大統領選の総括として大変優れた記事:グローバリズム震源地の破綻 アメリカ大統領選挙結果 支配機構狼狽さす大衆世論

竹下雅敏氏からの情報です。
 以前のコメントで、グローバリズムはリーマン・ショックに於いて破綻が確定したというようなことを書きましたが、この記事をご覧になると、そのことがよくわかると思います。これほど丁寧で、全体の流れを掴まえた文章はなかなか書けないものです。さすが本職だと思いました。今回の大統領選の総括として、大変優れた記事だと思います。
(竹下雅敏)

注)以下、文中の赤字・太字はシャンティ・フーラによるものです。

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グローバリズム震源地の破綻 アメリカ大統領選挙結果 支配機構狼狽さす大衆世論 2016年11月11日付
転載元)
 注目されていた米大統領選は、蓋を開けてみると当初の「ヒラリー優勢」報道を覆してドナルド・トランプが勝利し次期大統領への就任が決まった。

(中略) 

民主党のヒラリー・クリントンを大本命にして多国籍企業や金融資本、軍産複合体やメディア、共和党重鎮も含めて総掛かりで支援したが、米国民はトランプを選択した。「世界を驚かせた番狂わせ」といって狼狽している姿は、メディアや支配階級の側の感覚が世論から遊離しきっていることと同時に、いまや欺瞞やプロパガンダが通用しないまでに米国における階級矛盾が鋭いものになっていること、エスタブリッシュメント(既成の権威的勢力や体制)への信頼が崩壊し、これらが国家や社会をまとめ上げていく力を失っていることを浮き彫りにした。この結果は、(中略)…新自由主義・グローバル化をもっとも強烈に推し進めてきたアメリカにおいて、足下からその支配が瓦解し始めていることを示した。

(中略) 

 資本主義総本山で歴史的番狂わせ 時代の大きな変化象徴 共和VS民主でなく1%VS99%

 今回の選挙は予備選の過程から、いわゆる民主党共和党の2大政党制支配が崩壊している姿を露呈していた。

(中略) 

両党ともに「サンダース現象」「トランプ現象」が台風の目となった。

(中略) 

 サンダースは、1%の富裕層が90%の下層国民と同額の富を独占し、技術と生産性の大幅な進歩にもかかわらず、多くのアメリカ人は低賃金労働を強いられ、子どもの貧困率はどの先進国よりも高いことなど、アメリカの不平等社会を批判した。そして、雇用を増やし、医療をすべての人人に提供できるようにするため「億万長者から政治的権力と経済的便益を剥奪する!」と宣言するなどして、若者を中心に熱烈な支持を広げた。大企業への優遇税制を停止し、タックスヘイブン(租税回避地)への税逃れの禁止、最低賃金の上昇、国民皆保険制度などの社会保障の整備充実、公立大学の授業料無償化、TPPに反対し生産活動の海外アウトソーシング(調達)をやめて国内生産にシフトさせる、インフラ再建などさまざまに政策を掲げ、「九九%の国民のための政治」にするのだと訴えた。
 移民排斥やイスラム教徒の追放など排外主義的な言動ばかりがとりあげられていたトランプも、富裕層への懲罰的課税や累進課税の強化、所得格差の是正や社会福祉の充実、市場原理を否定して社会的な規制を強化すること、労働コストの安い海外に流出した製造業を米国に戻すこと、TPP反対などを訴え、ワシントンの既存勢力に媚びないという訴えが支持を受けた。

(中略) 

本選はクリントンVSトランプの構図になったが、もはや民主党VS共和党の対決というよりは既存の政治体制の代弁者たるヒラリー・クリントンを大統領にするか否かに大きな注目が集まった。

(中略) 

支配階級がメディアも挙げてトランプ叩きに奔走し、必死にヒラリー支援をやったが、そうした世論誘導のやり方も見透かされたことを示した。こうして「嫌われ者対決」「米国民にとって最悪の選挙」と呼ばれた選挙で、ヒラリーの方が否定される結果となった。

(中略) 


 リーマン・ショックからの8年、「チェンジ」の欺瞞で登場したオバマを通じて、支配の側は金融資本主義のシステムを守るために必死で量的緩和を実施したり、ウォール街を優遇して延命を図ってきた。またアメリカが主導してTPPを進め、さらに徹底して新自由主義・グローバル化政策を推し進める方向に舵を切った。この新自由主義政策によって犠牲を被るのは、多国籍企業や金融資本によって食い物にされる他国だけでなく、アメリカ国内そのものであった。
 製造業は低賃金労働を求めて海外移転し、あるいは人・モノ・金の移動を自由にした結果、メキシコなどから低賃金のアンカーとなる移民労働力を大量に国内に招き入れてさらに貧困と失業を拡大し、アメリカ国内は窮乏化が進行した。人だましだったオバマケアも、おかげで医療を受けられない国民が増大し、保険会社が肥え太っただけだった。
 国民の7人に1人が貧困ライン(年収233万円)以下の生活水準になり、29歳までの若者の失業率になると45%とすごいものになった。サブプライムローンなど金融資本の餌食になって家を追い出されてホームレスに転落する人人が続出し、学生は学資ローンで金融資本の餌食となり、さらにカードローンなど、借金地獄にたたき込んでいく仕組みによって生活が破綻する国民が増え、低所得者層に配られるフードスタンプ(食料購入券)の利用者は4700万人にまで膨れあがった。

(中略) 

 日本も同じ課題に直面 どの様な針路とるか

 第2次大戦とその後の米ソ2極構造崩壊を経て、アメリカは新自由主義・グローバル化を唱え市場原理主義を推し進めて世界覇権を欲しいままにしてきた。

(中略) 

それは多国籍企業や国際金融資本が世界を股にかけて暴利をむさぼるものだったが、同時に貧困と経済的不均衡を各国にもたらし、リーマン・ショックまできて破綻した。

(中略) 

 アメリカ大統領選におけるトランプやサンダースの躍進にせよ、イギリスの国民投票におけるEU離脱にせよ、欧州各国で台頭する反グローバリズムの斗争にせよ、資本主義社会の足下から、それに成り代わる次の社会の到来を求めて世論が噴き上がり始めている。

(中略) 

「資本主義の永遠の勝利」を叫んでいたアメリカ及び西側資本主義こそが腐朽衰退し、体制崩壊がさまざまな形で顕在化している。1%の金融資本が牛耳る世界ではなく、社会を支え富を生産する九九%が助けあい、まともに暮らしていけるあたりまえの社会運営を求める力が圧倒し、それこそ1%99%の矛盾と斗争を通じて、時代は変化していることを実感させている。
 第2次大戦後のパクスアメリカーナすなわち新自由主義・グローバル化による一極支配体制が終焉を迎えようとしている。しかし多国籍企業や金融資本がいなくなったわけではない。みずから退場するようなお人好しではないことから、引き続き階級矛盾は激化し、これとのたゆまぬ斗争に挑まなければならないことを教えている。

(中略) 

 アメリカ大統領選を受けて、日本社会はどのような針路をとっていくのかが問われている。打倒されつつある新自由主義政策のお先棒を担いで真似事をやるなら、一回りして同じように打倒される運命にあることを日本の為政者にも突きつけている。何につけても米国支配層の受け売りばかりやってきた政財界、統治機構、メディアが一緒になって狼狽し、なおも破綻するであろうTPPを強行採決して媚びを売っていく姿が世界に恥をさらしている。

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