ままぴよ日記 54 「教育って何だろう?」

 毎週ベビーマッサージに来ていた赤ちゃんが17歳になって訪ねて来てくれました。それも1人で。

 中学校の時、クラスが荒れて学校に行けなくなったこと、自分自身が感覚過敏で不登校になり家に籠っていた事、それを説明できなくていじめられたこと等話してくれました。

 でも、親が理解してくれている事と、スクールソーシャルワーカーや養護教諭、国語の先生が話を聞いてくれたことが救いだったとも。

 願わくば、軽度の発達障害があると診断された自分のことをクラスの友達と話して、こういう人がいる事を理解してほしかった。でも担任の先生に一個人の不登校の原因をみんなで共有するような発想はなく、やっと保健室登校をして給食を食べていたらクラスの子から「学校来るな」と言われて傷ついたことなどを話してくれました。それを言った生徒も感覚過敏の事を知らないから言ったのだと思う、とも。

 今は県立の単位制の自由な高校に通っていますが、興味は教育の事、政治の事、お金の事、宗教のこと等多岐にわたっているようです。こんな話は同じ年の子とは話せない。親や先生とばかり話しているけど本当は友達と話したい。

 若者が語り合える環境と場を作りたい。発達障害のことも隠して排除するのではなくきちんと知ってほしいと話していきました。

 あの赤ちゃんが、私を覚えてくれて、こんな思いを話してくれたのが嬉しかった。そして、共に語れる日が来たことも嬉しかった。

 大人よ、相手が子どもであっても対等な人として尊重して向き合おう。教育はお互いを尊重してこそ成り立つもので、決して上下関係ではない。子どもでも自分のことを話したい。壁を破り学ぶべきは大人からだと思いました。
(かんなまま)
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特に先進的な教育をしているマサチューセッツ州


新型コロナ感染がなかなか収束せず、外国に住んでいる3人の子ども達のことが気がかりです。

特にアメリカは感染率や死亡率がけた違いに多いのと、デモや暴動が広がりつつあるのも心配でした。今のところ娘家族が住んでいるマサチューセッツ州は落ち着いているようでホッとしているところです。

マサチューセッツ州ボストン

ただ、仕事も学校も休みで3月中旬から4か月間ずっと家に引きこもっている状態です。親は少しずつ仕事に復帰し始めましたが、孫たちは休校のまま9月まで長い夏休みに入りました。

お姉ちゃんは今度小学6年生です。住んでいる地域は小学校が5年生まで、その後ミドルスクールが4年間あるので今まで通っていた小学校は卒業でした。結局、指定された時間に学校に荷物を取りに行っただけで先生や友達とも会えませんでした。

楽しみにしていた夏休みのキャンプもキャンセル。ビザ更新のためのカナダ旅行も行けなくなりました。でも航空チケットは払い戻しになりません。飛行機がキャンセルになったわけではないからです。カナダに着いて2週間ホテルに監禁状態。またアメリカに帰ってから2週間監禁なので行かないと決めたのはこちらの都合という事らしい。

救いは散歩に行ける事。そして図書館や公園、ファームがオープンし始めたので身近なところで楽しむことにしたようです。今は動物たちの子育ての時期。カヌーの年間チケットを買って森の湖や川、海へ出かけては、りす、うさぎ、鹿、カモ、白鳥、カナディアングースなどの子育て風景を観察して喜んでいます。そういう意味では日本の子ども達より自然や動物を身近に感じる事ができて幸せです。友達とも外で誕生会やピクニックを始めたようです。



9月からはお姉ちゃん1人でミドルスクールに通いますが、日本の中学校と違って大学のように選択科目をとるシステムで単位制です。自分の教室がなく、小学校の友達ともバラバラになります。言葉の壁もあるし不安ではないか?と孫に聞いたら「友達とも会えるし、新しい学校が楽しみ!早く行きたい」と答えてくれました。ずっと家にいる状態から解放されたいし、学校は楽しいところと思っているようです。日本にいた頃「学校に行きたくない」と言っていたのに・・・。この違いは何なのでしょう?

そして、学校教育に関しては校長会や教育委員会の会議が保護者にオンラインで公開されているそうです。娘もそれを企画した一人ですが、そこで決められつつあるのは9月からの授業をどうするか?という事です。20人のクラスを半分に分けて週に2回は学校に行き、週に2回は自宅でオンライン授業をするハイブリッド方式の案が有力のようです。水曜日と土曜日はスペシャルデイとして支援の必要な子のニーズに応える日だそうです。

傍聴する保護者は告知された会議の前に質問ができます。その中で「このままでは授業数が足りないので勉強が遅れる。カリキュラム通りに授業が進まないのをどう解決するつもりか?」という質問が出たそうです。学校は「Social Emotional and Learning(対人関係能力育成)を重視しています。この非常事態の時期は、むしろ様々な環境でお互いを理解して問題解決ができる子ども達を育てる方が優先です。学力はいつでも取り戻せます」と答えたそうです。日本は学校教育の方針に親が口をはさむことはできません。授業時数を確保するために夏休み、体育祭、親子行事などカットしますというメールが来ただけです。

さて、5歳の弟も9月からキンダーガーテンに入学します。ボストンのキンダーガーテンは日本で言う幼稚園の年長さんです。アメリカでは小学校に入る前の1年間も義務教育です。だからキンダー1年と小学5年生までが小学校に通いますが5歳の弟の気分は小学生です。

お兄ちゃんやお姉ちゃんの話を聞いているし、毎日送り迎えにも行っているので楽しみにしているようです。5歳の子が2キロのバイクパス(自転車と歩行専用道路)を歩いて行くのは遠いのですが自転車で行くそうです。ちなみに3年生になるお兄ちゃんはキックボードで通っています。

パイクパスでストライダーに乗る孫


前回、小1プロブレムで幼稚園の学校化の問題を書いたのですが、キンダーガーテンはまさに小学校入学前の準備期間としての位置づけです。でも一斉授業形式ではありません。

孫の学校では1年かけて「magic tree house」という物語のテーマに沿って色々な時代にタイムスリップしてごっこ遊びをしながら学ぶそうです。この本は絵本から児童書に移行するにはちょうど良い児童書です。日本語版も出ています。ただ、英語版と比べてください。なぜ絵が描き換えられているのか?児童書だから子ども向きの絵にした?子どもだからこそ本物を与えたいものです。

そもそもアメリカの小学校では先生が黒板を使って一斉授業をすることはありません。コミュニティに裁量権が与えられているので州によって、更には自治区によって教育制度が違います。そして学校や教師の自由度も高く、同じ学校の同じ学年なのに先生によって全く教え方が違うこともあるそうです。

マサチューセッツ州はコロンビア大学方式を取り入れて特に先進的な教育をしているようです。ここ10年の間で教育の大きな変革があり、
project based learning(グループや個人で探求していく課題解決型学習)
growth mindset(失敗から学ぶ、結果ではなくその学びの過程を重視する)
responsive classroom(一人ひとりの直面する困難や課題を取りこぼさずに向き合えるクラスの雰囲気を作る)
diversity(多様性を尊重する)
equity(公平性、equal平等と違って必要な人には必要な援助をすること)
inclusion(違いをうけいれること)
を主軸に置いているそうです。

コロンビア大学

そして教師は子どもの探求をサポートするガイドの役割で、個々のニーズに対していかに豊富な探求テーマを提供できるかが問われるそうです。日本と違って受け持つ学年が固定されている上に授業づくりは先生の裁量に任されているので、自ずと専門性が高くなります。前年の反省もすぐに取り入れられるし、新しいこともできます。個別の対応もすぐにしてくれます。

どの先生も個性豊かで有能です。楽しそうに授業して、毎日2時半に帰宅できるのも不思議でしたが、先生は自由だし、得意分野の授業に専念できているので教師としての満足感があるのでしょう。働きやすいシステムだと思いました。

まさに、孫の学校では前回紹介した苫野一徳先生の「学校を作り直す」という本に書いてある教育が実践されているようです。そして世界中でAIの時代に必要とされる人を育てるためには大学入試準備のための教育から脱皮しなければいけないという機運が高まっています。更にはコロナ禍で子ども達に教育を保障できなかった反省、逆に見えてきた教育の多様性と、個人の生き方や働き方、家族の在り方などの見直しも含めて変革する時が来ていると感じます。

「Most likely Succeed」という映画がお勧めだと娘が言っていました。

映画「Most likely Succeed」の予告編

Most Likely to Succeed Trailer- Japanese from Innovation Playlist on Vimeo.

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大人都合の線引きのないオーストラリアやフィンランドの学校教育


さて、2番目の娘が暮らしているオーストラリアでも小学校入学前のプレスクールがあります。やはり小学校に併設されていて1年をかけて遊びながら本を読んだり数や物の大きさや量を比べたり、音楽に合わせて表現したり自然の中で絵を描いたりするそうです。遊びと学びの線引きがなく、集団で遊びながら学ぶ楽しさを体験するそうです。


息子が暮らしている幸福度世界一のフィンランドでは、子どもの成長には時間をかける必要があるとして6歳までの幼児期を大切にしています。7歳から16歳までが基礎教育期間です。6歳の時に小学校内にあるプレスクールに通い始めますが、教師は一貫して子ども自身の情緒や社会性を安心して発揮できるようにサポートしてくれるそうです

日本では幼稚園は遊ぶところ、学校は学ぶところという大人都合の線引きがあるので子ども達が適応できずに小1ギャップという社会現象を起こしています。その対策として幼稚園の時から一斉授業、画一カリキュラムなどの学校システムを取り入れるのではなく、むしろ幼稚園も小学校も一貫して子どもの主体的な学び(遊び)を尊重しつつ、集団で協力したらもっと世界が広がって面白いという体験をさせてほしいと思います。


教師とは子どもの幸せの実現のために働く人


さて、今教師を目指している娘のパートナーは働きながらオーストラリアの大学に行っているのですが、1年生の時から毎年実習があって、勉強が進むにつれてその期間が月単位で増えていくそうです。課題と実習がリンクしていて実際に先生に付いて授業のサポートをしながら実践的に学び、経験した事をもとにレポートを書く日々だそうです。まさに子ども達と共に学んでいるようです。

Author:ディスコット[CC BY-SA]

フィンランドでも教育実習生が半年間ティーチングアシスタントとして実際のクラスに入るそうです。先生になるためには修士号取得など高い専門性が要求されますが先生自らが学校を選べるし、目の前にいる子ども達に合わせた授業を作る裁量権が与えられているそうです。授業も教科や科目に囚われないクロスカリキュラムが取り入れられています。

それに比べて日本の教育学部の学生は教員養成カリキュラムに沿って学び、教員採用試験のための対策を準備して先生になっていくのがほとんどです。教育実習の時間が少ないので、現場で子ども達を相手にどんな授業をするのか?どんな教師になりたいのか?想像することもできないかもしれません。苫野先生の本にも教師になる学生たちは「何を教えるか」は学んでいても「どう教えるか?」「子ども達の学びをどうサポートするか?」については十分に学びきれていないと書いてありました。

教師になってからも、いきなり担任になり授業時数や統一的なマニュアルに縛られ、子ども達を、いつ、どのようなめあてで指導するか?という学習スタンダードに縛られます。生徒にも座り方から発表の仕方、掃除の仕方まで事細かにスタンダードがあります。慣れないうちはマニュアルがあった方が楽でしょうが、これでは先生自身が目の前の子どもの姿に気づき、自分で考えて教師力を磨いていくことができません。絶えずマニュアルと現実のギャップがあり、先生の苦悩とストレスは増すばかりです。

教師とは子どもの幸せの実現のために働く人だと思います。やる気のある先生方もたくさんいらっしゃいます。せめてそんな先生のやる気を削ぎ、縛るようなシステムは変えてほしいものです。


さて、子どもや教師の幸福度が下がりっぱなしの日本。この教育のシステムをどこから変えていけばいいのでしょうか?きっとこれから大きな変革の時が来ると思いますが、学校単位で少しずつ模索が始まっているようです。

しなのイエナプランスクール大日向小学校
大阪市立南住吉大空小学校
きのくに子どもの村学園
軽井沢風越学園

こんな大々的なことが出来なくても、校長先生レベルでカリキュラムや教え方を変える事もできるそうです。まずは身近な校長先生と仲良くなってお話したい。図書室やクラスルームの模様替えなんかもいいかも。

ボストンの小学校は、学ぶ姿勢は人それぞれだから、クラスでその子が一番心地いいと思える環境や方法を探すべきだと言われています。だからどの教室にもソファーや寝転べるカーペットが置いてあります。子ども達のお気に入りの場所が教室にあるって素敵だと思います。

出典表記のない写真は、かんなまま提供

Writer

かんなまま様プロフィール

かんなまま

男女女男の4人の子育てを終わり、そのうち3人が海外で暮らしている。孫は9人。
今は夫と愛犬とで静かに暮らしているが週末に孫が遊びに来る+義理母の介護の日々。
仕事は目の前の暮らし全て。でも、いつの間にか専業主婦のキャリアを活かしてベビーマッサージを教えたり、子育て支援をしたり、学校や行政の子育てや教育施策に参画するようになった。

趣味は夫曰く「備蓄とマントラ」(笑)
体癖 2-5
月のヴァータ
年を重ねて人生一巡りを過ぎてしまった。
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