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ぴょんぴょんの「挑発するコソボ(12)」 ~忍耐強く、平和的抗議を続ける人々
欧米がコソボを非難してた理由
セルビアのヴチッチ大統領のインタビュー記事を読んでたら、気分悪くなったわ。
ああ、前回の話だね。
セルビア人の割合が多い北コソボの4つの自治体で、セルビア人が選挙をボイコットした結果、たった3%の得票率でアルバニア人が市長になってしまった。その新市長の初登庁にコソボ・セルビア人たちが抵抗したことで、NATOから派遣されたKFOR(コソボ治安維持軍)の陣地から暴力が始まり、KFORとセルビア人、合わせて数十人が負傷した。
セルビア人の割合が多い北コソボの4つの自治体で、セルビア人が選挙をボイコットした結果、たった3%の得票率でアルバニア人が市長になってしまった。その新市長の初登庁にコソボ・セルビア人たちが抵抗したことで、NATOから派遣されたKFOR(コソボ治安維持軍)の陣地から暴力が始まり、KFORとセルビア人、合わせて数十人が負傷した。
そう、幸い大事には至らなかったから良かったものの、実はあれはKFORの陣地から誰かがセルビア人を挑発し、怒り狂ったセルビア人を国際社会の非難にさらすという、コソボの首相クルティが仕組んだ計画だったらしい。(Kosovo Online)
クルティ
Wikimedia_Commons[Public Domain]
だが、フィナンシャル・タイムズは、こう書いている。〈ヴチッチは、これまでロシアを支持しており、ウクライナへの全面侵攻後、西側の対ロシア制裁に同調することを拒否してきた。しかし、仲介業者を通じて、セルビア製の弾薬がウクライナに渡ったというアメリカ政府の報告については、それを止める計画はないと述べた。〉
だが、ヴチッチは、別の記事でそのワケを話している。〈セルビアは、ロシアにもウクライナにも武器を輸出していないし、今後もするつもりはないが、セルビアは、許可されれば(弾薬を)どこへでも輸出する。ウクライナでセルビア製の弾薬が使われているとしたら、それは、セルビアがトルコ、スペイン、チェコに輸出された弾薬だ〉と。
なるほど、セルビアが意図的に、ウクライナに弾薬を送ったワケじゃないって意味だね。でも、さっきのフィナンシャル・タイムズの記事だけ読んだら、まるでセルビアがロシアを裏切って、ウクライナに弾薬を送っているように聞こえる。
わざとだな、セルビアがロシアから離れたという印象操作だな。さらに、どっから仕入れてきたのか、こんな情報も書かれている。
〈コソボで民族対立が再燃している昨今、セルビアの弾薬をウクライナ戦線に送り込むパイプラインは、アメリカ、NATO、EUがセルビアを支援するようになった重要な要因となっていると、この地域の西側外交官3人は語っている。〉
〈コソボで民族対立が再燃している昨今、セルビアの弾薬をウクライナ戦線に送り込むパイプラインは、アメリカ、NATO、EUがセルビアを支援するようになった重要な要因となっていると、この地域の西側外交官3人は語っている。〉
名前を上げろ、って言いたくなるよな。ウクライナにセルビア製弾薬を送ることを認めたのは、〈西側諸国の賛同を得るための、意図的な行動だったのか〉と聞かれて、ヴチッチはこういう意味のことを答えている。
〈私は馬鹿ではない。武器の一部がウクライナに渡るかもしれないことは承知している。だが、セルビアにはセルビアの事情がある。まだまだ発展途上のセルビア経済を支えるためには、ロシアやウクライナ以外の国に武器を売る必要があるからだ。〉(RadioFreeEurope)
〈私は馬鹿ではない。武器の一部がウクライナに渡るかもしれないことは承知している。だが、セルビアにはセルビアの事情がある。まだまだ発展途上のセルビア経済を支えるためには、ロシアやウクライナ以外の国に武器を売る必要があるからだ。〉(RadioFreeEurope)
だが、フィナンシャル・タイムズは、どうしてもヴチッチをロシアから引き離したい。〈ヴチッチさん、以前あなたは、3ヶ月に1回はプーチンと話してると言いました。今でもそんなふうに、プーチンと話しているのですか?〉
質問をされたヴチッチも、同じ気分だったと思う。だが彼は、〈プーチンと3ヶ月ごとに話していた時代は終わった。モスクワからの訪問者を受け入れる以外は、1年間クレムリンと接触していない〉とストレートに答えている。
こんなふうに、欧米メディアはちょくちょく、フェイクニュースを流す。たとえば、「ヴチッチはロシア制裁に加わることに同意した」と書かれていて、こっちは驚く。「まじか? あのヴチッチもとうとう折れたか?」でも、現地の情報を確かめると、そんなこと言ってなかったとか。
それも、「ロシアは孤立しています」のイメージ作戦だな。なんたって、欧州44カ国の中で唯一セルビアは、今なお対ロシア制裁に抵抗しているんだから。どんな巨大な圧力を受けても、それだけは守ってきたんだから。(RadioFreeEurope)
Predsednik Srbije Aleksandar Vučić izjavio je da "Srbija nije i neće izvoziti oružje Ukrajini", kao i da "nije i neće" izvoziti ni municiju ni toj zemlji ni Rusiji.https://t.co/Gu81IP3AZK
— Radio Slobodna Evropa (@RSE_Balkan) April 13, 2023
だが、フィナンシャル・タイムズの「セルビアがロシアを捨て欧米についた」ような記事の反応は大きかった。ヴチッチもうんざりしたのか、こう言っている。「特定の政治家とメディアによる、あの惨めで、悪質で、腐敗したやり方は、セルビアの立場を破壊することだけを目的とした、とても哀れなものだ。
ウクライナや西側諸国を支持する人々は、プーチンとの関係を台無しにしようとし、ある人々は突然、セルビアがウクライナに弾薬を送ったなどと言う、アメリカの偽の情報源さえも信用した。」(Kosovo Online)
ウクライナや西側諸国を支持する人々は、プーチンとの関係を台無しにしようとし、ある人々は突然、セルビアがウクライナに弾薬を送ったなどと言う、アメリカの偽の情報源さえも信用した。」(Kosovo Online)
「ここではセルビア人であるという理由だけで有罪になる」
5月29日のズヴェカン騒動で2名逮捕されて以来、ほとんど毎日どこかで、特殊警察ROSUがセルビア人を逮捕している。逮捕者はすでに12人になった。コソボ・セルビア人たちは口を合わせてこう言う。「ここではセルビア人であるという理由だけで有罪になる」と。(Kosovo Online)
6月14日、ROSU隊員3名をセルビアの対テロ特殊部隊が逮捕
社会から「差別」や「偏見」がなくならない限り平和は来ない、というのは真実だ。そして6月14日、さらに拍車をかけるできごとが起こった。
コソボとの境界線からセルビア寄りに300m入った地点で、ウロウロしていたROSU隊員3名をセルビアの対テロ特殊部隊が逮捕した。
コソボとの境界線からセルビア寄りに300m入った地点で、ウロウロしていたROSU隊員3名をセルビアの対テロ特殊部隊が逮捕した。
逮捕されたセルビア人はみな、コソボ警察から重傷を負うほどの暴力を受けているが、セルビア側に逮捕されたROSU隊員は、丁重におもてなしを受けているそうだ。「素晴らしい条件で拘留されており、全員が自分の部屋を持っていて、食べるもの、飲むもの、ジュース、果物、ケーキがあり、欲しいものはすべて手に入る。コソボ警察官の誘拐疑惑に関することは、すべて嘘だ。誘拐はまったくなかった。」(Kosovo Online)
最近テレビで見たモスクワシュニッツっていうフルーツがいっぱいの層になってるセルビアのケーキがめちゃくちゃおいしそうだった。日本にありそうでない。 pic.twitter.com/nehTUzvAan
— ナーオ🕊 (@lemon_kiroku) June 30, 2020
最凶クイントが、コソボのバックについている
まったくだ。まじめに国を守ろうとすればするほど、苦労が多い。6月18日の国民へのメッセージで、ヴチッチは愚痴のような本音を語っている。
「私たちの国は、平和を維持し、歴史上かつて見なかったほどに速い発展を遂げるために、すべてを捧げました。それが事実です。しかし、ヨーロッパの道を歩んでいる私たちが、欧米列強の真面目で責任あるパートナーになろうといくら努力しても、彼らの要求に応え、行動しなければ、彼らは私たちをそのように見てはくれませんでした。」(Kosovo Online)
「私たちの国は、平和を維持し、歴史上かつて見なかったほどに速い発展を遂げるために、すべてを捧げました。それが事実です。しかし、ヨーロッパの道を歩んでいる私たちが、欧米列強の真面目で責任あるパートナーになろうといくら努力しても、彼らの要求に応え、行動しなければ、彼らは私たちをそのように見てはくれませんでした。」(Kosovo Online)
ヴチッチ氏
Author:Guelland/ MSC[CC BY]
ハンガリーのオルバン首相だな。EUに加盟して西欧と同一線上に立てたと思ったら、いつまで経っても格下扱い。それどころか、西欧からLGBTQみたいな変なもんがいっぱい入ってきて、EUなんか入らなきゃ良かったって。
ハンガリーのオルバン首相
Author:Vlada Republike Slovenije[CC BY-SA]
そうだ、コソボとセルビアの交渉を主導しているのは、EUよりも、「アメリカ・イギリス・イタリア・フランス・ドイツ」の5カ国、いわゆる「クイント」だ。セルビアのような小国は、こいつらの言いなりになるしかないってワケだ。そして、その最凶クイントが、コソボのバックについている。
ヴチッチ「コソボ・セルビア人への暴力は、クルティが単独でやっていると思っていたが、特定の西側諸国の支援を受けていることを今は知っている。」(Kosovo Online)
ヴチッチ「我が国は、殺人者、嘘つき、詐欺師(のクルティ)による激しい攻撃を受けている。NATO諸国と比較して、我が国がいかに小さな国であるか、我が国の政策は、開発と経済的進歩でなければならないことを私は十分に理解している。しかし、国民の生存がどれほど脅かされているかも、私はよく知っている。」(Kosovo Online)
経済の発展のためには、セルビアは「クイント」の言うなりになるしかない。
でも、「クイント」はクルティと共謀して、コソボからセルビア人を追い出したい。
コソボ・セルビア人も大事、経済も大事、どうすりゃいいんだ状態だね。
でも、「クイント」はクルティと共謀して、コソボからセルビア人を追い出したい。
コソボ・セルビア人も大事、経済も大事、どうすりゃいいんだ状態だね。
胸に突き刺さるような市民たちの声
ヴチッチもご苦労さんなこった。だが、連日のように行われている、コソボ・セルビア人の平和的抗議集会に集まる人々も、仕事しながらご苦労さんだ。ただ、彼らの発言を聞いていると、経済よりも「人」の方がずっと大事じゃないかと思えてくる。
「私たちは都市から追い出され、ゲットーに押し込められ、懲罰的な逮捕が行われている。(中略)...25年間、最低限の人権しか与えられてこなかった私たちは(中略)...何もかもにうんざりしている。もう十分だ。私たちは国際社会の約束や保証に耳を傾けてきた。私たちに与えられる悲惨さと苦しみを覆い隠そうとしてきた。私たちは、自分たちの生活と生存のために戦わなければならない状況に追い込まれている。もし権利があったとしても、それは紙の上の文字にすぎない。」
「コソボ北部でのセルビア人狩りは、長い間、公然と行われてきた。(中略)...市民は保護を期待しているが、国際社会からも、コソボ北部で治安を維持し、ROSUを撤退させるべきKFORからの保護も、ない。」
「1999年(NATOの空爆によって難民になったセルビア人が)、橋の上で行列していたのを見た。2004年も難民になったセルビア人の行列を見た。2008年と2011年はバリケードの上で自分たちの独自性を守った。このように、北は耐えるだろう。」
「私たちは、ここが私たちの祖父、曾祖父、父親の出身地であり、私たちの子どもたちやそこに来るすべての世代がいる場所であることを、今一度思い出す必要があります。そして、私たちは決して降伏することはありません!」
「コソボ北部でのセルビア人狩りは、長い間、公然と行われてきた。(中略)...市民は保護を期待しているが、国際社会からも、コソボ北部で治安を維持し、ROSUを撤退させるべきKFORからの保護も、ない。」
「1999年(NATOの空爆によって難民になったセルビア人が)、橋の上で行列していたのを見た。2004年も難民になったセルビア人の行列を見た。2008年と2011年はバリケードの上で自分たちの独自性を守った。このように、北は耐えるだろう。」
「私たちは、ここが私たちの祖父、曾祖父、父親の出身地であり、私たちの子どもたちやそこに来るすべての世代がいる場所であることを、今一度思い出す必要があります。そして、私たちは決して降伏することはありません!」
ヴチッチさんの願い
こんな現状を見かねてEUのボレル上級代表は、ヴチッチとクルティに、ブリュッセルで開かれる危機管理会議に出席するよう要請した。だが、ヴチッチはゼッタイ拒否。「我々は常に対話によってあらゆる問題を克服してきた。しかし、現時点では、毎日挑発することが彼(クルティ)の狂信的なイデオロギーで、紛争を引き起こしたいと考えているような男と話をする理由が見当たらない。それはさらなる損害をもたらすだけだし、それが私が無意味だと考えた理由だ。」
(Kosovo Online)
(Kosovo Online)
だが、こんなに頑なに出席を拒んでいたヴチッチも、クルティと顔を合わせなければブリュッセルに行ってもいいと言い出した。だが、あきらめモードが漂っている。最初からシナリオには、セルビアが折れることが書いてあると言うんだ。ヴチッチは、「セルビアはすでに譲歩しすぎるぐらい譲歩しており、これ以上話し合う用意はない」として、セルビアをまともに相手にせず、コソボを支援してきた西側諸国を非難したと。(RT)
Kosovo situation most difficult in 24 years – Vucichttps://t.co/uevZQnxBLk pic.twitter.com/1gOwsok7tv
— RT (@RT_com) June 19, 2023
ああ、コソボのバックに控える「クイント」という怪物は強大だが、熱くなりすぎず冷静に戦ってほしいな。ヴチッチはただ、最近拘束された「罪のないセルビア人」を釈放し、コソボ北部のセルビア人が多く住む地域から特殊部隊ROSUを撤退させ、インチキ選挙によって誕生したアルバニア人市長を罷免してほしいだけ。(RT)そして、願わくば、コソボ・セルビア人が平和に暮らせるCSM(セルビア人自治体共同体)を設立してほしい、それだけ。
最後に、コソボ・セルビア人を代表する、ズヴェカン前市長ミロヴィッチ氏のメッセージで閉めよう。「アルバニアの隣人たちにメッセージを送ります。私たちは今日も共に生き、共に暮らしていますが、将来も平和のうちに共に暮らしてほしいと思います。ある国の幸福は、他の国の不幸の上に成り立つものではないということを、私は民主主義の世界に伝えたい。」(Kosovo Online)
ミロヴィッチ氏Dr. Milovic: Is there an end to Pristina’s terror; the happiness of one nation cannot be built on the misfortune of another (Kosovo Online)
— Dečani Monastery (@DecaniMonastery) June 20, 2023
The former mayor of Zvecan municipality, Dr. Dragisa Milovic, told those gathered at a peaceful protest in this place today in support of… pic.twitter.com/A7uKGrJXba
孵化したばかりのクロアゲハが、枝にぶら下がって羽を乾かしている。
田んぼは田植えが終わり、水面を渡る風が涼しい。
こんな平和な光景を見ながら、秘密警察に脅かされながら生活している北コソボのセルビア人のことを考える。
尊敬する友人が逮捕され、警察で暴力を振るわれていると聞く。
愛する夫が逮捕され、かわいい我が子が警察にボコボコにされて帰ってくる。
「何があっても心の平静を失わない」修行とは言え、どんなにきつい日々だろう。