ぴょんぴょんの「影の立役者」 〜伝統的な〈本みりん〉を求めて

 外食もできない今、家庭でおいしいものを食べたいと腕を振るう人も多いのではないでしょうか。
 おいしい料理の秘訣はまず、料理人の愛。
 その次に新鮮な素材、古来の製法でまじめに作られた調味料、最後にテクニックです。
 今回は、おいしい和食の決め手、〈みりん〉についてです。
(ぴょんぴょん)
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ぴょんぴょんの「影の立役者」〜伝統的な〈本みりん〉を求めて
 

おいしい料理の影の立役者


くろちゃん、こないだの肉じゃが、すごくおいしかったよ。
やっぱ、スーパーのお惣菜とは、一味ちがうね。

Author:脇山航[CC BY-SA]

スーパーと比べられるとは、おれも落ちたもんだな。

そっかな? スーパーのもけっこうおいしいと思うけど。

おれは、ムリ。
醤油、砂糖が尖ってて、「◯の素」のヘンな甘みがいつまでも舌に残って、気持ち悪いわ。

たしかに、くろちゃんちの肉じゃがは塩辛くないし、甘くないし、味が調和してたよ。

へへん、そこがおれの腕だ・・・と言いたいところだが、実は影の立役者がいる。

「だし」?

天然素材の「顆粒だし」だが、それじゃねえ。

じゃあ、お醤油?


もちろん、醤油もこだわってる・・が、それじゃねえ。

「◯の素」のはずはないし・・お酒かな? なんだろう?

「◯の素」なんかより、はるかに旨味の出る調味料だ。
そいつが、すべての味をまあるくまとめて、尖らせない。
肉の臭みも取れるし、じゃがいもも煮崩れないし、出来ばえがツヤツヤになる。

わかんないなあ〜。

み・り・ん。

〈みりん〉? 聞いたことはあるけど、うちにないよ。

「人類が到達した、最高の食事が存在する。それは、日本の伝統食である」。
時事ブログ
しかし、情けないことに、当の日本人が本物の味を知らねえとはな。
うなぎの蒲焼き、焼き鳥、魚の照り焼き、おいしい蕎麦つゆ。
これらの伝統的な日本料理を作るために、〈みりん〉は欠かせねえってのに。
京都の一流料亭で、本物の〈みりん〉を使ってないとこ、ねえぞ。

Author:渡り鳥s[CC BY]


京都の一流料亭? そんなとこ、行ったこと無い。

わざわざ行かなくても、家でできる。
昆布とカツブシ、本物の醤油、天然塩、酒、そして本物の〈みりん〉さえあれば。

本物の〈みりん〉?

そう、本物の〈みりん〉じゃなきゃダメだ。
「肉じゃが、きんぴら、魚の煮付け。・・いざつくってみると、なかなか味が決まらない。しょうゆを足したり、砂糖を足したり、ひねくり回しているうちに、基本の味から離れていってしまう・・シンプルなおかずなら、味つけも思いきってシンプルに・・しょうゆと〈みりん〉が1:1。」(割合で覚える和の基本、NHK出版、4p)

へ? そんなに簡単でいいの?

「ただし、この役割を請け負えるのはきちんとした〈みりん〉、〈本みりん〉に限ります。・・しょうゆと〈みりん〉が1:1。〈みりん〉は〈本みりん〉を使うこと。・・不思議なぐらい味がピタリと決まりますよ。」(割合で覚える和の基本、NHK出版、4p)

へえ、たったそれだけで?

ただ、スーパーで手に入る食材じゃ、本物の味はムリだ。
スーパーで売られているのは、農薬まみれの野菜、養殖か輸入の魚、赤く色つけた肉、添加物入り味噌・醤油、遺伝子組み換えの植物油・納豆・豆腐・・・何一つ、本物はない。

スーパーじゃなくて、デパ地下とか?

Author:melvil[CC BY-SA]

デパ地下か、ネットだな。
スーパーの商品だけを食ってると、「最高の日本の伝統食」は絶滅しちまうわ。

多くの人は、1円でも安いものを探してるからね。

それは健康を害するだけで、倹約にはならん。
だが、まだ日本も見捨てたもんじゃない。
本物を求めるヤツら、採算度外視で本物を生産するヤツらが、生き残ってる。


本物の本みりん


よおし、ぼくも、本物の〈みりん〉を買いに行くぞ!

おっと! 待った!
本物が何か知らねえのに、本物は買えねえぞ。

じゃ、本物を教えてよ。

わかった。
まず、〈みりん〉と呼ばれるものには〈本みりん〉〈塩みりん〉〈新みりん(煮切りみりん)〉〈みりん風調味料〉などがある。


ひえ、そんなにいっぱい?

だが、〈本みりん〉以外はすべてフェイクだ。
いや、〈本みりん〉すらも、信じてはいけない。

なにそれ! トラップ満載じゃん!

ところで、〈みりん〉はアルコール14%の酒だってこと知ってるか?

へえ、知らんかった。

〈新みりん(煮切りみりん)〉〈みりん風調味料〉と呼ばれる、ノンアルの〈みりん〉もどきにだまされるなよ。

〈みりん〉もどき?

〈みりん〉に味を似せるため、「水あめやブドウ糖、またはデンプン質の糖化液に、グルタミンソーダを中心とする化学調味料や、アミノ酸液香料等を混合して造ります。 」(みりんの種類

うわあ〜、なんか人工的だね。
それに、グルタミンソーダって「◯の素」「調味料(アミノ酸)」じゃん!


元来、〈みりん〉は【米麹 + 蒸したもち米 + 米焼酎】のもろみ(醪)を絞って、2〜3年かけて醸造・熟成させる。
その2〜3年かかるとこを、2~3か月で作って「◯の素」でごまかす。
たとえば、とある〈みりんタイプ調味料〉の原材料を見ると、
【水あめ、米・米こうじの醸造調味料、食塩/酒精、調味料(アミノ酸)、酸味料】
こいつは、1000mlで158円。

水とほとんど変わらない値段って、どゆこと?

なんで、〈みりん〉の種類はこんなにあるのか?
実は、戦争を引きづってるんだ。

いまだに?

戦中・戦後の米不足の中、米から作る〈みりん〉はぜいたく品で、高額な酒税がかけられていた。 この高い酒税から逃れるために登場したのが、雑穀を原料にした〈新みりん(煮切りみりん)〉、塩水の中でアルコール発酵させた後に甘みを加えた〈塩みりん〉だ。(みりんの種類

そうか、インチキ〈みりん〉は、庶民の味方だったんだね。

ハッハッハ、今や、添加物会社の味方だ。

・・・・・。

当時、〈本みりん〉は高級割烹やうなぎ屋でしか使われていなかった。
昭和30年代、〈本みりん〉が家庭に普及し始めたが、スーパーは酒販免許がなく、酒類の〈本みりん〉を販売できなかった。そこで、ノンアルの〈新みりん〉〈塩みりん〉を取り扱うようになった。(みりんの種類

Author:OiMax[CC BY-SA]

じゃあ、〈本みりん〉て書いてあるのを選べばいいんだ。

どっこい!〈本みりん〉にもトラップが!
酒税法によると、〈本みりん〉とは「米、米麹及び焼酎、又はアルコールにみりん、その他政令で定める物品を加えて、こしたもの」で、「その他政令で定める物品」とは「とうもろこし、ぶどう糖、水あめ等」で、白米の2倍まで使用できるとなっている。(みりんとは

なにそれ! ちっとも「本」じゃないじゃん!

とある〈本みりん〉の原材料は、
【もち米(タイ産、国産)、米こうじ(タイ産米、国産米)、醸造アルコール、糖類】
但し書きに、「糖類 」の原料は「とうもろこし」で、「遺伝子組換え不分別 ( 遺伝子組換えとうもろこしが含まれる可能性があります)」。


ギョギョッ! 〈本みりん〉なのに、外国のお米、遺伝子組み換えのトウモロコシ

もちろん、値段も本物の5分の1だ。
「あら?〈本みりん〉なのに安いわ」って買ったら、だまされるぞ。

コワッ!!
ちなみに、くろちゃん愛用の〈本みりん〉、いくら?

1000mlで1527円。

スーパーの5〜10倍かあ・・・う〜〜〜ん。

調味料には安いものと高いものがありますが、いいものを使うと簡単においしくなるので、費用対効果を考えるといいものを選んだ方が得だと思います。」(note
そして、何より、体のためだ。

たしかに、食料品で高いと言っても、たかが知れてるよね。

財布のこと考えて〈本みりん〉の代わりに、〈みりん風調味料〉を使ったら・・ 
結論! うまくねえ! まずい! 体に悪い!

ぼくにも、違いがわかるのかなあ?

伝統的製法と標準的製法の〈みりん〉の味は、飲み比べるとすぐにわかります。(個人的にはお湯で割って味を見るのがオススメです)。」
note

ぼくんちは〈みりん〉じゃなくて、お酒と砂糖で煮物をつくってたよ。


〈みりん〉の代わりだな。
しかし、砂糖の甘さは、〈みりん〉のまろやかな甘みにはかなわねえ。
しかも、〈みりん〉に含まれる天然アミノ酸の旨味には、「◯の素」も土下座だ。

甘さと旨味の万能調味料、って感じだね。

〈みりん〉を料理に使う場合は、一番最初に入れること。
こいつは、料理の基本「さしすせそ」の順番だ。
「さ」砂糖、「し」塩、「す」酢、「せ」醤油、「そ」味噌。


おばあちゃんから聞いたことある。

塩やしょうゆの後は、甘みがつきにくい。だから、砂糖や〈みりん〉は最初に入れる。酢・しょうゆ・味噌は、香りを飛ばさないため、後から入れる。

あ! 砂糖の「さ」を〈みりん〉に変えると、塩以外、ぜんぶ伝統的発酵食品だよ。

そこそこ、そこが、日本料理を「人類の到達した最高の食事」たらしめた要因だな。

ところで、日本酒と〈みりん〉、似てるけど、どう違うの?

日本酒は、もち米の代わりにうるち米、「米焼酎 + 醸造用アルコール」の代わりに「水」を使って仕込む。


だから、お酒は水のいい所で作るんだね。

日本酒と〈みりん〉は、麹が、米のデンプンをブドウ糖に変えるまでは同じ。
その先、日本酒は、酵母がブドウ糖をアルコールに発酵させる。
一方〈みりん〉は、すでにアルコールが入っているので甘いまま。本みりん研究所しかも、水が入っていないので、〈みりん〉は日本酒のように腐らない。置けば置くほど熟成して、味に深みが出てくるんだ。

そいつは、備蓄に都合がいいね。

戦国時代から〈みりん〉は酒として飲まれていたが、江戸時代は女性や庶民に人気があり、特に「やなぎかげ」という〈みりん〉カクテルは有名だ。

やなぎかげ?

上方では「柳蔭(やなぎかげ)」、江戸では「本直し」。
暑い時期に、本物の〈本みりん〉と「米焼酎」を1:1で混ぜて、冷やして飲む。
暑気払いや夏バテ防止にいいそうだ。(アルファジャーナル
これは、今でも、正月の屠蘇(とそ)のベースになっている。

夏バテで、食欲が落ちたときに効きそうだね。

比率は好みで、オンザロック、ソーダ割りもいける。
アルファジャーナル


う〜ん、ぼくは、焼酎は飲めないけど。

じゃ、〈みりん〉+豆乳 1:3 の豆乳割りはどうだ?
カルーアミルクみたいになるぞ。(発酵美食

それなら、飲めそう。

〈みりん〉+レモンのソーダわりで、レモンスカッシュ。
ただし、アルコールが入ってるから、子どもには〈みりん〉を煮詰めてアルコールを飛ばした「みりんシロップ」を使えばいい。割って飲んでも、パンケーキ、バニラアイスにかけてもうまい。
発酵美食

料理を本格的にするだけじゃなく、そのままお酒としても飲めるし、スイーツにもなる。〈みりん〉は万能だね。

病人や老人に、滋養強壮の薬代わりとしても使えるぞ。


日本の伝統的発酵食品、すばらしい!! パチパチパチ!!


Writer

ぴょんぴょんDr.

白木 るい子(ぴょんぴょん先生)

1955年、大阪生まれ。うお座。
幼少期から学生時代を東京で過ごす。1979年東京女子医大卒業。
1985年、大分県別府市に移住。
1988年、別府市で、はくちょう会クリニックを開業。
以後26年半、主に漢方診療に携わった。
2014年11月末、クリニック閉院。
現在、豊後高田市で、田舎暮らしをエンジョイしている。
体癖7-3。エニアグラム4番(芸術家)

東洋医学セミナー受講者の声

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