ぴょんぴょんの「人間と動物」 ~『みかんとひよどり』から『なめとこ山の熊』まで

ダイエット好きの人から、シカ肉の料理をもらったことがあった。
食べるまでは抵抗があったが、ふつうにおいしくてビックリした。
ジビエとは? また、どういう問題を抱えているのか。
ふと手にした小説から、考えてみた。
(ぴょんぴょん)
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ぴょんぴょんの「人間と動物」 ~『みかんとひよどり』から『なめとこ山の熊』まで

ジビエがおいしい季節


びっくりしたー!
朝起きたら、誰が置いたか、ベランダに茶色い毛玉が。

毛玉あ?

近よってマジマジ見たら、熊手みてえなお手々が・・・モグラだった。

モグラあ?
サングラスして、ヘルメットかぶって、ツルハシ持ってた?


ハハ! マンガの読みすぎだ。

だけど、なんでモグラ?

よくよく見ると、誰かが内臓を食って、腹はからっぽ。

ヒッ!

さらに視線の先には、黄土色の毛皮も転がってる。
そいつも腹がからっぽ。

それは、誰の毛皮?

イタチ? 


ウワア!

すげえだろ! おれんちの庭は、食うか食われるかの戦場だぜ。

だけど、いったい誰がそんなことを?

常日ごろ、スズメ、ネズミ、トカゲ、セミを献上してくれる、うちの名ハンターかと。

さては、クロチビだね!
ちゃんと、ごはん食べさせてるの?

たらふく食ってるよ。
きっと、キャットフードにない栄養を必要としてたんじゃ?

たしかに、冬を迎える前だからね。
それに、新鮮な内臓は最高の栄養だ。


けど、死骸のあと始末をするおれの身にもなってくれ。

クロチビは知ってるんだよ。
11月15日~2月15日の3カ月間は狩猟期間で、ジビエがおいしい季節だってこと。
マイナビ農業

あいつはグルメか。


「みかんとひよどり」という小説


そう言えば、ここ、ひよどりがいっぱい来るね。

Author:のびいる[CC BY-SA]

ああ、キーキーうるさいだろ。
ジョウビタキやメジロを追い出して、庭をわが物顔で占領してる。

スズメ目ヒヨドリ科ひよどり。
たしかに、ひよどりは食欲旺盛で独占欲が強いね。

春になると、顔いっぱいに花粉をつけて桜の蜜を吸ってるが。

ひよどりは花粉を運んでくれるから、花にとってはありがたい存在。
生息地は主に日本で、外国にはあまりいない鳥。
ネイチャーエンジニア いきものブログ

へえ、外国じゃ、ひよどりは珍しいのか。

しかも、おいしいらしい。

ひよどりがおいしい?

みかんとひよどり」という小説に書いてあった。

ヘンな題名だなあ。

ひよどりはみかんが大好き。
廃棄されたみかん農園のみかんをたくさん食べたひよどりは、みかんの香りがする。
それをソテーして、みかんのソースを添える。
小説のレストランの人気メニューなんだよ。


Author:ひでわく[CC BY]

もしかして、モデルはこのレストランか?

ハンターでシェフ、それに静岡と言えばみかんだし、そうかもね。

ジビエのレストランかあ。
自分で獲って料理する。カッコいいなあ。


ぼくはジビエが苦手だけど、この小説読んだら、知らないことがいっぱいあっておもしろかった。

どんな話だ?

主人公は、ある売れないレストランの雇われシェフ。
フレンチシェフとして自信を失いかけていた彼は、鳥を撃ちに行った山で遭難してしまう。彼を救出した熟練ハンターが、レストランに獲物を卸してくれるようになり、ジビエ料理が客を呼び、主人公は自信を取り戻していく。
大筋はこうだけど、そのハンターがミステリアスでね。
どこか影があって、何か背負ってる感じなんだよ。

背負ってる? 撃たれた動物の霊か?

ホラーじゃない、誰かに恨まれてるんだ。
動物を撃つことに反対する、過激な人たちとかに。


なるほどな。
だが、ハンターも遊びで動物を撃ってるワケじゃねえし。

ほとんどは、動物被害で困っている人たちのためだよ。
ハンターがいなかったら、畑は荒らされ放題、森林は消えていく。



もともと、シカやイノシシが増えすぎる原因を作ったのは人間だ。
その人間が、今度は動物を駆除という名のもとに殺戮する。
それは、たしかにおかしい。
かと言って、ハンターを恨むのはお門違いだな。


ジビエに関する課題


そうでしょ?
猟銃を所持する手続きもめんどくさいし、狩猟者登録をしていれば狩猟税を払わされる。

狩猟するのに税金とるのか?

ハードルを上げるためかもしれないけど、おかしいよね。
作物の被害も増えて、ハンターの需要は高まっているというのに。
それだけじゃない、駆除した後、すぐに解体できる場所が少ない。
かと言って焼却するというのも、ちょっと。

しかたなく獲った動物とは言え、捨てずに食べてやることがせめてもの供養じゃねえか? なんの役にも立てず、ただ捨てるのはもっと申し訳ねえ。

2016年の質問なんだけど、
害獣駆除として狩った鹿やイノシシは基本的に食べられているんですか?」
ベストアンサーは、
食用としての自家消費は,ほとんどありません。狩猟の場合も含めても全体では数%まで行かないのではと思います。特に害獣駆除の駆除個体は,ほとんどが埋却,焼却処分されています。食用として処理するには,殺処分してから30分程度で血抜きをして,解体処理を始めないと臭くて食べられなくなります。解体施設が必要ですし,解体技術を持った人が必要ですが,どちらも不足していまして,駆除個体を解体処理出来る現状ではありません。」(YAHOO!知恵袋


たしかに、獲ったあとが大変そうだな。

何十キロもあるシカやイノシシを、解体しなきゃならないからね。

そこまで、運ぶだけでも大変そうだ。
それに、解体したところで、肉を売りさばけるかわからないし。
ジビエは臭いって言うからなあ。

それは、処理のしかたによるね。
獲ってすばやく血抜き、解体、冷凍保存をすれば臭くはならない。
「素早く処理さえできれば、ヒグマであれ、エゾシカであれ美味しいのです。」
ハンター日記

てことは、獲っておしまいじゃなくて、その後が大事なのか。

そうなんだよ。
小説では、ハンターが獲物を仕留めた所で、衛生的に解体できる移動式の解体車を提案している。

解体はうまくできても、問題はジビエに需要があるかだ。

あるよ、ジビエは体にいいからね。
小説のレストランのオーナーは、体調を崩した時にジビエを食べて元気になった。
それ以来、すっかりジビエのファンになっている。


ジビエは体にいい? 元気になる?

だって、エサがちがうよ。
自然のエサで育ってるんだよ。

配合飼料で育った牛や豚とはちがうな。

それに、運動もたくさんしてるしね。
山野を駆ける健康なエゾシカの肉は瑞々しく、低カロリー高タンパクでありながら味わい深く、かつあっさりと食べられる、そんな最高な食材です。
ハンター日記

Wikipedia[Public Domain]

天然の食材、自然の恵みかあ。
エゾシカの肉もうまそうだな。

ガンで食欲の落ちた犬も、ジビエなら食べてくれるそうだよ。
ハンター日記

もともと犬は狼だから、ジビエが合ってるな。

とは言え、ジビエにも課題があるんだ。
豚や牛と比べて、食べられる部分の割合が少ない。
いつも同じ品質の肉を、安定して供給するのがむずかしい。
また、寄生虫や肝炎のリスクもあるし。


自分で買ってきて家で料理するより、プロがおいしく調理したジビエを食ってみたい。

ヨーロッパじゃ、ジビエは高級料理だからね。
そもそも、ジビエの語源はフランス語の「Gibier」、英語の「game」。
ハンター日記

ゲーム?

そう、かつて貴族が狩猟「競技」によって捕獲した野生鳥獣肉を、ジビエと呼んだ。
貴族の伝統料理だったなごりで、ジビエは今でも高級食材とされている。
ハンター日記

あいつらはゲーム感覚で動物殺すのか。やっぱ、貴族は野蛮だな。

でも、日本だって釣りで競技したりするよ。


いやいや、魚と四足はちげーだろ。

日本の狩猟はゲームなんかじゃない。生活がかかってるよね。

うちの近所も、イノシカの被害が増えてるみたいだ。
畑や田んぼの周囲に鉄柵がどんどん増えてるし、山に入るとワナもしかけてある。

ワナも大変だって。
しょっちゅう見回りに行かないと、捕まった動物を苦しませるからね。


ワナにかかった動物は、どうするんだ?

すぐにとどめを刺す。
銃があれば、バーン! 刃物でやるなら・・。

うう・・やっぱ、血を見るのはつらいなあ。

でもここは、何かを殺さないと生きていけない仕組みだからね。


生き物と生き物の対等な関係


それなら、人間は生き物とどう対峙したらいいのか。

昔は、動物と無言のやり取りがあったらしい。
たとえば、宮澤賢治の「なめとこ山の熊」。
「熊。おれはてまえを憎くて殺したのでねえんだぞ。」

「やい。この次には熊なんぞに生れなよ。」


なんか、生き物と生き物の対等な関係を感じるな。
遊びで動物を撃つ、フランスの貴族とは根本的にちがう。

今まさに撃たれようという熊が、言う。
「おまえは何がほしくておれを殺すんだ。」
小十郎「生活のためにしかたがないが、お前がそう言うなら、飲まず食わずで死んでもいいような気がする。」
熊「二年だけ待ってくれ。二年目にはおまえの家の前でちゃんと死んでいてやるから。」
そのことば通り、二年目、小十郎の家の前でその熊が倒れていた。
「小十郎は思わず拝むようにした。」


これは、ただのメルヘンじゃなくて、実際にそういう話を聞いたんだろうな。
まさに、人間と動物の命の取り引きだ。

そして、小十郎が熊に襲われて死ぬとき、熊は言う。
「おお小十郎おまえを殺すつもりはなかった」。
それに対する小十郎の最期のことば、「熊ども、ゆるせよ」。

ヤバい・・涙腺が・・。

たがいに尊重しあう関係の中で、しかたなく殺し、殺される。

そういう尊い肉を、ジビエ、「ゲーム」なんて、とても呼べねえ。



Writer

ぴょんぴょんDr.

白木 るい子(ぴょんぴょん先生)

1955年、大阪生まれ。うお座。
幼少期から学生時代を東京で過ごす。1979年東京女子医大卒業。
1985年、大分県別府市に移住。
1988年、別府市で、はくちょう会クリニックを開業。
以後26年半、主に漢方診療に携わった。
2014年11月末、クリニック閉院。
現在、豊後高田市で、田舎暮らしをエンジョイしている。
体癖7-3。エニアグラム4番(芸術家)

東洋医学セミナー受講者の声

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