【第5回】きっと役立つ乳酸菌学 〜メリーベのために〜 乳酸菌の機能性③腸での超凄い効果(免疫賦活化作用)

 まのじ編集長にコツコツと突かれて重い腰を上げました(笑)。今回は乳酸菌の免疫賦活化作用について書きました。免疫は複雑でちょっと難しいですが、できるだけ簡単に書きましたので概要だけ掴んで貰えれば幸いです。時間がない人は、最後の【まとめ】だけでもお読み下さい。
(地球に優しい方の微生物学者)

注)以下、文中の赤字・太字はシャンティ・フーラによるものです。

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きっと役立つ乳酸菌学 〜メリーベのために〜 乳酸菌の機能性③腸での超凄い効果(免疫賦活化作用)

Bifidobacterium adolescentis
Author: Y-tambe


免疫賦活化とは?

 賦活(ふかつ)とは活性化するという意味です。乳酸菌やビフィズス菌には免疫細胞に働きかけ免疫力を高める働きが知られています。特に高齢者や子供は免疫力が低い傾向にあるため、イムノバイオティクス(※1)摂取が風邪やインフルエンザなどへ有効な予防手段となる可能性が報告されています。

(※1)プロバイオティクスの中でも免疫応答に関与するものをイムノバイオティクスと呼びます。「イムノ(immuno)」とは「免疫の」という意味です。メリべの方は「医務の」と覚えると何とな〜く、免疫っぽい感じに辿り着きます。まー、覚える必要はないんですが。

Enterococcus faecalis
Author:JaniceHaneyCarr[Public Domain]


内なる外

 腸を含む消化管は「内なる外」と呼ばれています。口から肛門まで1つの管で外界と繋がっていますね。口と肛門を同時に開ける(出す時に口を開けましょう!笑)とその管の中は、「人体なのか」、「外界なのか」悩むのではないでしょうか?生命にとって消化管は、「内なんだけど、外でもある」のです。外界には病原菌やウイルスなどの危険がいっぱいです。外界からやってくるそれら「敵(※2)」が侵入する確率が高い部位が、食品からの栄養を取り込む小腸です。そのため、小腸の周りには多くの免疫細胞が集まっています。その割合は、全身の6〜7割と言われています。これだけでも小腸の重要性が分かっていただけると思います。

(※2)シャンティフーラの読者様は「全生命への愛」を意識していらっしゃるでしょうから、「敵っていう表現は好きじゃないわ」と言われそうなので念のため、ここでは「自分以外の生命=敵」としておきます。そうすると、「自分以外の生命=敵なんて、なんて心の貧しい考え方なのかしら」とか「究極的にはみんな一つの生命体なのよ」とか言われそうですが、そこは穏便にお願い致します(笑)。



腸で情報収集をしている

 敵が侵入してくる腸に沢山の免疫細胞を集めて何をやっているかというと、常に情報収集(パトロール)をしています。基本的に小腸では低分子の物質しか吸収されませんので細菌やウイルスが入り込む余地はないように思えます。ところが、病原菌には腸粘膜や細胞に付着し細胞内へ侵入するものや、毒素を出し細胞を破壊するものがいます。最終的に血液やリンパ管に入ると全身に廻り、敗血症などを引き起こします。そのため樹状細胞という免疫細胞は、腸上皮細胞間の隙間からニョキッと手を伸ばし、細菌を捕まえて情報収集をしています(参考図:図中のオレンジ色のヒトデみたいな奴が樹状細胞です)。

 また、小腸にはパイエル板と呼ばれる場所が数十箇所存在しています(参考図:右の電子顕微鏡写真が小腸を上から見た図、左の絵が輪切りにして横から見たイメージ図です)。ここが腸管免疫において非常に重要な働きをしています。パイエル板にはM細胞という高分子を取り込む細胞があります。これにより細菌やウイルスが内部に取り込まれます。腸の中に落とし穴のような場所があると考えてもらえれば分かりやすいかと思います。落とし穴の下には免疫細胞が沢山待ち構えていて、落とし穴に落ちた細菌やウイルスなどを樹状細胞やマクロファージなどの抗原提示細胞が取り込み、分解し、抗原を細胞表面に提示します(特に樹状細胞は抗原提示において重要な役割を果たしています)。同時に病原菌やウイルスの情報(抗原)をヘルパーT細胞に教えて、活性化します。活性化したヘルパーT細胞はB細胞に司令を出して抗体を作らせたり、キラーT細胞やマクロファージなどを活性化したりします。このように生体は常に情報収集をして、「敵」が来た時にすぐに迎撃態勢を取れるようにしています。

回腸で撮影されたパイエル板 Author:Plainpaper[CC BY-SA]


 また、ここは免疫細胞の訓練場とも言えます。過剰反応しなくても良いもの(善玉菌や食品)、急いで対応しなくてはいけないもの(病原菌やウイルス)をちゃんと区別できるようにする免疫細胞の教育の場でもあるのです。これには後述するサイトカインやパターン認識受容体が関わっています。この訓練場がおかしくなると、アレルギーや自己免疫疾患の原因となります。


サイトカイン

 腸管免疫において「超」重要な物質に「サイトカイン」と呼ばれるタンパク質があります「アベルとカイン」ではなく、「サイとかin」でもなく、サイトカインです)。サイトカインは免疫細胞などから放出されるタンパク質で、細胞間の情報伝達の役割を担っています。またサイトカインは、細胞の分化、増殖、細胞死などに関わり、種類も効果も様々です(複雑になるので詳細は割愛しますが、興味がある方は「こちら」をご参照下さい。免疫細胞は様々なサイトカインを出すことで、免疫を活性化したり、調整したりしています。このサイトカインですが、上皮細胞からも放出されますので、M細胞から取り込まれなくても腸の上皮細胞を介しての免疫賦活化も行われます。

アベルを殺すカイン(ピーテル・パウル・ルーベンス画)
Author:PeterPaulRubens[Public Domain]


乳酸菌と免疫

 前置きはここまでにして、やっと本題に入ります。ここまで書けば何となく理解していただけるかと思いますが、乳酸菌も病原菌と同様に免疫細胞や上皮細胞に認識され、様々な免疫応答を引き起こします。どうやって認識されるかですが、細胞にはちゃんと菌体成分を認識する「受容体」が存在しています。その代表的なものがトル様受容体(Toll like receptor; TLR)と呼ばれるパターン認識受容体です。TLRにも様々な種類が知られており、例えば細胞壁成分であるペプチドグリカンを認識する受容体、フィラジェリンという鞭毛タンパク質を認識する受容体、リポ多糖(LPS)という大腸菌などのグラム陰性菌が持つ内毒素を認識する受容体もあれば、DNAやRNAを認識する受容体もあります。これらの受容体が免疫細胞や上皮細胞などの表面や内部に存在していて、成分を認識した後、各種シグナル伝達を経て、最終的にサイトカインなどが細胞外に放出されるという仕組みです。出されたサイトカインにより、免疫細胞が刺激を受けて、活性化したり、分化したりすることで免疫力が上がったり、調整されたりします。

トル様受容体(TLR)Author:Astrojan[CC0]


 例えば、菌体外多糖(EPS)を産生する乳酸菌で作ったヨーグルトを摂取することで、ナチュラルキラー細胞(NK細胞)が活性化され、風邪の罹患率が下がる効果が大規模なヒト試験でも実証されています。簡潔にメカニズムを説明すると、EPS(特にマイナス電荷の酸性EPS)がマクロファージなどに存在するTLRに認識され、各種シグナル伝達を経て、インターフェロンガンマ(IFN-γ)などのサイトカインが放出され、それによりNK細胞が活性化されるというメカニズムになります。
 乳酸菌における有効成分として、その他に、細胞壁成分(ペプチドグリカン、リポテイコ酸など)、断片化した短鎖DNAやRNAなどがあります。つまり、免疫賦活化において乳酸菌は死んでいても効果があるということになります。乳酸菌の利点は、食品から摂取できること、過剰な免疫応答を起こさないことなどが挙げられます。乳酸菌は適度に免疫細胞を刺激し、また、免疫細胞のバランスを調整してくれるのです。


まとめ

 色々書きましたが、簡単にまとめると乳酸菌による免疫賦活化メカニズムは下記のようになります。

乳酸菌の細胞壁成分、短鎖DNAや乳酸菌が産生する菌体外多糖などが免疫細胞や上皮細胞で認識される
サイトカインと呼ばれるタンパク質が分泌される
免疫細胞が活性化する
免疫力が上がる

これだけで理解していただければOKです。実際はもっと複雑ですから。
ふぅ、やっと書き終えた。

Writer

地球に優しい方の微生物学者

主に自然科学関連の記事へのコメントと「きっと役立つ乳酸菌学 〜メリーベのために〜」という記事を寄稿しています(滞りがちでスミマセン)。大学で微生物(乳酸菌)の機能性研究を行っています。最新の知見もご紹介しながら、魅惑の菌ワールドに皆さんをお連れしたいと思います。

何故か「う○こ」担当みたいになっていますが、非常に不本意です(※)!!専門は乳酸菌ですので、汚くないスマートな記事をお届け致します。できるだけ専門用語は避け、解説をしながら分かりやすくお伝えできるように頑張ります。
※私は8種体癖です(笑)


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