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「ドイツ帝国」が世界を破滅させる 日本人への警告
著者のエマニュエル・トッド曰く、ロシアは”立ち直り始めている国”である。
彼はロシアの様々な人口学的指標を観察したうえでそのように結論付けた。以前の記事で”プーチンがロシア経済を建て直した”ことを書いた。ロシア社会が再生の過程にあることは、人口学を通しても理解できるのだという。
下図をご覧頂きたい。
なぜトッド氏は、乳児死亡率なる数値を持ちだしてくるのか?この数値をもとに、彼はロシア社会について何を見出すのか?本書に次の記述がある。
「乳児死亡率
乳児死亡率(1000人の乳児のうち、1歳未満で死亡する数)は、おそらく現実の社会状態の最も重要な指標である。この率は実際、ケアのシステム、インフラ、母親と子供に与えられる食物と住居、母親および女性一般の教育水準等々に同時に依存する。 (以下略) P83より」
つまり、乳児死亡率を見ることで、その国の総合的な社会状況が推察されるのだという。
トッド氏は1976年当時のソ連において乳児死亡率が再上昇しつつあることを発見し、ソ連の崩壊を予見した。「乳児死亡率(一歳未満での死亡率)の再上昇は社会システムの一般的劣化の証拠(p81)」であるという。
上の統計からは、プーチン統治下のロシアにおける、乳児死亡率の目覚ましい低下が読み取れる。またそれと共に、2009年からは人口が増加(出生率の増加)に転じているという。これは、ロシア社会が良好な状態にあり、安定化していることを示している。
逆に1990年代の乳児死亡率は非常に高い20人超という数値であり、エリツィン統治下のロシア社会がいかに酷い状況にあったかが読み取れる。以前の記事で、”1990年にはジョージ・ソロスらによってロシアの経済基盤が崩壊してしまった” というジョン・コールマンの見解を紹介した。この点について、「世界の黒い霧(ジョン・コールマン著、成甲書房)」に次のような記述がある。
「ショック療法」という空想的で意味のないお題目の下、ソロスは復讐の天使のごとく飛び回り、目につくものすべてを略奪していった。初めからエリツィンが味方だったから、恐れるものはないと確信してのことだ。この略奪行為の結果、ロシア経済はソロスの意図した通りに急落した。「ショック療法」によってロシアの数百万人の貯蓄が失われ、ハイパーインフレが起こり、優秀な科学者は国を去り、ロシアを動かしていた上層部は他国へと亡命していった。工場や商社への信用は大きく落ち込み、国の産業基盤すべてが完全崩壊の危機に直面した。 「世界の黒い霧(ジョン・コールマン著、成甲書房)」 p88より
プーチンの統治により、ロシアはこの悲惨な状態から、まさしく目覚ましく立ち直ったのである。乳児死亡率の劇的低下、そして出生率の上昇という人口学的指標を見てもそのことが良く理解できる。しかし我々の多くは、そのことを理解していないのではないだろうか?本書においてトッド氏は次のように語っている。
ロシアの安定化を見誤った西側メディア
(中略)このたびの驚きは、ごく控え目にいっても、わが同胞たちにはまったく共有されていません。近年私は、西側のメディア、特にフランスのメディアによる烈しいロシア叩きに苛立っています。中でも『ル・モンド』紙が中心でね。その錯乱たるや!
(中略)あれらのメディアは、ヨーロッパ大陸隋一の軍事大国の驚異的な立ち直りについて、世論をまんまと目隠し状態にしたのです。そのようにして、私は遠慮なく言わせてもらうが、西側メディアはわれわれを危険な状況に置いたのですよ。(以下略) p85,86より
先に挙げた乳児死亡率や出生率以外にも、本書ではロシア社会における男性の平均余命の上昇、自殺率・殺人率の低下が挙げられている。ロシア社会ではソ連時代から継承されている高い教育水準が保たれており、驚くことに男子よりも女子の大学進学率が高いという。また、人口の流入が流出を上回っており、このことは周辺国の人々から見てもロシアが魅力的であることを示している。
つまり、こういうことである。
人口学的指標が示すロシアの健全さ
(中略)多くのヨーロッパ諸国を羨ましがらせるような、健全な何かがそこにはあります。(以下略) p92より
(下)では、具体的に彼がどのようにロシア社会を分析したのかを紹介します。
本稿では取り上げることが出来ませんでしたが、本書における彼のヨーロッパ各国の分析も非常に興味深いものでした。興味のある方は、是非本書を手に取ってみて下さい。日本での売上は10万部を突破しているそうです。