菌ちゃんふぁーむ「虫もモグラも雑草も必要だった」「無農薬の野菜作りはコロナと人間の関わりに似ている」〜 長周新聞から

 読んでいるだけで嬉しくなってしまう記事がありました。大学で農業を専攻され、公務員として農業改良普及員というお仕事をされていた方が無農薬で野菜作りを始められた、その体験と実験の記録でした。「菌ちゃんふぁーむ」というお名前からもビビッとくるものを感じます。
 ビフォーアフターで言うならば、最初は虫だらけ、レースのように葉脈だけ残ったキャベツの写真に思わず声が出ます。ところが青虫が食べなくなるキャベツになってしまったその理由は? 人間にとってビタミンCやポリフェノールなど栄養価の高いキャベツは青虫さんには消化できずに、ほとんどうんことして出てしまうらしい。人間にとって栄養価の低いキャベツは喜んで食べるそうです。記事を読むとウジ虫さんにも感謝の念が湧いてきます。
 モグラとの戦いも、視点が変わると頼もしい仲間であることが分かります。報酬を受けることなく畑の中の腐敗を改良してくれていたとは。
 著者の吉田氏は、畑の体験から「コロナウイルスのありようと似ている」と感想を持たれていますが、時事ブログで腸内細菌の活性が感染対策に有効だと知っている私たちには、大いに頷けます。
「最初は自然界を信じていなかったし、自然界を怖がっていた。だが今は自然界は叡智に満ちていると実感している。」とあって、とても羨ましく感じました。菌ちゃん野菜もきっと美味しいに違いない。ぜひ元記事でお楽しみください。
(まのじ)

注)以下、文中の赤字・太字はシャンティ・フーラによるものです。

————————————————————————
有機農業の世界とコロナ  菌ちゃんふぁーむ代表・吉田俊道
転載元)
 よしだ・としみち  NPO法人大地といのちの会理事長。(株)菌ちゃんふぁーむ代表取締役。1959年、長崎市生まれ。九州大学農学部大学院修士課程修了後、長崎県庁の農業改良普及員に。1996年、県庁を退職し、有機農家として新規参入。99年、佐世保市を拠点に「大地といのちの会」を結成。


-------------------------------

 私は九州大学を出て、長崎県の職員になり農業改良普及員をしていた。でも農業を自分でやりたいと思い退職して野菜づくりを始めた。無農薬にとりくんだものの、とにかく最初は毎日、虫だらけだった。モグラにも苦労した。アスパラガスを収穫するまでには2年かかり、しっかり根が太くなってやっと収穫ができると思っていた矢先、アスパラガスが急に細くなって曲がった。どうしたの? と思ったら、モグラが土の中を走り回っていたのだ。2年間かけて栄養を貯蔵した根っこをモグラが切り破った。そのときの私の失望と怒りを想像して欲しい。そして草もまた、日々途方もないほどの格闘だった。

 でも今は全部真反対になった




モグラの習性

 モグラは敵ではなかった。もぐらは匂いにとても敏感で、実は腐敗しかけた有機物を食べるミミズを探しているのだ。ミミズが多くいるということは、土が腐敗しているということで、モグラはその腐敗臭のあるところに穴を掘っていたのだ。土が浄化されてくると、地下深い部分だけが空気不足で微妙に腐敗するので、モグラはそこを通るようになる。そうすると地下深くに空気が通るので、野菜の根が深くまで張るようになり、モグラのおかげで野菜はますます元気になる。先日は、人参畑を中耕(栽培中にうね間や株間の土の表面を浅く耕すことをいう。これにより、除草や土の通気性の改善、干ばつ対策の効果がある)しようと畑に入ると、なんと人参と人参の真ん中をモグラがきれいに中耕してくれていた。これは、土が雨でたたかれ通気不足になり、微妙に腐敗していた部分を選んでモグラが通ったと考えられる。自然界の生き物が人間に加勢してくれているという感じだ。

 草も農業の敵だと思っていたが、実は雑草があればあるほど土がよくなる。草は必要があって生きており、発芽してすぐにタネ作りを始める。人間が草を取るから、草はそれでも子どもをつくって生えようとするのだ。すごい生命力だ。そうすると野菜が育たない。でも草をとってしまうと土が悪くなって野菜が育たない。ではどうすればいいのだろうか。

草も必要だった

 第三の方法がある。その畑の面積に生える草の5倍ほどの草を思い切り入れると、ナズナやハコベ、ホトケノザなど、入れた草とは違う、あまり害にならない草が生えてくることがわかった。草をとるのではなくて、草をもっと入れれば別の世界が起きるということだ。それは実験によって確かめられている。

 例えばスズメノカタビラのような運動場でも生える草は、菌とつながらなくても自分で根を張って生きる。自分の根がたくさんだからどちらかというと取りにくい難しい草だ。ところがナズナは土の中で糸状の菌が合体して根の役割を果たしている。だから畑の土がよくなると菌とつながるのが好きなナズナがますます元気になっていく。そして菌が少ない畑の通路だけスズメノカタビラが元気に生える。つまり畑の中には難しい草は減り、菌が好きな草が増えてますます土が豊かになる。

虫は弱った野菜を食べる

 そして虫がこなくなった。なぜうちの畑に虫がこないのかを福岡の大学の先生が調べてくれた。それによるとうちのキャベツにはビタミンCが五割増しで入っていて栄養価が高い。栄養が高い野菜をなぜ虫は食べないのか。それを調べるために、うちのキャベツしか食べられない青虫のケースと大学のキャベツしか食べられない青虫のケースをつくった。

虫に食われたキャベツ



(中略)
コロナで見えた人間の姿

 これはコロナウイルスによく似ている。有機農業は農薬を使わないので、土作りによって、病気が激発してしまうのか、まったく健全なままかがあからさまに見えてしまう。コロナウイルスも薬がないので、人間のいろんな姿が見えてきたように思う。感染者と接触していないはずなのにコロナウイルスで亡くなる方と、濃厚接触者なのに感染しない人がいる。この違いは何なのか。テレビではコロナに感染し重症化した人のニュースや副作用のことばかりが報じられ、かからなかった人がなぜそうなのかをあまり調べない。コロナウイルスは怖いのか怖くないのかといわれれば、どちらも正解だと思う。ある人にとってはまったく怖くないものだし、ある人にとっては逃げても逃げ切れないとても怖い病気だということ

 野菜に例えて考えると、病気を防ごうとしてキャベツにいくら防虫ネットをしても、土が悪くて野菜が弱ければどこからか虫が入る。野菜自体を強くせずに、病原菌を一生懸命殺したり逃げたりしたところで、野菜は弱いままだ。野菜が育つ土の中を変えないと、野菜の生命力を高めないと根本解決にはならない。病原菌は弱いから来ているだけだ

 私たち自身はどうだろうか。コロナから一生逃げることはできないし同じことがいえるのではないか。
(以下略)

Comments are closed.