[くまもりチャンネル] 自然保護団体と猟友会が考える クマ問題(後半)〜 現場を知り尽くしたハンターさんは熊を誤って捕獲しないよう細心の配慮をされている

「自然保護団体と猟友会が考える クマ問題」動画の後半(54:27〜)です。
 3人目の登壇は、農業も営む若い猟友会の支部長さんで「山に餌がないと動物は里に下りてくる」「被害防除(予防)をしなければクマ問題は解決しない」という、熊森協会と同じ考えを発信をされています。
あわら市の鳥獣被害は、クマではなく99%がイノシシの被害だそうです。けれどもイノシシを捕獲するよりもまず①イノシシを寄せ付けない集落づくりを周知する、②確実な侵入防止を施す(電気柵など)、そして最後の手段に③加害個体を捕獲する。①と②をやっていない集落には捕獲罠を貸し出さない、という棲み分けを重視した取り組みをされていました。
奥山でひっそり暮らしているイノシシをどれだけたくさん捕獲しても里の被害は減らず、むしろ山から降りてくるイノシシが住民のエリアに入ってこないようにする方が被害防止には有効だとわかって、あわら市鳥獣対策(行政)と猟友会が連携して、集落(住民)を主役とした効果的な防除を実践されています。
 今回のシンポジウムでは、「くくり罠」という、ワイヤー型の罠で野生動物が足で踏むとバネの力で足が締め付けられる装置が問題となっていますが、あわら市では「くくり罠」を使っていないそうです。クマが間違って罠にかからないために檻には必ず「熊抜けの穴」を義務付けて、さらにクマの痕跡があるときはセンサーカメラでクマの存在を確かめて、餌付けにならないように檻の使用を停止するなど、驚くほどきめ細かに錯誤捕獲をしない努力されていて現場のご苦労を垣間見ました。
 4人目は、長野県小諸市で、長く市職員として鳥獣対策に従事されていた野生鳥獣専門員の方です。
日本の農作物の被害は7割がシカ、イノシシによるもので、ニホンジカの捕獲には8割以上が「くくり罠」が使われるそうです。「くくり罠」はどうしても目的外の動物がかかってしまう錯誤捕獲が増えます。その時には、動物になるべくダメージを与えずに、なるべく早くリリースすることが重要になります。
ところが猟友会のメンバーは近年激減し、平均年齢70歳以上です。加害鳥獣の殺処分も、クマなどの錯誤捕獲の対処も命の危険がある危険な作業で、行政はもっとハンターさんの肉体的負担や精神的ストレスを軽減する取り組みをすべきだと解説されました。
 現場を知り尽くしたお二人の話を聞くと、クマやイノシシ、シカがわざわざ里におりる必要のないくらい自然林の奥山が豊かになれば、人間との棲み分けも上手くいくような気がします。しかし、最初の室谷悠子氏の話にあったように奥山の昆虫が突然いなくなり、広葉樹が受粉できず、空っぽのドングリばかりになってしまった自然林の深刻な荒廃は、クマ問題だけに止まらない不安を感じます。私たちは来年への大きな宿題を抱えています。
(まのじ)

注)以下、文中の赤字・太字はシャンティ・フーラによるものです。

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自然保護団体と猟友会が考える クマ問題➀(発表編)
配信元)


「あわら市と協力したクマ被害防除の取り組み」 吉村嘉貴氏(福井県猟友会金津支部 支部長)

福井県あわら市では、あわら市鳥獣対策(行政)と猟友会が連携して野生動物対策の実践を行っている。
被害防除を徹底することで大きな効果を出している


あわら市の鳥獣被害は、クマではなく99%がイノシシの被害で、他にハクビシン、アライグマの報告がある。イノシシを捕獲するよりもまず、
①イノシシを寄せ付けない集落づくりを周知する、②確実な侵入防止を施す、そして最後に③加害個体を捕獲する。①と②をやっていない集落には捕獲罠を貸し出していない

鳥獣対策の役割分担は、あくまで集落(住民)が主役で、捕獲補助者の資格を得て捕獲檻の管理やエサやり、集落内の点検や柵の設置やチラシの配布などを行う。
猟友会メンバーや市職員による捕獲隊の役割は、檻の稼働、止めさし(捕獲した獣にできる限り苦痛を与えず、安全かつ速やかに殺処分をする)、檻の点検や安全講習を行う。
あわら市(行政)は、被害状況の集約、調査、集落の点検、エサになるものを除去する指導や周知を行う。

やみくもに捕獲の檻を設置するのではなく、集落に維持・管理・見回りの体制を作ってもらい、その上で厳しい使用法の同意が必要で、捕獲補助者の講習を受ける(自分勝手に檻を使用するなどの違反は警察に)。


檻の使用状況は、Googleマップを使ったリアルタイムの檻・罠の位置情報を捕獲隊で共有している。
集落と行政と実施隊が連携していることが目に見えて分かる。

現在の方針は、電気柵や恒久柵を重視している
山にいる多数のイノシシは里に下りてこないので、いくら捕獲しても里の被害は減らない。しかも山では「くくり罠」が主流になるので、他の動物がかかってしまう錯誤捕獲が起こりやすい。
あわら市では「くくり罠」はゼロ
それよりも、里に下りてくる1頭のイノシシの方が加害個体となる。柵の壊し方や抜け方を覚えて仲間を連れてくるので、その個体を狙った里での檻の設置が有効になる。

クマが間違って檻にかかる錯誤捕獲を防止するためのルールで大事なのが、「熊抜けの穴(30㎝×30㎝)」を義務付けること。餌を狙ったのがクマの痕跡がある場合、センサーカメラをセットして確認し、クマだったら餌付けを防ぐために2週間ほど檻を停止する。近隣の檻も全て稼働を停止する。定期的に会議や報告で問題点や変更点を共有する。近隣の市とも意識共有する。
(1:09:00から、クマが檻に餌を取りにきて、熊抜けの穴から出ていく映像があります。)

あわら市の捕獲の状況は、クマの錯誤捕獲がほとんどで、しかも多くは住宅密集地から遥か遠い奥山でイノシシ、ニホンジカ用の「くくり罠」にかかってしまっている。
目撃情報が多発している場所での捕獲は少ない

クマが好む米糠を罠に使わないよう指導されていても罰則がないため、「くくり罠」に米糠を使うハンターが多いのでクマの錯誤捕獲が起こる。 

他の自治体では、檻や罠の設置場所の把握や管理ができていない市町もある。猟友会との個人契約の場合、ルール説明や指導がなく、自分勝手な無許可設置や不適切な「くくり罠」、虚偽報告など問題が多い。熊対応も県下で統一されていないので、市町の担当者が混乱する。

クマの錯誤捕獲を防ぐための「くくり罠」の条件とされる「輪の直径12㎝以内」という規定は、計測方法をごまかして12㎝を超えても合法とするなど、狩猟法の解釈を曖昧にして摘発ができない。その結果、クマが指を失うなど苦痛を与えて死なせてしまうケースが起きる。
プライベートな狩猟は、行政の「有害捕獲」の厳しいルールと大きく異なり、「くくり罠」の設置も、罠の標識もクマの脱出口の義務も曖昧で、あわら市と猟友会との取り組みの効果を失わせている。錯誤捕獲した後のことを考えてほしい


「くくり罠による錯誤捕獲問題解決のために」 竹下毅氏 (合同会社生物資源利活用研究所 代表/ 元長野県小諸市 野生鳥獣専門員)

 13年市職員として鳥獣対策に従事してきた。今年の4月から会社を立ち上げて鳥獣対策にあたっている。

野生鳥獣による農作物の被害額は156億円で、約7割がシカ、イノシシだ。
シカは年間72万頭、イノシシは年間59万頭が猟友会の努力によって捕獲されている。

イノシシの捕獲には「檻罠」、ニホンジカの捕獲には「くくり罠」が8割以上使われている。
つまりニホンジカの8割は「くくり罠」で捕獲されている

日本の野生鳥獣対策の未来は非常に厳しい
加害鳥獣の増加し、今までいなかったアライグマ、キョンなどの外来種による被害が拡大している。またイノシシ、シカの生息域拡大している。
行政の予算の減少、そして一番の問題が、ハンターの高齢化と減少だ。狩猟、動物を殺すことへの意識変化がありそうだ。

現場でどういうことが行われているのか、電気ショッカーによるニホンジカの「止めさし」の動画(1:23:00〜)
会場からは「残酷!」という声が上がるほど辛いシーン。
竹下毅氏は「これが現実です。」「猟友会の方達がこうしてがんばっているからこそ加害鳥獣の捕獲数が伸びて、被害額が156億円にとどめていることをわかって欲しい。」

クマの錯誤捕獲の動画(1:25:36〜)
「シカ、イノシシではないものが罠にかかっている」と連絡を受けて確認に行った時の様子。クマがものすごい勢いでこちらに突っ込んでくる
この動画では、たまたま罠が手首にしっかりかかっていたために助かったが、多くの場合、指2本だけ罠にかかっていたり、縛っている木が細かったり、枯れている木に罠をかけていたら、見回りの係の人が大怪我をしたり亡くなってしまう事故になる

つまり、鳥獣駆除というのは本当に大変。危険を伴うし、精神的ストレス(動物の絶命時の声など聞きたくない)もある。
しかし猟友会は被害を減らすために一生懸命に捕獲されている

「猟友会がクマの駆除を辞退、この報酬ではやってられない」とニュースになったが、当たり前だと思う。少ない金額でボランティアな気持ちで危険な仕事をやれというのは、行政の仕事としては失格。
予算がないからできないというのは仕事をしていないと同じ。どうやって予算を作るか、どうすればハンターさんたちの肉体的負担、精神的ストレスを軽減する仕組みを作るかを考えるのが(行政の)仕事だ

長野県小諸市の鳥獣対策の事例を紹介する。
捕獲従事者の減少している。昭和50年代250人いたハンターさんが、令和元年40人で、今や平均年齢70歳以上になった。一人一人に対する負担がめちゃめちゃかかっている。

このままでは今後、猟友会に有害鳥獣駆除を委託することは不可能になる。小諸市では平成27年(2015年)に、猟友会への捕獲事業の委託をやめた。
小諸市(行政)が主体の「実施隊」となって行うことにして、捕獲従事者の処遇向上、負担軽減する取り組みを実施した
。消防団のようなイメージだ。

実施隊の構成は、
 統括責任者 農林課長
 実施隊隊長 専門員
 捕獲部 狩猟免許所持者
 麻酔部 獣医師
 研究部 研究者
 事務局 市職員

その結果どうなったか、ニホンジカの捕獲数増加し、被害額は半分から3分の1になった。農林水産大臣賞を受けた。
しかしデメリットもあった。市の財政を圧迫したことに加え、錯誤捕獲の増加した


錯誤捕獲とは、有害鳥獣(自分の畑や家屋に被害をもたらす動物)駆除ではない家畜も含めた動物がかかることで、目的でない動物がかかったら逃がす(放獣)のが原則だ

錯誤捕獲をハンターさんの立場に立って考えてみると、良いことは何もない。
 本来の目的の捕獲効率が下がる、本来得られるはずの捕獲料18,000円の機会を失う
 放獣作業に時間を割かれる
 放銃作業は危険で難しく、怪我をするリスクが高い
 罠を仕掛ける能力が低いと思われる
そうなると、報告せずに殺処分するケースも出てくる。

錯誤捕獲を行政の立場で考えてみると、
 そもそも起きてはならないことなので、発生数を調べようと思わない

その結果、どのくらいの錯誤捕獲が起きているのか分からない。まずは、情報収集体制の構築が必要だ

次に、錯誤捕獲の発生を減少させるには、どうすれば良いか
最初のデータでは、ニホンジカの8割は「くくり罠」で捕獲されていた。つまり「くくり罠」の禁止は現実的ではない。
「ベアウオーク」というクマがかかりにくいタイプの「くくり罠」を設定したところ、年間20件だった錯誤捕獲がゼロになった。環境省がクマのいる地域には「ベアウオーク」を指定にすれば錯誤捕獲は減るはずだ
(何度も「くくり罠」にかかってしまって両手両足の指が何本も欠損してしまった子グマの画像 / 1:39:23)

錯誤捕獲が発生してしまった時にどうすればいいか。
いかに早く「くくり罠」からリリースできるかが肝心
で、その時に役立つのが無線機だ。「くくり罠」に発信機をつけ、実施隊員には受信機を貸与する。
罠にかかった動物たちの深刻なダメージになる前に早くリリースし、実施隊員の見回りの負担軽減にもなる。
ハンターさんをもっと大事にしてほしい

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