[ちきゅう座]バルセロナ・テロ:湧き上がる疑問の数々

 スペイン・カタルーニャ州のバルセロナ在住の童子丸開氏が今回のテロ事件をレポートしています。
 “続きはここから”以降を読むと、今回の偽旗テロがカタルーニャの独立を問う住民投票を潰すことが狙いだったことが分かります。テロが起こる直前に、カタルーニャ独立を巡る住民投票を確実にするための州法作りが突然延期され、その後テロが起こり、“いまはもう「テロ」一色に塗りつぶされて「独立」どころではなくなっている”とのこと。
 スペインのラホイ首相は、“露骨にこのテロを「独立つぶし」のために利用し…独立なんかしたらカタルーニャはテロ攻撃の標的にされ続けるぞ、という脅し”をかけているようです。EUにとってもカタルーニャの独立が致命傷になりかねず、“独立の動きに何としても急ブレーキをかける必要に迫られていたはず”とあります。
(編集長)

注)以下、文中の赤字・太字はシャンティ・フーラによるものです。

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バルセロナ・テロ:湧き上がる疑問の数々
転載元)
<童子丸開(どうじまるあきら):スペイン・バルセロナ在住>

 バルセロナの童子丸です。

(中略) 

 2017年8月17日水曜日、午後5時前。バルセロナの最も有名な観光スポット、ラス・ランブラスの遊歩道で起こった悲惨な事件は、スペインだけではなく世界中を震撼させた。その後、同日夜中にバルセロナの南東にあるタラゴナ市近郊の町カンブリルスでも痛ましい出来事が起こった。ともに「聖戦主義者(ISIS)によるイスラム・テロ」と見なされる。

 スペインでは8月15日が国の祭日である。夏のバカンスの最中でもあるうえに今年は12日からの実質「4連休」となったため、翌16日から国や地方での様々な機能が再開し始めた。しかしこの16日から18日にかけての3日間にカタルーニャで起こった出来事は恐怖であると同時に怪奇である。我々が載っている日常生活の舞台の下で、何か尋常ではない事態が進行していることを実感させるものだ。

(中略) 

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《住民投票法案審議開始が突然の延期、アルカナーで爆発》 

 8月16日、夏休みが明けたカタルーニャ州議会では、州政府がこの10月1日に予定しているカタルーニャ独立を巡る住民投票を確実にするための州法作りの作業を開始するはずだった。州政府提出の法案が与党JxSI(ジュンツ・パル・シ)と極左独立派CUP(人民連合党)の賛成多数で通過し、中央政府の反対も何のその、強引に住民投票の準備が開始されるだろうと、誰もが思っていた。なお、JxSIは民族主義右派PDECat(カタルーニャ民主党:元のCDCカタルーニャ民主集中)とERC(カタルーニャ左翼共和党)が独立を目的に作った合同会派(当サイトこちらの記事を参照)である。

 ところが、である。16日の早朝になって、州議会議長でANC(カタルーニャ民族会議)元委員長カルマ・フォルカデイュを交えたJxSIの緊急会議が行われ、住民投票法案の州議会上程延期が決定された。延期の理由としてフォルカデイュは「政策の司法化(judicialización de la política)」というTV局や新聞の政治部の人々すら首をかしげる意味不明な表現で説明した。いつまで延期されるのかについても、1週間後の8月22日かもしれないしもう1週間延びて29日になるか、さらに延びて9月6日になるか・・・と、明確にしなかった。この決定はスペイン中を「ポカ~ン」状態にしてしまった。

いまさら「司法化」と言われても、もうすでに法律論議は散々に行ってきているわけで、スペイン国家の憲法裁判所は「違憲である」と言い、政府も非合法であると言い、州政府だけが合法的だと主張して一方的に住民投票を実施するのだから、このまま突っ走るしかあるまい。9月11日の「カタルーニャの日(当サイトこちらの記事)」に百万人超規模の大衆動員をして景気を上げておいてから議会に提出し、一気に投票実施に突っ込む気ではないかと推測する向きもあるが、そんな大イベントを計画し準備するだけの時間は残されていない。どうしてこんな寝耳に水の決定が行われたのか、筋の通る説明はなされなかった。

このことが、今から述べることに関係があるのか無いのか、よくわからない。しかし8月16日からの新年度開始時に為されたこの奇妙な決定が、恐怖すべき怪奇な3日間の幕開けとなったのである。

(中略) 

《ランブラス通とカンブリルスの暴走テロ》 

バルセロナでの事件については、日本でもかなり詳しく報道されていたようなので、よく知られていることだろう。8月17日の午後5時あたり、市の中心部カタルーニャ広場から海岸通りに向けて延びる遊歩道ラス・ランブラスに1台のバンが猛スピードで突っ込み、大勢の散歩を楽しんでいた人々を次々とはねて、約500mを突っ走ったこちらの地図こちらの写真を参照)。バンはリセウ劇場やボケリア市場の近く、遊歩道にジュアン・ミロのデザインしたモザイクのある場所で止まり、運転していた男は降りて路地に逃げ込んだ。(写真:こちらこちらこちらこちらそして、誰もが予想したことだろうが、ISIS(ISIL、イスラム国、Daeshなど様々に呼ばれる)が早々と犯行声明を出した。

悲劇はバルセロナ市内では終わらなかった。同じ17日の深夜(正確には18日午前1時ごろ)、バルセロナの南西約110kmのところにある保養地カンブリルス(Cambrils:冒頭の地図参照)で、黒塗りのアウディが警察の検問を突破した。新聞報道(警察発表)によると、自動車は深夜の通りを歩いていた市民と警戒中の警察官を跳ね飛ばし6人が重軽傷を負った。その後、車が転倒し中にいた5人の男たちは刃物を持って逃げ出して、付近にいた女性を刺して死に至らしめた写真写真)。また他の1人は腰に偽物の爆発物を巻いていた。5人は警察官によって全員射殺されたが、そのうち4人を射殺した警官は退役軍人だった。(1名のテロリストの射殺はビデオ映像におさめられた。またこちらのYoutubeビデオで事件時の街の様子を知ることができる。)

(中略) 

奇妙としか言いようがない。生きたまま逮捕して白状させて事件の計画や背後関係を含む全容を解明するのが、本来の警察の仕事ではないのか。

(中略) 

死人に口無し・・・。よっぽど白状してもらったら困ることでもあったのだろう・・・(中略)…

(中略) 

実行犯の全員が「口無し」となってしまった・・・。どうせそうなるだろうと初めから予想していたことだが・・・。

(中略) 


《広がり深まる疑問》
(中略) 

今後の注目点はこの一連の事件の政治的影響である。カタルーニャ州政府が10月1日の実施を目指している「カタルーニャ独立の可否を問う住民投票」が本当に実施されるのかどうか、少々怪しい情勢なのだ。バルセロナはもちろんのこと、「テロリストの発進基地」となったリポイュは独立派の勢力が強い場所だが、いまはもう「テロ」一色に塗りつぶされて「独立」どころではなくなっている。もちろん独立派のプッチダモン知事は住民投票実施に対する影響は無いと言うのだが単なる強がりだろう。

どうにも気にかかるのが、この記事の最初に書いた8月16日の住民投票法案審議開始の突然の延期である。なぜその日の朝に緊急会議を開く必要があったのか、7月末までやる気満々で進めてきた準備をどうして急に延期することに決めたのか、何とも腑に落ちない。もしかすると、州政府の幹部と州議会の議長は、“今日明日中に重大なテロ事件が発生する”ことを事前に知らされたのかもしれない。法案の議会上程の延期を発表するカルマ・フォルカデイュ議長のこわばった表情が実に印象的だった。

事件後にバルセロナにやってきたマリアノ・ラホイ首相とプッチダモン州知事の共同記者会見をTVで見ていたのだが、テロに対してあくまで州民の団結を訴える州知事に対してラホイはテロ対策を国全体での取り組みとして中央と地方の連携を強化することを唱えた。ラホイは露骨にこのテロを「独立つぶし」のために利用している。そしてそれぞれが発言しているときにはお互いに苦虫をつぶした顔でそっぽを向き合っていた。プッチダモンはテロ事件の発生から今まで、まるで地獄にでも落ちたかのような苦悩の表情を崩すことができないでいる。

(中略) 

中央政府は、州と中央の警察機構や国内治安部隊、情報機関の緊密な協力関係を呼び掛けており、さらにはテロ防止のために軍の配備を検討しているという報道すら現れているが、要は、独立なんかしたらカタルーニャはテロ攻撃の標的にされ続けるぞ、という脅しに他ならない。

おそらくブリュッセルのEU幹部たちも同様の立場と思われる。極めて微妙な状況(当サイトこちらの記事)の中でEUの舵を取らねばならない者たちにとって、スペイン内でのゴタゴタが、欧州の政治ばかりではなく金融当サイトこちらの記事の不安定の引き金になるようなことは絶対に避けなければなるまい。さらに、カタルーニャ独立が必然的にもたらす「ユーロ圏に開く穴」は、この欠陥の多い統一通貨にとって致命傷になりかねず、EU本部としては独立の動きに何としても急ブレーキをかける必要に迫られていたはずだ。

また、このテロは「欧州警察」の仕組みを作り上げ欧州の再構成(当サイトこちらの記事)を推し進めるために十分に役立つことだろう。今回のテロ事件は、9月24日のドイツ総選挙と10月1日に予定されるカタルーニャ住民投票を目の前にしたタイミングで起こった。今後はドイツで何が起こるのか注目しておきたい。

(以下略) 

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