調和純正律で遊ぼう ~第14回 調和純正律の分析(2)〜五度圏と各音程の協和度

 竹下氏が開発した音律「調和純正律」に関する連載です。
 前回からは、調和純正律を、他の有名な音律と比較しながら分析しています。前回は各音律の12音間の音程を比較しました。
 今回は、五度圏を用いて、主要な音程の協和度を分析します。音律ごとに、どの音の組み合わせが美しく聴こえ、どの音が不協和に聴こえるかが分かります。
(るぱぱ)
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第14回 調和純正律の分析(2)〜五度圏と各音程の協和度


五度圏による音律の分析


音律の性質を調べる目的において、五度圏という便利な表現があります。次の動画にまとめましたのでご覧ください。



五度圏を使うと、完全五度・長三度・短三度という主要な3つの音程すべてがひとつの図で俯瞰できます。

しばしばこれを用いて音律の説明がなされています。その中でも、特に分かりやすく見事だと思ったものがストレングスビヨンドさんのサイトでの用い方です。例えば、キルンベルガー第1調律法を次のように表しています。

引用元:ストレングスビヨンド「古典音律 #3

この図を見るだけで、キルンベルガー第1調律法は次の様な音律であることが分かります。

・ 長三度は C-E, G-H(G-B), D-Fis/Ges(D-F#) が純正音程になる。

・ 短三度は A-C, E-G, H-D(B-D) が純正音程になる。

・ 完全五度はどれもほぼ純正音程になるが、 D-A がウルフ(後述)となり, Fis/Ges-Des(F#-C#) はわずかに(たった約2セント)純正ではない。


同サイトでは、他にも様々な音律をこの図で表現しており、音律を研究したい人にとっては非常に貴重な資料の様に思います。


調和純正律の五度圏


こちらの図を真似て、調和純正律の五度圏を描くと次のようになります。

調和純正律の五度圏

  • 赤色のP … 純正な完全五度
  • ±◯SC … 純正な完全五度からどれくらい音程が広い(+)/狭い(-)かを表します。SCはシントニック・コンマのことで、1SC は 約21.5セントとなります。
  • 赤紫色の線 … 純正な長三度
  • 黄緑色の線 … 純正な短三度

ストレングスビヨンドさんの「その他調律法」にある、さまざまな純正律の五度圏と見比べてみると面白いと思います。

注:一点注意点として、調和純正律は調律の基音がイ(A)です。ストレングスビヨンドさんに掲載されている純正律群は調律の基音がハ(C)です。もしこの2つを見比べる場合は、上の調和純正律の五度圏を90度反時計回りに回転させて見比べると、より2つの差が少なくなります。


音程の協和度比較表


次に、各音程の協和度を表で比較してみます。表では、完全五度・長三度・短三度の協和度を、次の絵文字であらわしました。

  • ⭐ (星): 純正音程
  • ±😃 (スマイル): 1/4SC(5セント)以内で純正から広い(+)/狭い(-)
  • ±😶 (ノーマル): 1/2SC(11セント)以内で純正から広い(+)/狭い(-)
  • ±😨 (青ざめ): 1SC(22セント)以内で純正から広い(+)/狭い(-)
  • ±🤢 (変身寸前): 3/2SC(32セント)以内で純正から広い(+)/狭い(-)
  • ±🐺 (ウルフ): 2SC(43セント)以内で純正から広い(+)/狭い(-)
  • ±🐺🐺 (ウルフ×2): それよりも純正から広い(+)/狭い(-)

それぞれの音程がどのように聴こえるかは、次の動画をご覧ください。なお、「ウルフ」は、非常に広い純正音程との差が、狼のうなりのような響きをもたらすといわれ、この様に呼ばれています。(参考:Wikipedia「減六度」の「ウルフの五度」



他の純正律との比較

まずは、調和純正律の先祖である純正律との比較です。キルンベルガー第1調律法も傾向としては純正律に近いものなので、表に加えてあります。

音程 調和純正律 Marpurg monochord #1 Malcolm キルンベルガー第1法
完全五度
C - G
G - D - 😨
D - A - 😨22 - 😨22 - 😨22
A - E
E - B
B - F# - 😨 + 😨13
F# - C# - 😨22 - 😃2
C# - A♭ - 😶11
A♭ - E♭ + 😨 + 🐺41
E♭ - B♭ + 😨 - 😶10
B♭ - F - 🤢 - 😨22 + 😶7
F - C + 😨
長三度
C - E
G - B
D - F# + 😨13
A - C# + 🐺34 + 😨20
E - A♭ + 🤢23 + 😨20
B - E♭ + 😨 + 🐺41 + 🤢23 + 😨20
F# - B♭ + 🐺🐺 + 🐺41 + 😨20
C# - F + 🤢 + 🐺41 + 😶7 + 😨22
A♭ - C + 🐺 + 🐺41 + 😨18 + 😨22
E♭ - G + 🤢 + 😨18 + 😨22
B♭ - D - 😶 + 🤢28 + 😨22
F - A + 😨
短三度
A - C
E - G
B - D - 😨
F# - A - 😨22 - 🐺34 - 😨22
C# - E - 🐺34 - 😨20
A♭ - B - 🤢23 - 😨20
E♭ - F# - 🐺 - 🐺41 - 😶10 - 😨20
B♭ - C# - 🐺🐺 - 🐺🐺63 - 😨22
F - A♭ - 🤢 - 🐺41 - 😨18 - 😨22
C - E♭ - 🤢 - 😨18 - 😨22
G - B♭ - 😨 - 🤢28 - 😨22
D - F - 😨 - 😨22 - 😨22 - 😨22

注)調和純正律は基音を必ずイ(A)とすることも特徴的ですので、比較の上では、他の純正律の基音はハ(C)のままにしています。

他のテンペラメントとの比較

次に、様々な調を演奏するための「テンペラメント」に属する音律との比較です。

音程 調和純正律 中全音律(Aron) ヴェルクマイスター I(III)調律法 キルンベルガー第3法 十二平均律
完全五度
C - G - 😃5 - 😶6 - 😃5 - 😃2
G - D - 😨 - 😃5 - 😶6 - 😃5 - 😃2
D - A - 😃5 - 😶6 - 😃5 - 😃2
A - E - 😃5 - 😃5 - 😃2
E - B - 😃5 - 😃2
B - F# - 😨 - 😃5 - 😶6 - 😃2
F# - C# - 😃5 - 😃2 - 😃2
C# - A♭ - 😃5 - 😃2
A♭ - E♭ + 😨 + 🐺36 - 😃2
E♭ - B♭ + 😨 - 😃5 - 😃2
B♭ - F - 🤢 - 😃5 - 😃2
F - C + 😨 - 😃5 - 😃2
長三度
C - E + 😃4 + 😨14
G - B + 😶10 + 😃5 + 😨14
D - F# + 😶10 + 😶11 + 😨14
A - C# + 😨16 + 😨14 + 😨14
E - A♭ + 😨16 + 😨20 + 😨14
B - E♭ + 😨 + 🐺41 + 😨16 + 😨20 + 😨14
F# - B♭ + 🐺🐺 + 🐺41 + 😨22 + 😨20 + 😨14
C# - F + 🤢 + 🐺41 + 😨22 + 😨22 + 😨14
A♭ - C + 🐺 + 🐺41 + 😨22 + 😨22 + 😨14
E♭ - G + 🤢 + 😨16 + 😨16 + 😨14
B♭ - D - 😶 + 😶10 + 😶11 + 😨14
F - A + 😨 + 😃4 + 😃5 + 😨14
短三度
A - C - 😃5 - 😃4 - 😃5 - 😨16
E - G - 😃5 - 😶10 - 😃5 - 😨16
B - D - 😨 - 😃5 - 😨16 - 😶11 - 😨16
F# - A - 😃5 - 😨16 - 😨16 - 😨16
C# - E - 😃5 - 😨16 - 😨20 - 😨16
A♭ - B - 😃5 - 😨16 - 😨20 - 😨16
E♭ - F# - 🐺 - 🐺🐺46 - 😨22 - 😨20 - 😨16
B♭ - C# - 🐺🐺 - 🐺🐺46 - 😨22 - 😨22 - 😨16
F - A♭ - 🤢 - 🐺🐺46 - 😨22 - 😨22 - 😨16
C - E♭ - 🤢 - 😃5 - 😨22 - 😨22 - 😨16
G - B♭ - 😨 - 😃5 - 😨16 - 😨16 - 😨16
D - F - 😨 - 😃5 - 😶10 - 😶11 - 😨16

※以上の表を作るプログラムは公開しており、誰でも正確性の検証もしくは好みの音律を追加した表を作ることが可能です。

考察


純正律系の音律や中全音律など、長三度の純正を重視した音律群は、純正な音程を多く取るほどに、しわ寄せとしてどこかにウルフ(大きい不協和)が生じるのが特徴です。調和純正律は、どちらかといえば純正な長三度が多い方ですが、また同様の特徴を持っています。

調和純正律と共通点の多いMarpurgの純正律と比較すると、後者で見られる強いウルフの完全五度・長三度を、多少分散させている感はあります。とはいえ、これといって優れた特性は見当たりません。そもそも、純正音程ではなく身体への作用を考慮して作られた音律ですから、当然といえるかも知れません。

また、他の音律に目を向けると、純正律系ではキルンベルガー第1法、テンペラメントでは十二平均律は、様々な曲を演奏する上での音の協和という観点からは優れているように思います。十二平均律が、音律の試行錯誤の歴史が最終的に出した回答として普及したのは分かる気がします。

もし五度圏や比較表を見て、調和純正律の特徴について何かお気づきの点がある方は、コメント欄にお願いします。


次回は、できれば連載の最後として、これまでの内容をふまえて、調和純正律について感じたこと、またこの音律を音楽の中で活かしていく上での提言をまとめて終わりたいと思います。

ただ、うまく内容がまとまればの話で、もしかしたら今回が最終回となるかもしれません。


この記事は、シャンティ・フーラによる執筆記事です。音楽の分野に詳しい方におかれましては、もし間違いや説明上改善すべき点などがありましたら、ご指摘やご意見をいただければ幸甚です。ぜひ、こちらのコメント欄にフィードバックをお寄せください。



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