トランプ米大統領が登場したことで、今後、多くの逆転現象が見られると思いますが、この記事ではその一つとして対露経済制裁を上げています。対露経済制裁は、クリミアを併合したロシアに対して、米国主導で欧米各国が科したものでした。しかし、記事にもあるように、クリミア併合は、"米国政府の仕掛けたクーデターに対するやむをえない対応策"であり、何よりもクリミアの住民が望んだことです。また"ウクライナ危機の直接の原因は米国政府"にあります。にも関わらず、西側や日本のマスメディアもロシアを徹底して悪者にする報道を繰り返してきました。筆者は、トランプ米大統領が登場したことで、これから逆転現象が起こり、これまで米国に同調していた欧米各国や日本政府、マスメディアや政治家、御用学者などが、その「落とし前」の対応を迫られることになるとしています。また、読者に求めることして、"連中がどう対応するかをよく見守ってほしい"とあります。私たちの無知・無関心を変えていくことが、世の中に良い流れを生み出していくことになるのだと思います。
注)以下、文中の赤字・太字はシャンティ・フーラによるものです。
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ウクライナ危機から3年:制裁解除は当然
転載元)
ちきゅう座 17/1/25
<塩原俊彦(しおばらとしひこ):高知大学准教授>
ウクライナ危機が表面化してから3年が経過する。日本では、ウクライナ危機への関心はすっかり薄れているように感じられる。しかし、ドナルド・トランプ米大統領の登場で、対ロ経済制裁の解除が俎上にあがっており、各国は過去の経済制裁への「落とし前」のつけ方への対応を迫られることになるだろう。
トランプは大統領就任直前まで、制裁解除の条件としてロシアとの反テロ対策での協力をあげていた。2016年末、米国政府がハッキングなどを理由に35人の駐米ロシア外交官などを国外退去処分にした際、プーチン大統領は対抗措置をあえてとらないことで、トランプ新政権との話し合いの窓口をオープンしている。
プーチンは2月2日、ハンガリーを訪問する。核発電所建設問題などの経済協力に加えて、対ロ経済制裁の解除に向けた話し合いが行われるだろう。3月には、EUサミットが計画されており、このころまでには米国の対ロ制裁への姿勢もはっきりするだろう。
対ロ制裁への「落とし前」
筆者は拙著『ウクライナ・ゲート:「ネオコン」の情報操作と野望』、『ウクライナ2.0:地政学・通貨・ロビイスト』において、一貫して対ロ経済制裁に反対の立場をとってきた。なぜならウクライナ危機の直接の原因は米国政府にあったと断言できるからにほかならない。
貧しい西部に住むウクライナの若者を煽動して、そのナショナリズムをたきつけ、武装闘争のやり方まで伝授して、民主的に選ばれていたヴィクトル・ヤヌコヴィッチ政権をクーデターによって崩壊させたのは米国政府なのだから。親ロシアと米国政府が勝手にみなすヤヌコヴィッチ政権を腐敗などの理由をつけて武力で倒し、親米政権を据えたのである。米国政府が中南米で繰り返し行ってきたやり方を今度は複雑な民族が住むウクライナでやってのけたのである。
その過程で、ロシアがクリミア半島の併合を行ったのは事実だが、それはあくまで多数のロシア系住民の生命と財産を守るためであって(もちろん、セヴァストポリの軍港を守るためでもある)、米国政府の仕掛けたクーデターに対するやむをえない対応策であったにすぎない。
「民主主義の輸出」という罪
たまたま読んだ2017年1月24日付のロシアの「コメルサント」紙に掲載されていたハンガリーのピーター・シーヤルト対外関係・外交問題相のインタビュー記事を紹介しよう。このなかで、彼は、「全体として民主党政権下での米国の外交政策は「民主主義の輸出」に焦点をあててきたが、それが多くの諸国で状況の不安定化につながったのである」と、実に明確に話している。ウクライナ危機の本質がロシアのクリミア併合にあるのではなく、米国政府による「民主主義の輸出」という独我論にあることを、彼はよく理解していると言えよう。
ところが、クリミア併合だけを問題視して、米国政府のバカげた制裁に欧州各国や日本も同調した。「長いものに巻かれろ」というだけの外交が展開されたのである。まあ、米国追随の日本政府がこれに従わざるをえなかったことは理解できるが、日本共産党や社民党まで対ロ経済制裁を主張したことに対して、筆者は驚きあきれはてた。ゆえに、拙著のなかで実名を挙げて、こうしたバカな連中を非難しておいた次第である。
それだけではない。日本のマスメディアは筆者のような意見をまったく封殺し、ロシアだけを悪者にする報道を繰り返してきた。そんな扱いを受けてきた筆者にとって見ものなのは、今後、トランプ政権が対ロ制裁を緩和したり撤廃したりする動きに対して、日本政府、より厳しい制裁を求めた日本共産党、社民党、筆者を無視してきたマスメディア、対ロ制裁に賛成してきた御用学者がどのような対応をするかである。
あくまで悪いのはロシアであり、米国が制裁解除の方向に動いても、対ロ制裁の継続を主張するのだろうか。あるいは、米国大統領選にハッキングで干渉したロシアへの制裁として、より厳しい制裁を科すことまで主張するのだろうか(ハッキングについては、すでに筆者のブログ[ https://jp.sputniknews.com/blogs/201701173246230/ ]で指摘したように、どっちもどっちであり、大した問題ではない)。
読者に求めるのは、こうした場面でこうした連中がどう対応するかをよく見守ってほしいということだ。猛省をし、二度と同じ過ちを繰り返さないためにどうすべきかまで踏み込んだ行動がとれるかを見極めてほしい。まあ、筆者の予想では、「スルー」して頬かむりを決め込むだけだろう。ものごとの本質を見極めることもできずに、外務省とおぼしき人々のご機嫌取りのために歪んだ情報を広範囲に拡散させてきた責任はきわめて重大だと思う。
マスメディアの責任
そのお先棒を担いだのがメスメディアであることも忘れてはならない。
とくに強調しておきたいことは、「マスメディアこそ、両論併記を心がけよ」ということである。すでに拙著で指摘したことだが、New York Timesは筆者と同じ意見の論客の考察をきちんと紙面に掲載した。まったくオバマ外交に同調し、虚偽報道までしていたNYTだが、正反対の意見に背を向けるほど頑なではなかった。ところが、日本の新聞は違う。具体的にはあえて書かないが、古巣の朝日新聞の中枢に近い人物に筆者の意見を掲載してくれと頼んだにもかかわらず、あえなく断られたという事実だけを紹介しておこう。社説でバカなことを何度も書いていたから、180度違う筆者の意見など無視するしかなかったのだろう。
こんなマスメディアでは、やがて日本でも米国と同じように、SNSユーザーからしっぺ返しを受けることになるだろう(その懸念については、筆者のブログ[ https://jp.sputniknews.com/blogs/shiobara_toshihiko/ ]で何度も書いているので、参考にしてほしい)。
幸いなことに、筆者の主張は本になっており、多くの人々が読むことができる。高知大学で筆者の本を読んだ学生はみな、大いに驚愕する。日本のウクライナ報道がまったく出鱈目であることを知らなったからだ。いまでは、SNSを通じて、マスメディアの嘘を批判することも簡単にできる。機会をみて、告発をつづけていくことにしよう。
ウクライナのいま
拙著で予想した通り、ウクライナ問題はまったく出口の見えない混乱がつづいている。米国政府が安易にナショナリズムに火をつけたことで、混乱は深まるばかりである。2015年2月12日にベラルーシのミンスクで締結された「ミンスク協定遂行措置」が実現しないまま、ドンバス地域での戦闘はいまでも終結していない。
米国政府の「犬」、アルセニー・ヤツェニューク首相は2016年4月に辞任に追い込まれた。政府を主導する首相へのさまざまな批判が積りに積もった結果として、2月の時点では、ヤツェニューク政府への不信任案は226票の必要数に対して194票しか集められず失敗したが、与党のうち、「自助同盟」(アンドレイ・サドヴィ)、「オレグ・リャシュコのラディカル党」、全ウクライナ同盟「祖国」(ユーリヤ・ティモシェンコ)が離脱し、与党は過半数の226票を維持できなくなっていた。
後任の首相には、ウラジミル・グロイスマン議会議長が就いた。「ポロシェンコ・ブロック」(ピョートル・ポロシェンコ)と「人民戦線」(ヤツェニューク)の支持に若干の少数政党の支援を得てやっと実現させたものだ。だが、カネで票を買うことが当たり前となっている腐敗しきったウクライナ議会にあっては、その後も停滞がつづき、ウクライナ東部のドネツクやルガンスクの自治権の問題はまったく解決しないまま戦闘が継続されている。
2016年11月には、グルジアの元大統領で、2015年5月にポロシェンコ大統領によってオデッサ州知事に就任していたミハイル・サーカシヴィリが辞任した。オデッサ州の腐敗した二人の大物をポロシェンコが支援していることを批判して辞任したのだが、本当の理由はよくわからない。確実なことは、サーカシヴィリが言うように、ウクライナではいたるところに腐敗が蔓延しているということである。
ウクライナ政府はEU加盟をめざして政治経済などの制度を変更しようとしてきた。2016年11月17日には、その努力が実ってEU委員会はウクライナ国籍者へのビザなし渡航の導入を条件つきで承認した。しかし、実際にはEU加盟国で避難民や移民など外国人の流入に対する警戒感が高まっていることから、実際にビザなし渡航が可能になるのは、フランスの大統領選やドイツの議会選の後になるとみられている。
厳しい経済状況
筆者は拙著のなかで、IMFによるウクライナ支援がまったく政治的な支援にすぎず、必ず失敗すると予言してきた。実際に、そうなっている。
IMFは2015年3月11日の理事会で、拡大信用供与ファシリティ(EFF)を適用し、4年間で約175億ドルもの融資をすることを承認した。ウクライナ政府は2015年3月に最初の融資として約50億ドルを、同年8月に約16.2億ドルを受け取った。本来であれば、2015年中にさらに約16.5億ドルの融資が実施される計画であったが、ウクライナのIMFとのプログラム実施の遅れからIMFは融資を実行せず、2016年9月14日になって理事会は約10億ドルの融資を承認した。これにより、ウクライナが受け取ったIMFは3回分合計で約76.2億ドルにのぼることになる。
そもそもIMFのウクライナ支援がどの程度有効かという議論がある。その議論はここでは割愛するが、ウクライナの経済状況は決して楽観できるものではない。IMF使節団は2016年11月3~17日、経済改革プログラムの見直しに関する議論のためにウクライナを訪問した。その報告では、一定の政策実現を認めつつ、中期的財政安定化や反腐敗などの政策実現の必要性が強調されている。腐敗については、国家反腐敗局(National Anticprruption Bureau of Ukraine)が設置されたが、その実効性には大いなる疑問が残る。
懲りないウクライナ:言語法改正の動き
現在、ウクライナ議会では、公の場での外国語の使用を禁止するといった内容の言語法改正が審議されている。ヤヌコヴィッチ政権が武力クーデターによって打倒されたとき、超過激なナショナリストらが主張していたものだが、これは欧米の圧力で潰された。だが、いまになって再び、こうした法改正が行われようとしている。
前述したハンガリーのシーヤルトは、もし言語法改正が実現するような事態になれば、ウクライナに住むハンガリー人のためにEUレベルでこの問題を取り上げ、ウクライナ政府に断固たる措置を求めると語っている。
米国政府が民族対立を煽ったツケは大きい。そんな事実を批判できない欧米政府、マスメディア、御用学者の責任もまた重大であると繰り返し指摘してゆきたい。
ウクライナ危機が表面化してから3年が経過する。日本では、ウクライナ危機への関心はすっかり薄れているように感じられる。しかし、ドナルド・トランプ米大統領の登場で、対ロ経済制裁の解除が俎上にあがっており、各国は過去の経済制裁への「落とし前」のつけ方への対応を迫られることになるだろう。
トランプは大統領就任直前まで、制裁解除の条件としてロシアとの反テロ対策での協力をあげていた。2016年末、米国政府がハッキングなどを理由に35人の駐米ロシア外交官などを国外退去処分にした際、プーチン大統領は対抗措置をあえてとらないことで、トランプ新政権との話し合いの窓口をオープンしている。
プーチンは2月2日、ハンガリーを訪問する。核発電所建設問題などの経済協力に加えて、対ロ経済制裁の解除に向けた話し合いが行われるだろう。3月には、EUサミットが計画されており、このころまでには米国の対ロ制裁への姿勢もはっきりするだろう。
対ロ制裁への「落とし前」
筆者は拙著『ウクライナ・ゲート:「ネオコン」の情報操作と野望』、『ウクライナ2.0:地政学・通貨・ロビイスト』において、一貫して対ロ経済制裁に反対の立場をとってきた。なぜならウクライナ危機の直接の原因は米国政府にあったと断言できるからにほかならない。
貧しい西部に住むウクライナの若者を煽動して、そのナショナリズムをたきつけ、武装闘争のやり方まで伝授して、民主的に選ばれていたヴィクトル・ヤヌコヴィッチ政権をクーデターによって崩壊させたのは米国政府なのだから。親ロシアと米国政府が勝手にみなすヤヌコヴィッチ政権を腐敗などの理由をつけて武力で倒し、親米政権を据えたのである。米国政府が中南米で繰り返し行ってきたやり方を今度は複雑な民族が住むウクライナでやってのけたのである。
その過程で、ロシアがクリミア半島の併合を行ったのは事実だが、それはあくまで多数のロシア系住民の生命と財産を守るためであって(もちろん、セヴァストポリの軍港を守るためでもある)、米国政府の仕掛けたクーデターに対するやむをえない対応策であったにすぎない。
「民主主義の輸出」という罪
たまたま読んだ2017年1月24日付のロシアの「コメルサント」紙に掲載されていたハンガリーのピーター・シーヤルト対外関係・外交問題相のインタビュー記事を紹介しよう。このなかで、彼は、「全体として民主党政権下での米国の外交政策は「民主主義の輸出」に焦点をあててきたが、それが多くの諸国で状況の不安定化につながったのである」と、実に明確に話している。ウクライナ危機の本質がロシアのクリミア併合にあるのではなく、米国政府による「民主主義の輸出」という独我論にあることを、彼はよく理解していると言えよう。
ところが、クリミア併合だけを問題視して、米国政府のバカげた制裁に欧州各国や日本も同調した。「長いものに巻かれろ」というだけの外交が展開されたのである。まあ、米国追随の日本政府がこれに従わざるをえなかったことは理解できるが、日本共産党や社民党まで対ロ経済制裁を主張したことに対して、筆者は驚きあきれはてた。ゆえに、拙著のなかで実名を挙げて、こうしたバカな連中を非難しておいた次第である。
それだけではない。日本のマスメディアは筆者のような意見をまったく封殺し、ロシアだけを悪者にする報道を繰り返してきた。そんな扱いを受けてきた筆者にとって見ものなのは、今後、トランプ政権が対ロ制裁を緩和したり撤廃したりする動きに対して、日本政府、より厳しい制裁を求めた日本共産党、社民党、筆者を無視してきたマスメディア、対ロ制裁に賛成してきた御用学者がどのような対応をするかである。
あくまで悪いのはロシアであり、米国が制裁解除の方向に動いても、対ロ制裁の継続を主張するのだろうか。あるいは、米国大統領選にハッキングで干渉したロシアへの制裁として、より厳しい制裁を科すことまで主張するのだろうか(ハッキングについては、すでに筆者のブログ[ https://jp.sputniknews.com/blogs/201701173246230/ ]で指摘したように、どっちもどっちであり、大した問題ではない)。
読者に求めるのは、こうした場面でこうした連中がどう対応するかをよく見守ってほしいということだ。猛省をし、二度と同じ過ちを繰り返さないためにどうすべきかまで踏み込んだ行動がとれるかを見極めてほしい。まあ、筆者の予想では、「スルー」して頬かむりを決め込むだけだろう。ものごとの本質を見極めることもできずに、外務省とおぼしき人々のご機嫌取りのために歪んだ情報を広範囲に拡散させてきた責任はきわめて重大だと思う。
マスメディアの責任
そのお先棒を担いだのがメスメディアであることも忘れてはならない。
とくに強調しておきたいことは、「マスメディアこそ、両論併記を心がけよ」ということである。すでに拙著で指摘したことだが、New York Timesは筆者と同じ意見の論客の考察をきちんと紙面に掲載した。まったくオバマ外交に同調し、虚偽報道までしていたNYTだが、正反対の意見に背を向けるほど頑なではなかった。ところが、日本の新聞は違う。具体的にはあえて書かないが、古巣の朝日新聞の中枢に近い人物に筆者の意見を掲載してくれと頼んだにもかかわらず、あえなく断られたという事実だけを紹介しておこう。社説でバカなことを何度も書いていたから、180度違う筆者の意見など無視するしかなかったのだろう。
こんなマスメディアでは、やがて日本でも米国と同じように、SNSユーザーからしっぺ返しを受けることになるだろう(その懸念については、筆者のブログ[ https://jp.sputniknews.com/blogs/shiobara_toshihiko/ ]で何度も書いているので、参考にしてほしい)。
幸いなことに、筆者の主張は本になっており、多くの人々が読むことができる。高知大学で筆者の本を読んだ学生はみな、大いに驚愕する。日本のウクライナ報道がまったく出鱈目であることを知らなったからだ。いまでは、SNSを通じて、マスメディアの嘘を批判することも簡単にできる。機会をみて、告発をつづけていくことにしよう。
ウクライナのいま
拙著で予想した通り、ウクライナ問題はまったく出口の見えない混乱がつづいている。米国政府が安易にナショナリズムに火をつけたことで、混乱は深まるばかりである。2015年2月12日にベラルーシのミンスクで締結された「ミンスク協定遂行措置」が実現しないまま、ドンバス地域での戦闘はいまでも終結していない。
米国政府の「犬」、アルセニー・ヤツェニューク首相は2016年4月に辞任に追い込まれた。政府を主導する首相へのさまざまな批判が積りに積もった結果として、2月の時点では、ヤツェニューク政府への不信任案は226票の必要数に対して194票しか集められず失敗したが、与党のうち、「自助同盟」(アンドレイ・サドヴィ)、「オレグ・リャシュコのラディカル党」、全ウクライナ同盟「祖国」(ユーリヤ・ティモシェンコ)が離脱し、与党は過半数の226票を維持できなくなっていた。
後任の首相には、ウラジミル・グロイスマン議会議長が就いた。「ポロシェンコ・ブロック」(ピョートル・ポロシェンコ)と「人民戦線」(ヤツェニューク)の支持に若干の少数政党の支援を得てやっと実現させたものだ。だが、カネで票を買うことが当たり前となっている腐敗しきったウクライナ議会にあっては、その後も停滞がつづき、ウクライナ東部のドネツクやルガンスクの自治権の問題はまったく解決しないまま戦闘が継続されている。
2016年11月には、グルジアの元大統領で、2015年5月にポロシェンコ大統領によってオデッサ州知事に就任していたミハイル・サーカシヴィリが辞任した。オデッサ州の腐敗した二人の大物をポロシェンコが支援していることを批判して辞任したのだが、本当の理由はよくわからない。確実なことは、サーカシヴィリが言うように、ウクライナではいたるところに腐敗が蔓延しているということである。
ウクライナ政府はEU加盟をめざして政治経済などの制度を変更しようとしてきた。2016年11月17日には、その努力が実ってEU委員会はウクライナ国籍者へのビザなし渡航の導入を条件つきで承認した。しかし、実際にはEU加盟国で避難民や移民など外国人の流入に対する警戒感が高まっていることから、実際にビザなし渡航が可能になるのは、フランスの大統領選やドイツの議会選の後になるとみられている。
厳しい経済状況
筆者は拙著のなかで、IMFによるウクライナ支援がまったく政治的な支援にすぎず、必ず失敗すると予言してきた。実際に、そうなっている。
IMFは2015年3月11日の理事会で、拡大信用供与ファシリティ(EFF)を適用し、4年間で約175億ドルもの融資をすることを承認した。ウクライナ政府は2015年3月に最初の融資として約50億ドルを、同年8月に約16.2億ドルを受け取った。本来であれば、2015年中にさらに約16.5億ドルの融資が実施される計画であったが、ウクライナのIMFとのプログラム実施の遅れからIMFは融資を実行せず、2016年9月14日になって理事会は約10億ドルの融資を承認した。これにより、ウクライナが受け取ったIMFは3回分合計で約76.2億ドルにのぼることになる。
そもそもIMFのウクライナ支援がどの程度有効かという議論がある。その議論はここでは割愛するが、ウクライナの経済状況は決して楽観できるものではない。IMF使節団は2016年11月3~17日、経済改革プログラムの見直しに関する議論のためにウクライナを訪問した。その報告では、一定の政策実現を認めつつ、中期的財政安定化や反腐敗などの政策実現の必要性が強調されている。腐敗については、国家反腐敗局(National Anticprruption Bureau of Ukraine)が設置されたが、その実効性には大いなる疑問が残る。
懲りないウクライナ:言語法改正の動き
現在、ウクライナ議会では、公の場での外国語の使用を禁止するといった内容の言語法改正が審議されている。ヤヌコヴィッチ政権が武力クーデターによって打倒されたとき、超過激なナショナリストらが主張していたものだが、これは欧米の圧力で潰された。だが、いまになって再び、こうした法改正が行われようとしている。
前述したハンガリーのシーヤルトは、もし言語法改正が実現するような事態になれば、ウクライナに住むハンガリー人のためにEUレベルでこの問題を取り上げ、ウクライナ政府に断固たる措置を求めると語っている。
米国政府が民族対立を煽ったツケは大きい。そんな事実を批判できない欧米政府、マスメディア、御用学者の責任もまた重大であると繰り返し指摘してゆきたい。