ラウンドアップの空中散布を止めさせたアルゼンチンの母親たち 〜 脅迫や逮捕にもめげずに国や司法を動かしたのは市井の女性だった

 モンサント、グリホサート、ラウンドアップと言えば、しんしん丸さんの記事によってすでに危険性を知らされていますが、先日のモンサント有罪判決を受けて「ラウンドアップの被害を分かりやすく伝える」動画をジャーナリストの山本節子氏が紹介されていました。
 この3分ほどの動画は、グリホサートとエンドサルファンという極めて有毒な農薬を空中散布している地域のガン患者が全国平均の41倍であることを突き止めた、アルゼンチンの母親たちの活躍が描かれています。
農薬の深刻な被害はもちろんですが、しかしこの動画からは子供達を守ろうとする母親たちのたくましさ、頼もしさがひしひしと伝わってきます。
 高卒で社会運動など縁のなかった母親が、娘を失った理由を求めて地道に現地調査を続け、ついに地域に蔓延する奇妙な病気が農薬の空中散布だと発見してからは、わずか16人で、その空散をやめさせるキャンペーンを開始しました。乏しい資金の中、モンサントやデュポンを敵に回し、様々な妨害や脅迫を受けながらも「めげずに」戦い続け、とうとう人口密集地での空散を禁止する最高裁判決を勝ち取りました。その上、被害の因果関係は住民に証明させるのではなく、企業と生産者が安全性の証明をすべきという画期的な法律をも実現させました。
 利益や忖度など無用、大局的に考え、行動でき、めげない女性達が新しい世の中を切り開いていく。
山本節子氏の最後のコメントがグッときます。
「みなさんたちの「反対運動」がうまくゆかない時、一度、トップを女性に変えてみるのもいいかもしれません。」
(まのじ)

注)以下、文中の赤字・太字はシャンティ・フーラによるものです。

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ラウンドアップ空散で何がおきているか
転載元)
ラウンドアップ空散を止めた母親たち


2012年ゴールドマン環境賞受賞ソフィア・ガティカさん

 生まれたばかりの娘を亡くしたソフィアは、原因をさぐるため仲間と共に立ち上がった。大豆畑近くの住民の健康調査をするうちに、農薬空散によって村が破壊に追い込まれていることに気づく・・・ゴールドマン賞のサイトを読むと、彼女たちの置かれた境遇と戦い方が、「ラブキャナル」のそれとあまりにもそっくりなのに驚きました。詳しくは後ほど紹介しますが、ポイントは、彼女の住む地域のがん患者は、全国平均の41倍になっていたということ。そラウンドアップ効果

 農地はもちろん、松枯れや公園・校庭に日常的にラウンドアップを散布している地域にお住まいのみなさん、周りにがんで亡くなったり、腎臓を患ったり、皮膚病ができた人が増えていませんか? 2018.8.23




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農薬空散でがんが41倍
転載元)
(前略)
 アルゼンチンは世界第三の大豆の輸出国だ。毎年、産業界は5千万ガロン以上の毒性のある農薬-グリホサート(中略)とエンドサルファンーを空中散布している

モンサント社は人体にリスクはないと主張するが、2008年の科学的研究によれば、濃度がごく低くても、グリホサートはヒトの胚細胞、胎盤細胞、さい帯細胞を死滅させることがわかっている。エンドサルファンは極めて有毒な農薬で、人と環境への脅威となることから80カ国以上で禁止されている。2011年5月、国連はエンドサルファンを地上から廃絶すべき物質として、POPs(難分解性有機汚染物質)リストに加えている

(中略)

 最も恐れていたことの裏付けを得て、彼女たちはアルゼンチンのその他の環境グループとともに、「ストップ空散」キャンペーンを開始した。記者会見を開き、デモを行い、農薬の害を伝えるパンフレット作って市民を教育したのだ。ガティカはさらに、研究所にコンタクトし、村で起きていることを確認するための科学調査を行うことを求めた

 それは難しい戦いだった。資金は乏しく、モンサントやデュポンなどアルゼンチンで営業しているグローバル企業に説明責任を求めようにも、直接のてがかりは何もなかった。彼女たちはまた、個人や警察官、中小企業主らから加えられる侮蔑や脅しにも耐えなければならなかった。2007年、ガティカは家を訪れた人物に拳銃を突きつけられ、キャンペーンを止めろと脅されたこともあった。

 それでも母親たちは戦いを止めなかった。そして彼女たちの主張は注目を集めるようになり、アルゼンチン大統領は2008年、健康大臣に対し、地域の農薬使用に関する影響を調べるよう命令を出した。その結果、ブエノスアイレス大学医学部が行った研究調査は、母親たちが行った聞き取り調査の正しさを裏付けるものとなった。

ガティカはさらに、住宅から2,500メートル以内では空散を禁ずるという市条例を通過させるのに成功した。そして2010年、彼女たちは前例のない勝利を得る。最高裁判所は、人口密集地近くでの農薬散布を禁止しただけでなく、被害の因果関係を住民に証明させるのではなく、企業と大豆生産者が農薬の安全性を証明しなければならないとして、証明の負担を逆転させたのだ

(中略)

*****

 POPsのエンドサルファンがまだ使われていたのに驚きました…これは途上国だからできたことでしょうが、日本の状況はほぼその途上国並みであることを知っておかないと。きょう日、無知でいることは、健康で生きる権利を手放すのとおなじです

 なお、ガティカたちのように、因果関係を目に見える形で示し、実際の被害者が立ち上がって政府や企業に要求をつきつけ、住民の権利と主張を通す動きを「直接行動direct action」と言います。この記事にはありませんが、ガティカは空散を止めようとして畑に無断で立ち入り、手錠をかけられて逮捕されるなど、それは過酷な経験もしていますが、それでもめげないのは女性だから

 住民運動においては、へたに理論や屁理屈をこねくり回し、メンツと会議を重視する男性より、大局的に考え、行動でき、めげない女性の方がはるかに向いています。これは市民運動家としての山本の経験から断言できますよ~。みなさんたちの「反対運動」がうまくゆかない時、一度、トップを女性に変えてみるのもいいかもしれません。2018.8.26

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