欧米がコソボを非難してた理由

ふう〜っ・・ 胸くそ悪くなった。

どうしたの?

どれどれ? フィナンシャル・タイムズの記事?

まるで、悪女にからまれてるようなインタビューだぜ。

へえ、おもしろそう! で、なんて書いてあるの?

こないだの、北コソボのズヴェカン市のできごとを覚えてるか?

ああ、
前回の話だね。
セルビア人の割合が多い北コソボの4つの自治体で、セルビア人が選挙をボイコットした結果、
たった3%の得票率でアルバニア人が市長になってしまった。その新市長の初登庁にコソボ・セルビア人たちが抵抗したことで、NATOから派遣されたKFOR(コソボ治安維持軍)の陣地から暴力が始まり、KFORとセルビア人、合わせて数十人が負傷した。

そう、幸い大事には至らなかったから良かったものの、
実はあれはKFORの陣地から誰かがセルビア人を挑発し、怒り狂ったセルビア人を国際社会の非難にさらすという、コソボの首相クルティが仕組んだ計画だったらしい。(
Kosovo Online)
クルティ

へえ、クルティってそういうことするんだ〜。

で、
あの事件に対する欧米の反応を覚えているかい?

意外だったよね。
特にアメリカは合同軍事訓練からコソボをはずすことで、コソボにおしおきをした。

あれは意外な展開だった。コソボ当局も予想しなかったことだろう。
EUだってクルティを非難して、セルビアの肩を持って、いったいどうした?って感じだった。

そう、
みんな示し合わせたみたいにコソボを非難してたよな。フィナンシャル・タイムズは、その疑問にお答えしている。

うわあ、知りたい、知りたい。

知っての通り
セルビアは、初めっからロシア制裁に参加しないと決めている。EUが、「ロシア制裁に参加すれば、EU加盟が早くなりますよ」ってニンジンをぶら下げても、揺らがなかった。

独立国として自分の意志を貫くセルビアは、尊敬に値する。
だが、フィナンシャル・タイムズは、こう書いている。〈ヴチッチは、これまでロシアを支持しており、ウクライナへの全面侵攻後、西側の対ロシア制裁に同調することを拒否してきた。しかし、仲介業者を通じて、セルビア製の弾薬がウクライナに渡ったというアメリカ政府の報告については、それを止める計画はないと述べた。〉

え? どういうこと? ヴチッチさん、ロシアを裏切ったの? 信用してたのに。

これを読んだ時、おれもそういう反応だった。

だって、セルビア製の弾薬がウクライナに渡っているのを知ってて止めないって、そういうことだよね?

だが、
ヴチッチは、別の記事でそのワケを話している。〈セルビアは、ロシアにもウクライナにも武器を輸出していないし、今後もするつもりはないが、セルビアは、許可されれば(弾薬を)どこへでも輸出する。ウクライナでセルビア製の弾薬が使われているとしたら、それは、セルビアがトルコ、スペイン、チェコに輸出された弾薬だ〉と。

なるほど、セルビアが意図的に、ウクライナに弾薬を送ったワケじゃないって意味だね。でも、
さっきのフィナンシャル・タイムズの記事だけ読んだら、まるでセルビアがロシアを裏切って、ウクライナに弾薬を送っているように聞こえる。

わざとだな、セルビアがロシアから離れたという印象操作だな。さらに、どっから仕入れてきたのか、こんな情報も書かれている。
〈コソボで民族対立が再燃している昨今、セルビアの弾薬をウクライナ戦線に送り込むパイプラインは、アメリカ、NATO、EUがセルビアを支援するようになった重要な要因となっていると、この地域の西側外交官3人は語っている。〉

へえ、3人の外交官ねえ。

名前を上げろ、って言いたくなるよな。ウクライナにセルビア製弾薬を送ることを認めたのは、〈西側諸国の賛同を得るための、意図的な行動だったのか〉と聞かれて、ヴチッチはこういう意味のことを答えている。
〈私は馬鹿ではない。武器の一部がウクライナに渡るかもしれないことは承知している。だが、セルビアにはセルビアの事情がある。まだまだ発展途上のセルビア経済を支えるためには、ロシアやウクライナ以外の国に武器を売る必要があるからだ。〉(
RadioFreeEurope)

お家の事情があるんだよね。

だが、フィナンシャル・タイムズは、どうしてもヴチッチをロシアから引き離したい。〈ヴチッチさん、以前あなたは、3ヶ月に1回はプーチンと話してると言いました。今でもそんなふうに、プーチンと話しているのですか?〉

うわ! なんで、ここでそんな質問する?

質問をされたヴチッチも、同じ気分だったと思う。だが彼は、〈プーチンと3ヶ月ごとに話していた時代は終わった。モスクワからの訪問者を受け入れる以外は、1年間クレムリンと接触していない〉とストレートに答えている。

なあんだ、セルビアはロシアから遠ざかっているんだ、って印象だね。

こんなふうに、欧米メディアはちょくちょく、フェイクニュースを流す。たとえば、「ヴチッチはロシア制裁に加わることに同意した」と書かれていて、こっちは驚く。「まじか? あのヴチッチもとうとう折れたか?」でも、現地の情報を確かめると、そんなこと言ってなかったとか。

やっぱ、欧米のメディアは平気でウソを書くから信用できないね。でも、知らない人たちは、セルビアが寝返ったように思うよ。

それも、「ロシアは孤立しています」のイメージ作戦だな。なんたって、
欧州44カ国の中で唯一セルビアは、今なお対ロシア制裁に抵抗しているんだから。どんな巨大な圧力を受けても、それだけは守ってきたんだから。(
RadioFreeEurope)

セルビアはうらやましいくらいに自分を持っている、エライ!

だが、セルビアもEUと袂を分かつわけにはいかん。EUに加盟して経済を安定させたい。するとEUは「ロシア制裁に加わってくれたら早く加盟できるのに」と言ってくる。

ヴチッチさん、「も〜うんざり」だね。

だが、フィナンシャル・タイムズの「セルビアがロシアを捨て欧米についた」ような記事の反応は大きかった。ヴチッチもうんざりしたのか、こう言っている。「特定の政治家とメディアによる、あの惨めで、悪質で、腐敗したやり方は、セルビアの立場を破壊することだけを目的とした、とても哀れなものだ。
ウクライナや西側諸国を支持する人々は、プーチンとの関係を台無しにしようとし、ある人々は突然、セルビアがウクライナに弾薬を送ったなどと言う、アメリカの偽の情報源さえも信用した。」(
Kosovo Online)

やっぱ、アメリカの偽の情報・・。

それを、堂々と公に公開するフィナンシャル・タイムズ。
「ここではセルビア人であるという理由だけで有罪になる」

ところで、最近のコソボはどうなってるの?

コソボの治安維持軍KFORの司令官は、現在のコソボ情勢を「非常に複雑で、緊迫し、不安定である」と言っている。

今でも、コソボ・セルビア人はコソボ政府にいじめられてるの?

ああ、
コソボ警察は、北コソボにチェックポイントを設けて、夜間に通行する車を止めて乗員を頭からつま先まで検査した上で、銃で殴り、罵声を浴びせるそうだ。(
Kosovo Online)

警察じゃなくて愚連隊だね。

5月29日のズヴェカン騒動で2名逮捕されて以来、
ほとんど毎日どこかで、特殊警察ROSUがセルビア人を逮捕している。逮捕者はすでに12人になった。コソボ・セルビア人たちは口を合わせてこう言う。「ここではセルビア人であるという理由だけで有罪になる」と。(
Kosovo Online)

ひどい話だ。
しかも、一旦逮捕されると暴力は当たり前、弁護士が何を言っても問答無用、裁判も形だけで、一生、刑務所から出られないケースがほとんどだ。アルバニア人に法はあっても、セルビア人に法はないからな。

ひどい、やってることは「差別」だよ。
6月14日、ROSU隊員3名をセルビアの対テロ特殊部隊が逮捕

社会から「差別」や「偏見」がなくならない限り平和は来ない、というのは真実だ。そして
6月14日、さらに拍車をかけるできごとが起こった。
コソボとの境界線からセルビア寄りに300m入った地点で、ウロウロしていたROSU隊員3名をセルビアの対テロ特殊部隊が逮捕した。

ROSUが、セルビアに入って来てた? いったい何をしていたんだろう?

彼らの所持品から見て、偵察していたのは明らかだ。また、連中はセルビア人のリストを持っていたと言うから、もっと深刻な計画があったのかもしれん。(
Kosovo Online)

セルビア人の拉致とか、暗殺とか??
クルティも「セルビア軍がROSUを誘拐した」と大騒ぎになった。ただちにコソボ政府は、セルビア製品のコソボへの持ち込みを禁止、セルビア郵便の車両、セルビアナンバー車両のコソボへの入国を禁止した。

う〜ん、もしかして、クルティって「目には目を、歯には歯を」の流派?

かもな、アルバニア人はイスラム教が多いって言うから。

セルビア人はセルビア正教、キリスト教か。宗教も彼らを隔てる壁になっているのか。
逮捕されたセルビア人はみな、コソボ警察から重傷を負うほどの暴力を受けているが、セルビア側に逮捕されたROSU隊員は、丁重におもてなしを受けているそうだ。「素晴らしい条件で拘留されており、全員が自分の部屋を持っていて、食べるもの、飲むもの、ジュース、果物、ケーキがあり、欲しいものはすべて手に入る。コソボ警察官の誘拐疑惑に関することは、すべて嘘だ。誘拐はまったくなかった。」(
Kosovo Online)

へえ? 逮捕されてケーキ食べてるの? いいなあ。セルビアのケーキってどんなのかなあ? おいしいのかなあ?

はあ~ おめえは、のんきでええなあ。おれなんか、毎日いろいろ起こるから、ニュースを追っかけるだけで大変だってのに。

くろちゃんよりも、セルビアのトップに立つヴチッチさんはもっと大変だよう。
最凶クイントが、コソボのバックについている

まったくだ。まじめに国を守ろうとすればするほど、苦労が多い。6月18日の国民へのメッセージで、ヴチッチは愚痴のような本音を語っている。
「私たちの国は、平和を維持し、歴史上かつて見なかったほどに速い発展を遂げるために、すべてを捧げました。それが事実です。しかし、ヨーロッパの道を歩んでいる私たちが、欧米列強の真面目で責任あるパートナーになろうといくら努力しても、彼らの要求に応え、行動しなければ、彼らは私たちをそのように見てはくれませんでした。」(
Kosovo Online)
ヴチッチ氏

なんか、それ、誰かも言ってた。

ハンガリーのオルバン首相だな。EUに加盟して西欧と同一線上に立てたと思ったら、いつまで経っても格下扱い。それどころか、西欧からLGBTQみたいな変なもんがいっぱい入ってきて、EUなんか入らなきゃ良かったって。
ハンガリーのオルバン首相

やっぱ、問題の背後には「差別」がある。

西欧と東欧と言う時、おれたちから見たら同じヨーロッパなのに、
明らかに西欧は、東欧を格下に見ている。

セルビアはいつまで経っても、フランス・ドイツに並べない。

そうだ、
コソボとセルビアの交渉を主導しているのは、EUよりも、「アメリカ・イギリス・イタリア・フランス・ドイツ」の5カ国、いわゆる「クイント」だ。セルビアのような小国は、こいつらの言いなりになるしかないってワケだ。そして、
その最凶クイントが、コソボのバックについている。

なんだって?

ヴチッチ「挑発しか考えていないクルティ率いるコソボは、欧米の庇護を受けている。」(
Kosovo Online)ここの「欧米」は「クイント」だと思わねえか?

うんうん。

ヴチッチ「コソボ・セルビア人への暴力は、クルティが単独でやっていると思っていたが、特定の西側諸国の支援を受けていることを今は知っている。」(
Kosovo Online)

ここの「特定の西側諸国」も「クイント」のことだね?
ヴチッチ「我が国は、殺人者、嘘つき、詐欺師(のクルティ)による激しい攻撃を受けている。NATO諸国と比較して、我が国がいかに小さな国であるか、我が国の政策は、開発と経済的進歩でなければならないことを私は十分に理解している。しかし、国民の生存がどれほど脅かされているかも、私はよく知っている。
」(
Kosovo Online)

経済の発展のためには、セルビアは「クイント」の言うなりになるしかない。
でも、
「クイント」はクルティと共謀して、コソボからセルビア人を追い出したい。
コソボ・セルビア人も大事、経済も大事、どうすりゃいいんだ状態だね。
胸に突き刺さるような市民たちの声

ヴチッチもご苦労さんなこった。だが、連日のように行われている、
コソボ・セルビア人の平和的抗議集会に集まる人々も、仕事しながらご苦労さんだ。ただ、彼ら
の発言を聞いていると、経済よりも「人」の方がずっと大事じゃないかと思えてくる。

たしかに、「人」あっての経済だからね。

おめえも、たまにはいいこと言うな。市民らの発言を上げてみようか。
「私たちは都市から追い出され、ゲットーに押し込められ、懲罰的な逮捕が行われている。
(中略)...25年間、最低限の人権しか与えられてこなかった私たちは
(中略)...何もかもにうんざりしている。もう十分だ。私たちは国際社会の約束や保証に耳を傾けてきた。私たちに与えられる悲惨さと苦しみを覆い隠そうとしてきた。私たちは、自分たちの生活と生存のために戦わなければならない状況に追い込まれている。もし権利があったとしても、それは紙の上の文字にすぎない。」
「コソボ北部でのセルビア人狩りは、長い間、公然と行われてきた。(中略)...市民は保護を期待しているが、国際社会からも、コソボ北部で治安を維持し、ROSUを撤退させるべきKFORからの保護も、ない。」
「1999年(NATOの空爆によって難民になったセルビア人が)、橋の上で行列していたのを見た。2004年も難民になったセルビア人の行列を見た。2008年と2011年はバリケードの上で自分たちの独自性を守った。このように、北は耐えるだろう。」
「私たちは、ここが私たちの祖父、曾祖父、父親の出身地であり、私たちの子どもたちやそこに来るすべての世代がいる場所であることを、今一度思い出す必要があります。そして、私たちは決して降伏することはありません!」
孵化したばかりのクロアゲハが、枝にぶら下がって羽を乾かしている。
田んぼは田植えが終わり、水面を渡る風が涼しい。
こんな平和な光景を見ながら、秘密警察に脅かされながら生活している北コソボのセルビア人のことを考える。
尊敬する友人が逮捕され、警察で暴力を振るわれていると聞く。
愛する夫が逮捕され、かわいい我が子が警察にボコボコにされて帰ってくる。
「何があっても心の平静を失わない」修行とは言え、どんなにきつい日々だろう。