[街の弁護士日記] 日韓合意について日本政府はなすべきことをしてきたのか

9日、韓国政府が、いわゆる慰安婦問題に関する日韓合意について新方針を発表しました。合意への再交渉は求めないとし、日本政府が拠出した10億円については日本側と協議して扱いを決めるというものです。そして改めて日本側に「国際基準に基づいて真実を認め、元慰安婦らが名誉と尊厳を回復し心の傷を癒やすための努力を継続する」ことを強く求めています。
 これについて、日本のメディアは一斉に「韓国側に対する非難一色」とマチベンさんが断じておられるように、あたかも韓国側がこの度、新たに追加的要求をしたかのような報道です。河野外務大臣も「最終的かつ不可逆的な解決をしたにもかかわらず」韓国がさらなる要求をしてきたと強い反発を示しました。
 しかしそうなのか。
日本側が報道するように「2015年12月の日韓合意は、日本が10億円さえ拠出すれば、後の措置は全て韓国政府の責任」で、それは「最終的かつ不可逆的解決だったはず」なのでしょうか。
外務省のHPにある日韓両外相共同記者発表によれば、「上記(2)の措置を着実に実施するとの前提で」「最終的かつ不可逆的に解決されることを確認する。」とされ、その上記⑵とは、「日韓両政府が協力し,全ての元慰安婦の方々の名誉と尊厳の回復,心の傷の癒やしのための事業を行うこととする。」と明記されています。マチベンさんは「元『慰安婦』の名誉と尊厳の回復、心の癒やしは日韓両国政府が協力して当たるべき課題とされ、それがなされて初めて「最終的かつ不可逆的な解決」に至るとするのが日韓合意の肝なのである。」と解説されています。まさに日本政府こそ、韓国側を非難することに終始せず、本来的な「日韓合意の着実な履行」をすべきで、それは、拠出金の行方などではなく、元『慰安婦』の方々への真摯な対応にこそ求められるものだと思います。
 日本の異常なメディアは、マチベンさんなどの、こうした公平な視点で語られる意見を全く報道しません。
南北会談から半島の和平も進む中、安倍政権の外交音痴のおかげで、本当に日本は世界から孤立してしまいます。
(まのじ)

注)以下、文中の赤字・太字はシャンティ・フーラによるものです。

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配信元)


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日本、反発強める「韓国側主張は矛盾」
引用元)
 河野太郎外相は9日、韓国政府の慰安婦問題に関する発表を受け、「日韓合意で『最終的かつ不可逆的な解決』を確認したにもかかわらず、韓国側がさらなる措置を求めることは全く受け入れられない」と反発した。
(以下略)
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日韓両外相共同記者発表
転載元)
1 岸田外務大臣

 日韓間の慰安婦問題については,これまで,両国局長協議等において,集中的に協議を行ってきた。その結果に基づき,日本政府として,以下を申し述べる。

(1)慰安婦問題は,当時の軍の関与の下に,多数の女性の名誉と尊厳を深く傷つけた問題であり,かかる観点から,日本政府は責任を痛感している。
 安倍内閣総理大臣は,日本国の内閣総理大臣として改めて,慰安婦として数多の苦痛を経験され,心身にわたり癒しがたい傷を負われた全ての方々に対し,心からおわびと反省の気持ちを表明する。

(2)日本政府は,これまでも本問題に真摯に取り組んできたところ,その経験に立って,今般,日本政府の予算により,全ての元慰安婦の方々の心の傷を癒やす措置を講じる。具体的には,韓国政府が,元慰安婦の方々の支援を目的とした財団を設立し,これに日本政府の予算で資金を一括で拠出し,日韓両政府が協力し,全ての元慰安婦の方々の名誉と尊厳の回復,心の傷の癒やしのための事業を行うこととする。

(3)日本政府は上記を表明するとともに,上記(2)の措置を着実に実施するとの前提で,今回の発表により,この問題が最終的かつ不可逆的に解決されることを確認する。
 あわせて,日本政府は,韓国政府と共に,今後,国連等国際社会において,本問題について互いに非難・批判することは控える。


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日韓合意について日本政府はなすべきことをしてきたのか

(前略) 『慰安婦』問題に関する2015年12月28日の日韓合意に関して、日本では「最終的かつ不可逆的解決」との文言だけが独り歩きしている。
10億円を拠出したことで日本側の責任は全て果たしたかのごとき言説が流布されて、韓国側からの求めについて、それがどのようなものであれ、合意に反するとするとらえ方が一般化している。

問題は、ここにこそあるだろう。
果たして、日韓合意は、10億円さえ拠出すれば、後の措置は全て韓国政府の責任になるとするような一方的なものだったのか。

(中略)
日韓両政府が協力し、全ての元慰安婦の方々の名誉と尊厳の回復、心の傷の癒やしのための事業を行うことが「解決」の前提とされているのだ。

日本国内では、『慰安婦』被害者を初めとする韓国政府に対する批判は、もっぱら韓国政府が対処すべき課題であり、他人事のであるかのような受け止め方が広がっているが、元『慰安婦』の名誉と尊厳の回復、心の癒やしは日韓両国政府が協力して当たるべき課題とされ、それがなされて初めて「最終的かつ不可逆的な解決」に至るとするのが日韓合意の肝なのである。

かつて、韓国側から安倍総理のお詫びの手紙を添えることを求められたとき、安倍総理は日韓合意に明記されていない措置であるとして、「毛頭考えていない」(平成26年10月3日衆院予算委員会)として、頭からこれを拒否した。
これは自ら日韓合意によって約束した『慰安婦』被害者の名誉と尊厳の回復や癒やしを否定することに他ならない。


日本政府は、日韓合意の着実な履行を求めるという立場である。
であるならば、
韓国側がこのたび表明した「日本が国際基準に基づいて真実を認め、元慰安婦らが名誉と尊厳を回復し心の傷を癒やすための努力を継続するよう望む」との希望に対して、真摯に対応することこそが求められると言わなければならない。


日韓合意をめぐる混乱は、韓国側のみに責任があるとは到底思われない。
10億円を拠出したら、それで全て終わりだとする、日本政府と日本メディアの日韓合意をのとらえ方にも大きな責任がある。


もとより文書によらず、日韓外相の共同発表という形式を取った日韓合意にはそもそも条約としての法的拘束力はない(ウイーン条約法条約2条1(a))。
相互の信頼関係こそが合意の唯一の基盤である。
韓国政府を非難するばかりの日本政府やメディアが信頼関係を損なってきたことは明らかであろう。


異様な嫌韓ブームに続く、朝日新聞の『慰安婦』報道に対する謝罪以来、歴史修正主義は益々勢いを増している。
明治150年、天皇退位、オリンピックとナショナリズムが昂揚することが見込まれる中、直近の出来事についてすら、正確な理解がないがしろにされ、歪められる世論状況には強い危うさを覚えざるを得ない。


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