100%純国産で天然無添加の貴重な葛湯
くずの根
(くずの)根を掘り取って、杵で搗いて砕きます。にじみ出た汁を放置しておくと葛粉が沈殿するので、上澄み液を捨てて、水洗いを10回ほど繰り返して、団子にして食べます。
(かてもの 84p)

今日も寒いねえ。ブルブル。

お! 来たな。

なんか、
温かいものが飲みたいよー。
じゃあ、葛湯をごちそうしてやるか。

葛湯? 病気でもないのに?

ブツブツ言わずに待ってろ。カチャカチャ、ドボドボ、カキカキ、ほい、でけたぞ!

いいから、アツいうちに食え。

アッツアツ! しかも、トロ〜リトロトロで、おいしい!

ぴよちゃんタンブラーの真空二重構造は、葛湯作りに最適でな。こいつを使うまでは、けっこう失敗したのよ。いきなり葛粉に熱湯をかけてダマダマにしたり、カップが冷えて湯温が下がり、混ぜても混ぜても透明にならなかったり。だが、ぴよちゃんタンブラーの保温力のおかげで、100%失敗しなくなった。おまけに、ぴよちゃんのおかげで段違いにおいしくなるし。

これでくろちゃんも、りっぱなシャンティフーラの回し者だよ。

うっせー!いいものはいいんだよ!

でも、こんな寒い日は、あったかいトロトロがいいねえ〜。

しかも
こいつは、今どき珍しい100%純国産で、天然無添加という貴重な葛湯なのよ。

貴重? スーパーに行けば手頃な値段で、いくらでも葛粉が売ってるよ。

チッチッチッ! そいつらと一緒にしちゃいけねえ。

え? スーパーのだって、ちゃんとトロみがつくし、おいしいと思うけど?

う〜ん、わかってねえな。てゆうかおれも、
この動画で、初めて本葛の真実を知ったのよ。

本葛の真実?
葛粉の製造方法を知ってるか?

知ってるよ。葛の根っこからデンプンを取るんでしょ。実際に葛粉を作ってる動画が、YouTubeにもあるからね。たとえばこれ、
【葛粉が高級品な理由】
最低でも10日以上かかるなんて、大変だよね。それに、労力かけたわりには、ほんのわずかしか採れないし。

動画の最後の「葛まんじゅう対決」がいい。市販の葛粉で作った葛まんじゅうと、自家製で作った葛まんじゅう、どっちがうまいか? 明らかに、自家製の方がうまいと言っている。

ということは、スーパーのはおいしくないってこと?

そうだ。どこが違うかは、プロの製法を知ればわかる。まずは
原料となる葛の根っこ「寒根葛(かんねかずら)」について話そう。ちなみに「クズ」の和名は「クズカズラ」。昔の大和の國・吉野郷・国栖(くず)という地名に由来するそうだ。

大和の昔から、吉野が葛の産地だったんだ。

だが今は吉野でさえ、原料となる「寒根葛」は採れなくなっている。

こんなに葛が生い茂ってるのに? 夏なんか、草刈り機にからまって大変なんだよ。

さっきの自家製葛粉の動画にあったように、
平地の葛の根は細すぎて、とても商品には向かない。山に生えている葛の根じゃないとダメだ。だが山の持ち主は、木に巻き付く葛を嫌って抜いちまう。さらに、葛を育てる雑木林も減り、どんどん山の葛が減っている。しかも、実や花と違って
根を掘るので再生しない。原料に使う30〜50年ものの「寒根葛」なんて、ほとんど姿を消しちまった。

大変な状況なんだ。
しかもを掘る人がいない。「寒根葛」は、根に養分が貯まる12月〜3月に収穫する。「掘り子」と呼ばれる山のプロが、山奥深くに入って、「寒根葛」のありそうな場所に当たりをつけ、手掘りで掘り出して山から運ぶ。重労働の上に季節労働だから、生活が不安定なので若者がやりたがらない。

後継者がいないのか。

これが、実際に葛を掘っている動画だ。
葛根湯の原料となる『葛』掘り体験‼︎いざ鹿児島に…

赤い眼鏡のおじさん、楽しそう。
採ってきた「寒根葛」は、機械で粉砕して水をかけて絞る。すると、葛デンプンを含んだ真っ黒な液体になる。上澄みを捨て、真水を入れて撹拌し、3日ぐらい沈殿させる。これを、上澄みが透明になるまで、何度も何度も繰り返す。

ほんとに真っ黒。これが、真っ白な葛粉になるとは。
だが、売り物になるような真っ白な葛粉は、原料のたった7%しかできない!
葛粉には表示義務に規制がない

100キロの根っこから7キロ!? でも、スーパーにはいっぱいあるのに?

混ぜものを入れて、水増ししてるんだよ。

「本葛」って書いてあるよ?
表示に規制がないんだよ。さつまいものデンプンを混ぜても、中国産の葛粉を混ぜても、「本葛」として売れるんだよ。

えっ? 中国産も入ってるの?
中国産葛粉は怪しいということで、ある人が電子顕微鏡で見たところ、完全な球体が見えたと言う。完全な球体なんて、自然界にあるか? (
YouTube 28:02〜)

まさか、マイクロプラスチック?
しかも、どのくらいの割合で混ぜられているかわからん。全国葛製造組合では、「本葛」は葛100%で混ぜものをしたら「葛」と呼ぶ決まりだが、葛組合に入っていない企業は規制がない。どれも同じ売り場に並んで、消費者は「本葛」と書いてあって、しかも安いのを選ぶだろう。(
YouTube 8:57〜)

白いプラスチック入りを選ぶ可能性が大だ。

葛粉には規制がないのよ。他にも
業務用で「並葛」というのがある。

うな重の「並」みたいな意味?

いや、
「並葛」はさつまいもデンプン100%のことだ。(
YouTube 11:54〜)

え〜? それじゃ、全然、葛粉じゃないじゃん!

「本みりん」や「片栗粉」と同じよ。醸造もせず、うま味調味料だけでできている「本みりん」、カタクリじゃなくてジャガイモデンプン100%の「片栗粉」。それが許されるなら、さつまいもデンプン100%も「葛」と呼んでいいってこと。

じゃあ、和菓子屋さんの使う葛も「並葛」かもしれない。お客さんにバレないの?

しろうとじゃわからん。たとえば、本物の葛切りを出しても、「これ、葛切りですか?」と疑いの目で見られる。
本物の葛切りは、本葛100%の葛粉を使って、しかもオーダーが来て作り初め、すぐに客に出さないと劣化する繊細な食べ物だ。一方、消費者が知っている葛切りはカップ入りで、裏には寒天、増粘多糖類、調整剤、最後に「葛」と書いてある、6ヶ月ももつような代物だ。(
YouTube 14:30〜)

すぐに劣化する食べ物が6ヶ月もつという不自然さ。食べ物じゃなくて化け物だ。

ああ、本当にまじめな食べ物は、大変な苦労の上に成立している。まじめに本葛を作っても、ニセの本葛に負けて、売れなくて潰れていく。そしていつか、混ぜもの入りの「本葛」だけが、「本葛」として生き残る。

消費者が賢くならないとダメだね。
大量生産の葛粉にはさまざまな薬品が使用されている

実は、問題は水増しだけじゃない。
大量生産の葛粉には、生産過程でさまざまな薬品が使われている。たとえばさっきの、
液を水で何度も晒す工程では石灰水が入れられる。

石灰って、ラインを引く石灰のこと?

そう、石灰粉を水に溶いて、上澄みを葛液に加える。すると強アルカリになって、腐らない。つまり防腐剤だ。葛は発酵したら腐っておしまいだから、発酵させないために石灰を使う。

でも、石灰が入ったままを食べたら、おいしくないよ?

おいしくないどころか、死ぬわ。

ヒョエ〜! じゃあ、どうするの?
硫酸を入れて中和する。

え?! 今、「りゅうさん」て聞こえたけど?

そう、硫酸。最強アルカリには最強酸じゃないと中和できない。業者は「食用硫酸」と呼ぶそうだが。

え? 硫酸に「食用」も何もあったもんじゃないよね。

それだけじゃない。
真っ白にするために漂白剤、殺菌するために次亜塩素酸ナトリウム。

ワイシャツじゃないんだよ? 食べ物だよ?

これらも、残留しないで蒸発するから大丈夫だそうだ。さらに、
泡を消すために消泡剤も。

そんなに薬品を入れるの? 製薬会社が大儲けだよ。

だが、薬品なしで葛粉を作るのは大変だ。職人の技や勘が必要になる。どんなしろうとでも、いつも安定した葛粉ができるようにするためには、薬品を使うのもやむを得ない。

人の健康を無視しても?

食べても「ただちに影響はない」からな。病気になっても、まさか「硫酸」が原因だとはバレないだろ。

そんな、ひど〜い!!
ふだん薬品を使っている工場長もつぶやいた。「うちのは、とにかくたくさん使っている。こんなものは孫には食べさせられない。」(
YouTube 8:37〜)

そこまでわかっていても、生活がかかっているから、言われるままに薬品を入れ続けるしかないのか。

本物を作るには感性や経験、技術が必要。コストも時間もかかる、しかも値段が高い。すごくハンディだ。

なのに、
消費者はアホだから、「本葛」のラベルにだまされて、安い偽物を買う。そしていつしか、わけわからん病気になって、病院に貢ぐ。そして、またまた製薬会社が大儲け。

葛の世界も、世界の構造そのものだな。

日本の伝統技術なのに、国も誰も保護してくれないのか。

さて、葛のその後の工程だが、晒した葛は別の水槽に移され、水を入れて撹拌し、中間層だけを採って、底にわり竹と布が敷かれた、木製の大きな舟に入れて一晩、水を抜く。次に濡れている葛を、紙を敷いた木箱に移し、手で叩いて空気を抜く。これは発酵を防ぐためだ。その後
2ヶ月、陰干しにして、さらに半年から1年寝かす。ボイラー乾燥はせず、まどの開け閉めで乾燥させる。

葛の老舗は、こんな大変なことを200年以上も続けてきたんだね。驚きだ。

料理家の辰巳芳子氏は、貴重な本物の本葛について、こう述べている。
葛はじつに清らかで、雑味がまったくない。 味わいといい、口当たりといい、ほかのでんぷんにはない上品さがあります。しかも保存がきき、薬効もありますね。こうした薬効のあるものを日常の食に取り入れていくことは、人間が編み出した知恵だと思います。
(中略)...
風邪をひいたときや、病気の予後。葛をひいたものは身体があったまるし、煮汁にすれば塩分も控えめに食材にまとわりつく。昭和天皇が最後に召し上がったのが、葛湯だったわね。離乳食にも、老人介護にもいいでしょう。ホスピスのようなところが葛をあげてくださるといいわね。おかゆをあげられないような人に、葛をあげるのです。(
廣久葛本舗)

現在、介護に使われている「とろみ」商品には、増粘多糖類や添加物がもりだくさん。

ある助産師によると、
産婦にも赤ちゃんの離乳食にも葛湯がいいと言う。(
廣久葛本舗)

赤ちゃんから老人まで、か弱い人たちのお役に立っているんだね。
葛を食するメリット

ところで、
葛は腹の調子を良くするが、なぜか知ってるか?

トロッとしてるから、粘膜を保護するとか?

それもあるが、
よく言われるのは、葛のデンプンが「レジスタント・スターチ」だからだ。レジスタント・スターチとは「消化されにくいデンプン」という意味で、「難消化性デンプン」「耐性デンプン」と呼ばれている。(
Wikipedia)

消化しにくいのに、赤ちゃんや病人に与えていいの?

いや、小腸までは消化されにくいという意味。
消化されないデンプンは大腸まで行って、腸内細菌のご飯になる。

そうか、腸内細菌が喜ぶんだ。
結果、便秘が改善したり、血中コレステロールや中性脂肪が減ったり、血糖値の急上昇を抑えたりする。それだけじゃない。レジスタント・スターチを多く摂ると、
消化がゆっくりだから腹が減りにくい。しかも、デンプン1gあたり4キロカロリーだが、
レジスタント・スターチは1gあたり2キロカロリーで、通常のデンプンの半分だ。

腹持ちはいいし、カロリー半分。ダイエットにいいね。空腹感を減らせるなら、プチ断食にもいいよ。(
廣久葛本舗)

ところで、
東洋医学セミナー上級コース第36回の「食品分類表」を見ると、おもしろいことがわかる。
葛粉
食べると気が通りやすくなる経脈 ▷ 男性:左「月の脾経」、女性:右「月の脾経」
対応するチャクラ ▷ 脊髄のマニプラ・チャクラの吸収
ドーシャ ▷ (1項目)カファ、(2項目)カファ
温冷 ▷ (1項目)冷、(2項目)涼

ふむふむ、
葛粉を食べると脾経に気が通りやすくなる。だから消化が良くなる。でも、冷やすのは意外だね。

そうなんだ。葛粉以外のすべてのデンプン、片栗粉、さつまいも、白玉粉、タピオカ、本わらび粉はすべて「温」なのに、葛粉だけが「冷」なのよ。

そう言えば、
葛まんじゅうも葛切りも夏のデザートだよ。

そういう意味で葛粉は、デンプンの中でもユニークな役割を担っているのかもしれない。

葛が無くなったら困る。
アメリカに渡った日本の葛

ありすぎて困る所もある。最後に、
日本の葛がアメリカに渡り、今や「グリーン・モンスター」と恐れられている話をしよう。

グリーン・モンスターだ!

1876年のフィデルフィア万博で、日本は葛を観葉植物とし て出品した。土の保全になると言うので、
アメリカ南部で葛の栽培が奨励されたが、冬の寒さがないので一年中枯れない。その結果、葛は自由自在にはびこってすべてを覆い尽くし、駆除しようにも地下茎があるから、農薬も効かなくて困っているそうだ。(
廣久葛本舗)

じゃあ、根っこから葛粉を作ればいいよ。 アメリカ産葛粉として売れるよ。

それがダメなんだ。
日本は冬があるから、根っこにデンプンを蓄える。しかし、一年中温かいアメリカ南部では、デンプンを蓄えるより葉っぱとつるに栄養が行く。実際に掘ってみたら、でかいクセにデンプン含有率は低くて、使いものにならんそうだ。(
廣久葛本舗)

あ〜あ、ザンネン。
Writer
ぴょんぴょん
1955年、大阪生まれ。うお座。
幼少期から学生時代を東京で過ごす。1979年東京女子医大卒業。
1985年、大分県別府市に移住。
1988年、別府市で、はくちょう会クリニックを開業。
以後26年半、主に漢方診療に携わった。
(クリニックは2014年11月末に閉院)
体癖7-3。エニアグラム4番(芸術家)
葛は長舒(ながのぶ)が、秋月藩の財政立て直しのために奨励した秋月の名産品です。
ご店主のお話から、本来の本葛の製造法、そして現在スーパーに並んでいる本葛との違いを知ることができました。