(ぴょんぴょん先生)

1955年、大阪生まれ。うお座。
幼少期から学生時代を東京で過ごす。1979年東京女子医大卒業。
1985年、大分県別府市に移住。
1988年、別府市で、はくちょう会クリニックを開業。
以後26年半、主に漢方診療に携わった。
2014年11月末、クリニック閉院。
現在、豊後高田市で、田舎暮らしをエンジョイしている。
体癖7-3。エニアグラム4番(芸術家)

東洋医学セミナー受講者の声

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