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ぴょんぴょんの「ねらわれたセルビア」 ~リオ・ティントという「不徳」の企業
セルビアの大地にたくさん眠っているリチウム
まあな、あそこらへんが動くということは、即、戦争を意味するからな。それでも、コソボのことは時々のぞいているのよ。たとえば、北コソボのセルビア人居住区に張り付いてたコソボ警察が縮小されたとか、コソボ・セルビア人が相変わらず逮捕されているとか。
〈ジャダライト〉を発見した悪徳グローバル企業リオ・ティント
「リオ・ティントはイギリスの鉱業会社。主にオーストラリア、北米、南米、アジア、欧州、アフリカにおいて鉱物資源を発掘・製錬する。主要製品には鉄鉱石、アルミニウム、銅、ダイアモンド、石炭、ウラン、金、そして工業用鉱産物の滑石、ホウ砂、二酸化チタン、食塩などがある。本社はロンドン。」(YAHOO!ファイナンス)
そのとおり。リオ・ティントの名は、ローマ帝国に銅を供給した南スペインの鉱山に由来してて、1873年の設立時からロスチャイルド一族が絡んでいるんだよ。世界中の鉱山を買収しながら、どんどん肥え太っていったけど、その歴史はどす黒く、環境汚染、土地収奪、貴重な文化遺産の破壊など、さまざまな悪事を成してきた。でも今じゃ、日本にも支店があるくらいのグローバル企業になってて、年間100億ドル以上の収入を得ているって。(MONGABAY)
ことの始まりは2004年、リオ・ティントは、西セルビアのジャダール渓谷で、肥料や建材に使われる〈ホウ酸塩〉を探していた。そしたら〈ホウ酸塩〉と〈リチウム〉の両方を含む、まったく新しいタイプの鉱物を発見して、ジャダール渓谷にちなんで〈ジャダライト〉と名付けた。(Wired)
セルビア・スヴィライナツの自然史センターに展示されているジャダライト
Author:Dungodung[CC BY-SA]
そうゆうこと。リチウムは、電気自動車に欠かせない鉱物だからね。
特に、ドイツの自動車メーカーを抱えるEUは、リチウムの確保に必死なんだ。現在はEU圏外から調達しているけど、リチウム産出国のオーストラリア、チリ、中国などが情勢不安になったら、一発でリチウムが入らなくなってしまう。そんな貴重なリチウムが、同じヨーロッパのセルビアで見つかったことは、EUにとってめでたいことで、飛び上がって喜んだんだよ。
特に、ドイツの自動車メーカーを抱えるEUは、リチウムの確保に必死なんだ。現在はEU圏外から調達しているけど、リチウム産出国のオーストラリア、チリ、中国などが情勢不安になったら、一発でリチウムが入らなくなってしまう。そんな貴重なリチウムが、同じヨーロッパのセルビアで見つかったことは、EUにとってめでたいことで、飛び上がって喜んだんだよ。
電気自動車のバッテリールーム
Wikimedia_Commons[CC0]
そうだよ、だって、セルビアでは仕事がなくて、若者が海外に出て行くのが問題になってるからね。田舎も高齢化、過疎化して、どんどん廃村が増えている。そういう時に、リオ・ティントが来てくれたら、1,000〜2,000人の雇用が生まれる。セルビアのGDPにも貢献する。(The Guardian)
それを察したリオ・ティントは、セルビア政府に手を回した。
2021年7月、リオ・ティントは、〈ジャダライト〉発掘プロジェクトに関する覚書をセルビア政府と交わし、24億ドル(約2700億円)を投資すると発表した。
「グリーン・テクノロジー、電気自動車、きれいな空気、これらすべては、ここセルビアのジャダールにある世界有数のリチウム鉱床に依存しています」という触れ込みで。(The Guardian)
2021年7月、リオ・ティントは、〈ジャダライト〉発掘プロジェクトに関する覚書をセルビア政府と交わし、24億ドル(約2700億円)を投資すると発表した。
「グリーン・テクノロジー、電気自動車、きれいな空気、これらすべては、ここセルビアのジャダールにある世界有数のリチウム鉱床に依存しています」という触れ込みで。(The Guardian)
でもね、2021年にリークされた文書によると、環境問題については形だけ評価して、是が非でも取引を成立させるよう、セルビア政府に強い圧力をかけてたんだって。(LE MONDE diplomatique)
めちゃくちゃまずい。「採掘には大量の水と温室効果ガスを発生させるエネルギーが必要であり、深刻な汚染を引き起こす可能性がある。何トンもの有害な金属化合物(銅、鉛、ニッケル、亜鉛、ヒ素)を水系に放出する可能性があり、大きな脅威となる。」(LE MONDE diplomatique)
This is #Jadar valley in #Serbia which @riotinto wants to turn into a lithium mine to make lots of profit. Their plan has a dark side: forced resettlement, toxic chemicals, destruction of Bronze Age artefacts etc. I went to meet some of the locals refusing to make way:
— stephanie d roth (@RothSteph) April 11, 2022
1/10 pic.twitter.com/CEYPPAWl9Z
ラズベリーの栽培や養蜂が盛んらしい。
鉱山が計画されているジャダール川の近くには、4,000人以上の人々が住んでいる。セルビアのこの地域には、鳥類と生物多様性の重要地域も2つあり、法律で保護されている動植物は140種、公式に登録されている文化遺産や歴史遺産も50ほどある。(LE MONDE diplomatique)
鉱山が計画されているジャダール川の近くには、4,000人以上の人々が住んでいる。セルビアのこの地域には、鳥類と生物多様性の重要地域も2つあり、法律で保護されている動植物は140種、公式に登録されている文化遺産や歴史遺産も50ほどある。(LE MONDE diplomatique)
Ovako izgleda kraj u dolini Jadra gdje je planiran rudnik Jadarita. U kuće kao da je ušao Arkan sa svojim pljačkašima, a u stvari su vlasnici prodali #RioTinto i pokupili sve što vrijedi. Da ne propadne što bi se i desilo. #jadar #loznica #srbija pic.twitter.com/P0zhxTW3KE
— ꧁𓊈𒆜🅺🆄🅿🅴🅺 🅴🅵🅴🅽🅳🅸🅹🅰𒆜𓊉꧂ (@K_U_P_E_K) August 11, 2021
〈ジャダール渓谷のジャダライト 鉱山が計画されている場所はこんな感じ。アルカンは、#RioTinto鉱山とその周辺にある鉱山を計画しています。ぜひ、ご参加ください。#jadar #loznica #srbija (DeepL翻訳)〉
セルビア当局を驚かせた数千人規模の反対運動
ぼくが見たドキュメンタリーでは、住人の1人がこう言っていた。「土地の持ち主は外国企業に買収され、豊かだった農村がゴーストタウンにされてしまった」「美しい自然、豊かな農作物が汚染されて、将来の子どもたちに影響が出る。他国の利益のために、自国の自然が荒らされるのは耐えられない」「セルビア人で電気自動車が買える人は何人いるのだろう? それほど、セルビアは貧しいのに」。
2021年4月、首都ベオグラードで数千人が抗議行動に参加した。反対運動はますます大きくなり、セルビア中を巻き込んだ。数カ月間にわたって、数千人のデモ隊が街頭に繰り出し、首都ベオグラードや第二の都市ノビサドなどで幹線道路を封鎖した。この運動、その組織性、団結力、そして通常の反対運動をはるかに超えた幅広い支持は、セルビア当局を驚かせた。(BBC)
🇷🇸15年前にセルビア西部のヤダル川流域で発見されたリチウム鉱物の新規鉱物「ジャダライト(ヤダル川に由来)」。現在豪リオティント社が同地でリチウム・ホウ酸塩プロジェクトを進め5年後のリチウム生産開始を目指している。開始されれば世界生産高の2割を満たすと予測されるが、環境破壊を懸念する声も pic.twitter.com/BwjExGjFf1
— 富永正明/Масааки Томинага/Masaaki Tominaga (@Svetislavkun) March 22, 2021
うらやましいよね。それだけ、悲惨な過去を歩んできたからだと思うよ。だけどね、多くのセルビア人がこの反対運動に加わったのは、環境汚染の問題だけじゃない。セルビア政府の汚職や賄賂に反対する人たちも合流していたんだ。
社会主義時代のなごりもあるけど、ベルリンの壁崩壊後のセルビアは、欧米からの経済制裁によって貧乏になり、欧米が投げるおカネに依存するようになってしまったんだよ。(LE MONDE diplomatique)
もうひとつ、国民を怒らせたのは、ヴチッチさん率いる政権与党、セルビア進歩党(SNS)の態度だよ。彼らは、農民たちがリオ・ティントへの土地売却を拒否したとき、〈ジャダール〉発掘プロジェクトは国益だと宣言し、収用手続きを5日間に早める法律を提案して、売却を強行しようとしたんだ。(LE MONDE diplomatique)
セルビア進歩党(SNS)のロゴ
Wikimedia_Commons[Public Domain]
でもね、環境のことを真剣に考えていなかったと思う。セルビア政府がリオ・ティントと契約を結ぶ目前に、ヴチッチさんはこんな話をしてたんだ。 「私たちにはジャダライトがあるのに、そのことで人々が抗議していると聞くと、私は笑い死にそうになる。セルビア西部(ジャダール渓谷)でリオ・ティントに抗議している? いや、そんなことはない。そこでは災害は起こらない。」(The Guardian)
ヴチッチ大統領
Author:duma.gov.ru[CC BY]
だよね、こんなヴチッチさんの与党が提案した「収用手続きを5日間に早める法律」によって、セルビア国民の怒りは爆発。さあ、大変! セルビアの総選挙を3ヶ月後に控えているのに、国民の怒りをそのままにするわけにはいかない。(LE MONDE diplomatique)
ブルナビッチ首相は言った。「私たちは国民の声に耳を傾けており、たとえ私たちの考えが違っていても、国民の利益を守るのが私たちの仕事です」「リチウムプロジェクトに関連するすべての決定は取り消された。ジャダール・プロジェクトに関する限り、これで終わりです。」(THE AGE)
アナ・ブルナビッチ首相
Author:内閣官房内閣広報室[CC BY]
リオ・ティントという会社、知れば知るほどの黒歴史でね。
モザンビークの石炭事業で不正行為を告発されたり、西オーストラリアのマランドゥ鉱山で何百もの古代の遺物をゴミ捨て場に捨てたり、オーストラリアで最も重要な考古学的調査地で古代洞窟を意図的に爆破したり、モンゴルの銅鉱山の経営で大きな批判にさらされたり(The Guardian)、マダガスカル南部の水路や湖を鉱山廃水で汚染したり(MONGABAY)、ポルトガルでリチウム採掘に反対する抗議デモを起こされ、ドイツのライン川上流域でもリチウム事業が一時停止にされ(Wired)、アリゾナの銅鉱山プロジェクトでサンカルロス・アパッチ族の聖地や文化遺産を破壊することで、アパッチ族から反対され(THE AGE)、ブーゲンビルの鉱山によって水源が汚染され、地域住民が危険にさらされている。(The Sydney Morning Herald)
モザンビークの石炭事業で不正行為を告発されたり、西オーストラリアのマランドゥ鉱山で何百もの古代の遺物をゴミ捨て場に捨てたり、オーストラリアで最も重要な考古学的調査地で古代洞窟を意図的に爆破したり、モンゴルの銅鉱山の経営で大きな批判にさらされたり(The Guardian)、マダガスカル南部の水路や湖を鉱山廃水で汚染したり(MONGABAY)、ポルトガルでリチウム採掘に反対する抗議デモを起こされ、ドイツのライン川上流域でもリチウム事業が一時停止にされ(Wired)、アリゾナの銅鉱山プロジェクトでサンカルロス・アパッチ族の聖地や文化遺産を破壊することで、アパッチ族から反対され(THE AGE)、ブーゲンビルの鉱山によって水源が汚染され、地域住民が危険にさらされている。(The Sydney Morning Herald)
コソボでセルビア製ナンバープレートが禁止されて、コソボとセルビアが険悪になった2022年の7月から1年ちょっと前の話です。
セルビアのリチウム採掘を巡って、純粋に環境破壊に反対する人々、セルビア政府の汚職に怒る人々がセルビア国内を席巻し、2022年4月に控えたセルビア総選挙を前に、ヴチッチ政権は苦渋の選択を迫られました。
結果的に、ヴチッチ政権は選挙で勝利を収めましたが、セルビアの未来をかけたリチウム発掘は一旦お流れになりました。