311ルポ:国から見捨てられ命を絶った、とある「母子避難者」の悲劇

 難民移民問題をテーマに語られるユリシス様がドイツにお住まいの理由を知った時は衝撃でした。と同時に、このルポルタージュを思い出しました。311を境に大きく人生が変わった一人の女性を朝日新聞の記者が伝えています。
 311までは、福島県に住む、ごく普通の料理上手な主婦だったAさんが、子供を被曝から守りたい一心で、何とか自主避難を選び、懸命に働きます。が、経済的にも精神的にも次第に追い詰められていき、ついに力尽き、子供を残して自死を選んでしまったのです。
記事を読むと、これは決して特異なことではなく、もしかしたら自分に与えらた事態だったかもしれないと思えます。というのも、彼女を取り巻く社会、行政は、そのまま私たちの周りにあり、彼女の悲劇は、今後も起こりうることだからです。
 幼稚園や小中学校に「年20ミリシーベルトは容認できない」と涙を流した東京大学教授がいましたが、一方、Aさんの夫のように「放射能の心配をしているのはマイノリティ。民主主義の世の中では、10人のうち9人が『影響なし』と思っていれば、それが正しいんだ。『危険だ』という意見だけを取り上げてワーワー言ってるおまえは反社会的な存在だ」と思う人も多く、理解を得られぬまま、Aさんは福島を後に母子避難をしました。行政の提供する住宅に暮らし、休日もないダブルワークで学費を貯めました。公的な学費援助は、夫の収入があるとして認められない。「子供・被災者支援法」があるのに、現実には適用してもらえない。奨学金制度は、遠方の夫の収入のため認められない。東電の賠償金は夫に渡って手元に来ない。夫に生活費を止められてからは、さらにもう一つ仕事を増やすという極限まで奮闘しました。また、避難者が公営住宅に住み続けるには、一定以上の収入が求められますが、反面、福島県の家賃補助は低所得者と認定されなければならないという矛盾の間で、Aさんは、ささやかに安らぐ環境すらも与えられませんでした。
 Aさんを追い込んだのは収入面だけでなく、福島から動かなかった人々からの激しい非難もありました。「放射“脳”」という中傷はネット上でも頻繁に見ました。
ついに心を壊してしまったAさんは「自分のせいで」とずっと悩み、「子供達を不幸にしたくない」と思いつめました。
 何の非もない市民が、この国の中で救われなかった。今も違う形で困っている自主避難者はたくさんいるでしょう。終わってなどいない。何が法治国家か。最後の一人まで手厚く安心できる生活を提供するのが、国と東電の責務ではないか。

 ドイツのユリシス様に心からのエールを送ると同時に、明日への不安を抱えた人を見捨てない政治をしてほしい。今度こそ、膿を出し切ってほしいと思います。
(まのじ)

注)以下、文中の赤字・太字はシャンティ・フーラによるものです。

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国から見捨てられ命を絶った、とある「母子避難者」の悲劇
引用元)
 原発事故で避難した人たちの生活が困窮している。特にやむなく自主避難に至った人たちの生活は苦しく、2017年に住宅提供を打ち切られた今、未来への不安と孤独にさいなまれ自死した母子避難者の母親まで現われた。

(中略)

立ち直っていく人が増える一方で、支援が次々打ち切られるなかに取り残される人が孤立している。震災関連自殺は2016年の21人から17年には25人に増加した(2018年3月12日時点)。

(中略)
[子どもの未来を守る、その一心で]
(中略)
20ミリシーベルトという基準に、女性も絶望感を覚えた。
 「ああ、見捨てられるんだ」

(中略)

避難しようと訴えたが、夫は受け付けない。
 「100ミリシーベルトまでは大丈夫だと言っているだろう。おかしくなったのか。家のローンは20年以上あるんだ」
 自分がおかしいと言われる始末だった。

(中略)

[何もかも不安定のまま東京へ]
女性のように母子だけが避難するケースが続出した。夫の理解を得られず、または仕事があるため夫が離れられず。いわゆる「母子避難」だった。

(中略)

2015年6月、ついに福島県が住宅提供を打ち切ると発表した。「除染が進み、生活環境が整ってきている」という判断だった。対象は1万2000世帯以上に及んだ。

(中略)

 福島県や神奈川県が住宅提供を打ち切られた避難者を避難者数から外しており、避難者数は住宅提供打ち切りの4ヵ月で3万人減った。

 避難者らの自殺は避難の現状を示す数字として厚労省で発表しているが、彼女の死は、それにすら数えられていない。

(以下略)

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