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絵本の中にあった公園
今日は日曜日。珍しく娘のパートナーも午後から休んでボストンのコモンパークに行くことにしました。この公園は「かもさん おとおり」(ロバート・マックロスキー福音館書店1965年)の絵本で有名です。私が子育てしていた時から大切にしている絵本で、孫たちも大好きです。
公園の風景をそのまま描写しているので今でも同じ風景が残っています。主人公のカモのマラードさんと子ども達の銅像もあり、孫たちは絵本の世界にタイムスリップしたみたいにはしゃいでいました。なぜか我が家の本棚にあるはずの絵本が飛行機に乗ってコモンパークまでついてきているのにもびっくりしました。犯人は娘です。
子ども達はパパも一緒なのでハイテンションです。パパの隣でおにぎりやサンドイッチを食べるだけでも嬉しそう!パパも久しぶりに子ども達と過ごせて楽しそうでした。
日本から赴任してくる家族
ボストンに永住を決めたご夫婦から聞いた話ですが、今まで何人も日本から赴任してくる家族を見たけれど、面白いくらいに2パターンに分かれるというのです。一方は日本社会の働き方を貫ぬくタイプ。
帰国することが前提なので子どもの教育に気を抜けません。現地の学校に通わせながら日本の有名塾の通信教育を受講させ、日本語学校にも通わせます。時々日本人同士の親睦パーティがありますが、男性は男同志で仕事の話ばかり。女性は子どもの教育やお出かけ情報の話ばかりしているそうです。このコミュニティの情報は魅力的ですが、ストレスの基にもなっているようです。
もう一方のケースは日本的な働き方をしていたけれど、日本人コミュニティよりも現地の社会に溶け込み、アメリカ人の働き方を見て途中から生き方を変えるケースです。その旦那さんも仕事中心で家事も子どもの世話もできない人だったけれどボストンに来て変わっていったそうです。
職場では家族や教育の話もするようになったとのこと。もともと子ども好きな方で、子どもと遊ぶのは得意。子ども達もパパが大好きになり家族の中での存在感が日増しに大きくなって仕事の自信にもつながっているそうです。
その旦那さんが「あの時、働き方を変えていなかったら今の自分はない」「もう離婚していたかもしれない」と言いながら娘のパートナーの働き方を見て「気持ちはよくわかる。昔の自分のようだ」と言われていました。
「アメリカに来た当初は何もかもわからなくて無我夢中だった。英語のハンディがある中で仕事をこなせるだろうか?不安を打ち消すためにがむしゃらに働いた。人より長く仕事をすることで存在価値をアピールしていたけど、誰もそんな自分を評価していない事に気が付いた。むしろ時間だけ長くていて何もできていないと無能だと思われる。自分の仕事を責任もってして、オフの時は家族と過ごし、いろいろな話題を持っている方が評価される」と言われていました。そして、働き方を変えたら日本に帰れなくなったそうです。
その旦那さんが赴任したばかりの娘のパートナーに「子どもさんが4人もいたらたいへんでしょう?買い物は困っていませんか?」と援助を申し出たら「いや、大丈夫ですよ。何も問題ないです」と断ったとのこと。そう言いながら朝から夜遅くまでラボに詰めている姿を見て、これは家庭のことを何もわかっていないと心配されていたそうです。
家族同士の交流
そして週末、男同士で子どもを遊ばせに行こうと誘ってくれました。ちょうど娘が熱を出してダウンしていた時だったので大助かりでした。子どもを3人ずつ連れて男同士で出かけるなんて日本では考えられません。子ども達は大喜びでついて行きました。娘のパートナーは断れなくなって仕事をキャンセルして付いて行きました。
行ったところはトランポリンパーク。色々なトランポリンがあって、専用の靴下を履いてひたすら飛びます。そこで自由に遊ばせながら父親同士はおしゃべり!?
留学した当初の体験をいろいろ話して励ましてくださったようです。娘のパートナーは「今の自分の気持ちを言い当てられた。あの先生も相当苦労したらしいよ」と自分の苦労を理解してくれる人ができて嬉しそうでした。その後、その方から誘われると子どもを連れて出かけるようになりました。もちろん子ども達は大喜びです。
次の週末も仕事を休んで家族でウォールデン湖に行きました。ここはアメリカの環境保護の先駆者として有名なヘンリー・デイヴィッド・ソローが自給自足の生活をした場所です。湖畔の小道を3キロくらい散策するのですが、突然1年生の孫の機嫌が悪くなりました。「早く帰ろう!」「面白くない!」と言ってはのんびり遊んでいる弟を急かせるのです。
それを見ていたパパが突然「こっちについてこい!」と言って森の中に連れて行きました。しばらく帰ってきません。娘と何事だろうと思っていたら、森の奥から2人ともスッキリした顔で戻ってきました。
そうです。おしっこをしたかったのです。森の中にはトイレがありません。シーズンオフだったので森の入り口のトイレも閉まっていました。パパは子どもの様子を察知して男同士で雉を撃ちにつれて行ってくれたのです。
凄い!子どもを感じ取れるようになったパパ!今までは子ども達が喧嘩を始めると「やめてくれよ。そんな争いは嫌いだ」と言って自分の部屋に行くことが多かったのに。毎朝、子ども達と歩いて学校に行くようになり、休みの日も子どもと過ごすようになって行動の背景を感じ取れるようになったのでしょう。
子どもは自分の窮地を説明したりSOSを発信する事ができません。自分の感覚を感じ取った上で状況判断して相手にわかるように発信するには感覚を肯定する体験を積まないとできません。特に夢中になって何かをしている時はやめたくない感情が優先します。恥ずかしいこと、いやだと思うことは極限まで我慢します。その全てを察知してさりげなく窮地を救ってくれたパパ。信頼感と男同士の親近感が生まれたようです。
何て素敵な週末だろう!と思いました。余談ですが、私と娘はテレビで有名な生物学者ジャレド・ダイアモンド博士が学生たちと散策しているのを見かけて、すっかりミーハー気分になっていました。
より良い夫婦になりたい
さて、帰国する日が近づいてきました。生活も整ってきました。最後に望むことは家族の誰も追い詰められることなくアメリカの生活を楽しんでほしいという事です。それぞれが新しい環境で自分の居場所を作らなければいけません。親だけではなく、子ども達も。お互いのチャレンジを家族で支え合い、日本ではできない体験もしてきてほしいと思っています。
娘たちは夫婦で何度も確認して留学を決めました。家や車を全て処分して渡航費と生活費に充ててまで選んだ道です。日本には何も残っていません。帰る大学もありません。ある意味、崖っぷちです。でも家族が一緒です。ラボの仕事も大変だけど自己責任なので働き方も自分で選択できます。日本の働き方を貫いて行くのか?キャリア優先?それとも夫婦で考えた理想を自分達の腑に落としてみるのか?
でも、一番難しいのは自分の内なる声を聴くこと。潜んでいる野心を捨てる事。それぞれ自分に向き合うだけでも大忙しです。その上、子育て中は物理的にも忙しい時期。疲れと不満が加わって化学反応が起こり、怒りというエネルギーを生みます。
娘はそれをどこで学んだのか「自分のできる事=子育てと家事」「自分にできないこと=パートナーの意識を変える事」を明確にして自分の意志で仕事を辞めました。今回の留学もついて行くのではなく自分の選択で来ました。パートナーに何も期待せず、子どもにもパパへの不満を言わず、自分も子ども達と楽しもうと決めたのです。もちろん、最終的な目的はより良い夫婦になりたいから。
私は生活を整えるための手伝いをしたのですが、娘は私が帰った後が本番だ!と覚悟しているようです。いつも感傷的になって泣くのは私だけ。娘は「ありがとう、バイバイ」とあっさりしています。心配して手伝って使い捨て!これが親の宿命でしょうか?(笑)。
それにしても、若かりし頃の私は同じような状況で自分の感情にジタバタしていました。それに比べると娘はずいぶん進化しています。すごいなあと思います。今の私は…というと、娘の生活を見ながら過去の心の傷や反省を清算させてもらいました。
実際、パートナーの働き方が少しずつ変わってきました。土曜日の午前中だけラボに行って、午後と日曜日は家族と過ごすようになりました。子ども達は何をしていてもパパが居るだけで大喜びです。自動的にパパの顔もほころび、一気に家族へと引き寄せてくれます。親は子どもが喜ぶから仕事を休んでいると思っているかもしれませんが、親が幸せそうにしているから子どもが喜ぶのです。
特にやんちゃで好奇心旺盛な一番下の赤ちゃんが本領を発揮してくれます。みんなにお世話をさせておきながら、やたら噛みつきます。歯が生える時期で噛みつきたくなるのでしょう。みんな体のどこかに歯型をつけられていますが笑って許しています。無条件にかわいいと思える存在です。
一家に1人、そんな人がいるだけで癒されます。忖度しなくていいんだよ。人の評価ばかり気にしなくていいんだよ。自分らしく存在しているだけでいいんだよ・・と。
これちょっと辛かったね!など言いながら同じ皿からつつきあう夕餉。
気を許した、空気のような家族。
いさかいがあれば、気を許せないことを知る。
ぼーっとできる事の何と幸せな事か!
心がざわめいていたら、ぼーっとできないことを知る。
本当に欲しいのは遠くの栄光ではなく、近くの安らぎ。