竹下雅敏氏からの情報です。
注)以下、文中の赤字・太字はシャンティ・フーラによるものです。
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エマニュエル・トッド
Emmanuel Todd
エマニュエル・トッド
エマニュエル・トッド (Emmanuel Todd, 1951年5月16日 - ) は、フランスの人口統計学者、歴史学者、人類学者。学位はPh.D.(ケンブリッジ大学・1976年)。研究分野は歴史人口学、家族人類学。人口統計を用いる定量的研究及び家族類型に基づく斬新な分析によって広く知られている。フランスの国立人口学研究所に所属していたが、2017年に定年退職した[1]。2002年の『帝国以後』は世界的なベストセラーとなった。経済現象ではなく人口動態を軸として人類史を捉え、ソ連の崩壊、英国のEU離脱や米国におけるトランプ政権の誕生などを予言した。
(中略)
『世界の多様性』
(中略)
トッドが示した家族型は以下のとおりである。
1. 絶対核家族 (la famille nucléaire absolue)
2. 平等主義核家族 (la famille nucléaire égalitaire)
3. 直系家族 (la famille souche)
4. 外婚制共同体家族 (la famille communautaire exogame)
5. 内婚制共同体家族 (la famille communautaire endogame)
6. 非対称共同体家族 (la famille communautaire asymétrique)
7. アノミー的家族 (la famille anomique)
8. アフリカ・システム (le système des familiaux africains)
トッドはこれら家族制度こそが、社会の価値観を生み出すのだと主張した。これを先験的(アプリオリ)と表現する。すなわちこれらの価値観は、特定の家族制度のもとに生まれることで自動的に身につけるからである。
エマニュエル・トッド
Author:Oestani[CC BY-SA]
2014年11月の写真
国籍 フランス
研究機関 国立人口学研究所(フランス)
博士課程 ピーター・ラスレット
指導教員
主な業績 ソビエト連邦の崩壊の予想
エマニュエル・トッド (Emmanuel Todd, 1951年5月16日 - ) は、フランスの人口統計学者、歴史学者、人類学者。学位はPh.D.(ケンブリッジ大学・1976年)。研究分野は歴史人口学、家族人類学。人口統計を用いる定量的研究及び家族類型に基づく斬新な分析によって広く知られている。フランスの国立人口学研究所に所属していたが、2017年に定年退職した[1]。2002年の『帝国以後』は世界的なベストセラーとなった。経済現象ではなく人口動態を軸として人類史を捉え、ソ連の崩壊、英国のEU離脱や米国におけるトランプ政権の誕生などを予言した。
(中略)
『世界の多様性』
(中略)
トッドが示した家族型は以下のとおりである。
1. 絶対核家族 (la famille nucléaire absolue)
子供は成人すると独立する。親子は独立的であり、兄弟の平等に無関心である。遺産は遺言に従って分配される。イングランド、マン島、オランダ、デンマーク、ノルウェー南部、イングランド系のアメリカ合衆国、カナダ (ケベック州を除く)、オーストラリア、ニュージーランドに見られる。基本的価値は自由である。世界の他の地域に比べ、女性の地位は高い。これは、核家族が本質的に夫婦を中心にするため、夫と妻が対等になるからである。一方、基本的価値が自由であることから、子供の教育には熱心ではない。個人主義、自由経済を好む。移動性が高い。
2. 平等主義核家族 (la famille nucléaire égalitaire)
子供は成人すると独立する。親子は独立的であり、兄弟は平等である。遺産は兄弟で均等に分配される。パリを中心とするフランス北部、スペイン中南部、ポルトガル北東部、ギリシャ、イタリア南部、ポーランド、ルーマニア、ラテンアメリカ、エチオピアに見られる。基本的価値は自由と平等である。女性の地位は、娘が遺産分割に加わる社会(フランス北部)では高いが、そうでない地域ではやや低い。絶対核家族と同様、個人主義であり、子供の教育には熱心ではない。核家族を絶対核家族と平等主義核家族に分け、平等への態度が全く異なることを示したのはトッドが最初である。
3. 直系家族 (la famille souche)
子供のうち一人(一般に長男)は親元に残る。親は子に対し権威的であり、兄弟は不平等である。ドイツ、スウェーデン、オーストリア、スイス、ルクセンブルク、ベルギー、フランス南部 (地中海沿岸を除く)、スコットランド、ウェールズ南部、アイルランド、ノルウェー北西部、スペイン北部(バスク)、ポルトガル北西部、日本、朝鮮半島、台湾、ユダヤ人社会、ロマ、カナダのケベック州に見られる。イタリア北部にも弱く分布し、また華南に痕跡的影響がある。多くはいとこ婚を禁じるが、日本とユダヤではいとこ婚が許され、ロマにおいては優先される。基本的価値は権威と不平等である。子供の教育に熱心である。女性の地位は比較的高い。秩序と安定を好み、政権交代が少ない。自民族中心主義が見られる。
4. 外婚制共同体家族 (la famille communautaire exogame)
息子はすべて親元に残り、大家族を作る。親は子に対し権威的であり、兄弟は平等である。いとこ婚は禁止されるか少ない。ロシア、フィンランド、旧ユーゴスラビア、ブルガリア、ハンガリー、モンゴル、中国、インド北部、ベトナム、キューバ、フランスのリムーザン地域圏およびラングドック=ルシヨン地域圏とコートダジュール、イタリア中部(トスカーナ州やラツィオ州など)に見られる。基本的価値は権威と平等である。これから、共産主義との親和性が高い。トッドがそもそも家族型と社会体制の関係に思い至ったのは、外婚制共同体家族と共産主義勢力の分布がほぼ一致する事実からである。子供の教育には熱心ではない。女性の地位は一般に低いが、ロシアは共同体家族の歴史が浅く例外的に高い。
5. 内婚制共同体家族 (la famille communautaire endogame)
息子はすべて親元に残り、大家族を作る。親の権威は形式的であり、兄弟は平等である。父方平行いとこ(兄と弟の子供同士)の結婚が優先される。権威よりも慣習が優先する。トルコなどの西アジア、中央アジア、北アフリカ、フランス領コルシカ島に見られる。イスラム教との親和性が高い。子供の教育には熱心ではない。女性の地位は低い。
6. 非対称共同体家族 (la famille communautaire asymétrique)
母系のいとこの結婚が優先される。親は子に対し権威的であり、兄弟姉妹は兄と妹、または姉と弟は連帯するが同性では連帯しない。インド南部に見られる。子供の教育に熱心である。女性の地位は高い。カースト制度において自らを下位に位置づける。
7. アノミー的家族 (la famille anomique)
基本的に核家族に近いが、はっきりした家族の規則は見出しにくい。東南アジア (ベトナムを除く)、太平洋、マダガスカル、アメリカ先住民に見られる。社会の結束が弱い。宗教に寛容であり、上座部仏教を中心としてイスラム教やカトリックも存在する。
8. アフリカ・システム (le système des familiaux africains)
一夫多妻が普通に見られる。この一夫多妻は母子家庭の集まりに近く、父親の下に統合されるものではない。女性の地位は不定だが、必ずしも低くはない。離婚率が高い。それ以外は多様であり、民族により共同体家族的でも直系家族的でもあり得る。北アフリカとエチオピアを除くアフリカに見られる。
トッドはこれら家族制度こそが、社会の価値観を生み出すのだと主張した。これを先験的(アプリオリ)と表現する。すなわちこれらの価値観は、特定の家族制度のもとに生まれることで自動的に身につけるからである。
例えば、多民族からなる帝国を築くには平等を基本的価値として持っていなければならないとする。ローマ帝国、イスラム帝国、唐帝国は、それぞれ平等主義核家族、内婚制共同体家族、外婚制共同体家族の帝国であり、先験的な平等意識に支えられている。一方、直系家族であるドイツ、日本、かつてのアテネは、どれも自民族中心主義から脱することができず、帝国を築くのに失敗している。イングランドは大帝国を築いたが、間接統治であり、他の民族を自国に統合するものではなかった。
トッドの理論は様々な疑問を説明する。例えば、なぜ共産主義体制はマルクスが予想したような資本主義先進国ではなくロシアや中国で実現したのか、なぜ遠く離れたドイツと日本の社会制度が似ているのか、なぜアメリカ人は自由と独立を重視するのか、などである。説明があまりに明快で決定的だったため、マルクス主義が失墜しつつある当時にあって、新たな決定論であるとして激しい攻撃を受けることとなった。トッドはこれを、倫理的な判断によって事実を否定するものであるとし、事実を事実として認める者だけが事実を乗り越えられると述べている[11]。
(中略)
共同体家族システムの起源
トッドは当初、家族型の分布は偶然であり、何ら環境的要因はないとしていた。すなわち、ドイツと日本が似ているのは同じ直系家族だからだが、両民族が直系家族なのは偶然の一致だと見ていた。しかし後に、言語学者のローラン・サガールの指摘により、家族型の分布が、中心から革新が伝播して周辺に古形が残るという周圏分布をなすことを示した[12]。これは言語地理学の重要な原則であり、日本では柳田國男の『蝸牛考』でよく知られている。ユーラシア内陸に外婚制および内婚制の父系共同体家族があり、その外側のドイツや日本に直系家族があり、さらにその外側のイングランド、フランス、東南アジアに核家族が存在する。これは、父系共同体家族が最も新しく、次に直系家族が新しく、核家族が最も古い残存形態であることを表している。
トッドとサガールによれば、ユーラシア中心部で生まれた父系共同体家族は、兄弟の連帯に基づく巨大な集団を作る点で軍事的に優位であり、征服を通して広まり、集団主義と女性の低い地位をもたらした。かつてバッハオーフェンが主張した母権制から父権制への移行は歴史的事実ではないが、父系社会のほうが新しいという直感は正しかったのである。アングロサクソンの自由主義や女性の高い地位が、近代性ではなく辺境の古さに由来するという結論には驚くべきものがある。
(中略)
旧世界と新世界の文明の衝突
トッドは家族構造と人口統計に基づいて世界を認識している。このため、サミュエル・P・ハンティントンの『文明の衝突』を全くの妄想と見なしている[17]。
(中略)
またハンティントンは、日本は単独で日本文明を構成し、現在は西欧文明に従っているが、いずれ中華文明に従うだろうと予想した[18]。このような日本特殊論は以前から一般的であり、日本人を本質的に異質な民族と見なす主張は多い。しかしトッドは家族構造の研究を通じて、日本が非常にヨーロッパ的であり、特にドイツやスウェーデンに近いことを見出し、日本特殊論を否定した。トッドは、この発見は生涯最大の衝撃の一つであったと述べている[17]。トッドは頻繁に日本に言及するが、それは日本がヨーロッパと同類であるという確信に基づいている。
(中略)
日本との関係
日本でのシンポジウム
2000年、藤原書店の招きで来日し、討論会を行った。この席で、社会に慣性がある以上、日本が数十年の間にアングロサクソン的なウルトラリベラルな社会に変容するとは考えられないと述べ、それへの反応について警告している。[4]
2010年、日本経済新聞のインタビューでは、日本と中国との不均衡な関係に対して、ロシアとの関係強化を提言した[24]。
トッドの理論は様々な疑問を説明する。例えば、なぜ共産主義体制はマルクスが予想したような資本主義先進国ではなくロシアや中国で実現したのか、なぜ遠く離れたドイツと日本の社会制度が似ているのか、なぜアメリカ人は自由と独立を重視するのか、などである。説明があまりに明快で決定的だったため、マルクス主義が失墜しつつある当時にあって、新たな決定論であるとして激しい攻撃を受けることとなった。トッドはこれを、倫理的な判断によって事実を否定するものであるとし、事実を事実として認める者だけが事実を乗り越えられると述べている[11]。
(中略)
共同体家族システムの起源
トッドは当初、家族型の分布は偶然であり、何ら環境的要因はないとしていた。すなわち、ドイツと日本が似ているのは同じ直系家族だからだが、両民族が直系家族なのは偶然の一致だと見ていた。しかし後に、言語学者のローラン・サガールの指摘により、家族型の分布が、中心から革新が伝播して周辺に古形が残るという周圏分布をなすことを示した[12]。これは言語地理学の重要な原則であり、日本では柳田國男の『蝸牛考』でよく知られている。ユーラシア内陸に外婚制および内婚制の父系共同体家族があり、その外側のドイツや日本に直系家族があり、さらにその外側のイングランド、フランス、東南アジアに核家族が存在する。これは、父系共同体家族が最も新しく、次に直系家族が新しく、核家族が最も古い残存形態であることを表している。
トッドとサガールによれば、ユーラシア中心部で生まれた父系共同体家族は、兄弟の連帯に基づく巨大な集団を作る点で軍事的に優位であり、征服を通して広まり、集団主義と女性の低い地位をもたらした。かつてバッハオーフェンが主張した母権制から父権制への移行は歴史的事実ではないが、父系社会のほうが新しいという直感は正しかったのである。アングロサクソンの自由主義や女性の高い地位が、近代性ではなく辺境の古さに由来するという結論には驚くべきものがある。
(中略)
旧世界と新世界の文明の衝突
トッドは家族構造と人口統計に基づいて世界を認識している。このため、サミュエル・P・ハンティントンの『文明の衝突』を全くの妄想と見なしている[17]。
(中略)
またハンティントンは、日本は単独で日本文明を構成し、現在は西欧文明に従っているが、いずれ中華文明に従うだろうと予想した[18]。このような日本特殊論は以前から一般的であり、日本人を本質的に異質な民族と見なす主張は多い。しかしトッドは家族構造の研究を通じて、日本が非常にヨーロッパ的であり、特にドイツやスウェーデンに近いことを見出し、日本特殊論を否定した。トッドは、この発見は生涯最大の衝撃の一つであったと述べている[17]。トッドは頻繁に日本に言及するが、それは日本がヨーロッパと同類であるという確信に基づいている。
(中略)
日本との関係
日本でのシンポジウム
2000年、藤原書店の招きで来日し、討論会を行った。この席で、社会に慣性がある以上、日本が数十年の間にアングロサクソン的なウルトラリベラルな社会に変容するとは考えられないと述べ、それへの反応について警告している。[4]
今日のドイツ、日本、スウェーデンは、それぞれ非常に豊かな国であり、高齢者が多く、大変成熟した社会です。ナチ党の党員と幹部を生み出し、日本の軍国主義を支えた若くて興奮しやすい人々に満ちた社会ではもはやありません。[…] しかしながら、一〇年、二〇年、三〇年という長期的なタームで見たとき、ドイツや日本のような社会において個人の安全を脅かすリベラリズム的な状況が続いたならば、極めて右傾化した不愉快な反応が生み出されてもおかしくないのです。
(中略) 2010年、日本経済新聞のインタビューでは、日本と中国との不均衡な関係に対して、ロシアとの関係強化を提言した[24]。
日本は非核国なのに対して中国は核保有国です。経済でも日本は高い技術力を持つ先進国なのに比べて、中国は輸出や生産の規模は大きいが技術力は低い。日中両国は、均衡が取れていません。不均衡な関係は危険です。実際、中国は国内の不満をそらすために反日ナショナリズムを利用しています。中国をけん制するには、地政学的に見てロシアとの関係強化が有効なのです。
(以下略)
昨日の記事でコメントしましたが、私は、「日本人はナチスに近い精神性を持っている」と感じていました。それが何故なのかを、エマニュエル・トッド氏の示した「家族型」から知ることができました。
横軸に「自由主義」と「権威主義」、縦軸に「平等主義」と「非平等主義」
を設定すると、4つの家族型に分類できます。社会が「自由主義的」か「権威主義的」かという軸は、親子関係が指標になります。また、社会が「平等主義的」か「非平等主義的」かという軸は、兄弟関係が指標となります。相続にあたって長男が全部とるのか、それとも均分相続するのかという指標です。
自由・平等は平等主義核家族(フランス)、自由・非平等は絶対核家族(アメリカ、イギリス)、権威・平等は外婚制共同体家族(ロシア)、権威・不平等は直系家族(ドイツ、日本)ということです。
ドイツと日本は共に直系家族であり、“秩序と安定を好み、政権交代が少ない。自民族中心主義が見られる。”というのです。見事だ。エマニュエル・トッド氏は、“これら家族制度こそが、社会の価値観を生み出すのだと主張した”というのですが、日本の状況に当てはめるとこの通りだとしか思えない。
エマニュエル・トッド氏は、日本は高齢者が多く成熟した社会であり、“軍
国主義を支えた若くて興奮しやすい人々に満ちた社会ではもはやありません。…しかしながら、一〇年、二〇年、三〇年という長期的なタームで見たとき、ドイツや日本のような社会において個人の安全を脅かすリベラリズム的な状況が続いたならば、極めて右傾化した不愉快な反応が生み出されてもおかしくない”と言っています。
“個人の安全を脅かすリベラリズム的な状況”というのが分かりにくいのですが、こちらの記事でエマニュエル・トッド氏は、「エリートは人々の生活水準に関心を持とうとしません。現在の民主主義は、ウルトラ・リベラルな民主主義であり、エリートが人々の生活水準の低下をもたらしているように見えます。…不平等が広がるにつれて、多くの人々の生活水準は下がり始めています。もし、支配者階級が生活水準の低下を促し続けるなら、民主主義は政治的にも経済的にも生き残れない。独裁国家になるのは避けられないでしょう。」と言っています。
岸田禍で、「貧困から極貧へ」は避けられそうにありません。そこへ、若くて興奮しやすい人々にアピールする「参政党」が出現しました。
6月7日の記事でスペインの哲学者オルテガの思想を紹介しました。“自己を確立していない根無し草の「大衆」は、同時に自分の能力を過信し慢心する性質も持っている”ということでした。動画の中で、“オルテガの言っていること、そして私の師匠でもある西部邁さんが言っていた事の一つはですね、「熱狂」を疑えと言うことだったと思うんですね。熱狂をしている人間というのは、何か一つのことを信じている。そして、それから外れる他者を排除していくという、そういう心理的な何かが働いている。だから落ち着いて物事を考えるためには、熱狂というものを疑いなさい、と私はよく言われたんですけども、どうも今の時代って熱狂しがちですよね。”と言っていました。
危険な時代になったものです。